前のページ 次のページ

第5節 

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1)環境庁試験研究機関の整備と研究の推進

ア 国立環境研究所
(ア)研究体制の強化
 国立環境研究所においては、多様な社会的ニーズに応えるため、研究体制の強化を図りつつ、環境の保全に関する調査及び研究を推進してきたところである。また、平成11年12月には、中央省庁等改革の一環として国立環境研究所の独立行政法人化を図るための「独立行政法人国立環境研究所法」が成立した。
 平成11年度末の機構・定員は、2研究グループ(24研究チーム)・7部(3課、24研究室)・3センター、267名となっている。
(イ)研究活動の充実
a 研究業務
 平成11年度においては、環境保全に係る特別研究7課題、開発途上国環境技術共同研究2課題、重点共同研究2課題、革新的環境監視計測技術先導研究1課題及び環境修復技術開発研究1課題等のほか、新たに内分泌攪乱化学物質総合対策研究4課題に着手した。また、環境研究総合推進費による地球環境研究41課題及び未来環境創造型基礎研究2課題等を実施した。このうち平成11年度に実施した特別研究の課題は、次のとおりである。
? 超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究(最終年度)
? 湖沼において増大する難分解性有機物の発生要因と影響評価に関する研究(最終年度)
? 環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究(最終年度)
? 廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究
? 環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究
? 都市域におけるVOCの動態解明と大気環境質に及ぼす影響評価に関する研究
? 空中浮遊微粒子(PM2.5)の心肺循環器系に及ぼす障害作用機序の解明に関する実験的研究(初年度)
 このほか、廃棄物、リサイクルに係る研究や技術開発を行う中核的な研究施設及び健全な水環境を創造するための環境技術開発等を行う研究施設の建設に着手した。
b 環境情報業務
 環境情報センターにおいて、我が国の大気質及び水質に係る測定結果の数値情報データファイルの整備・提供を始め自然環境保全総合データベースや、環境情報の所在・概要等を検索できる「環境情報ガイドディスク」の更新等、環境データベースの拡充を図るとともに、図書資料を始めとする文献情報など国内及び国外の環境に関する情報の収集を行った。
 また、国連環境計画(UNEP)の国際環境情報源照会システム(INFOTERRA)における我が国の窓口としての諸業務を行った。
 さらに、国民が環境保全施策に関する情報等を入手するとともに情報交流を行うことを目指した「環境情報提供システム」の拡充、運用を行い、また、国立環境研究所WWWサーバによる環境研究等に関する情報提供を行った。また、新たに、環境庁が調整・整備する各種の環境質データ等を地図データと重ね合わせて検索・利用可能な「環境国勢データ地理情報システム(環境GIS)の構築に必要な基本設計等を行った。
c 地球環境研究総合化・支援業務
 地球環境研究センターにおいては、地球環境保全に関する研究の総合化を図る目的で、生物多様性とその情報に関して、第14回地球環境研究者交流会議等を開催した。また、「第2回IGBP会合」、「1999年IHDP公開会合」の両会議を共催するとともに、「第2回海洋と二酸化炭素国際シンポジウム」等を主催した。
 また、地球環境データベースの整備を引き続き行うとともに、UNEPの地球資源情報データベース(GRID)の協力センターとして環境データの作成・提供等の活動を行った。
 さらに、スーパーコンピュータシステムを、地球温暖化や海洋汚染を始めとする地球規模の環境変化に関する解明、予測、影響評価等のための研究に供するとともに、スーパーコンピュータを用いた地球環境研究の成果発表会の開催や英文研究成果報告書の出版を行った。
d 地球環境モニタリング事業
 地球環境研究センターでは、地球環境に係る諸現象を把握するためのモニタリング事業を、前年度に引き続き実施した。
 地球温暖化の関連では、沖縄県竹富町波照間島及び北海道根室市落石岬に設置している観測局で、またシベリア上空において航空機を利用した温室効果ガス等のモニタリングを行うとともに、北太平洋海域においては民間船舶の協力を得て大気・海洋間の二酸化炭素収支状況のモニタリングを行った。さらに、北海道苫小牧地方のカラマツ林において、温室効果ガスのフラックスモニタリングを開始した。オゾン層破壊の関連では、オゾンレーザーレーダー・ミリ波分光器によりつくば上空における成層圏オゾン層の高度分布のモニタリングを行うとともに、オゾン層の破壊により増加が懸念されている有害紫外線量について東京においてモニタリングを進めた。また、北極域のオゾン層の動態の影響が見受けられる北海道中部において成層圏の総合的モニタリングを行った。水圏環境の関連では、民間船舶の協力を得て海洋中のクロロフィル量・栄養塩類等のモニタリングを行うとともに、UNEP等が推進する地球環境監視システム/陸水環境監視計画(GEMS/Water)の日本における担当機関として、ナショナルセンター業務(我が国における測定データのとりまとめ)及び精度管理業務を行った。
 また、地球観測プラットフォーム技術衛星ADEOS搭載のオゾン層観測センサー(ILAS・RIS)のデータ処理・運用システムにより、平成8年11月から平成9年6月までのILAS観測データの再処理を行った。処理結果の一部は、平成10年6月よりインターネット上で公開している。
 さらに、平成13年度に打ち上げが予定されている環境観測技術衛星ADEOS-?に搭載するオゾン層観測センサー(ILAS-?)のデータ処理・運用システムの整備を進めた。

イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する我が国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなど本章第8節1(1)ウ(ウ)に掲げた施策を実施した。

(2)公害防止等に関する調査研究の推進

 国立機関の公害防止等に係る試験研究費として平成11年度に一括計上されたものは、100課題、19億5291万円(前年度100課題、19億5291万円)で、これらの試験研究は、警察庁、北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省及び建設省の13省庁に属する46試験研究機関等において実施された。
 一括計上による公害防止等の試験研究については、当面する問題のみならず、中長期的視野に立った対策推進にも配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してその総合的推進を図っている。
 平成11年度に実施した総合研究プロジェクトの数は9で、その内容は次のとおりである。

ア 大気環境の保全に関する総合研究
 各種発生源からの窒素酸化物、ベンゼン等大気汚染物質排出抑制技術の開発等に関する16課題の研究を継続して実施したほか、新燃焼方式によるディーゼル機関の高効率化・超低公害化に関する研究等新たに2課題の研究を実施した。

イ 排水処理の高度化に関する総合研究
 産業排水等の物理化学的及び生物的処理技術等に関する6課題の研究を継続して実施したほか、小型合併処理浄化槽によるリン除去等及び消毒の高度化に関する研究等新たに4課題の研究を実施した。

ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
 海洋における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、瀬戸内海の生物資源の持続性評価システムに関する研究を新たに実施した。

エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
 河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等に関する8課題の研究を継続して実施したほか、四万十川流域における環境保全型農林水産業による清流の保全に関する研究等新たに2課題の研究を実施した。

オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
 廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等に関する12課題の研究を継続して実施したほか、廃棄物焼却により生成するダイオキシン抑制技術の研究等新たに2課題の研究を実施した。

カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
 自然環境への影響評価、自然環境の適正管理及び保全等に関する9課題の研究を継続して実施したほか、寒冷地砂浜沿岸域における生物環境保全に関する研究等新たに4課題の研究を実施した。

キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
 都市における総合的な環境保全を図るため、騒音及び悪臭の発生源対策技術等に関する4課題の研究を継続して実施したほか、都市気候緩和と地下水涵養に効果的な環境共生型舗装に関する研究等新たに2課題の研究を実施した。

ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
 測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等に関する8課題の研究を継続して実施した。

ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
 環境汚染物質のリスク評価、評価手法の開発等に関する5課題の研究を継続して実施したほか、産業起源内分泌撹乱物質の環境複合毒性検出システムの開発と動態予測モデル作成に関する研究等を新たに6課題の研究を実施した。
 また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、生物間相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究等2課題の研究を継続して実施した。

(3)地球環境に関する調査研究等の推進

 地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成11年7月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成11年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施した。
 また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学研究はもとより、人文社会科学の視点からの研究を含め学際的な取組を推進する必要がある。さらに、これらの調査研究を進めるに当たっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、地球環境変動の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要がある。
 このような観点から、関係省庁の国立試験研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、気候変動枠組条約京都議定書の内容を踏まえた温暖化防止に資する調査研究等の充実・強化を図った。
 さらに、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、我が国が中心となってその活動を支援している。平成11年8月には兵庫県の協力を得て、その推進基盤の強化を図るためのAPNセンターが神戸市に開設され、本格的な活動を開始した。昨年度は、平成11年3月に神戸市で開催された「第4回政府間会合」で検討された具体的な活動計画に従い、気候変動脆弱性統合モデル国際ワークショップ、地球圏─生物圏国際共同研究計画(IGBP)総会開催等に対し支援を行った。また、平成12年3月にはパキスタン・イスラマバードで「第5回政府間会合」が開催され、平成12年度の支援プロジェクトの決定などがなされた。
 平成11年度に実施した主な調査研究は4-5-1表のとおりである。



