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第2節 

1 大気環境の現状

(1)酸性雨
 ア 問題の概要
 酸性雨*により、湖沼や河川等の陸水の酸性化による魚類等への影響、土壌の酸性化による森林等への影響、樹木や文化財等への沈着等が考えられ、これらの衰退や崩壊を助長することなどの広範な影響が懸念されています。酸性雨が早くから問題となっている欧米においては、酸性雨によると考えられる湖沼の酸性化や森林の衰退等が報告されています。

*酸性雨
主として化石燃料の燃焼により生ずる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの酸性雨原因物質から生成した硫酸や硝酸が溶解した酸性の強い(pHの低い)雨、霧、雪(「湿性沈着」という)や、晴れた日でも風に乗って沈着する粒子状(エアロゾル)あるいはガス状の酸(「乾性沈着」という)を合わせたものとされている。

 酸性雨は、原因物質の発生源から500〜1,000kmも離れた地域にも沈着する性質があり、国境を越えた広域的な現象であることに一つの特徴があります。欧米諸国では酸性雨による影響を防止するため、1979年(昭和54年)に「長距離越境大気汚染条約」を締結し、関係国がSOx、NOx等の酸性雨原因物質の削減を進めるとともに、共同で酸性雨や森林のモニタリング、影響の解明などに努めています。

 イ 酸性雨対策調査結果
 酸性雨は、従来、先進国の問題であると認識されていましたが、近年、開発途上国においても、目覚ましい工業化の進展により大気汚染物質の排出量は増加しており、地域の大気汚染に加え、国を越えた広域的な酸性雨も大きな問題となりつつあります。このため、地球サミットで採択された「アジェンダ21」では、先進国のみならず、開発途上国も含めて今後、酸性雨等広域的な環境問題への取組を強化すべきであるとしています。
 わが国では、第1次酸性雨対策調査(昭和58〜62年度)、第2次酸性雨対策調査(昭和63〜平成4年度)、第3次酸性雨対策調査(平成5〜9年度)、及び第4次酸性雨対策調査(平成10〜12年度)において、降水、土壌・植生、陸水系の継続的なモニタリング、各種影響等予測モデルの開発、樹木の衰退等と酸性雨との関連が指摘されている地域における降水、大気汚染物質、土壌・植生などの総合的な調査研究の実施、乾性沈着及び生態影響評価手法の検討を行いました。第3次調査での調査結果の概要は次のとおりです。
 1) 平成5年度から9年度までの降水中の全地点年平均pHは4.7〜4.9と、第2次調査の結果とほぼ同じレベルの酸性雨が観測された(図1-2-1)。これまで森林、湖沼等の被害が報告されている欧米と比べてもほぼ同程度の酸性度であった。また、日本海側の測定局で冬季に硫酸イオン、硝酸イオン濃度及び沈着量が増加する傾向が認められ、大陸からの影響が示唆された。



 2) 酸性雨の陸水モニタリングでは、酸性雨による影響が生じている可能性がある湖沼が確認された。また、これまでに構築したモデルによれば、総合モニタリング調査を継続実施し、実測データ及び文献データが得られている蟠竜湖(島根県)及び伊自良湖(岐阜県)については、土壌に吸着されている陽イオンの量のみでは長期的に緩衝能力を維持することは困難であり、影響予測は鉱物の風化に伴う陽イオンの供給と落ち葉からのイオンの溶出等の植物による緩衝能力の評価などに依存すると考えられた。
 3) 土壌・植生モニタリングでは、第2次調査に引き続き原因不明の樹木衰退が確認された。また、土壌理化学性の面からは第2次調査に比べ顕著な変動は見られなかったが、樹木衰退が見られる地点等において、引き続きモニタリングが必要であるとされた。
 このように、わが国における酸性雨による生態系等への影響は現時点では明らかになっていませんが、一般に酸性雨による土壌・植生、陸水等に対する影響は長い期間を経て現れると考えられているため、現在のような酸性雨が今後も降り続くとすれば、将来、酸性雨による影響が顕在化する可能性があります。

(2)光化学オキシダント
 ア 問題の概要
 光化学オキシダント*は「1時間値が0.06 ppm以下であること」という環境基準(人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準)が設定されています。光化学オキシダント濃度の1時間値が0.12ppm以上で、気象条件から見てその状態が継続すると認められるときは、大気汚染防止法の規定によって都道府県知事等が光化学オキシダント注意報を発令し、報道、教育機関等を通じて、住民、工場、事業場等に対して情報の周知徹底を迅速に行うとともに、ばい煙の排出量の削減又は自動車の運行の自主的制限について協力を求めることになっています。

