前のページ 次のページ

第2節 

2 企業経営に環境を組み込んだ積極的な取組

 これまでみたような企業の考え方の変化を背景に、企業は環境法規を遵守し環境管理を進めるのみならず、むしろ積極的に企業経営に取り入れようとする動きがみられます。
 このような企業の取組について、(1)新たな事業をはじめるもの、(2)新たな製品を開発したもの、(3)既存の製品の環境負荷を低減するための工夫を凝らすものに分類して、それぞれの分野で進められている新たな取組をみることとします。

(1)新たな事業を始めるもの
 ア ESCO事業
 地球温暖化対策の観点から各企業においてもこれまで以上に、省エネに取り組むことが重要となってきました。しかし、省エネのための設備改善に取り組もうとしても、初期投資費用の資金調達といった問題、省エネの効果が確保できるのかといった問題、運転管理要員の確保の問題など、さまざまな問題を解決する必要があります。
 このような事情を背景として、省エネサービスを提供するESCO(エスコ)事業が新しいビジネスとして成長してきています。ESCOとは、Energy Service Companyの略称で、ビルや工場の省エネ化に必要な、「技術」・「設備」・「人材」・「資金」などのすべてを包括的に提供するサービスです。ESCO事業は、省エネ効果をESCOが保証するとともに、省エネルギー改修に要した投資・金利返済・ESCOの経費等が、すべて省エネルギーによる経費削減分でまかなわれるため、導入企業における新たな経済的負担はなく、契約期間終了後の経費削減分はすべて顧客の利益となることから、導入企業にとって大きな導入インセンティブが働くこととなります(図2-2-10)。平成15年度におけるESCO事業の受注は約450億円が見込まれるとの推計(ESCO推進協議会調査結果、平成13年6月時点)があるほか、潜在市場規模を2兆4,700億円(ESCO推進協議会調査結果、平成9年度)とする推計もあります(図2-2-11)。





 イ 家電レンタル
 人が製品を買うとき、本当に必要なものは製品の本体ではなく、その製品が提供するサービスです。例えば、洗濯機を買うとしても、「洗濯機」が必要なのではなく、衣服を洗濯する「機能」が必要とされるのです。つまり、製品を所有することは本質的に必要ではなく、例えば、洗濯機を消費者にレンタルすれば、その消費者がその洗濯機を必要としなくなったときやその洗濯機が古くなったり壊れたりした場合には、回収し、修理やリサイクルを行うことができます。こうした要請を背景に、家電レンタル事業が単身赴任者・学生などを対象にした事業が既に始められています。こうした人達は従来、家電製品を新規に購入し、数年後に廃棄していましたが、この事業により大幅に製品寿命が伸びることが期待されます。

(2)新たな製品を開発したもの
 環境に配慮した製品を、新たに開発し、製品化したものの例としてエコセメントとエコファンド*を紹介します。

*エコファンド
環境への配慮の度合いが高く、かつ株価のパフォーマンスも高いと判断される企業の株式に重点的に投資する投資信託。欧米で始まった社会的責任投資の一つ

 ア エコセメント
 エコセメント*とは、エコロジーとセメントの合成語で、都市ごみ焼却灰や下水汚泥などの廃棄物と石灰石を主たる原料として作られる新しいセメントです。100tのごみからエコセメントを約16t作ることができます。平成13年春から千葉県において、世界初のエコセメント工場の稼動が開始されています。

