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第2節 

3 環境効率性の改善に向けて

(1)日本における環境効率性の推移
 これまで、環境効率性の考え方と、その向上の重要な要因の一つである技術について考察してきましたが、これらも踏まえ、ここではわが国の過去の歴史を、第1節における時期区分に従い環境効率性という視点から振り返ってみます。
 ここでは、代表的な環境指標として、経済活動に不可欠なエネルギー、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素(CO2)、大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)と二酸化硫黄(SO2)、日常生活等から排出される一般廃棄物の五つを取り上げ、また経済指標として代表的なGDPを取り上げ、経済指標を各環境指標で割ることにより算出される環境効率性の推移を考察していきます(図1-2-11図1-2-12)。





 まず第1次石油危機が起きる昭和48年まで(第I期)についてみると、エネルギーや一般廃棄物に関しては、環境効率性が徐々に悪化していることが分かります。この時期は、日本が高度経済成長期にあり、社会において経済成長が優先され、環境保全について十分な配慮がなされなかったため、環境負荷が経済成長率を上回る伸びを示したためです。
 一方NO2とSO2については、昭和43年に大気汚染防止法*が制定され、徐々に各種規制が整備されてきたことを受け、環境効率性は向上する傾向をみせています。

*大気汚染防止法
昭和43年6月10日法律第97号

 次に2度にわたる石油危機により、高度経済成長から安定的な経済成長にシフトした昭和48年から昭和60年まで(第II期)についてみていきます。この時期は、すべての環境指標について環境効率性が向上しています。まず、NO2、SO2については、いずれも環境効率性を向上させている中、特にSO2については、昭和50年代の重油の脱硫化が急速に進展したこと等により、著しく環境効率性を向上させています。
 また、エネルギー、CO2、一般廃棄物については、ほぼ同様のペースで環境効率性を向上させています。その大きな要因は、石油危機を契機とした、日本全体での省エネルギー・省資源の徹底にあると考えられます。そこで、この時期における環境効率性の向上についてエネルギー分野に注目し考察するとともに、第II期における部門ごとの推移についても考察していきます(図1-2-13)。



 まず産業部門においては、昭和48年以降ほぼ一貫して、環境効率性を上昇させています。これは、もともとエネルギー多消費産業であった製造業において、2度の石油危機を契機として廃エネルギー回収装置や熱効率が高い生産設備など、省エネルギー装置導入のために大規模な設備投資が行われたことが要因と考えられます。
 次に民生部門についてですが、業務部門の環境効率性は向上していますが、家庭部門ではほぼ横ばいの状態です。業務部門においては、石油危機以降のオフィス内における省エネルギー活動や、各種機器の省電力化により、環境効率性が向上したと考えられる一方で、家庭部門では、個々の電化製品の省電力化は進展したものの、ルームエアコンや、カラーテレビ等が急速に普及するなど、各世帯における家庭用電気機器の数が増加したことが、全体としての環境効率性の向上を妨げる要因となったと考えられます(図1-2-14)。



 運輸部門については、貨物部門は環境効率性を向上させていますが、旅客部門はほぼ横ばい又は若干ながら悪化させています。貨物部門については、2度の石油危機の直後に輸送需要を大きく減少させていることが、環境効率性の向上に反映していると考えられます(図1-2-15)。一方旅客部門においては、石油危機と関係なく輸送需要を増加させており、また乗用車等の自動車保有台数が経済成長を上回る勢いで増加したこと等が、環境効率性の改善を妨げる要因となったと考えられます(図1-2-16)。





 最後に、地球環境問題が重大な課題として認識されるとともに、経済成長に関しては徐々に低成長期に移行していった昭和60年以降(第III期)についてみていきます。第III期においては、エネルギー及びCO2に係る環境効率性については、若干の伸びがみられるにしても、ほぼ横ばいに近い状況にあります。一方で、NO2、SO2及び一般廃棄物については、順調に環境効率性を向上させています。
 これは、NO2、SO2の段階的な規制強化や、それに伴う排煙脱硝装置及び脱硫装置の設置台数及び処理能力の増加が効果を示したこと、及び平成3年の廃棄物処理法*の改正等により廃棄物処理行政が従来の処理強化中心から、発生抑制へとシフトしてきたことも要因として考えられます。