*光化学オキシダント
工場、事業所や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や炭化水素類(HC)を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの総称で、いわゆる光化学スモッグの原因となっている。光化学オキシダントは強い酸化力を持ち、高濃度では眼やのどへの刺激や呼吸器へ影響を及ぼし、農作物などへも影響を与える。

 イ 平成12年度における光化学オキシダントの測定結果
 平成12年度において光化学オキシダントは、一般環境大気測定局については659市町村、1,161局で、自動車排出ガス測定局については23市町村、31局で測定されています。
 光化学オキシダントに係る環境基準の達成状況は、例年極めて低く、一般局と自排局を合わせて、昼間(午前5時〜午後8時)の1時間値の最高値が0.06ppm(環境基準)以下であった測定局及び0.12ppm(注意報レベル)未満であった測定局数は、表1-2-1のとおりです。



 ウ 平成13年における光化学オキシダント注意報等の発令状況等
 (ア)全国の注意報等発令日数
 平成13年の光化学オキシダント注意報*の発令延べ日数(都道府県を一つの単位として注意報等の発令日数を集計したもの)は193日(20都府県)で、平成12年の259日(22都府県)と比べ、約25%減少しました。光化学オキシダント高濃度の発生は気象条件等に大きく影響されるため、年により大きく増減し、平成13年は過去10年間でみると平成12年に次ぐ日数となりました(表1-2-2)。

*光化学オキシダント注意報
光化学オキシダント濃度の1時間値が0.12ppm以上で、気象条件からみて、汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。



 平成13年の発令延日数を月別にみると、7月が最も多く96日、8月(43日)、6月(38日)の順でした。なお、平成13年は光化学オキシダント警報*の発令はありませんでした。

*光化学オキシダント警報
各都道府県等が独自に要綱等で定めているもので、一般的には、光化学オキシダント濃度の1時間値が0.24ppm以上で、気象条件からみて、汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。

 (イ)注意報発令のブロック別内訳
 平成13年の注意報発令延日数のブロック別内訳をみると、東京湾ブロック*で122日となっており、全体の63%を占めています(図1-2-2)。

*東京湾ブロック
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県



 (ウ)被害届出人数
 平成13年の光化学大気汚染によると思われる被害者の届出人数*は343人であり、平成12年の1479人に比べ、大きく減少しました。被害届出人数は年により大きく増減しますが、過去10年間では5番目にあたります。

*光化学大気汚染によると思われる被害者の届出人数
自覚症状による自主的な届出による。

 エ 非メタン炭化水素の測定結果
 昭和51年8月中央公害対策審議会より「光化学オキシダントの生成防止のための大気中の炭化水素濃度の指針について」が答申され、この中で、炭化水素の測定については非メタン炭化水素を測定することとし、光化学オキシダントの環境基準である1時間値の0.06ppmに対応する非メタン炭化水素の濃度は、午前6〜9時の3時間平均値が0.20〜0.31ppmC*の範囲にあるとされています。

*ppmC
炭素原子数として表したppm値

 (ア)一般環境大気測定局
 平成12年度において非メタン炭化水素は、257市町村、352測定局で測定されています。昭和53年度から継続して測定を行っている6測定局の午前6〜9時における年平均値の経年変化は表1-2-3のとおりです。



 (イ)自動車排出ガス測定局
 平成12年度において非メタン炭化水素は、123市町村、178測定局で測定されています。昭和52年度から継続して測定を行っている7測定局の午前6〜9時における年平均値の経年変化は表1-2-3のとおりです。

(3)窒素酸化物
 ア 問題の概要
 一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物(NOx)は、主に物の燃焼に伴って発生し、その主な発生源には工場等の固定発生源と自動車等の移動発生源があります。NOxは酸性雨や光化学大気汚染の原因物質となり、特にNO2は高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼします。

