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第2節 

3 社会経済活動の変革を目指す国内対策の推進

(1)わが国における国内対策のこれまでの進展
 COP3終了直後の1997年12月には、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化対策推進本部が設置され、同推進本部は1998年6月に「地球温暖化対策推進大綱」を決定しました。「地球温暖化対策推進大綱」では、京都議定書の目標を達成するための当面の地球温暖化対策が示されており、2000年9月には第2回目のフォローアップを実施しました。
 1998年10月には「地球温暖化対策の推進に関する法律」が成立し、1999年4月には「地球温暖化対策に関する基本方針」が閣議決定され、これらに基づき、わが国のすべての主体が地球温暖化対策の推進に取り組むこととされました。また、基本方針では、国、地方公共団体、事業者、国民のすべての主体が温暖化対策を推進すべきことが示されています。
 また、エネルギー需給の両面にわたる対策として、1998年(平成10年)の「エネルギー使用の合理化に関する法律」の改正や、1997年(平成9年)の「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」の制定がなされました。
 温暖化防止には特効薬が存在しないため、社会のあらゆる主体が、他の主体との調整も行いながら、引き続き対策に取り組んでいくことが必要です。



(2)地球温暖化対策の目指すべき方向
 今後の地球温暖化対策に当たっては、まず、増加基調にある温室効果ガスの総排出量を早期に減少基調に転換し、その減少基調を京都議定書の目標の達成、さらなる長期的、継続的な排出削減へと導くことを目指します。
 ア 京都議定書の目標の達成
 京都議定書の2002年(平成14年)までの発効を目指すことが政府の基本的方針です。6%削減目標については、当面、地球温暖化対策推進大綱に位置付けられた対策により達成していきます。これらの対策が遅れれば遅れるほど、京都議定書の目標達成のために短期間で大幅な削減を達成しなければならなくなります。このため、今日の段階で実施可能な地球温暖化対策は直ちに実施し、早期に減少基調への転換を図ることが重要です。
 また、京都議定書においては、附属書Iの締約国(先進国及び市場経済移行国)は2005年(平成17年)までに削減目標の達成について、明らかな前進を示すと規定されており、国内対策の着実な推進が必要です。
 温室効果ガスの発生源による人為的な排出量及び吸収源による吸収量の算定に係るデータの信頼性を向上させるため、これらのデータの品質保証、品質管理のための取組を引き続き進めることも必要です。

 イ 温室効果ガスのさらなる長期的、継続的な排出削減
 京都議定書の目標の達成を図り、さらなる長期的、継続的な排出削減へと導くためには、個々の対策を計画的に実施していくと同時に、21世紀のわが国の社会経済動向を踏まえ、各分野の政策の整合性を図りながら、温室効果ガスの排出削減が組み込まれた社会を構築する必要があります。
 また、京都議定書においては、第1約束期間が満了する7年前までに次の約束期間に係る約束の検討を開始するものとされています。これに従い、わが国としても第2約束期間以降の約束に関する検討を開始するとともに、国際的な議論にも積極的に参画する必要があります。
 究極の目標は、大気中の温室効果ガス濃度の安定化です。このためには、気候系に対する危険な人為的影響を及ぼすこととならない水準についての研究など地球温暖化に係る科学的知見の一層の充実を図る必要があります。また、長期的な視点に立って、温室効果ガス削減のための革新的な技術開発を進めるとともに、長期に継続して温室効果ガスを削減し得る社会経済システムのあり方について検討を進めていかなければなりません。

(3)地球温暖化防止への活用が考えられる各種の政策手法について
 温室効果ガスは社会経済活動のあらゆる局面で排出されます。その効果的・効率的な削減のためには、規制的手法、経済的手法、自主的取組などあらゆる政策措置の特徴をいかして、有機的に組み合わせるポリシー・ミックスの考え方を活用することが考えられます。

 ア 税・課徴金
 製品・サービスの取引価格に環境コストを適切に反映させるために経済的負担を課す環境に関する税などは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出にみられるような不特定多数の者の日常的な社会経済活動から生ずる環境負荷を低減させる点で有効性が期待されるとともに、資源の効率的配分にも資するものと考えられます。
 地球温暖化問題については、主な原因である二酸化炭素の発生源があらゆる経済活動に起因しているため、経済的手法の適用が有効であると考えられています。北欧4か国にオランダを加えた5か国では、1990年代初頭に炭素含有量に応じてエネルギーに課税して二酸化炭素の排出を削減しようとするいわゆる「炭素税」が導入されました。このほか、地球温暖化対策としてのエネルギーに対する追加的な課税として、1999年(平成11年)にドイツとイタリアが導入を行い、イギリスにおいては、2001年(平成13年)の導入を内容とする法律が成立しました(表2-2-5)。



