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第5節 

4 化学物質の環境リスクの管理の推進

(1)ダイオキシン類問題への取組

ア 背景
(ア)ダイオキシン類とは
 一般に、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)を総称してダイオキシン類と呼ぶが、「ダイオキシン類対策特別措置法」では、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)を含めてダイオキシン類として定義しており、以下ではPCDD、PCDF及びコプラナーPCBを「ダイオキシン類」と呼ぶこととする。ダイオキシン類は、極めて強い毒性があり、また、分解されにくいため、微量の排出によって大きな影響を及ぼすおそれがある。
 ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで意図せざるものとして生成される。現在の我が国での主な発生源はごみ焼却施設から大気中への排出であるが、その他にも金属精錬などにおける燃焼等の熱処理工程などのさまざまな発生源がある。
 環境中に排出された後のダイオキシン類の挙動はよく分かっていないが、例えば、大気中に排出されたダイオキシン類が付着した粒子等が地表に達することにより、土壌や水を汚染し、さらに、食物連鎖を通してプランクトンや魚介類などの生物にも蓄積されていくと考えられている。
 なお、コプラナーPCBについては、PCBの不純物として含まれていたり、物が燃焼する工程などで意図せざるものとして生成されていると言われているが、その割合等を含め発生原因はまだよく分かっていない。
(イ)ダイオキシン類問題の現状
a 環境中の濃度
 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成10年度に環境庁において、大気、水、土壌、底質等の全国一斉調査を実施した(1-5-4表)。


b 環境への排出量
 ダイオキシン対策推進基本指針(後述)において、ダイオキシンの排出量の目録(排出インベントリー)を整備することとされたことを踏まえ、環境庁が設置したダイオキシン排出抑制対策検討会において、排出インベントリーを平成11年6月に整備した(1-5-5表)。これによると、平成9年の我が国のPCDD+PCDFの年間排出量は約6,400g-TEQ、平成10年は約2,900g-TEQで、平成9年に比べ、平成10年のPCDD+PCDFの排出総量は約半減したと見積もられている。


 これは、先に述べた、PCDD+PCDFの大気環境中濃度の減少とあわせ、平成9年12月以降、新設の施設については大気汚染防止法、廃棄物処理法による規制が適用され、既設の施設については規制の準備のための対策が講じられたこと、また、自主管理スキーム等による自主的な取組が推進されたことなどの対策の効果があらわれたものと考えられる。
c 人の摂取量
 平成10年度に厚生省が実施した調査では、我が国における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量は2.0pg-TEQ/kg/日とされている。その他、呼吸により空気から摂取される量が約0.07pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0084pg-TEQ/kg/日と推定され、人が一日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約2.1pgと推定されている(1-5-3図)。この水準は、耐容一日摂取量(生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない一日当たりの摂取量)の4pg-TEQ/kg/日を下回っている(1-5-4図1-5-5図)。





