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第5節 

4 化学物質の環境リスク管理の推進

(1)ダイオキシン類問題への取組
ア 背景
 (ア)ダイオキシン類とは
 「ダイオキシン類対策特別措置法」では、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に加え、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)をダイオキシン類として定義しています。ダイオキシン類は、極めて強い毒性があり、また、分解されにくいため、通常の生活における微量の摂取によっても大きな影響を及ぼすおそれがあります。
 ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで意図せざるものとして生成されます。現在、わが国での主な発生源はごみ焼却施設ですが、その他にも金属精錬などにおける熱処理工程などの様々な発生源があります。
 (イ)環境中の汚染状況
 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成11年度に環境庁等により、大気、水、底質等の調査が実施されました(表1-5-4)。



 (ウ)人の摂取量
 平成11年度に厚生省(厚生労働省)が実施した調査では、わが国における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量の推計値は2.25pg-TEQ/kg/日とされています。そのほか、呼吸により空気から摂取される量が約0.05pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0084pg-TEQ/kg/日と推定され、人が一日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約2.3pgと推定されています(図1-5-5)。この水準は、耐容一日摂取量(生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない一日当たりの摂取量)の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図1-5-6図1-5-7)。







 イ ダイオキシン類対策の枠組みの整備
 ダイオキシン問題は内閣を挙げて取組を一層強化しなければならない課題であるという認識の下に、平成11年3月に「ダイオキシン対策関係閣僚会議」において、「ダイオキシン対策推進基本指針(以下「基本指針」という。)」が策定されました。この基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標が導入されるとともに、1)耐容一日摂取量(TDI)をはじめ各種基準等作り、2)ダイオキシン類の排出削減対策等の推進、3)ダイオキシン類に関する検査体制の整備、4)健康及び環境への影響の実態把握、5)調査研究及び技術開発の推進、6)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進、7)国民への的確な情報提供と情報公開、8)国際貢献 の8項目にわたる施策を推進することが定められています。
 また、平成11年7月に、ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等を図るため、議員立法により「ダイオキシン類対策特別措置法」(以下「ダイオキシン法」という。)が制定され、平成12年1月15日から施行されました。この法律では、施策の基本とすべき基準の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物処理に関する規制、汚染状況の調査、国の削減計画の策定などが定められています。これらの規定に基づき設定された環境基準値や排出基準値は表1-5-5のとおりです。



 ウ 基本指針に基づく施策
 (ア)排出インベントリー
 環境庁(環境省)が設置したダイオキシン排出抑制対策検討会において、平成12年6月にダイオキシンの排出量の目録(排出インベントリー)の見直しが行われました(表1-5-6)。それによると、平成9年のわが国のダイオキシン類の年間排出量は約7,300〜7,550g-TEQ、平成11年は2,620〜2,820g-TEQで、平成9年からの2年間で6割を超える削減がなされたと見積もられています(表1-5-6)。



 (イ)ダイオキシン類に関する検査体制の整備
 基本指針に基づき、ダイオキシン類の環境測定における的確な精度管理を推進するため、ダイオキシン類の環境測定を担当する試験所等が自ら講ずべき措置等を定めた「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」及び、外部機関や海外施設に検査を委託する場合の信頼性確保のあり方を示す「ダイオキシン類の環境測定を外部に委託する場合の信頼性の確保に関する指針」を作成しました。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を平成11年度より開始しました。
 (ウ)健康及び環境への影響の実態把握
 ダイオキシン法に基づく基準の設定のほか、ダイオキシン類の人体への摂取経路、食物を通じた生物濃縮等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、発生源周辺地域等における精密暴露調査や環境中でのダイオキシン類の実態調査等を実施するとともに、食品中のダイオキシン調査を拡充し、平成11年度に実施した結果をとりまとめて公表しました。さらに、大気・土壌等からの暴露実態も併せ、人への健康影響に係る調査を進めました。
 (エ)調査研究及び技術開発の推進
 関係省庁は、協力してダイオキシン対策に必要な調査研究・技術開発を推進し、また、その成果の導入、普及を促進するために、関係省庁が連携をとった総合的計画を策定しました。平成12年度においては、特に廃棄物の適正な焼却技術、土壌汚染浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、精度管理などに関する技術開発及び毒性評価、環境中挙動、人への暴露評価、生物への影響などに関する調査研究に重点的に取り組みました。
 (オ)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 平成11年9月に設定した廃棄物の減量化の目標量を踏まえ、政府全体として一体的、計画的な廃棄物対策を推進しました。
 また、循環型社会形成推進基本法をはじめとする廃棄物・リサイクル関連法を整備し、使い捨て製品の製造・販売や過剰包装の自粛、製品の長寿命化等を図るなど製品の開発・製造段階、流通段階での配慮の促進、国民の生活様式の見直し等により、廃棄物等の発生抑制に努めるとともに、循環資源の再使用(リユース)や再生利用(リサイクル)を推進しました。
 さらに、学校においては、原則としてごみ焼却炉を廃止したため、今後は適切なごみ処理やごみの減量化等を推進することが重要であり、これに資するための参考資料を作成し、全国の学校等に配布しました。