*廃棄物処理法
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第137号)

 次にエネルギー分野における環境効率性について、各部門を比較します。
 産業部門においては、当初、一部の業種で緩やかな向上がみられましたが、平成4、5年以降ほとんどの部門で環境効率性が悪化しています。これは昭和60年以降原油価格が低位安定化したため、高額な省エネ設備への投資が控えられたこと、製造業がアジア各国でも隆盛化し、低付加価値製品の生産はアジア各国に移転したことに伴い、各部門の生産物がエネルギー消費量の多い高付加価値型製品にシフトしたこと等が要因として挙げられます。次に民生部門においては、業務部門において環境効率性が悪化に転じていますが、家庭部門は横ばい状態にあります。これは、業務部門においては経済成長以上にオフィス等の面積が増加したこと、パソコン等の導入が急速に進展したことにより、新たなエネルギー消費要因が生じたこと等が要因と考えられます(図1-2-17図1-2-18)。一方、家庭部門においては、各種家庭用電気機器の数が増えるとともに、従来に比べ大型の冷蔵庫、カラーテレビ等が普及した一方で、個々の電化製品の省エネ化が進展したことにより、各家庭当たりの消費エネルギー量もほぼ横ばいとなったこと等が要因として挙げられます(図1-2-19)。







 さらに、運輸部門においては、貨物部門で若干の効率性の向上がみられる一方で、旅客部門では、引き続き環境効率性を悪化させています。貨物部門における効率性の向上は、貨物自動車が減少傾向にあり、貨物部門の輸送量も平成3年以降ほぼ横ばいとなる傾向にあることが大きな要因と考えられます(図1-2-15図1-2-16)。しかし一方で、宅配等の少量物品輸送が増加し輸送サービスが多様化したことにより消費エネルギーが増加したため、環境効率性のさらなる向上を妨げています(図1-2-20)。一方で、旅客部門においては、個々の自動車の燃費は改善しているものの、依然として自動車保有台数が増加し、それに伴い自動車の走行距離が増加するとともに、乗用車の大型化(重量化)が進むなど、消費者の嗜好の変化が環境効率性悪化の大きな要因といえます(図1-2-21)。





(2)さらなる環境効率性の向上を目指して
 各国の環境効率性の推移はどのような状況にあるでしょうか。
 わが国における推移と同様にCO2発生量、最終エネルギー消費量、一般廃棄物排出量、NO2・SO2排出量で比較してみます(図1-2-22)。



 これをみると、すべての指標において、わが国の環境効率性が極めて高いことが分かります。また、他の国々の多くも、それぞれの環境指標において環境効率性を向上させています。例えば、フランスではいずれの項目においてもかなりの向上をみせており、平成2年以降は各分野において顕著な伸びをみせているのが注目されますが、他方で、アメリカは、各分野とも取組が遅れていることが分かります。
 しかし、各国におけるこの様な環境効率性の状況が十分であるということではありません。
 第1節でみたように地球環境への負荷は依然として増加傾向にあり、人間活動と生態系や、環境浄化等のバランスは大きく揺らいでいます。これを改善するためには、総量としての環境負荷を低減させていくことが不可欠であり、そのためには、一定の経済成長を前提とすれば、その経済成長率以上に環境効率性を向上させていく必要があります。
 わが国ではこれまで、世界に先駆けて環境効率性を向上させてきたものの、近年ではその伸びがみられなくなっていますが、環境効率性の歴史を振り返って分かったように、わが国には経済成長を遂げながら環境効率性を上昇させてきた実績があります。とりわけ、世界第2位の経済規模を有し、CO2排出量では世界第4位で世界全体の排出量の約5%を占め、石油消費量では世界第2位で世界全体の消費量の約8%を占めるわが国は、大きな環境負荷を地球に対しかけていることから、環境負荷の低減が世界全体の大きな課題となっている中、過去の経験を生かしつつ、これまで以上に環境効率性の向上に取り組む必要があります。

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