9 自然とのふれあいの推進
(1)自然とのふれあいの現状
近年、余暇時間の増加や身近な自然の減少及び国民の環境に対する意識の向上等に伴い、自然とのふれあいへのニーズが高まっています。自然とのふれあいは、人が自然環境のもたらす恵沢を享受する基本的かつ具体的な行動であり、人々が自然を大切にする心を育み、人間性を回復するための必須条件です。
都市などの人工的な環境で生まれ育った人々がほとんどを占める現代社会において、原野や原生的な森林などの自然性の高い地域で、豊かな自然を体験することや身近な場所での自然とのふれあいは人間性を回復するために有効です。また、居住地から離れた旅先で山々や海岸など自然の風景に接することや、日常的な自然とのふれあいは、人々の精神を解放し安らぎを与えてくれます。
国民がこうした豊かな自然とふれあえる場として、自然公園や温泉地、都市公園等が挙げられます。
(2)自然とのふれあいの確保
ア 利用のための施設の整備
(ア)国立・国定公園等の利用施設
a 自然公園核心地域総合整備事業(緑のダイヤモンド計画)
国立・国定公園の核心となる特にすぐれた自然景観を有する広域な地域において、自然の保全や復元のための整備を一層強化するとともに、高度な自然学習や自然探勝のためのフィールドの整備を雲仙天草国立公園雲仙地域等5地域において整備を進めました。
b 自然公園利用拠点新活性化事業
国立・国定公園のすぐれた自然環境を有する集団施設地区及びその周辺地域で、自然環境を保全するとともに、時代に即した滞在型、高齢者・障害者対応型の公園利用を推進し、地域の再活性化を図るための総合的な施設の整備を、日光国立公園那須地域において進めました。
c ふれあい自然塾
国立・国定公園において、大自然の中での暮らし、学び、冒険を通じて自然や地域との共生を体験するための参加・自主活動型の自然教育の拠点を、金剛生駒紀泉国定公園堀河地区ほか1地区において整備を進めました。
d エコ・ミュージアム整備事業
国立・国定公園の主要利用拠点において、子どもたちが生き物や自然の植生などとふれあい自然を学ぶことができる、自然ふれあい体験のための中核施設(エコ・ミュージアム)の整備を、霧島屋久国立公園えびの地区ほか2地域において進めました。
e 環境共生推進特別整備事業(共生プラン21)
自然公園等において、二酸化炭素の吸収源・貯蔵庫となる植生の復元、ソーラーや自然エネルギーを利用した地球環境にやさしい施設の整備を推進しました。
f 基幹的施設の整備
国立・国定公園において、自然環境の保全に配慮しつつ、自然とのふれあいを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、歩道、野営場、園地、公衆トイレ等利用の基幹となる施設を整備しました。特に、公衆トイレや野営場のうち、緊急に改善を要する施設についての再整備を引き続き実施しました。
(イ)ふるさと自然ネットワーク
自然豊かな地域を訪れ、自然の中で充実した時間を過ごしたいといった国民のニーズにこたえるため、トンボやホタルなどの小動物が生息する身近な自然環境を保全活用し、生き物とふれあい自然の中で憩うことのできる場づくりを推進しています。多様なメニューの中から地域のニーズにマッチした事業(1)ふるさといきものふれあいの里、2)ふるさと自然のみち、3)ふるさと自然塾、4)ふれあい・やすらぎ温泉地)を選定し、整備するものです(表1-6-17)。
平成14年度は新規6か所、継続4か所において整備を実施しました。
(ウ)長距離自然歩道等
国民が自らの足で自然や史跡などを訪ねることにより、健全な心身を育成し自然保護に対する理解を深めることを目的とし、自然公園や文化財などを有機的に結ぶ長距離自然歩道の整備、登山者の集中による植生荒廃等を招いている地域の登山歩道の整備を進めています。長距離自然歩道は、四季を通じて、安全で快適に利用できるよう配慮しつつ整備を行っており、平成14年3月末現在計画総延長は約2万1,000kmに及びます。
平成14年度は、引き続き近畿自然歩道の整備を行いました。また、老朽化した東北、首都圏、東海、中部北陸、中国、四国、九州の各自然歩道の施設について再整備を行いました。
なお、平成13年における利用者数は、4,778万人に達しました。概要は表1-6-18のとおりです。
(エ)ふるさと自然公園国民休養地
都道府県立自然公園内において、都市住民が積極的に自然に働きかけより深く自然とふれあうことで、自然と人間との調和のあり方を身につけることに重点を置いて整備する地域であり、博物展示施設(ふるさと自然公園センター)、園地、野営場、歩道等必要な施設の整備を行っています。平成14年度は2地区において整備を行いました。
(オ)保健保安林、レクリエーションの森
主として都市近郊等における、生活環境保全機能及び保健休養機能の高いすぐれた森林である保健保安林等の安全快適な利用の促進を図るための施設整備につき助成等を行ったほか、共生保安林整備事業を推進しました。また、国民が自然に親しめる森林環境の整備を行う森林空間総合整備事業等につき助成しました。
国有林野については、自然休養林等のレクリエーションの森において、森林及び施設の整備等を行うとともに、利用者にレクリエーションの森の整備等への協力を求める「森林環境整備推進協力金」制度を推進しました。