イ ダイオキシン類対策の枠組みの整備
(ア)ダイオキシン対策推進基本指針の策定
 ダイオキシン問題は内閣を挙げて取組を一層強化しなければならない課題であるという認識のもと、平成11年2月に「ダイオキシン対策関係閣僚会議」が設置され、同年3月に政府一体となって施策を強力に推進するための「ダイオキシン対策推進基本指針」が策定された。
 指針は、平成14年度までに全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減することを主たる目標として、?耐容一日摂取量(TDI)を始め各種基準等作り、?ダイオキシン類の排出削減対策等の推進、?ダイオキシン類に関する検査体制の整備、?健康及び環境への影響の実態把握、?調査研究及び技術開発の推進、?廃棄物処理及びリサイクル対策の推進、?国民への的確な情報提供と情報公開、?国際貢献 の施策を推進することを定めている。
(イ)ダイオキシン類対策特別措置法の制定
 平成11年7月に、ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等を図るため、議員立法により「ダイオキシン類対策特別措置法」(以下「ダイオキシン法」という。)が制定された。この法律の概要は、以下のとおりである。
a 施策の基本とすべき基準の設定
 耐容一日摂取量(生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない、一日当たりの摂取量)を政令で人の体重1kg当たり4ピコグラム以下に定めるとともに、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染に関する環境基準(人の健康を保護する上で維持されることが望ましい、環境中の濃度条件についての基準)を設定する。
b 排出ガス及び排出水に関する規制
 大気汚染防止法、水質汚濁防止法と同様の仕組みにより、大気、公共用水域へのダイオキシン類の排出を規制する。具体的には、規制対象施設からの排出ガス、排出水中のダイオキシン類の濃度について基準を定めその遵守を義務づけ、違反に対しては都道府県知事等の改善命令、罰則の適用により対処することとなる。
 また、規制対象施設を設置している事業者に、排出ガス・排出水の測定、都道府県への報告が義務づけられる。測定の結果は、都道府県知事が公表することとなる。
c 廃棄物処理に関する規制
 廃棄物処理に関する規制として、bの規制が廃棄物焼却炉に適用されることのほか、廃棄物焼却炉からのばいじん・焼却灰を処分する際のダイオキシン類の濃度に関する規制、最終処分場の維持管理に関する規制が行われる。
d 汚染状況の調査
 都道府県は大気、水質、土壌の汚染状況を常時監視し、環境庁に報告する。
e 汚染土壌対策
 都道府県が、土壌環境基準を満たさない地域のうちから対策が必要な地域を指定し、汚染除去事業の実施などを内容とする対策計画を策定する。対策事業は、事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づき明確な場合には、汚染事業者が費用を負担する。また、汚染原因が不明等の理由で、地方公共団体の負担により対策が実施される場合には、国庫補助が適用される。
f ダイオキシン類排出削減計画の策定
 内閣総理大臣が、事業分野別のダイオキシン類排出の削減目標量及びその達成のための措置、廃棄物減量化のための施策などを内容とする計画を策定する。
g 今後検討すべき事項
 臭素系ダイオキシンに関する調査研究を推進するとともに、健康被害対策、食品への蓄積への対策について科学的知見に基づく検討を行う。

