1 調査研究及び監視・観測等の充実
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1 調査研究及び監視・観測等の充実
(1)環境庁試験研究機関の整備と研究の推進
ア 国立環境研究所
(ア)研究体制の強化
国立環境研究所においては、多様な社会的ニーズに応えるため、研究体制の強化を図りつつ、環境の保全に関する調査及び研究を推進してきたところです。また、平成13年1月、環境省発足に伴い廃棄物研究部を設置しました。
平成12年度末の機構・定員は、2研究グループ(23研究チーム)・8部(3課、28研究室)・3センター、270名となっています。
(イ)研究活動の充実
a 研究業務
平成12年度においては、環境保全に係る特別研究6課題、開発途上国環境技術共同研究3課題、重点共同研究2課題、革新的環境監視計測技術先導研究1課題、環境修復技術開発研究1課題、内分泌かく乱物質総合対策研究4課題のほか、新たにダイオキシン類対策高度化研究2課題、廃棄物対策研究1課題に着手しました。また、環境研究総合推進費による地球環境研究46課題及び未来環境創造型基礎研究2課題等を実施しました。
このほか、DPF等汚染物質の排出実態を正確に把握するディーゼル車用排出ガス試験設備の整備や、森林生態系のCO2の吸収・排出源としての機能や地球温暖化が森林生態系に及ぼす影響を明らかにする特殊実験施設の整備に着手するとともに、廃棄物処理施設等の老朽化施設等緊急対策に取り組みました。
b 環境情報業務
環境情報センターにおいて、わが国の大気質及び水質に係る測定結果の数値情報データファイルの整備・提供をはじめ自然環境保全総合データベースや、環境情報の所在・概要等を検索できる「環境情報ガイド」の更新等、環境データベースの拡充を図るとともに、図書資料をはじめとする文献情報など国内及び国外の環境に関する情報の収集を行いました。
また、国連環境計画(UNEP)の国際環境情報源照会システム(INFOTERRA)におけるわが国の窓口としての諸業務を行いました。
さらに、国民が環境保全施策に関する情報等を入手するとともに情報交流を行うことを目指した「環境情報提供システム」の拡充、運用を行い、また、国立環境研究所WWWサーバによる環境研究等に関する情報提供を行いました。また、新たに、環境庁(環境省)が調整・整備する各種の環境質データ等を地図データと重ね合わせて検索・利用可能な「環境国勢データ地理情報システム(環境GIS)の構築を行いました。
c 地球環境研究総合化・支援業務
地球環境研究センターにおいては、地球環境保全に関する研究の総合化を図る目的で、世界各地の代表的な砂漠化研究や砂漠化対策の現状及び今後に関して、第16回地球環境研究者交流会議を開催しました。また、「陸上陰花植物の環境生物学及び生物多様性に関するワークショップ」を主催するとともに、「IT時代における生物多様性保全と分類学イニシアティブ」などの会議を共催しました。
また、地球環境データベースの整備を引き続き行うとともに、UNEPの地球資源情報データベース(GRID)の協力センターとして環境データの作成・提供等の活動を行いました。
さらに、スーパーコンピュータシステムを、地球温暖化や海洋汚染をはじめとする地球規模の環境変化に関する解明、予測、影響評価等のための研究に供するとともに、スーパーコンピュータを用いた地球環境研究の成果発表会の開催や英文研究成果報告書の出版を行いました。
d 地球環境モニタリング事業
地球環境研究センターでは、地球環境に係る諸現象を把握するためのモニタリング事業を、前年度に引き続き実施しました。
地球温暖化の関連では、沖縄県竹富町波照間島及び北海道根室市落石岬に設置している観測局で、またシベリア上空において航空機を利用した温室効果ガス等のモニタリングを行うとともに、北太平洋海域においては民間船舶の協力を得て大気・海洋間の二酸化炭素収支状況のモニタリングを行いました。さらに、北海道苫小牧地方のカラマツ林において、温室効果ガスのフラックスモニタリングを行いました。オゾン層破壊の関連では、オゾンレーザーレーダー・ミリ波分光器によりつくば上空における成層圏オゾン層の高度分布のモニタリングを行うとともに、北極域のオゾン層の動態の影響が見受けられる北海道中部において成層圏の総合的モニタリングを行いました。また、オゾン層の破壊により増加が懸念されている有害紫外線量について国内関係機関との観測ネットワークを構築しました。水圏環境の関連では、民間船舶の協力を得て海洋中のクロロフィル量・栄養塩類等のモニタリングを行うとともに、UNEP等が推進する地球環境監視システム/陸水環境監視計画(GEMS/Water)の日本における担当機関として、わが国における測定データの取りまとめ及び精度管理業務並びに摩周湖及び霞ヶ浦の調査を行いました。
また、平成13年度に打ち上げが予定されている環境観測技術衛星(ADEOS-II)に搭載するオゾン層観測センサー(ILAS-?)のデーター処理・運用システムの整備を進めました。
なお、地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)搭載のオゾン層観測センサー(ILAS)による、平成8年11月から平成9年6月までの観測データの再処理をILAS-IIデータ処理運用システムにおいて行いました。処理結果の一部は、インターネット上で公開しています。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関するわが国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなど本章第8節1(1)ウ(ウ)、(エ)に掲げた施策を実施しました。
(2)公害防止等に関する調査研究の推進
環境庁(環境省)に一括計上した平成12年度の関係行政機関の試験研究機関の公害防止等に関する各省庁の試験研究費は、総額19億5,291万円であり、13省庁49試験研究機関等において、公害防止技術の開発、環境汚染の生体に及ぼす影響の把握、環境汚染メカニズムの解明、自然環境の管理手法の開発等環境研究技術の幅広い領域にわたり、101の試験研究課題を実施しました。
平成12年度の公害の防止等に関する試験研究については、環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現、自然と人間との共生の確保等環境基本計画に定める長期的な目標の達成に資するため、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等について、幅広い分野の調査研究を実施しました。