 イ 二酸化窒素の年平均値の推移
 平成12年度の二酸化窒素に係る有効測定局(年間測定時間が6,000時間以上の測定局をいう。以下同じ。)は、一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)726市町村1,466測定局、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)238市町村395測定局です。
 年平均値の推移は図1-2-3のとおりであり、平成12年度は、一般局0.017ppm、自排局0.030ppmと前年度に比べやや増加していますが、長期的にみるとほぼ横ばいの傾向にあります。大気汚染防止法によって、工場等の固定発生源からのNOxの総量規制制度が導入されている東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域における環境基準達成率は、一般局では90.9%、自排局では40.0%となっています(平成11年度は一般ヌ86.9%、自排局36.3%)。



 ウ 二酸化窒素に係る環境基準の達成状況
 二酸化窒素に係る環境基準*による長期的評価は、年間における1日平均値のうち低い方から数えて98%目に当たる値(以下「1日平均値の年間98%値」という。)と環境基準値を比較して行います。

*二酸化窒素に係る環境基準
1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること

 平成12年度の有効測定局について環境基準の達成状況の推移は、図1-2-4のとおりです。



 1日平均値の年間98%値が環境基準のゾーンの上限である0.06ppm以下の測定局(環境基準達成局)についてみると、平成12年度は、一般局99.2%、自排局80.0%となっておりその割合は平成11年度と比較すると、一般局、自排局とも増加しましたが、大都市地域における環境基準の達成状況は依然低い状況です。
 また、平成12年度に環境基準が達成されなかった測定局の分布について見ると、一般局については、千葉県、東京都、神奈川県及び大阪府の4都府県、自排局については、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府及び兵庫県などの「自動車NOx・PM法*」の対策地域を有する都府県に加え、北海道、静岡県、京都府、岡山県、広島県、福岡県、長崎県の7道府県にも分布しています(図1-2-5)。

*自動車NOx・PM法
「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」平成4年6月3日法律第70号



 エ 二酸化窒素の環境基準に基づき区分されたゾーン内にある地域の動向
 二酸化窒素の日平均値が0.04ppmから0.06 ppmまでのゾーン内にあるとされた地域における二酸化窒素の濃度の動向については、告示第2の2中の現状の水準に当たる昭和52年度及び平成8年度から平成12年度までの状況は表1-2-4のとおりです。



 オ 自動車NOx法特定地域における二酸化窒素に係る環境基準の適合状況等
 自動車NOx法(自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法)に基づき、自動車の交通が集中している地域で、固定発生源対策及び自動車単体規制等のこれまでの措置によっては二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域が特定地域と指定され、平成12年度末までの環境基準のおおむね達成を目標に、平成5年より各種施策が実施されてきたところです。しかし、特定地域全体における二酸化窒素に係る環境基準の達成局の割合は、平成8年度から12年度までで33.3〜62.8%(自動車排出ガス測定局)と低い水準で推移しており(図1-2-6)、目標は達成されていません。また、二酸化窒素の濃度の年平均値は、近年ほぼ横ばいの状況にあります(図1-2-7)。





 カ 一酸化窒素の年平均値の推移
 平成12年度の一酸化窒素に係る有効測定局数は、一般局726市町村1,466測定局、自排局238市町村395測定局でした。年平均値についてみると、平成12年度は、一般局0.010ppm、自排局0.044ppmと平成11年度と比べてやや低くなっています。
 参考として諸外国の主要都市の状況をみると、1985年(昭和60年)以降1990年代にかけて、東京やリスボンなど窒素酸化物による大気汚染の状況が悪化している都市がある一方で、ニューヨーク、ブリュッセル、ベルリン、チューリッヒなど改善している都市もあります(図1-2-8)。



(4)浮遊粒子状物質等
 ア 問題の概要
 大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに浮遊粉じんは、環境基準の設定されている浮遊粒子状物質*とそれ以外に区別されます。浮遊粒子状物質は微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼします。浮遊粒子状物質には、発生源から直接大気中に放出される一次粒子と、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素類等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子があります。一次粒子の発生源には、工場等から排出されるばいじんやディーゼル排気粒子(DEP)* 等の人為的発生源と、土壌の巻き上げ等の自然発生源があります。

*浮遊粒子状物質
Suspended Particu-late Matter、SPM
大気中に浮遊する粒子状の物質(浮遊粉じん、エアロゾルなど)のうち粒径が10μm(マイクロメートル)(μm=1000分の1mm)以下のものをいう。