ウ ダイオキシン類対策特別措置法の施行
 ダイオキシン類対策特別措置法は、平成11年7月に制定、平成12年1月15日から施行された。
 この間、環境庁・厚生省及び中央環境審議会の大気、水質、土壌農薬及び廃棄物の各部会において、ダイオキシン法に基づく各種の基準の検討が進められ、平成11年12月に、ダイオキシン類対策特別措置法施行令、同施行規則、環境基準を定める環境庁告示等が定められた。
(ア)耐容一日摂取量(TDI)を始めとした各種基準等
 ダイオキシン類の毒性評価については、一般に耐容一日摂取量(TDI)が用いられる。このTDIは、ダイオキシン類による人の健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で重要な指標となるものであり、WHOや各国において科学的知見に基づき設定されている。我が国においても、これまでダイオキシン類のTDIあるいは健康リスク評価指針値を設定し、現在の汚染状況が人の健康に及ぼす影響の評価の指標、ダイオキシン類対策の指標等として活用してきた。
 平成10年5月、WHOの欧州地域事務局及びIPCS(国際化学物質安全性計画)により専門家会合が開催され、ダイオキシン類のTDIの見直しが行われた。その結果、従来のTDI(PCDD及びPCDFについて、10pg-TEQ/kg/日)を見直し、コプラナーPCBを含めてTDIを1〜4pg-TEQ/kg/日としつつ、当面、現在の先進諸国の暴露量が耐容しうるものと考えられることから、4pg-TEQ/kg/日を最大の耐容摂取量とし、究極的には1pg-TEQ/kg/日未満に低減していくことが目標とされた。
 これを受けて、我が国においても環境庁及び厚生省が専門家会合を組織し、その合同会合(中央環境審議会、生活環境審議会及び食品衛生調査会)において、ダイオキシン類のTDIの見直しを行い、平成11年6月に当面のダイオキシン類のTDIとして、コプラナーPCBを含めて4pg-TEQ/kg/日とした。
 ダイオキシン法に基づくTDIについても、同様の考え方により、4pg-TEQ/kg/日と定められた。
 ダイオキシン類の人体影響については未解明な部分が多く各種の調査研究の推進が必要であり、WHOにおいても数年後を目途にTDIの再評価を行うこととなっていることから、我が国でも各種の調査研究を開始しているところである。
(イ)環境基準
 大気については年間平均値0.6pg-TEQ/m3以下、水質については同1pg-TEQ/r以下、土壌については1000pg-TEQ/g(=1.0ng-TEQ/g)以下が、ダイオキシン類についての環境基準として定められた。
 これらの基準の内容、設定の考え方、設定までの経緯等については、以下のとおりである。
a 大気
 環境庁では平成9年9月より施策を実施する上での指針としてダイオキシン類に係る大気環境指針を年間平均値0.8pg-TEQ/m3以下(PCDD+PCDF)と定めていたが、ダイオキシン法が施行されたことから、中央環境審議会大気部会において平成11年7月から大気環境基準についての検討が行われ、同年12月に中央環境審議会より答申(「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(第五次答申)(大気の汚染に係るダイオキシン類の環境基準及び排出抑制対策のあり方)」)がなされた。これを受けて、環境庁では同年12月に大気環境基準を年間平均値0.6pg-TEQ/m3以下(PCDD,PCDF,コプラナーPCB)として設定した。なお、この基準は健康を保護する見地から設定されるものであるので、工業専用地域、車道部分その他一般公衆が通常生活していない地域又は場所については適用しないこととされた。
 この大気環境基準は、現状のダイオキシン類の暴露量に占める大気経由の暴露量の割合、今後の大気環境中のダイオキシン類濃度の変化と人の暴露量の関係に関する試算、我が国における大気環境中のダイオキシン類濃度の現状等を踏まえ、長期的摂取による影響であることを考慮し、人の健康を保護する見地から総合的に判断して設定したものである。この基準は、現時点で収集可能な最新の知見について検討を行い決定されたものであるが、ダイオキシン類の環境中での挙動や人の健康への影響についてはなお未解明な部分が多く、今後とも関連する科学的知見の集積・評価に努め、その結果を施策に的確かつ迅速に反映していくことが重要である。
b 水質
 中央環境審議会水質部会における検討結果を踏まえ、水質環境基準を、すべての公共用水域及び地下水を適用対象に、年間平均値1pg-TEQ/r以下として設定した。水環境中の挙動が十分明らかにされているとはいえない状況であるが、この基準は、現時点で利用し得る知見を最大限活用し、以下のような科学的な検討がなされた上で設定されたものである。
 水質環境基準の設定に際しては、飲用水を飲むことによる直接摂取及び水から魚介類を経由し人が魚介類を食べることによる間接摂取の二つの健康リスクを考慮することが必要である。
 ダイオキシン類は魚介類経由の摂取が多いため、PCB等と同様に生物濃縮を考慮した環境基準の設定が望まれるが、ダイオキシン類の生物濃縮率を現在利用可能な測定データ等から定量的に導くのは困難であるなどの制約がある。
 また、飲用の観点から安全な水であることは、環境基準の一つの重要な要素であり、飲用水からのダイオキシン類摂取は現状では少ないが、比較的高濃度の水域の存在も考慮し、その改善の見地から環境基準を設定する意義はある。
 以上を考慮し、水質環境基準の設定は、?まず「飲用水としての利用を考慮する方式」により基準値を算定し、?既存知見で整理できる範囲で「生物濃縮を考慮する」観点からもこの算定値の意味について検証・評価し、両者を考慮して行うこととなった。
 その結果、水質環境基準は、飲用水としての利用の観点から、WHOにおける取扱いに照らし1pg-TEQ/r以下と設定することとした。水から魚介類経由の間接摂取については、魚介類1.5倍摂食者を想定し、TDIに照らし要求される魚介類の平均濃度を試算し、生物濃縮係数を仮定して対応する平均水質濃度を求め、これをすべての公共用水域の水質濃度が1pg-TEQ/r以下になった場合に達成される平均水質濃度と比較すると、おおむね対応する水準となることが検証されている。なお、今後とも生物濃縮を考慮する方式について、知見の充実を図ることが必要である。
 底質の環境基準については、底質から魚介類への移行や蓄積に関する知見が不足しているため、今後の検討課題として、底質中のダイオキシン類の実態・挙動に関する知見の集積がまず必要であるとされた。
c 土壌
 環境庁では、平成10年5月から検討会を開催し、土壌中のダイオキシン類に由来する環境影響の評価手法、対策手法等の検討を行い、平成11年7月に、居住地等一般の人の日常生活に関わりのある場所において、対策をとるべきダイオキシン類の土壌中濃度として1,000pg-TEQ/gを暫定的なガイドラインとすること等を内容とする報告書を取りまとめた。環境基準は、この報告書の考え方を参考に検討が行われた。
 土壌中のダイオキシン類が人体に取り込まれる経路(1-5-6図)としては、?手などに付着した土壌の「摂食」や「皮膚接触」による直接摂取の経路、?農用地土壌中のダイオキシン類が当該土壌の上で生産される農畜産物に移行し、それらが人に摂取される経路、?土壌の粒子が水域に移行し更に食物連鎖を経て水産物を経由する経路、の三つが考えられる。環境基準の設定に当たっては、現在得られている科学的知見に基づき、?の直接摂取の経路に着目して検討を行った。なお、農作物や水域への移行に係る健康影響については、知見の制約が大きいことから、今後科学的知見の集積に努める必要がある。


