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第1節 

1 環境制約への対応の必要性

(1)世界経済と人口の変化
 世界経済は、毎年の景気変動はあるものの、中長期的にみれば一貫した成長トレンドが続いています。この数年間を振り返れば、特にアジア地域における開発途上国の経済成長が顕著です(図3-1-1)。また、世界の人口は、平成12年の1年間に前年比で7,800万人(1.3%)増加しており、2050年には2001年年央の61億人から50%増加して93億人(国連人口基金の中位推計)に達し、その増加分は現在の開発途上国で発生するとされています(図3-1-2)。今後の世界経済の発展や人口の増大を考えれば、環境へのさまざまな負荷が増加することにより、現在の社会経済システムが環境上の制約に突き当たる可能性が高くなっています。





(2)懸念される資源の枯渇
 私たちが直面しつつある環境制約の一つに、資源の有限性があります。現在、1か月に世界で採掘される鉱物資源の量は、産業革命までに人類が使用した総量をはるかに超えているといわれており、銀、金、鉛といった主要な鉱物資源の残余年数は30〜40年程度に過ぎません。また、エネルギー資源についても石油が40年、天然ガスが60年程度で枯渇すると考えられています。資源の確認埋蔵量は、技術進歩や新たな鉱山や油田の発見によって増大する可能性もありますが、他方、今後の消費ペースの伸びを考えれば、地球上の資源の絶対量が確実に減少していくことが危惧されます(図3-1-3)。



(3)高まる環境負荷
 私たちが直面しつつある環境制約のもう一つは、環境への負荷の増大です。以下、地球温暖化による影響、水資源のストレス増大、食料生産による環境負荷の増大、森林と生物多様性の減少について具体的にみていきます。

 ア 地球温暖化による影響
 WMO(世界気象機関)によれば、2001年(平成13年)は、地球全体の年平均気温が観測史上2番目に高い年となりました。IPCCが2001年(平成13年)に発表した第3次評価報告書によれば、1990年から2100年までの間に地球全体の平均気温は1.4〜5.8℃上昇するとともに、海面水位が9〜88cm上昇すると予測されています。こうした気候変動は、水不足や洪水の発生の増加、穀物生産の不安定化、多岐にわたる健康影響等、人々の生活や生産基盤に深刻な影響を与える可能性が危惧されています。わが国でも、この100年間に約1℃気温が上昇していることがすでに確認されているところであり、今後、地球温暖化によるさまざまな影響が予測されています(図3-1-4図3-1-5)。





 イ 水資源のひっ迫
 水資源は人間の生存に不可欠な要素であり、社会経済システムの存立基盤でもありますが、地球上に存在する水資源のうち淡水は約2.5%であり、飲料、生活用水、生産活動に利用可能な河川、湖沼、地下水等は約0.8%に過ぎません。IPCCによれば、現在、世界人口のうち約17億人が水ストレス*のある国に住んでいるとされ、人口や取水量の増加により、2025年には制約を受ける人口が約50億人に増加すると予測されています。

*水ストレス
再生可能な水資源の量に対する人間が取水する水の量の比率(臨界比率)が20%以上である状態

 ウ 食料生産に係る環境負荷
 FAOによる世界の食料・栄養に関する見通しによれば、栄養不足人口の減少が現状のままで推移すると、1995〜97年の7億9,000万人から4億100万人へと半減するのは2030年となる見込みです。一方、人口の増大や食生活の変化に伴い、例えば開発途上国の食肉需要の増大から家畜飼料用の穀物需要が1995年から2020年にかけて現在の2倍になる等、食料の大幅な増産が必要であり、今後の耕作地は土壌が悪く降水量も不十分か過剰な辺境の土地にも求めなければならず、特に、開発途上国等では、土壌の劣化や水質の悪化による影響が危惧されています。

 エ 森林と生物多様性の減少
 生物多様性の宝庫である森林は、過去数十年間で伐採速度が過去最高の水準に達し、仮に現在の速度で伐採が進むとすれば、現存する原始熱帯林は50年以内に消滅する可能性があります。また、人間活動による影響で、種の絶滅速度が100年前と比べて4万倍になっているともいわれており、世界全体の4分の1に当たる6万種もの植物種が2025年までに絶滅する可能性も指摘されています。さらに、地球温暖化により二酸化炭素濃度が現在の2倍となった場合には、陸上の現存する生物生息地の35%が破壊される可能性があるという研究もあります。

 オ エコロジカルフットプリント
 WWF*がブリティッシュ・コロンビア大学によって開発されたエコロジカルフットプリント*を用いて計算した結果によれば、わが国を含めた世界全体の社会経済活動は、1970年代にすでに地球の環境容量、すなわち持続可能な水準を超えているとされています(図3-1-6)。

*WWF
World Wide Fund for Nature
世界自然保護基金。1961年に設立された世界最大の自然保護団体。世界26か国に各国委員会、6か国に提携団体があり、約470万人、約1万社・団体の支援を受け、自然保護活動を行っている。

*エコロジカルフットプリント
食料や木材の供給、森林による二酸化炭素の吸収など、一人の人間が持続的な生活を営むために必要な地球上の面積



 以上のように、各分野の将来予測に関するデータを概観すると、現在の経済発展のスタイルを踏襲した場合には、今日の社会経済システムは地球の有限性により避けることのできない環境制約に直面するおそれが極めて高いことが分かります。今後発生する開発途上国の人口急増、経済成長に伴う各種資源消費の加速と環境負荷の増大を考えれば、これらの環境制約は想像よりも早いスピードで私たちの目前に現れる可能性があります。

(4)「OECD環境アウトルック」にみる環境制約
 OECDが2001年(平成13年)4月に発表した「環境アウトルック」では、2020年のOECD諸国における環境問題に関する将来予測が行われています。この中で、硫黄酸化物の排出、OECD地域の森林面積等、いくつかの分野では対策の進展により環境への圧力が減少しており、2020年までの見通しが明るいことが示されていますが、他方、水資源の使用、有害廃棄物の排出、農業汚染、温室効果ガスの排出等、多くの問題において停滞又は悪化が懸念され、このままの経済活動を維持していくことに対して「黄信号」又は「赤信号」が灯されています(表3-1-1)。このように、先進国の経済に対し、上記でみたような環境制約が差し迫っていることは、OECD諸国の共通認識ともなっています。

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