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第2節 

1 環境対策と技術革新(イノベーション)

(1)技術革新が経済効果をもたらした事例
 本節ではまず、技術開発により環境対策が図られた各事例について、経済的側面から分析を行います。

 ア 自動車の場合
 第1章第2節2でみたように、自動車排出ガスに係る規制にわが国の自動車メーカーがいち早く対応し、低燃費、低公害エンジン等の先進的な技術開発を行った結果、その後の世界市場への進出に大きな効果をもたらしました。わが国の自動車産業は、その後も新たな課題に積極的に取り組んでおり、各社がCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)以後、ハイブリッド車を相次いで販売し国内外で販売数を伸ばす等、わが国の環境対策技術を世界に大いにアピールすることとなっています。また、世界的な再編が進む自動車産業は、環境対策技術が再編を行う際の判断基準の一つとなり、これまでの環境対策の取組が日本企業の立場を強める要因となっているともいわれています。

 イ エアコンの場合
 石油危機を受けて昭和54年に制定されたエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)により、エアコンのエネルギー消費を昭和58年までに平均で17%減らすという高い目標が設定され、その結果、ロータリー・コンプレッサーが発明される等の技術革新につながりました。これによりわが国はコンプレッサー技術で世界最先端の地位を構築したのみならず、冷凍技術、空調技術等の技術分野においても競争力を発揮することにつながりました。

 ウ 自然エネルギー
 太陽光発電パネルの生産量は、第1章第2節2(3)でみたように、研究開発の促進と政府による購入補助制度の効果もあり、わが国が世界第一位の座を占めており、世界市場におけるシェアの約45%を日本企業が占めています。他方、風力発電機については、デンマークがいち早く大型発電機の開発、販売に国を挙げて取り組み、2000年には、風力発電により同国の電力消費量の約13%がまかなわれており、2030年には50%に達する計画を有しています。現在の同国の風力発電機の売上の世界市場におけるシェアは4割を超え、原油、肉製品、携帯電話、医薬品に次ぐ輸出品目となっています(図3-2-1図3-2-2)。


岩屋ウインドファーム(青森県東通町)毎日新聞社 提供





 エ 燃料電池
 第1章第2節2(4)でみたように、燃料電池の開発は、現在、世界の巨大企業が共同開発で取り組む一大プロジェクトとなっています。一部の大手自動車メーカーが平成15年中に燃料電池自動車の実用車を限定的に市場導入することを表明しており、住宅等への定置型電池の開発も進んでいます。経済産業省が平成13年に発表した試算によれば、日本国内での市場規模は、平成22年に1兆円、平成32年には8兆円に達するものと予想されており、世界規模でみればさらに巨大な市場が誕生することとなります(図3-2-3)。



(2)環境対策による技術革新の効果
 企業に課せられた環境規制の対応のためのハードルが高くなると必要な投資額が増加して競争力が阻害されるという主張に対し、わが国やドイツにおける環境対策と技術革新に関する研究をもとに、環境面の高いハードルにより企業の経営プロセスの見直しが行われ、その結果これまで看過されていた潜在的な技術革新の機会が顕在化し、その実現により企業の競争力を逆に促進するとの主張がなされ、注目を集めました。この議論を通じて、適切な環境規制は長期的な生産プロセスの改善につながることが、次第に共通の認識となってきました。
 市場のグローバル化が進展する中で、先行企業の開発した技術が世界市場で大きなシェアを獲得している事例がみられます。
 戦後のわが国が経済大国となることが可能となったのは、世界市場に安価で優れた品質・機能、デザインを持つ製品を送り出し、世界の消費者のニーズに応えることができたためです。環境問題は世界共通の課題であることから、今後規模の拡大が予想される環境対策に関連する市場においても、わが国が有するさまざまな技術における優位性をさらに発展させ、世界市場への先行的な展開により消費者のニーズを捉えることができれば、わが国の経済にとって大きな利益をもたらす可能性があります。

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