 検討の結果、365日、30年間ずっと汚染土壌の上で活動するという安全側に立った暴露リスク評価のシナリオにより、土壌環境基準を1,000pg-TEQ/g(=1.0ng-TEQ/g)以下と設定することとした。この環境基準は、土地利用の用途によらず原則としてすべての土壌に適用することとし、廃棄物の埋立地その他の場所で一般環境から適切に区別されている施設に係る土壌については適用しないこととした。
 また、土壌はいったん汚染されると長期間ダイオキシン類を蓄積し、他の環境媒体への二次的な汚染源となる可能性がある。このため、現状よりも汚染を進行させない観点、他媒体を通じた間接的な影響を増加させない観点、土壌中のダイオキシン類に係る知見の集積の観点から、ある程度ダイオキシン類の蓄積が進んでいる地域を把握するための調査指標値として、全国の土壌中ダイオキシン類濃度に係るデータ分布の上位5%に相当する250pg-TEQ/g(=0.25ng-TEQ/g)という値を設定した。調査指標値以上の土壌の存在が判明した場合、必要なモニタリングや調査を開始することとなるが、環境基準値以下である場合は、直ちに土壌の除去等の対策を必要とするものではない。
 土壌中のダイオキシン類の挙動については未解明な部分が多く、科学的知見の集積に努めるとともに、その結果を施策に的確かつ迅速に反映することが重要であり、今後とも各種調査を継続して実施していく予定である。
(ウ)排出規制対象施設、規制基準
 排出ガス、排出水のそれぞれについて、規制対象施設と規制基準が(1-5-6表)のとおり定められた。