また、スポーツ施設、保健休養施設等の総合的な整備により、人と森とのふれあいの場を創造し、あわせて地域の振興等に資するヒューマン・グリーン・プランを積極的に推進するとともに、家族等が気楽に自然とふれあえる場を提供する「森林ふれあい基地づくり整備モデル事業」を推進しました。
また、国民が中心となった森林の整備等の活動の場として「ふれあいの森」の設定を推進するとともに、貴重な環境指標であり、次世代に残すべき遺産として選定した国有林野内の巨樹・巨木100本(「森の巨人たち百選」)の保護を図るための地域の取組に対する支援を行いました。
(カ)森林の新たな利用の推進
森林と人との豊かな関係を構築し、環境との調和や資源循環利用に果たす森林・林業・山村の役割への国民的理解の醸成を図る観点から、森林環境教育の推進、身近な森林における多様な活動の展開、森林づくりへの国民の直接参加、すべての世代の健康づくり等多様な目的に応じた森林・施設の整備と森林の新たな利用を推進しました。
具体的には、平成14年度からの完全学校週5日制等の導入に対応して森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備、共通プログラムの開発・普及、指導者の育成や、学校林の整備・活用等を推進するとともに、子どもたちの入門的な森林体験活動を促進する「森の子くらぶ活動推進プロジェクト」を実施しました。
さらに、高齢化の進展に対応して森林浴等国民の健康の維持増進に資する観点から、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の導入を図りました。
(キ)独立行政法人国立少年自然の家
独立行政法人国立少年自然の家が設置する国立少年自然の家は、少年を自然に親しませ、団体宿泊訓練を通じて、少年が心身を鍛練するとともに、自ら実践し、創造する態度を身につけることを目的とする青少年教育施設であり、全国14か所に設置されています。平成14年度は、施設の整備や事業の充実を図りました。
(ク)白砂青松の創出、エコ・コースト事業、海と陸と緑のネットワーク事業
自然豊かな海岸づくりを推進するため、海岸事業と治山事業を一体的に行い、海と緑の豊かな海岸環境を確保する白砂青松の創出を実施しました。
また、生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟などの保全や創出を行うエコ・コースト事業を37か所で、陸域から海岸域までのビオトープを形成するための海と陸の緑のネットワーク事業を1か所で実施しました。
(ケ)河川等へのふれあい施設
河川の高水敷等を公園、緑地、運動場等に利用するための諸施設の整備を河川環境整備事業により行いました。カヌーポートや水辺の楽校等の整備により、水辺での活動を促進し、親水レクリエーションの促進を図りました。
イ 自然解説活動等の展開
人々の自然への理解を深め、自然に対する愛情とモラルを育成するため、ビジターセンターや自然観察路等の施設を活用し、以下の行事を通じ、自然教育を積極的に推進しました。
1) 4月29日の「みどりの日」に新宿御苑や全国の国立公園等で「自然とふれあうみどりの日の集い」を実施しました。
2) 7月21日から8月20日の「自然に親しむ運動」の期間中に、全国の自然公園等で自然観察会等の自然とふれあう各種行事を実施しました。なお、その中心行事として十和田八幡平国立公園(青森県十和田湖町)において、第44回自然公園大会を開催しました。
3) 10月を「全国・自然歩道を歩こう月間」とし、47都道府県の自然歩道において「全国・自然歩道を歩こう大会」を実施しました。
また、そのような活動に協力するボランティアの育成とその活動支援を行う「パークボランティア活動推進事業」を全国23国立公園36地区で実施するとともに、自然解説活動における指導者育成のための「自然解説指導者育成事業」を実施しました。一方、自然公園における動植物の保護や美化思想の普及、事故の防止等利用の適正化のために委嘱している自然公園指導員に対する研修を実施し、利用者指導の充実を図りました。
また、全国の国立公園等において、自然保護官等の指導・協力の下、小中学生を「子どもパークレンジャー」として任命し、国立公園等のパトロールやマナーの普及、自然環境の維持・復元活動等に参加してもらうプログラムを提供しました。
国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める森林倶楽部(森林ふれあい推進事業)等を実施しました。
川は人々の交流の場でもあり、体験を通じた学びの場でもあります。近年、川を舞台としたさまざまな自然体験活動が活発に行われるようになってきており、子どもたちが親しめる水辺として川を活用するプロジェクトや情報発信を行いました。
国営公園においては、専門講師やボランティア等による公園の自然、歴史、地域の風土等を解説する自然ガイドツアーや、環境・自然をテーマに実際の体験を通じて楽しみながら学ぶ体験活動型のイベントを開催するなど、気軽に自然とふれあう機会を提供しました。
ウ 環境保全型自然体験活動(エコツーリズム)の推進
