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第7節 

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1)研究開発の総合的推進
 平成13年3月に閣議決定された第2期科学技術基本計画では、環境分野を、特に重点を置いて優先的に研究開発資源を配分すべき分野の一つとして位置付けました。
 この科学技術基本計画を踏まえ、平成13年9月には総合科学技術会議において「分野別推進戦略」を策定しました。その中では、今後5年間に重点的に取り組んでいくべき環境の研究分野として、地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究、化学物質リスク総合管理技術研究、地球規模水循環変動研究の5課題を選定しました。
 さらに上記の研究課題に加え、環境研究の推進に重要な課題として、環境分野の知的基盤の整備及び先導的研究の推進を挙げました。
 また、中央環境審議会では、「環境研究・環境技術開発の推進を総合的・戦略的に行うための方策は、いかにあるべきか」について審議し、環境研究・環境技術開発の性格及び方向性、これを推進するための体制整備のあり方、重要な環境問題の解決のための一連の課題をまとめた「重点化プログラム」を明らかにした専門委員会中間報告を平成13年6月に取りまとめました。

(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
 ア 独立行政法人国立環境研究所
 国立環境研究所では、環境問題に対する多様な社会的ニーズに応えるため、学際的な環境研究に対応しうる組織体制と多彩な専門研究者を擁しており、幅広い環境研究の実施及び環境情報の収集・整備・提供等を行ってきたところです。
 平成13年4月には独立行政法人となり、柔軟な運営による質の高い研究活動等を効果的、効率的に実施していくことを目指しています。
 (ア)環境研究の推進
 環境大臣が定めた5か年間の中期目標(平成13〜17年度)に基づき、これを達成するための中期計画を策定し、重点研究分野を中心に、以下の環境研究の推進を図りました。
  a 重点特別研究プロジェクト
 社会的要請が強く、環境研究としても大きな課題とされている6つのプロジェクトを、プロジェクトグループを組織して実施しています。
 1) 地球温暖化の影響評価と対策効果
 2) 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
 3) 内分泌かく乱化学物質とダイオキシン類のリスク評価と管理
 4) 生物多様性の減少機構の解明と保全
 5) 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
 6) 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
  b 政策対応型調査・研究
 環境行政の新たなニーズに対応した以下の調査・研究を二つのセンターで実施しました。
 1) 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
 2) 化学物質環境リスクに関する調査・研究
  c 基盤的調査・研究
 重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を6つの研究領域等で実施しました。
  d 知的研究基盤の整備
 研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリー(環境標準試料の作製等を実施)及び地球環境研究センター(地球環境の戦略的モニタリング等を実施)において、知的研究基盤の整備に取り組みました。

 (イ)環境情報の提供
 環境情報センターにおいて、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供並びに電子計算機システムの運用を行い、国民等への環境に関する適切な情報の提供サービスを実施しました。

 イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関するわが国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
 環境省に一括計上した平成13年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額19億173万円であり、8府省25試験研究機関等において、環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現、自然と人間との共生の確保等環境基本計画に定める長期的な目標の達成に資するため、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等環境研究技術の幅広い領域にわたり、92の試験研究課題を実施しました。また、平成13年度において編成した総合研究プロジェクトの数は9で、その内容は次のとおりです。

 ア 大気環境の保全に関する総合研究
 各種発生源からの窒素酸化物、ベンゼン等大気汚染物質排出抑制技術の開発等に関する13課題の研究を継続して実施したほか、軽油の脱硫に関する研究等新たに3課題の研究を実施しました。

 イ 排水処理の高度化に関する総合研究
 産業排水等の物理化学的及び生物的処理技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、有機塩素化合物等有害化学物質の排出抑制に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。

 ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
 海洋における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、流出油等の海産生物に対する有害性に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。

 エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
 河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等に関する6課題の研究を継続して実施したほか、微生物を利用した高効率環境修復・保全システムに関する研究を新たに実施しました。

 オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
 廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等に関する4課題の研究を継続して実施したほか、発火・爆発性廃棄物の安全処理に関する研究等新たに3課題の研究を実施しました。

 カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
 自然環境への影響評価、自然環境の保護・管理等に関する14課題の研究を継続して実施したほか、屋久島森林生態系における固有樹種と遺伝子多様性の保全に関する研究を新たに実施しました。

 キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
 都市における総合的な環境保全を図るため、騒音及び悪臭の発生源対策技術等に関する4課題の研究を継続して実施したほか、生態系の観点からみた下水再生システムのあり方に関する研究を新たに実施しました。

 ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
 測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等に関する6課題の研究を継続して実施しました。

 ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
 環境汚染物質のリスク評価、評価手法の開発等に関する11課題の研究を継続して実施したほか、廃棄物の熱処理における臭素化ダイオキシン類の長期的管理方策に関する研究等新たに4課題の研究を実施しました。

 また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、生物間相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究等2課題の研究を継続して実施したほか、ノリ加工用海水の浄化再生に関する研究を新たに実施しました。

(4)地球環境に関する調査研究等の推進
 地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成13年7月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成13年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
 また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学はもとより、人文社会科学的な視点を含め、学際的に調査研究を推進する必要があります。さらに、これらの調査研究を進めるに当たっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、地球環境変化の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要があります。
 このような観点から、関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、調査・研究等を行っています。また、平成13年度より、中長期的視点から着実に推進すべき、関係行政機関の試験研究機関又は関係行政機関による研究について推進・調整を行うため、「地球環境保全試験研究費」を新たに創設し、地球温暖化の防止に資する研究、11課題を開始しました。
 さらに、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、平成11年に神戸市内に開設されたAPNセンターを中核として、地域内の研究活動等に対し支援を行いました。また、平成14年3月にはフィリピン・マニラで開催された「第7回政府間会合」において、平成14年度支援プロジェクト等を決定しました。
 平成10年度に設立されその活動を開始した「地球環境戦略研究機関」(IGES)においては、アジア・太平洋地域を中心とする国際的連携の下で、21世紀の持続可能な社会の実現のための戦略研究を実施し、第1期戦略研究プロジェクト(〜平成12年度)の成果を取りまとめました。
 平成13年度に実施した主な調査研究は表2-7-1のとおりです。



