3 環境コミュニケーションに期待する効果
環境コミュニケーションの効果は、大きく分けて、各主体の環境意識の向上、各主体の自主的取組の促進、各主体間の相互理解の深化・信頼関係の向上、そしてパートナーシップの形成による環境保全活動への参画という一連の流れに整理できます。
まず、環境情報を受け取り、環境に関する知識を得ることにより、受け手の環境問題への理解が深まり、環境意識も高まります。環境意識が必ずしも自主的な環境保全活動に直接的につながるとはいえませんが、自省を促し自らの行動やライフスタイルを見直す契機となって、自主的に環境保全活動に取り組む可能性を高めます。さらに、2で見たような情報の能動的なやり取りの繰り返しに伴い、各主体が問題意識を共有し、相互に相手をより理解し、さらには信頼関係を徐々に構築していくことができます。これらが進むにつれ、各主体間でのパートナーシップが形成され、各主体が持てる能力を発揮しながら環境保全への取組に参画し、また、そのような動きが徐々に広がっていくことになります。このように、環境コミュニケーションに期待される効果は、社会の構成員が参加・協働して持続可能な社会を構築していく上で欠かすことのできない大変重要な要素であるといえましょう。
コラム 人間の持つ非合理性に着目して環境問題を解決していく「本当のかしこさ」とは
社会心理学者である山岸俊男氏は、人間の持つ「感情」は共感を、「みんなが」原理は協調行動を、他者との間に形成していく上での重要な要素であることについて、その著書『社会的ジレンマ』の中で以下のように述べています。ここでの問題提起は、環境問題の解決に向けた各主体間の問題意識の共有やパートナーシップの形成というプロセスを理解する上で、とても参考になります。
環境問題のような社会的ジレンマの問題は、解決のためにやるべきことがわからないのではなく、「わかっちゃいるけどやめられない」ために生まれています。したがって社会的ジレンマを含む社会問題を解決する上では、何が必要なのかという「かしこさ」よりもむしろ、「感情」や「みんなが」原理などの人間の持つ非合理性を活用することこそが
「本当のかしこさ」ではないかという問題提起です。
まず、怒り、愛情、正義感などの「感情」は、合理的な判断を無視して人々に一定の行動を取らせるメカニズムです。さらに、「みんなが原理」とは、「みんながするなら〜」、「自分だけ馬鹿を見るのは嫌だ」という原理です。相手が協力行動をとるならば自分も協力行動をとる方が自分にとって効用が高いという想定のもとでは、非協力者とではなく、協力者同士で集団を作ることで社会的ジレンマを解決できます。
このように、社会的ジレンマを解決する上で、人間の非合理性を否定するのではなく、その中に隠されている「本当のかしこさ」の観点から見直すことを目指すアプローチは、社会科学の中で重要なアプローチとして認められ始めています。