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第5節 

1 化学物質の安全性に関する施策の推進

(1)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の実施

 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化学物質審査規制法」という。)では、届出られた新規の化学物質について、その製造又は輸入前に難分解性、高蓄積性及び慢性毒性等の有無に係る審査を実施することとしている。これらの性状をすべて有する化学物質を第一種特定化学物質として指定し、原則として、製造、輸入、使用等を禁止している。また、高蓄積性ではないものの難分解性であり、かつ慢性毒性等の疑いがある化学物質を指定化学物質として指定し、製造量等の実績数量の届出を義務づけている。当該指定化学物質による相当広範な地域の環境汚染により健康被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、有害性の調査を実施し、その結果、慢性毒性等を有することが判明した場合には、第二種特定化学物質として指定し、製造・輸入予定数量の届出、取扱いに係る技術上の指針の遵守、環境汚染の防止に関する表示を義務づけるとともに、必要に応じ、製造・輸入予定数量の変更を命令できることとしている(1-5-1図)。


 新規化学物質の届出は、厚生大臣及び通商産業大臣に対して行われ、平成11年中に323件の届出がなされている。なお、平成11年末現在、第一種特定化学物質としてポリ塩化ビフェニル等9物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質及び指定化学物質としてクロロホルム等292物質が、それぞれ指定されている。
 また、化学物質の性状に関する試験方法及び評価に関する研究等を実施しており、平成10年度には、OECD等における試験ガイドラインの見直しの動向等を踏まえ、魚介類の体内における化学物質の濃縮度試験法を改定した。

(2)政府による各種の取組

 政府においては、これに加えて各種の取組を行っている。
 既存化学物質の安全性の点検として、分解性及び蓄積性の試験を実施しており、平成11年末までに、1,189物質について安全性の点検を実施している。また、既存化学物質のスクリーニング毒性試験(?ほ乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験、?細菌を用いる復帰突然変異試験、?ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験)及び慢性毒性試験等をOECDで行われている高生産量化学物質(HPV)点検プロジェクトと連携させつつ効率的に実施しており、その結果を順次公表している。さらに、これらの既存化学物質の点検を迅速かつ有効に進めるため、新たな試験方法の開発等の事業を進めている。
 有害大気汚染物質対策に関しては、自主管理指針の策定等事業者の自主管理を推進するための体制整備を行ってきたが、平成11年度までに、自主管理の対象13物質について、77団体が自主管理計画を策定している。平成10年度から実施状況の報告がなされ、化学品審議会及び中央環境審議会で、内容のチェックアンドレビューが行われている。
 化学物質の環境中のレベルの調査については、昭和49年度以来実施してきたが、昭和54年度からは数万といわれる既存化学物質を効率的・体系的に調査し、環境における安全性を評価するため、昭和63年度まで第1次化学物質環境安全性総点検調査を実施した。生産活動等の変化や科学技術の進歩などを踏まえて、平成元年度からは、調査対象物質の拡大等による調査の充実を図り、第2次化学物質環境安全性総点検調査を実施している。この調査の体系概要を1-5-2図に示す。平成11年度は、この体系に基づき、化学物質の環境調査、底質モニタリング及び生物モニタリング等を実施した。また、OECDのHPV点検プロジェクト等における化学物質の環境リスク評価のため、平成7年度からOECDのテストガイドラインを踏まえて、藻類、ミジンコ、魚類を用いた生態影響試験を実施しており、平成11年度においては、58物質について試験を行った。


 昭和47年に生産等が中止されて以降、本格的な処理が進まず事業者等により保管が続けられているPCBの処理については、平成9年12月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という)の施行令が改正され、化学処理法等の新たな分解処理方法が処分基準の中に位置付けられた。これは平成10年6月から施行され、PCBの処理の促進が期待される。これに関して、平成9年10月に新たな処理技術の評価及び今後のPCB処理方策等についての検討委員会中間報告を公表、さらに平成10年6月にこれを補足する第2次報告を公表した。平成11年度はPCB処理の円滑な推進をさらに図るための方策を検討した。

