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第6節 

3 二次的自然環境の維持、形成

(1)森林
 二次林の約13%が自然公園内にあるなど、自然公園内にもかなりの里地里山が含まれていることから、国立・国定公園において、土地所有者の高齢化等により管理が行き届かなくなった里地里山を対象に、国、地元自治体、NPO等と土地所有者とが管理協定を結ぶとともに税制優遇措置を講じるなどの施策を具体的に実施しつつ、問題点を整理分析するなどして、里地里山問題に取り組みます。また、緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地元自治体等とが管理協定を締結し、持続的に管理を行うとともに市民に公開するなどの取組を推進します。
 水田、畑、雑木林、草地等で構成される農村地域においては、例えば、湧水地の保全、生態系に配慮した用水路の設置・改良、水辺や樹林地の創出等、農業農村整備事業等により多様な野生生物が生息できる環境の確保に努めます。里山林では、身近な里山林等が持続的に利用されるよう、森林の維持管理の育て親を都市住民等から募集し、森林所有者と都市住民等が連携・協力して保全・利用する体制を推進します。また、農林水産省と環境省が連携・協力して、農村地域における自然環境や野生生物の情報を把握するための「田んぼの生きもの調査」の実施を引き続き推進します。
 都市近郊の里地里山においては、例えば、埼玉県くぬぎ山地区(川越市、所沢市、狭山市、三芳町の4市町にまたがる平地林)において、産業廃棄物処理施設の集積等により失われた武蔵野の雑木林を再生する等の自然再生事業を、関係省庁や関係自治体等が連携・協力し、市民参加も得ながら積極的に推進します。
 里地里山の保全・利用については国民的合意形成が前提となります。このため、行政、専門家、住民、NPO等のあらゆる主体が一体となって里地里山の保全・利用に合意形成のうえ取り組むための実践的手法や体制、里地里山の普及啓発・環境学習活動等のあり方について、環境省では、今後、里地里山の代表的な生態系のタイプ毎に実施する市民(地域住民及び都市住民)参加のモデル事業の実施・評価を通じて具体的な検討を進めます。
 このため、森林の新たな利用を推進する中で、引き続き多様な利用活動の場となる「里山利用林」の設定、利用活動を通じてその保全・整備に寄与する「森林の育て親」の募集、新たな保全・利用活動の立ち上げに対する支援等を行い、行政、森林所有者、地域や都市の住民等の連携・協力による自立的な保全・整備・利用活動を推進するとともに、市民参加によって森林整備と資源循環利用を一体的に進める等の新しい取組についても推進します。
 また、間伐の適正な実施等により健全な森林を維持・造成するとともに、森林計画制度の下で、新たに、森林・林業基本計画等に基づき、森林を重視すべき機能に応じて水土保全林、森林と人との共生林、資源の循環利用林に区分し、その機能が最大限に発揮されるような施策体系へと見直すことなどにより、森林の有する多面的機能を持続的に発揮し得る多様な森林づくりを積極的に推進します。
 この中で、例えば、水土保全林においては、従来の皆伐−新植に替えて、抜き伐りや伐採面積の縮小など良質な水の確保等に資する森林施業を推進するとともに、森林と人との共生林においては、生物多様性保全等に資するため広葉樹の導入等による森林構成の多様化を進めます。
 また、保安林制度・林地開発許可制度等の適正な運用により、森林の公益的機能の維持保全及び森林の土地の適正な利用の確保に努めます。
 さらに、持続可能な森林経営に関する基準・指標に係るデータ等を把握するとともに、その変化を継続的にモニターし、持続可能な森林経営の推進及び地域森林計画等の樹立に資するため、森林資源モニタリング調査を引き続き実施します。
 治山事業においては、豊かな環境づくりに配慮し、荒廃山地の復旧整備、機能の低位な森林の整備等を緊急かつ計画的に推進するとともに、事業の実施に当たっては、必要に応じて周辺の生態系に配慮する等の対策に積極的に取り組みます。
 また、災害に強い森林づくりを推進するため、機能が低下した保安林等について本数調整伐等の森林整備を進めるほか、住民参加による生活環境保全林整備事業を昨年に引き続き実施します。
 保安林については、計画的な指定、多様な森林づくりのための適正な維持管理及び整備を推進します。
 一方、森林や林業への理解を深め、国民参加による森林づくり活動を推進するため、森林ボランティア活動の促進ための事業を実施します。また、分収林制度を積極的に推進するとともに、「緑と水の森林基金」を活用し、森林資源の整備、利用等に関する総合的な調査研究、普及啓発等を推進します。
 国有林野においては、平成10年10月に成立した国有林野事業改革関連法に基づき、その管理経営の方針を公益的機能の維持増進を旨とするものへ転換し、これまで国有林野全体の5割を占めていた木材生産林を資源の循環利用林として2割に縮小する一方、山地災害の防止、水源のかん養等の機能発揮を重視する森林については水土保全林に、森林生態系の保全、保健文化等の機能を第一に発揮する森林については森林と人との共生林に区分し、これらをいわゆる公益林として8割に拡大したところです。このような区分に基づき、林木だけでなく下層植生や動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目し多様な森林の整備を行います。その中で育成複層林・天然生林施業の推進や育成単層林の適正な整備、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した森林施業を推進します。
 さらに、森林病害虫等の防除については、森林病害虫等防除法等に基づき松くい虫をはじめとする森林病害虫等に対する各種防除措置等を、環境の保全に配慮しつつ総合的に実施します。
 このほか、保全管理水準の維持・向上を図るべき森林について、森林保全推進員等による森林パトロールや林野火災予防資機材の配備等の保全管理活動、防火森林・防火林道の整備等を行うとともに、全国山火事予防運動の実施等啓発活動を推進します。

