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第4節 

1 環境効率性改善の効果と限界

 第1章でみたように、今日の社会経済システムは、資源・エネルギーの採取から不用物の排出に至るまで、自然環境をその成立基盤としている一方、生産、流通、消費、廃棄等の各段階で自然環境に負荷をかけており、その負荷の大きさは、こうした両者のバランスを崩し始めています。また、世界各地の深刻な環境破壊の事例や、過去の文明のたどった道のりを振り返ると、将来、私たちの社会経済システム自体の存続が危うくなる可能性があります。
 一方、地球環境問題への国際的関心の高まりに応じて、「持続可能性」という考え方が提唱されるとともに、持続可能な社会の実現に向けた指標として、経済活動当たりの環境負荷を低減していく「環境効率性」という考え方も提唱されました。
 これらを踏まえれば、持続可能な社会を実現するためには、少なくとも、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄を基盤とする社会経済システムが自然環境に与えている負荷の総量を年々低減させていくことが必要であり、今後も、一定の経済成長が維持されることを前提とすれば、経済成長率以上のスピードで、社会経済システムの環境効率性を改善していくことが必要になります。このような状態が達成できたとき、私たちは、経済成長を享受しつつ、環境への負荷の総量も低減させることが可能となります。
 第2章では、こうした前提の下、市民、企業等の各主体が自主的かつ積極的に自らの環境負荷を低減しようという動きに出ていること、また、政府もそうした動きや環境問題の質の変化に対応し、新たな施策を講じ始めていることを紹介しましたが、こうした取組で果たして持続可能な社会の実現が可能なのかどうか、さらにいえば、自然環境の深刻な破壊を未然に防止することができるのかどうかという点が問題になります。
 この点を明らかにするため、第3章では、地球全体の有限性に着目し、現在の環境負荷は、環境上の制約に近づきつつあるのではないかという観点から考察をしました。この結果、過去からの一貫した世界経済の成長と、開発途上国を中心とする今後の人口増加を考えると、環境負荷の要因は今後ますます地球規模で拡大していくことが懸念されることから、現在から将来の世代にわたって世界のあらゆる人々が環境の恩恵を享受していくためには、現在よりも相当程度に環境効率性を改善することが必要であることが明らかになりました。
 しかし、環境対策の強力な取組が社会経済システム自体を損なうのではないかという点も考慮しなければなりません。この点については、まず、本章第2節において、環境対策が適切に行われた際には、技術革新、雇用確保及びその波及的効果等の経済上の利益をもたらす場合があり得、さらに、将来の損害を未然に回避し得るとの意味で、環境対策は経済にとって、プラスの効果を与え得ることが明らかになりました。また、続く第3節では、国際社会には環境問題を原因として不安定化する要素が多く含まれており、国際社会の安定を図るためには、環境・社会・経済の各側面からのアプローチが必要であることを確認し、資源・食料等の多くを海外に依存し、地球全体に多くの環境負荷をかけているわが国としては、本年8月末から開催される予定のヨハネスブルグサミットに向け、積極的にこれに貢献していくことが、地球全体の利益となることはもちろん、わが国にとって極めて重要であることを明らかにしました。

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