平成12年度において実施した総合研究プロジェクト数は9で、その内容は次のとおりです。
ア 大気環境の保全に関する総合研究
各種発生源からの窒素酸化物、ベンゼン等大気汚染物質排出抑制技術の開発等に関する15課題の研究を継続して実施したほか、動的磁気特性を利用した排ガス処理技術の開発に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
イ 排水処理の高度化に関する総合研究
産業排水等の物理化学的及び生物的処理技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、生活系・事業系排水の浄化槽による高度処理に関する研究を新たに実施しました。
ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
海洋における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、日本の亜熱帯地域における海草藻場の評価手法に関する研究等新たに4課題の研究を実施しました。
エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、湖沼・貯水池におけるカビ臭等の発生予測と制御に関する研究等新たに4課題の研究を実施しました。
オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等に関する10課題の研究を継続して実施したほか、有害物質の漏洩防止技術の開発に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
自然環境への影響評価、自然環境の保護・管理等に関する関する9課題の研究を継続して実施したほか、帰化生物の影響排除による小笠原森林生態系の復元研究等新たに6課題の研究を実施しました。
キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
都市における総合的な環境保全を図るため、騒音及び悪臭の発生源対策技術等に関する4課題の研究を継続して実施したほか、GISによる騒音周辺環境を考慮した研究を実施しました。
ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等に関する6課題の研究を継続して実施したほか、標準ガス希釈装置の信頼性向上に関する研究等新たに3課題の研究を実施しました。
ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
環境汚染物質のリスク評価、評価手法の開発等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、感染症に及ぼす内分泌かく乱の影響に関する研究等新たに5課題の研究を実施しました。
また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、生物間相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究を継続して実施したほか、規制項目等有害元素による地下水高濃度汚染実態解明と修復技術に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
(3)地球環境に関する調査研究等の推進
地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成12年9月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成12年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学研究はもとより、人文社会科学の視点からの研究を含め学際的な取組を推進する必要があります。さらに、これらの調査研究を進めるに当たっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、地球環境変動の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要があります。
このような観点から、関係省庁の国立試験研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、調査を行っています。また、平成11年度からは、気候変動枠組条約京都議定書の内容を踏まえた温暖化防止に資する調査研究等の充実・強化を図っています。
さらに、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、平成11年に神戸市内に開設されたAPNセンターを中核として、地域内の研究活動等に対し支援を行いました。また、平成13年3月には韓国・済州島で開催された「第6回政府間会合」において、平成13年度支援プロジェクト等を決定しました。
平成10年度に設立されその活動を開始した「地球環境戦略研究機関」(IGES)においては、アジア・太平洋地域を中心とする国際的連携の下で、21世紀の持続可能な社会の実現のための戦略研究を実施し、第1期戦略研究プロジェクト(〜平成12年度)の成果を取りまとめました。
平成12年度に実施した主な調査研究は表4-5-1@@tb2.4.5.1.gif:表4-5-1 平成12年度に実施した主な地球環境分野の調査研究@@のとおりです。
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(4)基礎的・基盤的研究の推進
平成9年度に創設した「未来環境創造型基礎研究推進費」により、平成9年度に採択した「化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発に関する研究」、「亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究」の2課題について、研究を継続して実施しました。
(5)地球環境に関する観測・監視
地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/政府間海洋学委員会(IOC)における全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等の国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行いました。