(2)農地
 土地改良事業をはじめとする農業農村整備事業においては、環境との調和の基本方針に基づき、原則として全ての事業で、調査、計画の段階から、環境との調和へ配慮しつつ事業を実施します。
 また、環境保全、自然に恵まれた美しい景観の提供といった農業・農村の持つ公益的機能を発揮させるという観点から適切な形での農地等の維持・形成を図ります。ため池等の周辺において生態系空間(ビオトープ)を保全する事業や生活環境の整備等を生態系の保全に配慮しながら総合的に行う事業等に助成し、多様な生物相と豊かな環境に恵まれた農村空間(エコビレッジ)の形成を促進するほか、農村地域に存在する生物の生息・生育地(樹林、池等)と農業用施設とのネットワーク化等、生物多様性を確保するための手法開発を進めます。
 棚田で農業生産活動が行なわれることにより生ずる国土の保全、水源のかん養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動を推進するほか、農村地域の美しい景観や環境を良好に整備、管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行います。
 また、自然環境の維持・形成に資するため、農業集落排水事業を促進するとともに、地域の実情に応じ、特定環境保全公共下水道等の整備を進めます。
 農業においては、土づくり等を通じ化学肥料、農薬の使用の低減を図る環境保全型農業の全国的な展開の一層の推進を図るため、たい肥等による土づくりを基本として化学肥料・農薬の使用の低減を一体的に行う「持続性の高い農業生産方式」の導入を推進し、導入を図ろうとする農業者に対し金融・税制上の特例措置を講じます。また、この持続性の高い農業生産方式の普及・定着のため、生産方式導入の拠点となる技術確立ほ場や土壌診断施設の整備を進めるとともに、たい肥等を含めた適正使用指針の策定や、技術情報の普及資料の作成等の地力増進対策の実施を図ります。また、家畜排せつ物、食品廃棄物、生ゴミ等有機性資源のたい肥化・飼料化等による循環利用の促進、緑肥の導入等による効率的な土づくり、消費者・食品産業との連携による安全でおいしい農産物の供給等により循環型社会の構築を図ります。
 市街化区域内農地のうち、生産緑地地区に指定されたものについては、緑地としての機能が維持されるよう、適正な保全を図るほか、都市住民の交流の場としての活用を図るため、市民農園整備事業等により、市民農園の整備を推進します。

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