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第6節 

6 森林の保全と持続可能な経営の達成

(1)問題の概要
 世界には、その地域の気候の特性に応じた様々なタイプの森林が分布しています。森林の総面積は約39億haで、陸地の約30%を占めます(国連食糧農業機関(FAO):「State of the World's Forests2001」)。森林は多くの野生生物に生息地を提供し、また、土壌の保全、水源かん養や二酸化炭素の吸収・固定といった環境調整機能を有し、さらに、用材、薪炭材など人間の生活に欠かせない木材の供給源であるほか、医薬品の原料等の非木材生産物の供給源ともなるなど、多面的な価値を持つ自然資源です。
 しかしながら、世界の森林面積は、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)の10年間に全世界で約94百万haもの森林が失われました(国連食糧農業機関:「State of the World's Forests2001」図3-6-2)。なかでも、熱帯地域の天然林に関しては、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)までの10年間で年平均1,420万haが減少したと推測されました。これは、毎年日本の本州面積の約3分の2に相当する面積が減少していることになります。熱帯林には、世界の野生生物種の約半数が生息するといわれ、遺伝子資源の宝庫でもありますが、大面積の消失により、多くの野生生物種が絶滅の危機に瀕していることが懸念されています。熱帯林消失の原因は地域によっても違いがあり、農地への転用、非伝統的な焼畑移動耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧、プランテーション造成などが指摘されていますが、その背景には人口増加、貧困、土地制度等の様々な社会的経済的要因が絡んでおり複雑です。さらに、近年ではロシア極東地域においても、森林の減少が懸念されています。
 また、森林消失により放出される大量の二酸化炭素が地球温暖化を加速する一因ともなっているとの指摘もあります。



(2)対策
 1992年(平成4年)に開催された地球サミットで、森林に関する初めての世界的なコンセンサスを示す「森林原則声明」及びアジェンダ21が採択され、それ以降、世界の森林保全と持続可能な経営に関する議論が様々な国際会議等を通じて行われました。
 1995年(平成7年)の第3回国連持続可能な開発委員会(CSD3)において、CSDの下に森林分野の広範な課題の検討を行うための政府間パネル(IPF)が設置され、さらに、1997年にはCSDの下に「森林に関する政府間フォーラム(IFF)」が設置され、各国・国際機関に対し、各国の森林プログラムの策定、世界的な森林資源評価等多数の「行動提案」を含む報告書を作成しましたが、森林に関する法的規制手段等の国際メカニズムについては合意にいたりませんでした。
 2000年(平成12年)1月に開催されたIFF第4回最終会合においては、国連に新たに世界の森林の持続可能な経営を推進することを目的とした「国連森林フォーラム(UNFF)」を設立すること、UNFFは、IPF及びIFFの行動提案の実施促進や国際協力の推進、及びすべての森林に関する法的枠組みの作成に関連する事項を5年以内に検討すること等を主な機能とする等との提案をまとめ、同報告書は、CSD8において承認されました。同年10月の国連経済社会理事会(ECOSOC)再開会期においてUNFF設立に関する決議が採択され、ECOSOCの下の補助機関としてUNFFが設立されることとなりました。2001年(平成13年)6月に第1回会合が開催され、今後5か年の作業計画等が採択されました。2002年(平成14年)3月にニューヨークで行われた第2回会合では閣僚会合が開催され、ヨハネスブルグサミットに向けた提言が取りまとめられました。
 主要先進国間では、持続可能な森林経営の推進のため、1997年(平成9年)のサミット首脳コミュニケで「G8森林行動プログラム」の策定に合意し、1998年(平成10年)の外相会合において同プログラムが発表されました。その実施状況について、2000年(平成12年)の九州・沖縄サミットに報告書が提出され、本年実施状況の最終報告書を提出することとなっています。
 持続可能な森林経営の阻害要因となる違法伐採問題については、国際的な取組の必要性がG8森林行動プログラムの中で明確に位置づけられ、2000年(平成12年)7月に開催されたG8九州・沖縄サミットにおいて輸出及び調達に関する慣行を含め、違法伐採に対処する最善の方法についても検討する旨のコミュニケが採択されました。また、2001年(平成13年)9月にバリで行われた「森林法の施行とガバナンスに関する東アジア閣僚会合」においても輸出国、輸入国双方が一体となって取り組むべきこと等が合意されました。
 1994年(平成6年)に採択された現行「1994年の国際熱帯木材協定(ITTA、1994)」では、「2000年目標*」を達成することを目的の一つに掲げ、熱帯林の保全に向けて、国際的枠組みを一層強化しました。ITTAにより設置された国際熱帯木材機関(ITTO、本部横浜)は、生産国、消費国が協力し、熱帯林の保全と持続可能な経営、利用を目的として活動しており、「目標2000」をはじめとする戦略、ガイドライン及び持続可能な森林経営のための基準・指標を採択してきているほか、約500件余りのプロジェクトを実施してきています。

