4 国際的動向とわが国の取組
(1)国際動向
経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)などの国際機関では、化学物質対策に関する種々の活発な活動を主宰しており、わが国も積極的に参加しています。
ア OECDの活動
OECDでは、化学物質の安全性評価のためのテストガイドライン(化学物質の安全性に関する試験法)の作成及び改廃、GLP(Good Laboratory Practice :優良試験所基準)、化学物質のリスク評価手法及び管理方策、有害性に関する分類と表示の調和、化学品事故への対応、環境暴露評価手法の開発、PRTRの推進等について検討を行っており、これらの成果を受け、化学物質の適正な管理に関する種々の措置について決定や勧告が採択されています。
新規化学物質については、届出様式の標準化など各国が実施している届出・評価の調和に向けて作業チームを設置し、取組が進められています。
既存化学物質については、各国で大量に生産又は輸入されている化学物質(HPV:High Production Volume)の安全性点検を各国政府及び産業界で分担して実施する国際プロジェクトを推進しています。
PRTRについては、排出量の推計方法に関するタスクフォースにおいて、各国が実施している推計方法の情報交換や他国での利用可能性について検討が進められています。
有害性に関する分類と表示の調和については、これまでに化学物質及びその混合物に関する急性毒性、発がん性、水生生物への生態毒性など10種類の有害性項目の分類方法について合意されています。2002年(平成14年)には、新たな有害性項目など今後の検討作業の方向性が示されました。
1994年(平成6年)から特別プロジェクトとして実施されている農薬ワーキンググループでは、農薬の安全性に係る再評価の国際分担や農薬によるリスク削減対策等についての検討が進められています。
イ WHOの活動
WHOでは、UNEP、国際労働機関(ILO)のほか、各国の主要な研究機関との間の有機的な協力に基づき、国際化学物質安全性計画(IPCS:International Programme on Chemical Safety)において、安全性に係る対策の優先度の高い化学物質のリスク評価、健康へのリスク評価手法の開発等の活動が実施されており、この成果として化学物質ごとの環境保健クライテリア(EHC:Environmental Health Criteria)の刊行などが行われています。
ウ UNEPの活動及び国際条約
UNEPでは、化学物質の人及び環境への影響に関する既存情報の収集・蓄積並びに化学物質の各国の規制に係る諸情報の提供などが行われています。
また、有害な化学物質による人の健康及び環境を潜在的な害から保護し、並びに当該化学物質の環境上適正な使用に寄与するため、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意(PIC:Prior Informed Consent)の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」が1998年(平成10年)9月に採択され、わが国は1999年(平成11年)8月に署名しました。2001年(平成13年)からは、暫定的なPIC手続から条約への円滑な移行について検討が進められています。2003年(平成15年)4月現在、本条約の対象となる27物質に4物質を加えた計31物質が暫定PIC手続の対象となっています。わが国においても、本条約の早期締結と適切な履行に向けた検討作業が進められ、2003年(平成15年)2月には、PIC条約の締結について国会の承認を求める件が閣議決定されました。
PCB、DDTなどの残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)は、国境を越えて広い地域を移動し、生物の体内に蓄積されるため、北極グマやアザラシから検出されるなど、地球規模の汚染をもたらしています。
このため、1997年(平成9年)2月のUNEP管理理事会において、これらの削減又は排出の廃絶を目的とした国際的拘束力のある手段を2000年(平成12年)中を目途に確立することが決議されたことを受け、1998年(平成10年)6月以降条約化政府間交渉委員会が開催されました。その結果、2001年(平成13年)5月にストックホルムで開催された外交会議で「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」が採択されました。同条約は難分解性、生体内での高蓄積性、長距離移動性、人の健康や環境(生態系)に対する悪影響を有する物質として、当面、PCB、DDT、クロルデン、ダイオキシンなど12物質を対象に、その製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理やストックパイル(在庫・貯蔵物)の適正管理等の措置を各国に義務付けています。わが国は同条約に平成14年8月30日に加入しました。同条約の発効には50か国の締結が必要であるため(平成15年3月5日現在、30か国締結)、まだ発効していませんが、わが国では条約の適切な履行に向け、関係省庁が連携して国内実施計画等の検討が進められています。
エ 「アジェンダ21」のフォローアップ
1992年(平成4年)6月の環境と開発に関する国連会議(UNCED)において採択された行動計画「アジェンダ21」の中に「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」として1章が割かれ、国際的に取り組むべき項目が以下のように示されました。
1) 化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進
2) 化学物質の分類と表示の調和
3) 有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換
4) リスク低減計画の策定
5) 化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化
6) 有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止
7) 国際協力の強化
これらの効率的なフォローアップを行うため、1994年(平成6年)4月に化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS:Intergovern-mental Forum on Chemical Safety)が設立されました。2000年(平成12年)10月にブラジル国バイーア州サルバドル市で開催された第3回全体会議(IFCS III)では「2000年以降の優先行動事項」及びこれを基にIFCS III参加者が共同して取組を進めていくべきことを宣言した「バイーア宣言」が合意されました。これを踏まえ、わが国でも積極的に取組を進めており、これらの項目のうち3)及び5)に関連して、化学物質情報の交換手段として、「地球規模化学物質情報ネットワーク(GINC:Global Information Network on Chemicals)」の構築が企図され、日本の積極的な支援により開始されています。また、5)に関連して、国別のプロファイルの整備に向けた作業を開始しました。
(2)国際的動向を踏まえたわが国の取組
関係府省においては、OECDにおける環境保健安全プログラムに関する調整作業、HPVの安全性点検等に積極的に対応するとともに、試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、GLPに関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関するわが国としての評価作業、化学物質の安全性について総合的に評価するための手法等についての検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。
平成14年度においては、OECDのHPV点検プロジェクトにおいて、わが国として必要な知見を収集する試験の一環として、生態影響試験、毒性試験等を実施し、OECDの初期評価会合に10物質の初期評価報告書を提出しました。
また、化学品の分類及び表示に関する世界システム(GHS:Globally Harmonized System)の確立については、これまでの国連危険物輸送専門家委員会(UNCETDG)、経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)での検討結果を基に、2001年(平成13年)からは、国連経済社会理事会に新たに設置された常設委員会(GHS小委員会)において、さらに内容の検討が続けられていましたが、2002年(平成14年)12月、その合意にいたりました。正式な国連勧告に向けての準備が進められています。
さらに、2002年(平成14年)に行われたヨハネスブルグサミットでもその実施計画にリオ宣言の第15原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)に留意しつつ、透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020年(平成32年)までに達成することを目指すことが合意されました。また、具体的には、PIC条約の2003年(平成15年)までの発効、POPs条約の2004年(平成16年)までの発効及び2005年(平成17年)までに国際化学物質管理への戦略的アプローチ(SAICM)を発展させること等が合意されました。