 エ ダイオキシン類対策特別措置法の施行
 (ア)特定施設の届出状況の把握
 ダイオキシン法に基づく特定施設の届出状況について、平成12年4月に調査しました。その結果では、大気基準適用の特定施設については、平成12年3月31日現在、全国で23,243施設の届出があり、廃棄物焼却炉が22,453施設(2t/h以上の大型炉:2,444、0.2〜2t/hの中型炉:4,336、200kg/h未満の小型炉:15,673)、産業系施設が790施設(アルミニウム合金製造施設:632、製鋼用電気炉:113等)となっていました。また、平成11年1月以降、約4,000の廃棄物焼却炉が廃止され、約600が休止されたことがわかりました。
 水質基準適用の特定施設については、平成12年3月31日現在、全部で3,514施設の届出があり、その大部分(2,990)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設となっていました。
 (イ)環境の汚染状況の調査
 平成10年度のダイオキシン類緊急全国一斉調査以降、引き続き大気、水質、土壌等の汚染状況について各種の調査が行われました。また、平成12年度以降、ダイオキシン法に基づき、都道府県が実施する大気、水質、土壌の汚染状況の常時監視に対し、補助を行いました。
 (ウ)排出削減計画の策定
 ダイオキシン法第33条に基づき、平成12年9月に「わが国における事業活動に伴い排出されるダイオキシン類の量を削減するための計画」が、公害対策会議の議を経て内閣総理大臣により策定されました。本計画は、「平成14年度までに全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」という「ダイオキシン対策推進基本指針」の目標を踏まえ、平成14年度末のダイオキシン類の削減目標量(843〜891g-TEQ/年)及びその事業分野別の削減目標量を設定するとともに、その達成のための措置を規定したものです。
 本計画の構成は次のとおりです。
(a)わが国におけるダイオキシン類の事業分野別の推計排出量に関する削減目標量
(b)削減目標量を達成するため事業者が講ずべき措置に関する事項
(c)資源の再生利用の推進その他のダイオキシン類の発生の原因となる廃棄物の減量化を図るため国及び地方公共団体が講ずべき施策に関する事項
(d)その他わが国における事業活動に伴い排出されるダイオキシン類の削減に関し必要な事項
 (エ)小規模な廃棄物焼却施設について
 小規模な廃棄物焼却炉の構造及び維持管理については、厚生省生活環境審議会廃棄物部会ダイオキシン対策技術専門委員会において検討を行ってきた結果、廃棄物処理法に基づく処理基準による規制を行うことが適当であること等の結論を受け、廃棄物処理法施行規則等の改正等必要な基準の設定及び改正を行いました。
 ごみ固形燃料化施設については、平成13年2月から廃棄物処理法に基づく排出基準を適用することとしました。既設の施設については、対応技術を導入するまでの間(平成14年11月)について、排出実態等を勘案し、当面の基準を設定しました。
 なお、ダイオキシン法による規制基準の整備に伴い、大気汚染防止法に基づく指定物質から、ダイオキシン類が削除されました。(平成13年1月15日施行)
 (オ)その他の取組
 ダイオキシン法に基づく大気総量規制に関し、その手法の検討を平成12年度から開始しました。また、ダイオキシン法附則に基づき、臭素化ダイオキシンに関する各種調査研究、小型廃棄物焼却炉に関する規制のあり方等についての検討を実施しました。

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