平成14年3月に成立した沖縄振興特別措置法(平成14年法律第14号)に環境保全型自然体験活動(エコツーリズム)の推進が位置付けられ、同年8月に沖縄県が策定した沖縄県観光振興計画に環境保全型自然体験活動の推進に関する基本的方針が定められています。環境省では、沖縄県西表島において環境保全型自然体験活動の推進上の問題点、課題、提案等について、調査を行いました。
(3)健全なふれあい利用の推進
自然公園における動植物の保護や美化思想の普及、事故防止等の適正化のため、約3,000名の自然公園指導員を委嘱するとともに研修会を実施し、利用者指導の充実を図りました。
また、自然保護事務所において約2,000名のパークボランティアの養成及びその活動に対する支援を行いました。
さらに、自然解説活動における指導者育成のためビジターセンター等の職員の研修を実施しました。
また、藤里森林センターにおいては、森林・林業や自然環境の保全に関する普及啓発活動推進のため、研修施設を整備しました。
(4)都市と農山漁村の交流
都市住民を中心に国民の間に心のゆとりや安らぎを求める傾向が強まっています。このような中で、都市と農村の交流は、都市住民の農業・農村に対する理解を深めるとともに、農村地域の活性化に寄与することからグリーン・ツーリズム等都市と農村の交流の一層の推進を図りました。
具体的には、都市農村交流スクールによる人材育成等農村の受入れ体制の整備、農林水産省と文部科学省との連携による子どもたちの農業・農村体験活動を促進しました。新たに、都道府県が実施する都市農村交流のための人材育成を支援しました。
また、市民農園や廃校・廃屋を利用した交流施設を整備するとともに、都市近郊にある「谷津田」とその周辺の地域資源を活用し、交流空間として整備しました。
山村においては、森林を活用した国民の健康づくりに資するため、森林浴活動に適した森林の整備などを計画的に実施するほか、市民参加に関する協定の締結、都市が山村で行う「ふるさと共生の森」の設定等森林と人との共生林の整備に向けた条件整備を実施するとともに「緑の募金」及び「緑と水の森林基金」の助成により森林整備等に関する事業を推進しました。
また、豊かな自然と景観に恵まれた漁港、漁村においては、都市住民等へ海と自然とのふれあいを提供するため、親水機能を有する護岸やキャンプ場等の整備を行う漁港交流広場整備事業を全国50地区で、また、漁港における景観の保持や美化を図るため、植栽や親水施設等の整備を行う漁港環境整備事業を全国88地区で実施しました。さらに、漁港内において漁船とプレジャーボート等とのトラブルを防止し、漁業生産活動の円滑化を図り、都市と漁村との交流促進を促す海洋性レクリエーション空間の創出に資するフィッシャリーナの整備を漁港利用調整事業により全国13地区で実施しました。これらに加え、漁業と調和した健全な海洋性レクリエーションの発展を促進するため、漁業関係者と遊漁船業者等との協議会を実施したほか、海洋利用に関するルール・マナーの啓発を行い、また沿岸域を熟知している漁業者自らが主体となって遊漁船業、ダイビング案内、釣り場等の管理運営等を行うことにより、良好な自然環境の保全を図りながら都市住民との交流を促進しました。
さらに、水産物等の地域のさまざまな資源を活用した特産品づくりや販売活動、都市と漁村との交流活動、漁業地域の振興を円滑に進めるための方策の検討等、地域の実態に即した活性化活動を支援する「漁村活性化推進事業」を実施し、交流促進を図りました。
(5)温泉の保護と利用
ア 温泉の保護と利用
わが国は、世界でも有数の温泉国であり、温泉地は国民の保健休養地として極めて重要な役割を果たしています。温泉法(昭和23年法律125号)では、これらの温泉を保護し、その適正な利用を図ることを目的として、温泉を掘削又は増掘する場合と動力を装置する場合には都道府県知事の許可を、温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする場合には都道府県知事又は保健所設置市の市長の許可を受けなければならない旨定めています。
平成13年度末現在、全国の温泉湧出源泉数は2万6,796か所(うち自噴源泉5,186か所、動力の設置された源泉1万3,063か所、未利用源泉8,552か所)、湧出量は1日換算約380万tに及んでいます。平成13年度の全国の温泉地における宿泊利用者数は約1億3,710万人に達しており、国民の保健休養の場としても親しまれ、自然とのふれあいの面でも大きな役割を果たしています。
平成13年度における全国の許可件数は、温泉の掘削433件、増掘11件、動力の装置342件、浴用又は飲用2,144件でした。
イ 国民保養温泉地
国民保養温泉地は、温泉地のうち、温泉利用の効果が十分期待され、かつ健全な保養地として大いに活用される場を温泉法に基づいて環境大臣が指定した地域です。
平成14年12月末現在、91か所、1万6,582.95haが指定されています。
国民保養温泉地のうち、自然資源を活用し、自然とふれあい、心身をリフレッシュすることが期待できる温泉地として選定した「ふれあい・やすらぎ温泉地」において、自然ふれあい・温泉センター、歩道等の整備を実施しました。平成14年度は2地区において整備を実施しました。