*ディーゼル排気粒子(DEP)
ディーゼル自動車から排出される粒子状物質のことをいい、発がん性、気管支ぜんそく、花粉症等の健康影響が懸念されている。その質量、粒子数の大部分はそれぞれ粒径0.1〜0.3μm、0.005μm〜0.05μmの範囲にあるとされている。

 イ 浮遊粒子状物質による大気汚染の現況
 平成12年度の浮遊粒子状物質に係る有効測定局数は、一般局722市町村1531測定局、自排局192市町村301測定局となっています。
 年平均値の推移は図1-2-9のとおりであり、平成12年度は、一般局0.031mg/m3、自排局0.040mg/m3と平成11年度に比べてわずかながら増加していますが、近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向がみられます。



 浮遊粒子状物質は発生源が多岐にわたり、また大気中での光化学反応等によって二次的にも生成するなど発生機構が複雑であることから、高濃度地域における環境基準達成に向けた総合的対策の確立を図るため、原因物質の排出実態、二次生成粒子の生成機構等について検討を進めているところです。
 諸外国の状況を見ると、ヨーロッパ諸国(スカンディナビア諸国を除く。)は、わが国よりも浮遊粒子状物質の濃度が高い水準となっています。これについては自然発生分も考慮しなければなりませんが、ディーゼル車の比率が高いことがその一因と考えられます。また、浮遊粒子状物質の濃度の推移は、増加している都市が一部あるものの、おおむね低下傾向にあります(図1-2-10)。



 ウ 浮遊粒子状物質に係る環境基準の適合状況
 浮遊粒子状物質の環境基準の長期的評価においては、年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲内にあるものを除外した値が0.10mg/m3以下であり、かつ、年間を通じて1日平均値が0.10mg/m3を超える日が2日以上連続しない場合を環境基準に適合するものとしています。
 長期的評価に基づく環境基準の達成率の推移は図1-2-11のとおりであり、平成12年度は、一般局では84.4%、自排局では66.1%と平成11年度に比べていずれも減少しています。環境基準を達成していない測定局は全国32都府県に分布しています。



 エ 降下ばいじんによる大気汚染の現況
 物の破砕や選別、堆積に伴って飛散する大気中のすす、粉じん等の粒子状物質のうち比較的粒が大きく沈降しやすい粒子は、降下ばいじんと呼ばれています。平成12年度において長期間継続して測定を実施している測定局は、平成11年度の4測定局から2測定局となり、その年平均値は5.4t/km2/月となっています(表1-2-5)。



 オ スパイクタイヤ粉じん
 昭和50年代の初めからスパイクタイヤが積雪地域で急速に普及し、スパイクタイヤの使用により発生する粉じんが問題となりました。不快感や衣服、洗濯物の汚れだけでなく、人体への影響も懸念されたため、現在はその製造・販売は中止され、「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」により使用禁止地域の指定も進み、スパイクタイヤに係る降下ばいじん量は著しく改善しています。

(5)硫黄酸化物等
 ア 二酸化硫黄による大気汚染の年平均値の推移
 平成12年度の二酸化硫黄*に係る有効測定局数は、一般局674市町村1,501測定局、自排局80市町村96測定局となっています。

*二酸化硫黄
SO2
硫黄分を含む石油や石炭の燃焼により生じ、四日市ぜんそくなどの公害病や酸性雨の原因となっている。

 年平均値の推移は図1-2-12のとおりであり、平成12年度は、一般局では0.005ppm、自排局では0.006ppmと近年ほぼ横ばい、もしくは減少傾向にあります。諸外国の状況においても、二酸化硫黄濃度はおおむね減少傾向にあります(図1-2-13)。





 イ 長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 二酸化硫黄の環境基準の長期的評価においては、年間にわたる1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が0.04ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が0.04ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしています。長期的評価に基づく環境基準の達成状況の推移は表1-2-6のとおりであり、近年良好な状態が続いています。平成12年度は、三宅島の火山ガスの影響により環境基準の達成率がやや低くなっています。



 ウ 短期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 短期的評価においては、1日平均値がすべての有効測定日(1日20時間以上測定が行われた日をいう。以下同じ。)で0.04ppm以下の場合、かつ、1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の場合に環境基準に適合するものとしています。
 1日平均値がすべての有効測定日で0.04ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合は、平成12年度は、一般局78.5%、自排局82.3%となっています。1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合については、平成12年度は、一般局57.2%、自排局53.1%となっており、短期的評価でも三宅島の火山ガスの影響により環境基準の達成率が低下しています。