 これによって、既存の施設については、ダイオキシン法の施行の日(平成12年1月15日)から30日以内の届出義務及び年1回以上の測定義務が課せられるとともに、1年後(平成13年1月)からは排出基準が適用される。また、ダイオキシン法の施行以降に新規に設置される特定施設については、直ちに排出基準が適用されることとなる。
 排出規制対象施設、規制基準の設定の考え方等については、以下のとおりである。
a 排出ガス規制
 平成9年8月に、大気汚染防止法及び廃棄物処理法の政省令等の改正を行い、PCDD+PCDFを対象に、廃棄物焼却炉及び製鋼用電気炉に対する法的な規制措置を導入した(平成9年12月施行、既設施設については平成10年12月より基準適用)。さらに、廃棄物焼却炉からのダイオキシン類の多くがばいじんに含有されていることも踏まえ、平成10年4月、廃棄物焼却炉に係るばいじん規制を大幅に強化した(平成10年7月施行、既設施設については平成12年4月より基準適用)。
 ダイオキシン類対策特別措置法に基づく特定施設については、ダイオキシン類の排出総量の約9割削減という目標に向けて、ダイオキシン類の排出に関する最新の知見や排出実態調査の結果を踏まえ、ダイオキシン類の排出が相対的に多い施設とし、具体的には、既に大気汚染防止法等に基づく規制対象である廃棄物焼却炉(1時間当たりの焼却能力200kg以上)及び製鋼用電気炉に加え、新たに未規制の小型廃棄物焼却炉(1時間当たりの焼却能力50kg以上200kg未満)、鉄鋼業焼結施設、亜鉛回収施設、アルミニウム合金製造施設を指定した。
 また、排出基準については、実施可能な技術的対応を講じた場合に達成することが可能なレベルとし、新設の大規模施設については実施可能な最善の技術的対応を考慮して設定し、既設施設や中小規模の施設についてはその対応能力も考慮して設定した。なお、既設の施設については、対応技術を導入するまでの間(平成14年11月まで)について、排出実態を勘案し、施設の小規模な改造及び管理状況の改善によって達成可能な値を当面の基準として設定した。
b 排出水規制
 ダイオキシン類の排出源周辺の公共用水域においては、比較的高い濃度の汚染が生ずる可能性があり、水環境において長期間にわたって滞留・循環し水生生物への蓄積をもたらすことから、水環境への直接的な排出を抑制することが必要である。
 このため、ダイオキシン類の発生機構及びその排出が確認され、それらの排出水が周辺水域の水質環境基準を超えるような汚染をもたらす可能性があるものや、原水中のダイオキシン類の濃度が高く、事故時において高濃度のダイオキシン類が排出水として放出され、水質環境基準を超えるおそれがあるものを規制対象施設とした。
 規制対象施設はこのような考え方により定められたが、これは、これまでの調査結果等に基づいて判断されたものであるため、このほかにも排出源となっている施設があることは否定できない。また、将来、新たに判明する排出源や工程の転換等に伴って発生・排出の態様が大きく変化する施設もあると考えられる。このため、今後ともダイオキシン類の発生機構、排出実態等を把握し、特定施設の追加・見直しに係る検討を適宜行う必要がある。
 排出基準については、これまでの水質汚濁防止法の排出水規制の効果等もあわせて考え、水質環境基準の10倍を目安としつつ、排出水の削減に係る技術水準を勘案して設定することとした。このほか、事業者の努力により一部の施設ではすでに排出レベルが低くなっていること、ダイオキシン類の除去に対して効果的な排出水処理技術はいまだ開発・実用化の途上にあること、新たな処理技術の開発と導入に努めることにより排出水濃度の一層の低減を進めうるものと期待できること等を総合的に考慮し、排出基準を設定している。
 なお、すでに設置されている施設の一部については経過措置を設け、3年間(平成15年1月まで)は暫定的な基準を適用することとした。ただし、ダイオキシン類が人の生命及び健康に影響を与える有害物質であることに鑑み、その期間内であっても、可及的速やかに、10pg-TEQ/lの水準が達成されるよう努める必要がある。
(エ)汚染土壌対策地域の指定要件
 指定要件については、土壌の直接摂取による暴露リスクの防止の観点から特に対策の必要がある場合として、土壌中のダイオキシン類の濃度が環境基準を超過する地域であって、汚染土壌の直接摂取のおそれがある一般国民が立ち入ることができる地域とすることとした。
 この指定要件に該当する地域については、都道府県知事はダイオキシン類土壌汚染対策地域として指定することができることとされており、汚染土壌からのダイオキシン類の除去(分離又は分解)や暴露経路の遮断等の対策が行われることとなっている(1-5-7図)。


(オ)廃棄物最終処分に関する規制
 埋立処分される廃棄物には、廃棄物焼却炉から生じたばいじん、燃え殻等ダイオキシン類を高濃度に含有するものが多く存在する。したがって、それらを最終処分場内に確実に封じ込めておくため、埋め立てられる廃棄物の性状及び最終処分場の構造等について、ダイオキシン類に着目した基準を設定する必要がある。
 このため、ダイオキシン類による汚染状況及び処理技術等について調査を行うとともに、中央環境審議会及び生活環境審議会による検討結果を踏まえ、ダイオキシン法に基づく基準の設定及び廃棄物処理法施行令等の改正を行い、以下の対策を実施することとした。
a 特別管理廃棄物への指定
 ダイオキシン法の特定施設である廃棄物焼却炉から排出されたばいじん、燃え殻及び汚泥(それらの処理物を含む)のうち、3ng-TEQ/g以上のダイオキシン類を含むものを特別管理廃棄物に指定した。
b 飛散・流出の防止対策措置
 ばいじん、燃え殻が最終処分場に埋立処分される際に周辺土壌等へ飛散・流出することを防止するための対策として、?あらかじめ水分で湿らせる、固化する等の埋立作業時の飛散を防止するための措置、?ゴミ運搬車両に付着することによる埋立地外への飛散を防止するための措置、?覆土等の埋立作業後の飛散・流出を防止するための措置、を義務づけた。
c 廃棄物中のダイオキシン類低減処理
 特別管理廃棄物であるばいじん等を埋立処分する際には、あらかじめ、ダイオキシン類の含有量が3ng-TEQ/g以下になるよう処理することを義務づけた。
d 最終処分場の維持管理基準の設定
 最終処分場(一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の管理型最終処分場)の維持管理基準として、?放流水中のダイオキシン類濃度を10ng-TEQ/l以下に処理すること、?放流水及び周縁地下水等の水質の検査を1年に1回以上実施すること、?開渠等により埋立地の外に廃棄物が流出することを防止するため必要な対策等を講ずること、を定めた。

