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第2節 

4 企業の収益向上策との一致性

 今日の厳しい経済情勢の下、わが国の企業は、業績の向上を図るため懸命の努力を続けています。以下では、環境保全の視点からみた企業の取組について考察していきます。

(1)日本経済の概況
 日本経済は、米国経済の冷え込みや需要悪化を契機とした調整が深刻化しつつあり、バブル崩壊後の10年もの長きにわたり低迷を続けています。この間、戦後の日本経済を支えてきた日本的な雇用慣行や企業システムにきしみが目立ち始め、国民の社会経済の先行きに対する見方に閉塞感が広がっています。平成11年春からの回復は短命に終わり、平成14年に入ってからは、景気は依然厳しい状況にありますが、底入れに向けた動きがみられます。
 また、国際化が進み、ボーダーレス化が進展しています。世界経済は「大競争時代」と呼ばれるグローバリゼーションの大波に洗われ、日本の製造業もアジア諸国等への生産移転を加速しており、国内における産業空洞化の発生が問題となっています。
 こうした中、わが国の企業は業績の向上を図るため、懸命の努力を続けているところですが、このような取組の中には環境保全のための取組と類似点を見出すことができるものもあります。以上のような観点から、近年の企業における経営改善の取組事例をいくつか挙げてみることとします。

(2)ITの活用
 IT化の進展は、企業の経営効率向上に大きな役割を果たすものとして期待されています。平成12年頃を境に日本でも次々と広がってきているe-マーケットプレイス*では、これまでの電子商取引と異なり、特定・不特定の売り手と買い手が、商品やサービスなどの取引を自由に行うことができ、取引の一層の効率化が可能になりました。また、個人向け電子商取引として身近な書籍ネット販売を例に挙げると、不要在庫や返本、書店の建設・維持に関わるエネルギー消費などが削減可能となります(図2-2-16)。米国のエネルギー・地球気候変動解決センター(CECS:Center for Energy and Climate Solutions)の研究成果によると、エネルギー使用面でみて売り上げ当たりで1/16に削減可能であるとの推計もなされています。IT化の進展による電力消費の増加を考慮したとしても、適切な導入が図られることにより、IT化は経営面でも環境面でもプラスの効果をもたらす可能性があります。

*e-マーケットプレイス
複数の売り手(販売側)と買い手(調達側)で、財・サービスの交換を行うインターネット上での取引の場(インターネット取引所ともいわれる。)。調達側のコストの削減と販売側の機会増加という双方のメリットが享受できるため、企業間電子商取引の中で特に重視されている。



(3)モノ重視からサービス重視へ
 今日の社会経済システムは、日々大量の製品を生み出し私たちの生活を支えていますが、家電製品や自動車の普及率をみても分かるように、生活に密着した製品は広く各家庭に行き渡り、今日では、単に大量に生産するだけでなく、いかに他の製品と差異化するかという点が求められています。
 こうした中、製品によっては、所有することに大きな意義が見出されず、製品から得られる機能が重視されている場合があることに着目し、そこにビジネスチャンスを見出し新たな取組を行う企業が数多く見受けられます。例えば、レンズ付フィルムは、カメラの所有ではなく写真を撮ることだけを求める消費者が数多くいることに着目した製品であり、他にも、自動車のリース契約やカーシェアリング、掃除モップや観葉植物のレンタルサービス等も同様です(図2-2-17)。



 また、従来の製品に対し新しいサービスを付加して製品全体の価値を高めようという動きとして、プリンターやパソコン等技術進歩の著しい製品について、将来的な部品交換により全体の性能を向上させる「成長する製品」を販売するアップグレードサービスや(表2-2-6)、製品と修理リフォームサービスをセットにした販売等を挙げることができます。



 これらはいずれも、社会経済活動のモノ重視からサービス重視への動きとも取ることができ、製品の質を改善するのではなく、製品はそのままでサービスを付加することにより利益を得ようとするものです。社会経済システムは一貫して、第1次産業から第2次産業、第3次産業へと産業構造の高度化、サービス化が進んでいますが、こうした動きは、環境の側面からみれば、相対的に少ない資源やエネルギーでより多くの利益を得るための取組であり、つまり環境効率性改善の動きとその方向性が一致するものであると考えることもできます。

(4)今後の企業の環境戦略
 これまでみたように、市民の環境への関心の高さ、市場のグリーン化、環境施策の積極的推進等、企業を取り巻く状況は、環境とのかかわりを一層大きなものとしており、企業も、単に環境規制に適合するための対策を講じるだけではなく、積極的に環境への取組を講じるようになっており、その動機も、単に社会的な配慮というだけでなく、企業の経営戦略の一環として講じられるようになってきています。経済団体連合会においても、地球温暖化問題への主体的取組として、平成9年6月に経済団体連合会環境自主行動計画を策定し、平成22年の二酸化炭素排出量を平成2年度比±0%以下に抑制することを目標として、これまでにも大きな成果をあげてきているところであり、さまざまな業種で自主的な行動計画が策定されているところです。
 この背景には、企業における環境保全のための取組が、経営効率改善の取組と方向性が一致するものであることも、一つの要因として指摘することができます。産業公害対策が積極的に講じられた時期に、PPPという言葉が「汚染者負担の原則」(Polluter Pays Principle)として用いられましたが、近年、企業の中には、汚染予防の投資は企業に利益をもたらすとして、3P(Pollution Prevention Pays)プログラムを主張し、積極的な取組を展開するものも現れたことにも象徴されるように、企業にとって、環境対策が単なる活動の制約要件ではなく、ビジネスチャンスとしても認識されるようになっていると考えられます。

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