 エ 一酸化炭素による大気汚染の年平均値の推移
 平成12年度の一酸化炭素*に係る有効測定局数は、一般局116市町村134測定局、自排局201市町村313測定局となっています。

*一酸化炭素
CO
燃料等の不完全燃焼により生じ、自動車が主な発生源とされている。COは血液中のヘモグロビンと結合して酸素運搬機能を阻害する等の健康の影響のほか、温室効果のあるメタンの寿命を長くする。

 年平均値の推移は図1-2-14のとおりであり、平成12年度は、一般局0.5ppm、自排局0.8ppmと近年はほぼ横ばいとなっています。



 オ 一酸化炭素に係る環境基準の適合状況
 平成12年度においては、平成11年度に引き続き、一般局、自排局ともすべての測定局において環境基準の長期的評価*及び短期的評価*いずれの評価によっても環境基準を達成しています。

*一酸化炭素に係る環境基準の長期的評価
年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が10ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が10ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしている。

*一酸化炭素に係る環境基準の短期的評価
1時間値の1日平均値が10ppm以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20ppm以下である場合に環境基準に適合するものとしている。

(6)有害大気汚染物質
 近年、多様な化学物質が低濃度ではあるが大気中から検出されていることから、その長期曝露による健康影響が懸念されています。昭和60年度から国においてこれらの有害大気汚染物質*のモニタリング調査を実施してきましたが、平成9年4月に施行された改正大気汚染防止法に基づき、平成9年度から地方公共団体(都道府県・大気汚染防止法の政令市)においても本格的にモニタリングを開始しました。

*有害大気汚染物質
OECDの定義によれば「大気中に微量存在する気体状、エアロゾル状又は粒子状の汚染物質であって、人間の健康、植物又は動物にとって有害な特性(例えば、毒性及び難分解性)を有するもの」とされており、種々の物質及び物質群を含むが、この語は、古くから問題となり規制の対象とされてきたNOxやSOxなどの大気汚染物質とは区別して用いられている。一般に大気中濃度が微量で急性影響は見られないが、長期的に曝露されることにより健康影響が懸念される。日本の大気汚染防止法では、「継続的に摂取される場合には、人の健康を損なうおそれがある物質で大気の汚染の原因となるもの」と定義されている。

 平成12年度における環境省及び地方公共団体が実施したモニタリング調査のうち、大気汚染防止法に基づく指定物質(ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン)に係る測定結果の概要は表1-2-7のとおりでした(ダイオキシン類に係る測定結果については本章第5節参照)。



 ベンゼンについて、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した地点における測定結果を平成9年2月に設定された環境基準値(0.003mg/m3)と比較すると、364地点中74地点において環境基準値を超過していました。
 トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、すべての地点において環境基準値(ともに0.2mg/m3)を下回っていました。

(7)騒音・振動、悪臭
 生活環境の保全上、大気汚染のほか、主に人の感覚に関わる問題である騒音、振動、悪臭が重要課題となっています(図1-2-15)。



 ア 騒音・振動
 (ア)問題の概要
 騒音は、各種公害の中でも日常生活に関係の深い問題であり、また、その発生源も多種多様であることから、例年、その苦情件数は公害に関する苦情件数のうちの多くを占めています。
 騒音発生源の種類ごとに苦情件数をみると、工場・事業場騒音が最も多く、建設作業騒音、営業騒音、家庭生活騒音がそれに次いでいます。
 騒音苦情の件数は、ここ10年くらいは減少傾向にありましたが、平成12年度は増加し14,066件でした。発生源別にみると、苦情の総数の4割近くを占める工場・事業場騒音に係る苦情件数が減少しているのに対して、建設作業騒音に係る苦情が増加しています。また、近年では、拡声機、カラオケ、ピアノ、ペットの鳴き声、自動車の空ぶかし等の都市生活等による騒音も大きな問題となっています(図1-2-16)。



 一方、振動の苦情件数は、この10年ほどは2千件台で推移しており、平成12年度は2,264件でした。
 その内訳をみると、建設作業振動に対する苦情件数が最も多く、工場・事業場振動に係るものがそれに次いでおり、苦情原因として依然大きな割合を占めています(図1-2-17)。



