3 野生生物の保護管理
(1)野生鳥獣の保護管理の推進
ア 野生鳥獣との共生への取組
野生鳥獣については、近年、その保護に対する国民の要請が高まっている一方で、シカやイノシシなど特定の鳥獣による農林水産業や自然生態系への被害が深刻化し、社会問題化しています。
人と野生鳥獣との共生を実現するための方策として、野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理という考え方から、次のような施策を推進しました。
イ 鳥獣保護事業の推進
平成11年6月の鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の一部改正や地方分権に対応し、長期的ビジョンに立った野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした第9次鳥獣保護事業計画(平成14〜18年度)の基準を策定するとともに、鳥獣保護区の設定(表2-3-1)、「特定鳥獣保護管理計画*」の策定、有害鳥獣駆除及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
*特定鳥獣保護管理計画
特定の鳥獣の個体群を保護管理するため、当該個体群の個体数管理、生息地管理等について目標及び方法を定める制度。この制度の創設等を内容とした「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の一部を改正する法律」が平成11年6月16日に法律第74号として公布された。特定鳥獣保護管理計画制度については、平成11年9月15日に施行された。
ウ 適正な狩猟の推進
適正な管理下での狩猟は、野生鳥獣を適正な生息数にコントロールする手段として一定の役割を果たすことから、事故防止、違法行為防止の徹底等適正な狩猟を確保するために関係者への指導を行うとともに、狩猟鳥獣の種類の見直し、捕獲禁止又は制限の見直しに必要な調査・検討を進めました。
また、都道府県及び関係狩猟団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するよう助言しました。
特に水辺域の底泥中に残留している鉛散弾を水鳥が小石と間違って飲み込むことによる鉛中毒事故死が全国各地で発生したことに対応し、都道府県に助言し、平成12年度の猟期(11月15日から翌年2月15日まで)より地域を限定した鉛散弾使用規制が実施されました。また、エゾシカの死骸に残留した鉛ライフル弾が原因でオオワシ、オジロワシの死亡事例が多発した問題に対応し、北海道庁や関係団体と調整を図ってきた結果、平成12年度猟期(北海道においては、10月1日から翌年1月31日まで)から、北海道におけるエゾシカ猟について、鉛ライフル弾の使用禁止規制が実施されました。
なお、管理された狩猟や狩猟を行いうる場を指定している猟区は、放鳥獣などにより積極的に狩猟鳥獣の保護繁殖を図る一方で、入猟日、入猟者数等を制限することにより、秩序ある管理された狩猟を実現するための制度であり、設定状況は表2-3-2のとおりです。
エ 鳥獣に関する調査研究の推進
鳥獣の生息状況等に関する調査については、「鳥類観測ステーション」における標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査等渡り鳥の生息状況調査等を実施しました。
また、イノシシの個体群の管理に関する基礎的な研究、外国産鳥類と日本産鳥類の識別法に関する研究等を実施しました。
オ 農林業被害の防止対策
特定鳥獣保護管理計画の策定及び実施の推進を目的として、「野生鳥獣管理適正化事業」に要する経費を地方公共団体に補助しました。
また、将来にわたる鳥獣管理体制の構築及び担い手の育成を目的として、「野生鳥獣管理技術者育成事業」を実施し、さらに、都道府県が特定鳥獣保護管理計画を適正に策定・実施するためのガイドライン等についての策定を行いました。
また、農林業被害防止のために防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止技術の確立と被害防止システムの整備等の対策を推進するとともに、新たに農業被害防止に必要な知識の普及を図りました。さらに森林の機能発揮と野生鳥獣との共存を目指した多様な森林の整備等を行う事業等を実施し、野生鳥獣による農林業被害防止対策を推進しました。
カ 野生鳥獣の生息環境の整備
国設鳥獣保護区とその周辺において、人の利用の適正な誘導、野生鳥獣の生態等に関する普及啓発、鳥獣の生息に適した環境の保全整備を図る「野生鳥獣との共生環境整備事業」を北海道のウトナイ湖において実施しました。
また、国有林等において、野生鳥獣の移動経路を確保し、生物多様性の保全を図る緑の回廊を整備するために、「野生動物生息地ネットワーク整備モデル事業」等を実施しました。
キ 渡り鳥の保護対策
渡り鳥の保護対策としては、生息状況調査を実施したほか、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルについて、その生息環境を改善し、周辺への農業被害を軽減するために遊休地の確保等の事業を実施しました。
(2)水産資源の保護管理の推進
水産資源の保護・管理については、引き続き、漁業法及び水産資源保護法に基づく採捕制限等の規制を行うとともに、希少な水産動植物を保護するための採捕制限等の規制を行うほか、次の対策を実施しました。
1) 資源が著しく減少している水産動植物の保護・増殖を図るため、水産資源保護法に基づき指定された保護水面において、所要の管理、調査等を行いました。
2) 水産資源の持続的かつ高度な利用を図るため、資源管理型漁業を推進しました。
3) アユやマス類等の放流効果の向上を図るため、放流魚等の迷入量の把握を行うとともに、農業用水路等の取水施設や排水口等への迷入を防止するための技術の実用化を図る「内水面放流資源等利用向上対策事業」のほか、河川等における生態系の保全を考慮した渓流魚等の増殖管理を推進するための「内水面資源適正管理手法開発事業」を実施しました。
また、魚類の遡上を円滑にし適正な河川流量を流下させて生態系の保護等を図るための地域用水環境整備事業を実施しました。
4) 特に、保護が必要とされるウミガメ(2種)、クジラ(3種)及びジュゴンについて引き続き原則採捕禁止等の保存措置を講じました。
また、鯨類資源に関し、資源状況の良好なミンククジラ等については、その適切な管理のための調査を実施するとともに、資源状態の悪化しているシロナガスクジラ等についても、その生態、資源量、回遊等の実態を把握し、積極的な資源回復手法を解明するための調査を実施しました。
さらに、ウミガメの保存を図るため、採捕、販売、所持についての規制を行うほか、ウミガメの産卵場及び生息水域において都道府県が行う堆積したビニール袋等の廃棄物の除去清掃、卵や稚亀の密漁防止等の保護事業に対して助成を行い、同時に、その保存の基礎となる生息状況等を解明するため、標識放流による調査を引き続き行いました。
5) 資源の持続的な利用及び漁獲対象外野生動植物との共存等、海洋環境に配慮した漁業の確立を図るため、「生態系保全型漁業」のあり方について調査を実施しました。
6) 減少の著しい水生生物に関するデータブックの掲載種について、保護手法の検討を進めるため、現地調査等を引き続き実施しました。
7) 国際的に問題とされているサメ類、海鳥の混獲に対処するため、サメ類の保全・管理及び海鳥の混獲対策に関する行動計画の策定等を実施しました。