(5)基礎的・基盤的研究の推進
 環境技術開発等推進費による基礎研究開発課題として、平成12年度に採択した「環境中の複合化学物質による次世代影響リスクの評価とリスク対応支援に関する研究」、「遺伝子地図と個体ベースモデルに基づく野生生物保全戦略フ研究」の2課題について、研究を継続して実施しました。

(6)地球環境に関する観測・監視
 地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)における全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等の国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行いました。
 また、地球観測プラットホーム技術衛星(ADEOS)及び熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データは、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明等に活用されています。また、平成14年度打ち上げ予定の環境観測技術衛星(ADEOS-II)の最終試験、平成16年度打ち上げ予定の陸域観測技術衛星(ALOS)、平成18年度打ち上げ予定の傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計(SOFIS)の開発研究等を行いました。また、地球規模の変動に大きく関わっている海洋において、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。
 さらに、第43次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を実施しました。
 平成13年度に実施した主な観測・監視は表2-7-2のとおりです。



(7)環境基本計画推進調査
 環境省に一括計上される環境基本計画推進調査費は、環境基本計画に位置付けられた課題に関する調査研究を対象としており、「政策分*」と、「緊急分*」に分類されます。平成13年度における「政策分」としては、次の4テーマについての調査研究を実施しました(調査費小計:9,764万円)。

*政策分
政策の立案に関し複数府省が連携して実施する調査研究

*緊急分
環境保全に重大な影響を及ぼす事態の発生等に対処して、緊急に行う調査研究

 1) 持続可能性を基本とした地域づくりの支援のための手法開発調査
 2) 自然エネルギーの活用による地域資源循環圏整備調査
 3) パートナーシップによる環境教育・環境学習活動の推進調査
 4) 自然環境復元のための緑化植物供給手法検討調査

 また、「緊急分」については、次の4テーマについての調査研究を実施しました(調査費小計:4,056万円)。
 1) 粒子状物質総量削減計画に係る粒子状物質実態調査
 2) 西表における移入種の駆除に関する緊急調査
 3) 河川等へ流出する農業生産資材に由来するノニルフェノールの実体解明に関する調査研究
 4) 石垣島サンゴ群生地被害実態・原因究明緊急調査

(8)環境保全に関するその他の試験研究
 そのほかにも、環境保全に関する試験研究として、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発や二酸化炭素からメタノールを合成する技術開発等の温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施しました。さらに、バイオテクノロジーの知見を利用した、低環境負荷・環境調和型の化学原料生産、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施しました。
 また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)に関する研究開発、窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の研究開発、同ガスタービンを搭載し、環境的にも経済的にも優れた次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発を実施しました。
 さらに、油流出の際、精度の高い漂流予測が必要であることから、漂流予測手法の高度化を図るための研究・開発を行いました。
 建設分野におけるダイオキシン類汚染対策調査及び技術開発、シックハウス対策技術の開発、エネルギーと資源の自立循環型住宅・都市基盤整備支援システムの開発、微生物群制御による内分泌かく乱化学物質の分解手法に関する研究、建築材料に含まれる化学物質が環境に与える影響に関する研究、水域のネットワーク保全手法に関する研究等についても実施しました。
 生物の生息・生育環境に配慮した川づくりに関する調査研究を行うため、平成10年11月に世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターを岐阜県の木曽川三派川地区に設置しました。
 また、生態学的観点より河川を理解し、川のあるべき姿を探ることを目的として河川生態学術研究を実施しました。
 環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発、農林水産系における内分泌かく乱作用が疑われる化学物質の動態機構の解明とその影響防止技術の開発、農林水産生態系の持つ自然循環機能の高度な利用技術の開発、家畜ふん尿等の有機性資源のリサイクル技術の開発等を引き続き実施するとともに、農林業に由来する廃棄物からのバイオマスエネルギーを生産する技術の開発、野生鳥獣による農林漁業被害を軽減する管理技術の開発等に着手しました。
 電磁波を利用した地球環境計測技術の開発については、高度電磁波利用技術に関する国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダ*による地表面観測技術、亜熱帯地球環境計測技術、超伝導サブミリ波放射サウンダ*による地球環境計測技術などの研究開発を実施しました。

*高分解能3次元マイクロ波映像レーダ
昼夜によらず、天候に左右されずに、地上の映像を高分解能で観測するためのレーダ。地球環境計測、災害監視等の分野における利用を主な目的としている。

*超伝導サブミリ波放射サウンダ
国際宇宙ステーション日本実験棟の暴露部に搭載予定のミッション。成層圏オゾン層の破壊、地球温暖化等に関与する成層圏微量成分の観測を目的としている。

 海洋の観測を飛躍的に向上させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を推進しています。
 さらに、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの三つの機能が一体となった研究開発を推進しています。シミュレーションに関しては、地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指した超高速計算機システム「地球シミュレータ」の開発を引き続き行いました。さらに、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」の拡充を行うとともに、「地球観測フロンティア研究システム」においては、地球変動に関する知見及び観測データの充実を図りました。

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