 (イ)一般地域における環境基準の適合状況
 平成12年度の一般地域における環境騒音の状況について、地方公共団体により測定された環境基準の適合状況は、地域の騒音状況をマクロに把握する地点で72.8%、騒音に係る問題を生じやすい地点等で67.3%となっています。
 (ウ)工場・事業場及び建設作業による騒音・振動の現況
 騒音については、騒音規制法の指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となりますが、指定地域内の特定工場等の総数は平成12年度末現在で207,748です。また指定地域内において行われる規制対象となる建設作業*の平成12年度実施の届出件数は60,999件です。

*規制対象となる建設作業
政令で定めるくい打作業等の特定建設作業

 振動については、振動規制法の指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となりますが、指定地域内の特定工場等の総数は平成12年度末現在で121,432です。また指定地域内において行われる規制対象となる建設作業の平成12年度実施の届出件数は26,958件です。

 (エ)自動車交通騒音の現状
 平成12年度の自動車交通騒音の状況をみてみると、全国の測定地点3,123地点(環境基本法に基づく環境基準の類型地域指定区域内)において、単純にその測定値を平成11年4月より施行された新しい環境基準に照らしてみた場合、基準値を超過していた地点は1,933地点(61.9%)に及んでいます(図1-2-18)。なお、新しい騒音に係る環境基準では、道路に面する地域について、一定の地域ごとに騒音レベルが基準値を超過する戸数及び割合により達成率を評価(以下、「面的評価」という。)することとなっています。面的評価は、27の地方公共団体で行われ、評価の対象となった住居等523,224戸のうち、基準値を超過していた住居等は120,940戸(23.1%)でした。



 また、大都市地域において環境基準値を超過した地点の割合が高くなっています(図1-2-19)。



 自動車交通騒音については、都道府県知事等が騒音規制法に基づき都道府県公安委員会に対し所要の措置を要請する際の基準となる要請限度が定められています。平成12年度に地方公共団体が苦情を受け測定を実施した185地点(騒音規制法に基づく指定地域内)のうち、要請限度値を超過した地点は21地点でした。
 (オ)道路交通振動の現況
 道路交通振動については、市町村長が振動規制法に基づき都道府県公安委員会、道路管理者に対し所要の措置を要請する際の基準となる要請限度が定められています。平成12年度に地方公共団体が苦情を受け測定を実施した124地点(振動規制法に基づく指定地域内)のうち、要請限度値を超過した地点は1地点でした。
 (カ)航空機騒音の現況
 航空機のジェット化の進展等は交通利便の飛躍的増大をもたらした反面、空港周辺地域において航空機騒音問題を引き起こしました。特に空港周辺の市街化とあいまって、これまで、民間空港2港及び防衛施設4飛行場においては、夜間の発着禁止、損害賠償等を求める訴訟が提起されています。このような航空機騒音問題を解決するため、発生源対策、空港周辺対策等の諸対策を推進しています。
  a 環境基準
 航空機騒音公害防止のための諸施策の目標となる航空機騒音に係る環境基準*については、地域類型の当てはめに従い、WECPNL*の値をもっぱら住居の用に供される地域については70以下、それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域については75以下になるようにすることとされています。

*航空機騒音に係る環境基準
昭和48年環境庁告示第154号

*WECPNL
加重等価平均感覚騒音レベル

  b 環境基準等の達成状況
 航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、環境基準制定当時に比べて騒音の状況は全般的に改善の傾向にあるもののここ数年は横ばいとなっており、平成11年度において約71%でした(図1-2-20)。なお、地域の類型の当てはめは、都道府県知事が行うこととなっており、平成11年度末現在で、33都道府県、63飛行場周辺において行われています。



 また、コミューター空港、ヘリポート等については、環境基準が適用されない小規模なものが多く、平成2年9月に制定したこれらの騒音問題の発生の未然防止を図るために必要な環境保全上の指針を踏まえて、諸施策を実施しています。
 (キ)新幹線鉄道騒音・振動の現況
  a 環境基準
 新幹線鉄道騒音に係る環境基準*では、都道府県知事が行う地域の類型当てはめに従い、主として住居の用に供される地域は70デシベル以下、商工業の用に供される地域等は75デシベル以下とし、これが達成され、又は維持されるよう努めるものとしています。n域の類型当てはめは、新幹線鉄道が運行されている22都府県において行われています。