また、地球環境プラットホーム技術衛星(ADEOS)及び熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データは、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明等に活用されています。また、平成13年度打ち上げ予定の環境観測技術衛星(ADEOS-II)の最終試験、平成15年度打ち上げ予定の陸域観測技術衛星(ALOS)、平成18年度打ち上げ予定の傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計(SOFIS)の開発研究等を行いました。また、地球規模の変動に大きく関わっている海洋において、海洋観測船等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。
さらに、第41次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を実施しました。
平成12年度に実施した主な観測・監視は表4-5-2@@tb2.4.5.2.gif:表4-5-2 平成12年度に実施した主な地球環境分野の観測・監視@@のとおりです。
@@tb2.4.5.2.gif:表4-5-2 平成12年度に実施した主な地球環境分野の観測・監視@@
(6)環境基本計画推進調査
環境省に一括計上される環境基本計画推進調査費は、環境基本計画に位置付けられた課題に関する調査研究を対象としており、「政策分*」と、「緊急分*」に分類されます。平成12年度における「政策分」としては、次の6テーマについての調査研究を実施しました(調査費小計:1億5,037万円)。
1) 住民参加による地域での生物多様性保全手法調査
2) 循環・共生を基調とする持続可能な圏域のあり方検討調査
3) 環境リスク対策における予見的アプローチに関する調査研究
4) ライフサイクルアセスメント(LCA)応用施策に関する検討調査
5) 健全な水循環の確保のための調査検討
6) 持続可能性を基本とした地域づくりの支援のための手法開発調査
また、「緊急分」については、次の3テーマについての調査研究を実施しました(調査費小計:2,941万円)。
1) 有珠山噴火が支笏洞爺国立公園洞爺湖地域に与える影響の緊急調査
2) 伊豆小笠原諸島における自然災害に伴う生物多様性被害の緊急調査
3) 加齢に伴う骨粗しょう症や腎機能の低下等と栄養状態等との関連に関する調査研究
*政策分
政策の立案に関し複数省庁が連携して実施する調査研究
*緊急分
環境保全に重大な影響を及ぼす事態の発生等に対処して、緊急に行う調査研究
(7)環境保全に関するその他の試験研究
そのほかにも、環境保全に関する試験研究として、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発や二酸化炭素からメタノールを合成する技術開発等の温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施しました。さらに、バイオテクノロジーの知見を利用した、低環境負荷・環境調和型の化学原料生産、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施しました。
また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)に関する研究開発、窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の研究開発、荒天下で高粘度油を回収できる荒天対応型大型油回収装置等の研究開発、二酸化炭素の海底貯留法に関する研究を実施しました。
さらに、油流出の際、精度の高い漂流予測が必要であることから、漂流予測手法の高度化を図るための研究・開発を行いました。
生態系の保全・生息空間の創造技術の開発、木質複合建築構造技術の開発、先端技術を活用した国土管理技術の開発、建設分野におけるダイオキシン類汚染対策調査及び技術開発、建築材料に含まれる化学物質が環境に与える影響に関する研究、水域のネットワーク保全手法に関する研究、海岸域における漂着油の挙動及び回収技術に関する研究等についても実施しました。
農林水産省においては、持続的農業を推進するための革新的技術開発を総合的に行う研究を引き続き実施するとともに、農林水産生態系における内分泌かく乱物質の動態と農林水産生物への作用機構の解明及び影響防止技術の開発を強化しました。また、森林から農地、水域までの農林水産生態系の持つ自然循環機能の高度な利用技術の開発、家畜排せつ物、木質系廃棄物等の有機性資源の革新的リサイクル技術の開発等の実規模での実証研究を開始しました。
電磁波を利用した地球環境計測技術の開発については、高度電磁波利用技術に関する国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダ*による地表面観測技術、亜熱帯地球環境計測技術、超伝導サブミリ波放射サウンダ*による地球環境計測技術などの研究開発を実施しました。
海洋の観測を飛躍的に向上させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画に着手しました。
さらに、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの三つの機能が一体となった研究開発を推進しています。シミュレーションに関しては、地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指した超高速計算機システム「地球シミュレータ」の開発を引き続き行いました。さらに、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」の拡充を行うとともに、「地球観測フロンティア研究システム」を発足し、地球変動に関する知見及び観測データの充実を図りました。
*超伝導サブミリ波放射サウンダ
国際宇宙ステーション日本実験棟の暴露部に搭載予定のミッション。成層圏オゾン層の破壊地球温暖化等に関与する成層圏微量成分の観測を目的としている。
*高分解能3次元マイクロ波映像レーダ
昼夜によらず、天候に左右されずに、地上の映像を高分解能で観測するためのレーダ。地球環境計測、災害監視等の分野における利用を主な目的としている。