*2000年目標
熱帯木材及び熱帯木材製品の輸出を専ら持続可能であるように経営されている供給源からのものについて行うことを2000年までに達成するための戦略。第29回理事会において、目標が十分達成されなかったものとされ、名称を「目標2000」と改め引き続きその達成に向けて取り組んでいくこととした。

 2001年(平成13年)11月に横浜で開催された第31回理事会においては、1)持続可能な木材生産・貿易との関連における森林法の施行に関する決議が採択されるとともに、熱帯木材・林産品の輸出入データに関するケーススタディーを行うこと等を決定し、また、2)協定の実施にあたって目標や優先順位を与える新行動計画である「横浜行動計画*」を採択したほか、3)マングローブの保全に関する行動計画案の見直し等について決議され、加盟国各国が今後取り組んでいくことになりました。

*横浜行動計画
現行計画(名称:リーブルビル行動計画、計画期間:1998〜2001年)の期限が終了することから、新規に作成を行ったもの。2002年〜2006年を計画期間とした本計画では、「目標2000」の達成に向けた森林法施行の強化・人材育成・伐採負荷の削減等の施業面に重点をおいた行動が盛り込まれた。

 熱帯林以外についても、森林経営の持続可能性を把握・検証するための基準及び指標の作成等について、世界の各地域において論議が行われています。
 まず、欧州諸国においては、1993年(平成5年)より同地域内の森林に係る基準・指標に関する検討が行われており、1998年(平成10年)に基準・指標が作成されました。また、日本は、カナダ、アメリカ等とともに、1995年(平成7年)に欧州以外の温帯林・北方林を対象として、その保全と持続可能な森林経営のための基準・指標を作成し、各国における適用に向けての検討や各国の森林状況に関する報告書を2003年(平成15年)までに作成することとしています。わが国は、このような国際的な議論へ参画するとともに、従来からの二国間、多国間協力についても引き続きその推進に努めました。
 二国間協力では、森林造成・保全、人材育成、森林関係研究等を中心とする森林・林業分野の技術協力、有償資金協力等を東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米などにおいて実施中です。このうち国際協力事業団(JICA)を通じて、18か国、26のプロジェクト方式技術協力等を実施中です。また、国際協力銀行(JBIC)を通じてフィリピン、インド、メキシコ等に対して大規模な植林等を含むプロジェクトへ有償資金協力を実施中です。
 多国間協力では、ITTOに対し、その活動を引き続き支援するため加盟国中最大の資金拠出を行いました。
 また、FAOに対しては、持続可能な森林経営に及ぼす木材貿易の影響を客観的に調査・分析する事業を実施する上で必要な経費の拠出等を行いました。さらに、国際農業研究協議グループ(CGAIR)の傘下に平成5年に設立された国際森林・林業研究センター(CIFOR)に拠出を行うなど森林保全研究について支援を拡充しています。
 熱帯林に関する調査研究では、地球環境研究総合推進費による熱帯林の持続的管理の最適化や森林火災による自然資源への影響とその回復に関する研究が、国立試験研究機関を中心に東南アジア地域を対象として行われているとともに、海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費による熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究が、国立試験研究機関によって行われています。
 民間部門では、NGOによる東南アジア、アフリカ、中国等での植林活動に対して支援を行ったほか、民間企業の資金協力等により、マレーシア・サバ州における熱帯林再生のためのフタバガキ科樹種等の植栽活動が行われました。

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