エ その他のダイオキシン類対策
 以上のほか、ダイオキシン対策推進基本指針に基づき、関係省庁により次の各種の取組が進められている。
(ア)ダイオキシン類に関する検査体制の整備
 ダイオキシン類の検査の信頼性を確保するため、国際的動向を踏まえ、排ガス及び排水中の標準的な測定・分析方法について、平成11年9月にJIS規格を制定した。また、外部機関や海外施設に検査を委託する場合の信頼性確保の在り方やダイオキシン類分析の的確な精度管理を実現する指針を作成するための検討を開始した。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を平成11年度より開始した。
(イ)健康及び環境への影響の実態把握
 環境、生物、人体、労働環境、廃棄物焼却施設、産業分野等各方面におけるダイオキシン類について、実態把握が行われた。
 ダイオキシン法に基づく基準の設定のほか、ダイオキシン類の人体への摂取経路、食物を通じた生物濃縮等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、発生源周辺地域等における精密暴露評価や環境中でのダイオキシン類の実態調査等を実施するとともに、食品中のダイオキシン調査を拡充し、平成10年度に実施した結果をとりまとめて公表した。さらに、大気・土壌等からの暴露実態もあわせ、人への健康影響に係る調査を進めた。
(ウ)調査研究及び技術開発の推進
 関係省庁は、協力してダイオキシン対策に必要な技術開発・調査研究を推進し、また、その成果の導入、普及を促進するために、関係省庁が連携をとった総合的計画を策定した。平成11年度においては、特に廃棄物の適正な焼却技術、土壌汚染浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、精度管理などに関する技術開発及び毒性評価、環境中挙動、人への暴露評価、生物への影響などに関する調査研究に重点的に取り組んだ。
(エ)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 平成11年9月に廃棄物の減量化の目標量を設定するとともに、政府全体として一体的、計画的な廃棄物対策の推進に着手した。
 また、使い捨て製品の製造・販売や過剰包装の自粛、製品の長寿命化等を図るなど製品の開発・製造段階、流通段階での配慮の促進、国民の生活様式の見直し等により、廃棄物の発生抑制に努めるとともに、使用済製品の再使用(リユース)や廃棄物の再生利用、再生資源の回収利用やリサイクルを推進した。
 さらに、学校においては、原則としてごみ焼却炉を廃止したため、今後は適切なごみ処理やごみの減量化等を推進することが重要であり、これに資するための参考資料を作成し、平成11年3月に全国の学校等に配布した。
(オ)国民への的確な情報提供と情報公開
 国民に対して、ダイオキシン問題についての理解と協力を得るため、関係省庁共通のパンフレットや政府広報のリーフレットを作成し、国民各層に広く配布した。

(2)化学物質の環境リスクの管理

 化学物質の環境リスクの管理については、従来から?大気汚染防止法、水質汚濁防止法等の排出規制、?化学物質審査規制法、農薬取締法等の化学物質の製造・輸入・使用に関する規制、?水道法、食品衛生法等の人への暴露経路に関する規制など、様々な法令に基づく規制を実施してきている。
 平成11年度は、前述のように「ダイオキシン類対策特別措置法」の成立を受けて、環境基準や排出基準の設定等により、大気、水質、土壌と各媒体にまたがるダイオキシン対策の推進を図ってきたところである。また、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境保全上の支障の未然防止を図ることを目的とした「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が公布、施行され、環境への排出量の把握等を行うPRTR制度及び事業者が化学物質の性状及び取扱いに関する情報(MSDS)を提供する仕組み等が導入されたところであり、同法に基づき得られるデータを必要に応じ国や地域における環境リスクの管理等に活用できるよう、手法の検討を進めている。

(3)リスクコミュニケーションの推進

 近年、ダイオキシン類を始めとする化学物質による環境汚染問題を契機に、環境リスクに対する国民の関心が高まっており、その一方で、環境リスクに関する情報不足や関係者間の理解の相違等から、国民の不安が増大する場合もある。こうした状況を踏まえ、今後、各種の化学物質対策を円滑に進めていくためには、環境リスクに関する正確な情報を行政、事業者、国民、NGO等のすべての者が共有しつつ、相互に意思疎通を図るリスクコミュニケーションが欠かせないものとなっている。このため、平成9年度より、リスクコミュニケーションの具体的手法等についての検討を進めている。

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