(4)基礎的・基盤的研究の推進

 平成9年度に創設した「未来環境創造型基礎研究推進費」により、平成9年度に採択した「化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発に関する研究」、「亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究」の2課題について、研究を継続して実施した。

(5)地球環境に関する観測・監視

 地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/政府間海洋学委員会(IOC)における全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等の国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行った。
 また、地球観測衛星「みどり」及び熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データは、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明等に活用されている。また、平成13年度打ち上げ予定の環境観測技術衛星(ADEOS-?)の最終試験、平成14年度打ち上げ予定の陸域観測技術衛星(ALOS)、平成17年度打ち上げ予定の傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計(SOFIS)の開発研究等を行った。また、地球規模の変動に大きくかかわっている海洋において、海洋観測船等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進した。
 さらに、第40次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を実施した。
 平成11年度に実施した主な観測・監視は4-5-2表のとおりである。



(6)環境基本計画推進調査

 環境庁に一括計上される環境基本計画推進調査費は、環境基本計画に位置付けられた課題に関する調査研究を対象としており、「政策分」(政策の立案に関し複数省庁が連携して実施する調査研究)と、「緊急分」(環境保全に重大な影響を及ぼす事態の発生等に対処して、緊急に行う調査研究)に分類される。平成11年度における「政策分」としては、次の7テーマについての調査研究を実施した(調査費小計:1億5,100万円)。
? 環境教育の総合的推進に関する調査
? 住民参加による地域での生物多様性保全手法調査
? 循環・共生を基調とする持続可能な圏域の在り方検討調査
? 環境リスク対策における予見的アプローチに関する調査研究
? ライフサイクルアセスメント(LCA)応用施策に関する検討調査
? 健全な水循環の確保のための調査検討
? 環境問題に関する国と地方公共団体の連携の在り方に関する検討調査
 また、「緊急分」については、次の4テーマについての調査研究を実施した(調査費小計:3,300万円)。
? 尾瀬湿原に生息する野生シカの生態に関する緊急調査
? 本邦南西水域における大型褐藻類葉状部消失現象の実態解明に関する緊急調査
? 北海道沿岸域における海鳥大量死に関する緊急調査
? ダイオキシン類環境測定に関するセンサー利用の緊急調査

(7)環境保全に関するその他の試験研究

 そのほかにも、環境保全に関する試験研究として、化学工業における有機性廃棄物の再資源化技術の調査研究等を行う地球環境産業技術に係わる先導研究、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発を実施したほか、温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施した。さらに、バイオテクノロジーの知見を利用した、低環境負荷・環境調和型の化学原料生産、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施した。
 また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)に関する研究開発、窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の研究開発、荒天下で高粘度油を回収できる荒天対応型大型油回収装置等の研究開発、二酸化炭素の海底貯留法に関する研究を実施した。
 さらに、油流出の際、精度の高い漂流予測が必要であることから、漂流予測手法の高度化を図るための研究・開発を行った。
 生態系の保全・生息空間の創造技術の開発、木質複合建築構造技術の開発、先端技術を活用した国土管理技術の開発、自然作用をいかした共生型川づくりに関する研究、建築材料に含まれる化学物質が環境に与える影響に関する研究、水域のネットワーク保全手法に関する研究、海岸域における漂着油の挙動及び回収技術に関する研究等についても実施した。
 また、家畜排せつ物等の高度処理・低減化・高付加価値化技術の開発を実施するとともに、農林水産生態系における内分泌かく乱物質の動態と農林水産生物への作用機構の解明及び影響防止技術の開発等に関する研究、持続的農業の推進を目的として、環境負荷を低減する革新的農業技術及び病害虫群高度管理技術の開発並びにライフサイクルアセスメント手法の開発を総合的に行う研究、地域レベルの環境負荷物質の動態解明に関する研究、我が国の森林及び海洋におけるCO2固定能の高精度な評価手法の開発を開始した。
 地球環境変動機構解明のための高度電磁波利用技術の国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダによる地球環境計測技術、熱帯降雨観測衛星(TRMM)や航空機搭載降雨レーダーなどを用いて行う地球規模の降雨観測技術の開発・研究の推進など、情報通信技術を活用した様々な地球環境計測技術についての開発・調査研究を実施した。
 さらに、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの三つの機能が一体となった研究開発を推進している。シミュレーションに関しては、地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指した超高速計算機システム「地球シミュレータ」の開発を引き続き行った。さらに、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」の拡充を行った。

前のページ 次のページ