*新幹線鉄道騒音に係る環境基準
昭和50年環境庁告示第46号

 なお、振動については、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」(昭和51年3月)において、振動対策指針値を70デシベルとして、環境庁長官より運輸大臣に対して勧告しています。
  b 環境基準等の達成状況
 騒音については、東海道・山陽・東北及び上越新幹線について、それぞれ環境基準の達成目標期間の最終年の経過後において、その達成状況ははかばかしくなかったことから、東海道・山陽新幹線にあっては住宅密集地域が連続する地域、東北・上越新幹線にあっては住宅集合地域を対象として、当面の対策として75デシベル以下となるよう対策を講じてきました(いわゆる「第1次75ホン対策」)。平成6年度の環境庁による調査の結果、この当面の目標についてはおおむね達成されたため、「第2次75ホン対策」では東海道・山陽新幹線沿線の住宅集合地域及び東北・上越新幹線沿線の住宅集合地域に準ずる地域に対象を拡大しました。平成9年度の環境庁による調査の結果、この目標についても、全ての地点で達成されており、平成14年度末を目途に、東海道・山陽新幹線沿線の住宅集合地域に準ずる地域及び東北・上越新幹線沿線の住宅立地地域(住宅が点在する地域を除く。)に対象を拡大した「第3次75デシベル対策」が講じられています。
 また、北陸新幹線高崎・長野間については、平成9年度の環境庁による調査の結果、測定地点の46%で環境基準が達成されており、引き続き環境基準の達成に向けた対策を講じています。
 振動については、環境庁長官の勧告に基づく振動対策指針値はおおむね達成されており、また、指針値を超過した地点については、関係機関に対し振動対策を一層推進するよう要請しています。

 イ 悪臭
 悪臭は、人に不快感を与えるにおいの原因となる悪臭原因物質が大気中に放出されることで発生します。悪臭は騒音・振動と同様に感覚公害と呼ばれる、生活に密着した問題です。現在、主に悪臭防止法*により規制が行われています。

*悪臭防止法
昭和46年法律第91号。工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行い、その他の悪臭防止対策を推進することにより、生活環境を保全し国民の健康の保護に資することを目的としている。

 悪臭苦情の件数は昭和47年度をピークにおおむね減少傾向にありましたが、ここ数年は増加傾向にあります。平成12年度は、前年度と比べて2,473件(13.2%)増加し、21,205件の苦情が寄せられました。これは昭和45年の調査開始以来2番目に多い数字です。発生源別にみると、畜産農業や飼料・肥料製造工場、化学工場など、かつて問題となっていた業種に係る苦情は減少していますが、「サービス業・その他」に係る苦情の割合が増加する傾向にあります。



(8)その他の大気に係る生活環境の現状
 「ヒートアイランド現象」「光害」等が各地で問題となっています。国民が日々の生活においてさわやかで澄んだ空気等、より良い大気環境を享受するため、これらの問題への対策が重要となっています。

 ア ヒートアイランド現象*

*ヒートアイランド現象
都市では高密度のエネルギーが消費され、また、地面の大部分がコンクリートやアスファルト等で覆われているため水分の蒸発による気温の低下が妨げられ、郊外部に比べ気温が高くなっている。この現象は、等温線を描くと都心部を中心とした「島」のように見えるため、ヒートアイランド現象と呼ばれている。

 都市部の気温が郊外に比べて高くなるヒートアイランド現象が大都市を中心に起こっています。建築物などが日中蓄えた熱を放出する夕方から夜間にかけてこの現象が顕著に現れます。特に夏季は、冷房等による排熱が気温を上昇させ、それによりさらに冷房のためのエネルギー消費が増大するという悪循環を生み出しています。良好な大気生活環境を確保するためヒートアイランド対策が必要となっています。

 イ 光害*(ひかりがい)

*光害
光害とは、良好な照明環境の形成が、漏れ光(照明器具から照射される光のうち、その目的とする照明対象範囲外に照射される光)によって阻害されている状況又はそれによる悪影響をいう。

 過度の夜間照明の使用は、天体観測等の人間の諸活動やほうれん草・水稲等の作物の生育不良、ホタル、ウミガメ、鳥類等の生育に影響を及ぼします。また、夜間の屋外照明は安全確保や防犯のため不可欠ですが、周辺環境に悪影響を及ぼす可能性がある夜間における過度の屋外照明はエネルギーの浪費にもつながることから、地球温暖化対策推進大綱でも事業者の取組として夜間屋外照明の上方光束の削減を求めています。

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