*エコセメント
都市ごみ焼却灰や下水汚泥などの廃棄物を原料として含むセメント

 イ エコファンド
 近年、環境配慮型の金融商品としてエコファンドが注目を集めています。わが国では、平成11年に初めての商品が発売され、それ以降後続商品の発売が続いています(表2-2-4)。エコファンドは、従来からの株式投資等の尺度である企業の収益力・成長性の判断に加え、企業が本来持つ社会的責任の一つである環境問題に対する配慮・取組状況等を考慮(環境スクリーニング)して投資を行う環境配慮型投資信託であり、環境配慮・環境パフォーマンスに優れている企業に積極的に投資しようとするものです。エコファンドは、個人レベルでの環境保全意識の高まりを背景に、個人投資家による投資が主となっているといわれており、そうした投資家の中には金銭的な利益だけでなく、環境問題に対して十分な取組を行っている企業に投資したいと考えるグリーンインベスターと呼ばれる人々が含まれていると考えられます。今後、企業の環境への配慮がより多くの投資家の投資行動に考慮されるようになることで、企業は金融面からも環境保全の取組を強く迫られることが考えられます。



(3)既存の製品の環境負荷を低減するための工夫を凝らすもの
 既存の製品の環境負荷を低減するための工夫を凝らすものとして、既存製品のリサイクル体制を整備するもの、容器の再使用を促進するもの等の事例が見受けられます。

 ア 複写機
 オフィスで使用されている複写機は、リース契約や保守契約が導入されることが多いのが特徴です。これまでは、新しい機種を納入する際に回収した複写機が、他社のメーカーのものであると部品の規格が異なっているため、リユースやリサイクルが難しく、廃棄になってしまうという問題点がありました。(社)日本事務機械工業会では、平成10年に回収複写機交換センターを設置し、使用済複写機の部品リユース・リサイクルを目的とした関係企業による「使用済み複写機の相互交換システム」を構築しました。これにより、複写機業界では、各社が自社ネットワークによる回収を行うほか、交換センターを利用し、他社が回収した製品を引き取ること等が可能になりました。

 イ 容器の詰替化を進める洗剤・石鹸業界
 平成9年4月に容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)が施行されたことにより、容器の製造事業者や容器包装の利用事業者などの事業者は、再商品化義務を負うことになりました。このため、企業にとっては、廃棄物を出さない製品設計を行うことが、コスト削減及び市場における競争力の確保につながることもあり、洗剤・石鹸業界では容器の詰替化が進んでいます(図2-2-12)。また、スプレー部分などを新しい容器に付け替えて用いる付替化の動きもあります。平成12年度には一部の製品においては詰替用の販売が7割を超えた企業も出ていますが、7割を超えるということは、1回購入した容器を平均して3〜4回は中身の詰替を行って本体容器を使用しているということになります。



コラム エコサービス
 消費者のニーズを細かく把握して、製品やサービスを提供することや、製品を売るのではなく製品の持つサービスを売り、製品は回収するという脱物質化(サービス化)などは循環型社会経済のキーポイントとなるものといえます。
 例えば海外では、オランダのPre社が、エコサービスを製品・サービスシステム(PSS)ととらえ、それをPs・Sp・PS・SCに分類しています(表2-2-3)。



コラム ソフト系環境ビジネスの例
 環境関連のビジネスは、広がりをみせていますが、ソフト系分野で現在みられる環境ビジネスの例を紹介します。

『支援型環境ビジネス』
 ●環境監査
  ・1SO14001認証取得支援
 ●環境報告書・環境会計作成支援
  ・環境報告書・環境会計第三者審査
 ●化学物質管理支援
  ・MSDS(化学物質等安全データシート)作成支援
 ●省エネルギー・コンサルティング
  (ESCO事業)
 ●リサイクル・廃棄物処理支援
  ・容器包装リサイクル法対応支援
  ・マニュフェスト発行支援
 ●環境教育
 ●エコツアー
 ●環境情報提供(環境ポータルサービス)

『環境関連金融ビジネス』
 ●エコファンド
 ●環境格付
 ●環境ローン
 ●環境保険
 ●排出量取引

『環境影響評価ビジネス』
 ●環境測定・分析
 ●環境計測・フィールド調査
 ●LCA(ライフサイクルアセスメント)対応支援
 ●環境アセスメント
 ●自然環境シミュレーション
 ●社会現象シミュレーション

前のページ 次のページ