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第1節 

2 市民によるさらなる環境負荷削減の可能性

(1)市民の取組事例
 市民の意識の変化は、さまざまな環境保全のための取組の実践として表れ、全国各地で展開されていますが、その中でも「環境にやさしいライフスタイル」の普及を図るためのユニークな事例をいくつか紹介します。

 ア 市内一斉エコライフデー(川口市)
 埼玉県川口市では、市民グループ「川口市民環境会議」の呼びかけで、市の協力も得て一年に一日、「市内一斉エコライフデー」を設け、地球温暖化防止に取り組んでいます。市内の小中高校生を中心に「一日環境のことを考えて生活する」ことで、二酸化炭素の排出量を減らし、その成果を集計するという試みを行っています。普通の人ができる行動から始めようと、「一日だけなら…」と発想を変えたのが「エコライフデー」で、いわばみんなで取り組む一日版環境家計簿といえます。同会議が独自に作成した「エコライフ行動チェックシート」を市民に配り、平成13年度は一万人余りが参加しました。この行動の成果としては、一日で二酸化炭素換算で約1.8トン(石油換算でドラム缶3.5本分、木(50年生のスギ)128本の1年間での吸収分)の削減効果があったと報告されています。



 イ 市民風力発電所(北海道)
 北海道の民間非営利団体(NPO)である北海道グリーンファンドでは、誰でも無理なく地球環境の保全に貢献できるグリーン電力料金制度と、風力や太陽光などの自然エネルギー発電所づくりを目指し、活動を行っています。平成13年9月15日から、浜頓別町で、地元の小学生により「はまかぜちゃん」と命名された市民出資による日本最初の風力発電所が運転を開始しています。
 会員は、「グリーン電気料金制度」により、月々の電気料金に5%を加えた額(グリーンファンド)を支払い、市民共同の発電所づくりのための「基金」として運用しています。5%の定率にする理由は、自然エネルギー普及という環境保全のためのコストを応分に負担し、グリーンファンド分を節電することでその分だけ環境負荷を下げ、環境保全に貢献していくことを狙いとしています。

 ウ エコマネー(北海道栗山町など)
 地域経済の活性化のための取組として、地域通貨が各地で普及しています。地域通貨とは、環境保全や福祉など、通常の貨幣によって市場価値を生みにくいサービスのやりとりを地域の人々の発意により活性化させるため、本来の通貨を補完する形で、一定の地域に限って発行されるものです。このような地域通貨は、エコノミー・エコロジー・コミュニティーを掛け合わせて「エコマネー」とも呼ばれています。世界で地域通貨を発行する組織は数千を超えるといわれており、国内においては、100を超える地域が地域通貨の実施及び準備を始めており、兵庫県、高知県等は地域通貨の発行団体に対する補助制度を導入しています(図2-1-7)。例えば、北海道栗山町で発行されている地域通貨「クリン」は、町内の約60店舗において買い物客がレジ袋を受け取らなかった際や、国蝶のオオムラサキを保護するための活動に参加した際に受け取ることができるものです。



(2)市民による環境保全取組の一層の広がりに向けて
 以上のように、市民によるユニークな取組事例を紹介しましたが、こうした取組は、日本全体でみればどの程度効果をあげているのでしょうか。地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素排出量と密接なつながりがあるエネルギー消費量について平成2年度(1990年度)以降の推移を部門別にみてみると、運輸(乗用車)や民生(家庭)部門のエネルギー消費量は増加しており、かつ、その伸び率は産業部門と比べても高いものとなっています(図2-1-8)。



 こうした結果の背景には、自動車保有台数の増大や大型乗用車の普及、エネルギー消費機器が増加したことを挙げることができます。主要耐久消費財等の普及率をみてみると、電気洗濯機、電気掃除機、電気冷蔵庫については、100%近い普及率であり、私たちの生活は物質的には豊かなものとなっています。テレビ、エアコンなど1世帯に1台以上普及している機器も少なくありません((総説)図1-2-14参照)。また、それぞれの機器が大型化していることも二酸化炭素排出量を増加させる一因となっています。このほか、家族が一緒に過ごすことが少なくなり、暖房や照明などの利用が増えたこと、家電製品の機能が増えて待機電力が増えたことなども無視できません。
 このように、家庭部門においてエネルギー消費が増加しているのは、省エネに向けた努力が各地でみられる一方、こうした努力が各家庭における環境負荷の伸びを抑えるほど十分には、国民全体に広がっていないためと考えられます。

(3)「環のくらし」の提案
 地球温暖化を始めとする地球規模の環境問題が深刻化している中、環境問題を引き起こす現代のライフスタイルを、環境にやさしく、かつ、私たち自身にとってもより人間的で豊かなものに変革し、持続可能な簡素で質を重視する生活、つまり、「環(わ)のくらし」の実現が必要となってきているのではないでしょうか。
 特に地球温暖化問題については、人々の価値観を含め、現在の社会経済システムやライフスタイルのあり方にも大きくかかわっていることから、対策を推進するに当たっては、国民各界各層一体となって強力に推進する必要があります。このことから、政府においては環の国*の実現のため、各界のオピニオンリーダーからなる「環(わ)の国くらし会議」を設置し、第1回目の会議を平成14年2月に開催しました。この会議は国民の一人ひとりの自発的な取組を促し、応援するメッセージを発信するとともに、今後さらに推進すべき効果的な取組方法について検討を進め、政府及び国民各層が一丸となったライフスタイル変革(くらしの改革)の行動につなげることを目的としており、同会議では、より具体的な議論を深めるための分科会を設置するとともに、独自のホームページ(http://www.wanokurashi. ne.jp)を活用するなど、さまざまな手段や機会を通じた情報発信を行っています。

*環(わ)の国
20世紀型の「大量生産・大量消費・大量廃棄の社会」に代わる「持続可能な簡素で質を重視する循環型社会」をイメージするもの

 また、政府では、家庭でできる地球温暖化防止に向けたくらし改革の一環としてできることから始めてもらうべく、一人ひとりの身近な取組の普及に努めているほか(表2-1-3)、省エネ型の家電製品・器具を選んだり、小型車やハイブリッドカーの利用を促す取組を行っています。さらに、太陽光発電や高効率断熱といった新技術や、屋上緑化、雨水利用といった従来技術を有効に活用したエコハウスの導入普及にも取り組んでいます(表2-1-4)。
 以上のように、環境問題に関する市民の興味・関心の高まりにより、グリーンコンシューマーと呼ばれる熱心な消費者の出現や、さまざまな市民の取組が始められていますが、わが国全体でみればまだ十分な成果は得られているとはいえず、「環のくらし」の議論にみられるような、国民生活そのものの見直しが必要になってきているのではないでしょうか。





コラム 温子さん一家の一日
 温子さん一家の一日を例にとって環境問題を考えてみましょう。生活を振り返ってみれば、日頃のちょっとした行動が二酸化炭素の排出増につながっています。


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