 イ 排出量取引
 排出量取引は一定の基準に従って汚染物質や温室効果ガスの許容排出量について市場で取引するというものです。すでにアメリカ国内ではSOX削減対策として導入されており、ヨーロッパ各国でも導入・検討されています。排出量取引の枠組みとしては、排出許可証の総量を規制(キャップ)し、参加者に自由な取引を認める「キャップアンドトレード」と、各参加者に対して一定期間における排出量(ベースライン)を定め、これを上回った参加者が下回った参加者から購入する「ベースラインアンドクレジット」の二つがあります。

 ウ 規制的措置等
 規制的措置は、個別の排出源における削減の確実性が高く、フリーライダーの排除による健全な市場の形成に貢献するほか、環境効率の高い製品の供給を通じて民生部門・運輸部門における排出削減に貢献します。
 温暖化防止に資するものとしては、省エネ法に基づく機械器具に関する省エネ基準や、工場・事業場における省エネに関する事業者の判断基準、住宅・建宅物に関する省エネ基準があげられます。特に家電、OA機器、自動車の省エネ基準においては、現在商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているものの性能、技術開発の見通し等を勘案して基準を定めるトップランナー方式を採用することで、さらなる省エネ技術開発を促進しています。
 一方で、製品の普及により、社会的な削減効果を発揮するためには、様々な手法と組みあわせて購入を動機付け、普及を促進する必要があります。現在のところ、従来から講じられていた自動車取得税の軽減措置及び2001年度税制改正により新たに導入された自動車税のグリーン化*などの税制措置や、省エネ機器導入促進のための税制・低利融資制度を通じ、購入者の経済的な負担を軽減させることで普及を促進させています。また、2001年に施行されたグリーン購入法により、公共部門における購入がさらに促進されることになります。
 税制措置などの行き渡らない部分については、近年活発化している消費者や事業者によるグリーン購入活動を通じた自主的な製品の選別が有効です。このため、これらの製品が普及するよう、環境ラベルや認証を通じて製品情報を社会に提供することが重要となります。環境省では、地球温暖化対策推進法に基づき、地球温暖化防止活動推進センターを全国及び各都道府県に一つずつ指定することとしており、本センターにおいて、環境にやさしい製品の情報提供等を行っています。経済産業省においても、OA機器の稼動時における待機時消費電力の基準を満たした機器にマークを表示することができる国際エネルギースタープログラム制度を実施しているほか、省エネラベリング制度が制定され、エアコン、蛍光灯機器、テレビ、電気冷蔵庫、冷凍庫のカタログなどに省エネラベルが表示されています。このほか、(財)省エネルギーセンターにおいて、省エネの情報提供等を行っています。住宅については、(財)建築環境・省エネルギー機構において、省エネルギーに関する審査要件を含む「環境共生住宅認定制度」を実施しています。自動車については、2010年からの適用を検討していた燃費基準を前倒しで達成した車種が、低
燃費車として認定されています。

*自動車税のグリーン化
講じた施策第3章第3節2参照

 エ 自主的取組
 近年、事業者による自主的取組が活発化しています。自主的取組は、対策の内容と目標を自ら設定するという方法であり、現場を最もよく知る立場から、実現性・費用対効果ともに高い対策の実施が期待されます。現在、経済団体連合会が定めている自主行動計画には多くの企業が参加しており、その排出量合計はわが国における1990年度の二酸化炭素排出全体の約42%に相当しています。この自主行動計画はこれまで政府の関係審議会等によりフォローアップされており、1998年には参加企業全体で1990年度比2.4%の排出削減を達成しています。今後、透明性・信頼性の向上、アウトサイダー対策、実効性のさらなる向上が期待されています。

(4)国際的取組と連携した国内対策の推進
 今後、わが国としては、わが国を含む関係国による議定書締結を可能なものとするため、国際交渉に積極的に臨み、京都議定書の2002年までの発効に向けた国際的熱意が失われないよう努めることが必要です。また、この国際交渉の進捗状況を見定めながら現行施策の評価を踏まえて所要の見直しを行い、わが国の経済や国民生活への影響について十分に配慮し、国民の理解と協力を得て、締結に必要な国内制度に総力で取り組むことが不可欠です。

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