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第2節 

1 持続可能性と環境効率性

(1)持続可能性に関するさまざまな議論
 人類は、産業革命を一つの契機として、鉱物・化石燃料を中心にさまざまな資源を大量消費するとともに、社会経済活動によって生じる汚染物質を環境中に放出してきました。このような社会経済活動は、徐々に地球上の資源を減少させ、自然の自浄能力を超えた環境汚染による影響を顕在化させてきました。
 そのような状況下、1966年(昭和41年)に、アメリカの経済学者ボールディングは、地球を一つの宇宙船と見立て、宇宙船の中の物は有限であり、宇宙船の内部で出す物質は宇宙船内部を汚染するという「宇宙船地球号」(Spaceship Earth)の考え方を示しました。この考え方は、人類が地球上で生存していくためには常に地球の有限性を考えて行動しなければならないという、基本的な原則を分かりやすい言葉で明らかにしたものです。
 その後、地球環境問題に人々の関心が集まるようになると、1987年(昭和62年)に、環境と開発に関する世界委員会*の報告書「Our Common Future」において、今後の地球の目指すべき社会のあり方は「持続可能な開発」であると提唱し、それを「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発をいう」と定義し、世界的に注目を浴びることになりました。

*環境と開発に関する世界委員会
World Commission on Environment and Development
1984年、日本の提唱により、ノルウェーの首相ブルントラントを委員長として発足した賢人会議

 その後、「持続可能な開発」という考え方は、さまざまな機会に議論されることとなり、1992年(平成4年)にリオデジャネイロで開催された地球サミット*でも中心議題となりました。同サミットでは、「人類は持続可能な開発という関心の中心に位置すること」を第1原則とする、27の原則に基づく「環境と開発に関するリオ宣言」が採択され、その中で、「環境の保護は開発過程の欠くことのできない部分である」、「環境悪化問題へのより良い対処とすべての国に経済成長と持続可能な開発をもたらすような、有効で国際的に開かれた経済システムを促進する」等の原則が掲げられました。

*地球サミット
UNCED:United Nations Conference on Environment and Development
国連環境開発会議
「環境と開発に関するリオ宣言」と「アジェンダ21」を採択。

 1994年(平成6年)には、国連大学が、産業活動における生産等の工程を再編成し廃棄物の発生をできる限りゼロに近づける新たな循環型産業システムを構築することを目標とする「ゼロ・エミッション」を提唱しました。
 このような議論も踏まえ、わが国では、平成12年12月に決定した「環境基本計画」において、「持続可能な社会」を、環境を構成する大気、水、土壌、生物間の相互関係により形成される諸システムとの間に健全な関係を保ち、それらのシステムに悪影響を与えないことが必要な社会であるとし、そのためには、社会経済活動において可能な限り、1)再生可能な資源は、長期的再生産が可能な範囲で利用し、再生不可能な資源は、他の資源で代替不可能な用途での利用にとどめ、できるだけ再生資源で代替すること、2)環境負荷の排出を、環境の自浄能力の範囲にとどめること、3)人間活動を生態系の機能を維持できる範囲内にとどめること、4)不可逆的な生物多様性の減少を回避することが必要であるとまとめました(図1-2-1)。



(2)持続可能な社会を実現するための指標
 「持続可能な社会」を実現するためには、日常の経済活動において、前述の1)〜4)に配慮がなされる必要があり、この結果、社会全体の環境負荷が低減される必要があります。
 このため、現在の社会活動と環境負荷の二つを結びつけ、持続可能な社会の実現に向け社会がどのように対応していけばよいかを示す考え方が、さまざまな機関により示されてきました。

 1989年(平成元年)にスウェーデンで設立されたナチュラル・ステップという環境保護団体は、持続可能な経済社会構築の条件として、「地殻から取り出されたり、人工的に作られた物質が、生物圏で増え続けないこと」、「自然の循環と多様性が守られること」、「資源が公平かつ効率的に使われること」を挙げています。
 また、ドイツのヴッパタール研究所は、1991年(平成3年)、持続可能な発展を実現するためには、今後50年に資源利用を現在の半分にする必要があり、人類の20%の人口を占める先進国がその大部分を使用していることから、先進国において資源生産性*を10倍向上させる必要があり(「ファクター10」)、サービスの簡素化、デザインの改善、資源効率性の改善等の脱物質化に向けた取組により、それは可能であると提言しました。

*資源生産性
その財により入手できるサービス単位の総計を、その財を生み出すための物質、エネルギー等の総消費量で割ったもの。資源生産性が2倍になれば、財に対する資源投入量が1/2となる。

 さらに、世界全体で「豊かさを2倍に、環境に対する負荷を半分に」するために、資源生産性を現在の4倍にする必要があるという報告(「ファクター4」)が、1995年(平成7年)にローマクラブ*において行われています。この中では、自動車の軽量化、建築物のパッシブ化*、雨水利用等による節水、交通政策の改善等により、資源生産性は現在の4倍にすることが可能であると示されています。 

*ローマクラブ
人類の将来に対する諸問題を取り扱うため、スイスに設置された民間組織の法人。世界各国の科学者、経済学者、教育者などを構成メンバーとしている。

*建築物のパッシブ化
断熱性の高い建材、ガラスの利用、屋内の空気の流れの円滑化により、室内空調のほとんどを補完すること

 そして、1992年(平成4年)の持続可能な発展に関する世界経済人会議*においては、「人間のニーズを満たすことを前提として、生活の質を高めるモノとサービスを、そのライフスタイル全体にわたる環境への影響と資源の使用量を地球が耐え得る限度以下に徐々に引き下げながら、競争力ある価格で提供することにより、環境効率は達成される」とし、そのためには、「製品、サービスの物質集約度の低減」、「製品、サービスのエネルギー集約度の低減」、「製品の利用密度の向上」等が必要であると提言しています。

*持続可能な発展に関する世界経済人会議
WBCSD:The World Business Council for Sustain-able Development

 これらいずれの提言でも共通する考え方が、持続可能な社会を実現するためには、可能な限り資源・エネルギーの使用を効率化するとともに、経済活動の単位あたりの環境負荷を低減する必要があるというもので、この考えを世界経済人会議の提言にもあるように、「環境効率性(eco-efficiency)」という概念で表すことができます。
 本節では、持続可能な社会を実現するための指標としてエネルギー消費量及び環境負荷量の単位あたりの経済活動量(GDPを用いる)を「環境効率性」として取り上げ、その向上を図るために、特に技術はどのような役割を果たしてきたのか、また、わが国の過去を振り返り、環境効率性はどのように変化してきたのかについて引き続き考察を加えることとします(図1-2-2)。


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