(3)国際動向

 経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機関では、化学物質対策に関する種々の活発な活動を主宰しており、我が国も積極的に参加している。

ア OECDの活動
 OECDでは、新規化学物質の安全性評価のためのテストガイドライン(化学品安全性試験法)の作成、化学品のリスク評価手法、GLP(優良試験所基準)、情報交換システム、有害性に関する分類と表示の調和、化学品事故への対応等について検討を行っており、これらの成果を受け、化学品管理に関する種々の措置について決定や勧告が採択されている。
 既存化学物質については、各国で大量に生産されている化学物質(HPV)の安全性点検を分担して実施する国際プロジェクトを推進しており、我が国も積極的に参加している。また、既存化学物質のリスク管理方策の検討を進めている。
 さらに、有害性のある化学物質について、事業者からの報告等により環境中への排出量及び廃棄物に含まれる移動量を把握、集計、公表する仕組みであるPRTR(Pollutant Release and Transfer Register)の導入を推進しており、1996年(平成8年)2月のPRTR実施についての理事会勧告に基づく各国の実施状況をとりまとめているほか、1999年(平成11年)12月にはオーストラリアで排出量の推計方法に関するワークショップを開催した。我が国においても、1999年(平成11年)7月に成立した「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」により、PRTR制度を導入した。
 有害性に関する分類と表示の調和については、これまでに急性毒性、発がん性、水生生物への生態毒性など9種類の有害性項目の分類方法について合意されたが、現在2000年(平成12年)の第3回全体会議(IFCS?)に向けて、さらに混合物の分類方法等、残された懸案事項についての検討が進められている。
 1994年(平成6年)より特別プロジェクトとして実施されている農薬ワーキンググループでは、農薬の安全性に係る再評価の国際分担や農薬によるリスク削減対策等についての検討が進められている。

イ WHOの活動
 WHO及びUNEP、国際労働機関(ILO)の他、各国の主要な研究機関との間の有機的な協力に基づき国際化学物質安全性計画(IPCS)において、安全性に係る対策の優先度の高い化学物質のリスク評価、健康へのリスク評価手法の開発等の活動が実施されており、この成果として化学物質ごとの環境保健クライテリア(EHC)の刊行等が行われている。

ウ UNEPの活動
 UNEPでは、化学物質の人及び環境への影響に関する既存情報の収集・蓄積並びに化学物質の各国の規制に係る諸情報の提供等が行われている。また、有害な化学物質による環境汚染を防止し、環境上適正な使用に資するため、使用が禁止又は厳しく規制されている化学物質の貿易時における情報交換の手続及び輸出先国への事前通報・承認(PIC)手続を定めたロンドンガイドラインを条約化したロッテルダム条約が1998年(平成10年)9月に採択され、我が国は1999年(平成11年)8月に署名した。
 さらに、PCBやDDTなどの残留性が高く生物濃縮されやすい有害な化学物質(POPs)による地球規模の汚染が問題とされ、1997年(平成9年)2月のUNEP管理理事会においてそれらの削減又は排出を廃絶することを目的とした国際的拘束力のある手段を2000年(平成12年)中を目途に確立することが決議されたことを受け、1998年(平成10年)6月以降条約化政府間交渉委員会が開催されており、2000年(平成12年)3月には第4回会合が開催された。我が国としては化学物質審査規制法の施行以来蓄積された分解性・蓄積性・慢性毒性等に関する知見、環境モニタリングデータ等に基づき、本条約化交渉に積極的に参加している。

エ 「アジェンダ21」のフォローアップ
 1992年(平成4年)6月の環境と開発に関する国連会議(UNCED)において採択された行動計画「アジェンダ21」の中に「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」として1章が割かれ、国際的に取り組むべき項目が以下のように示された。
? 化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進
? 化学物質の分類と表示の調和
? 有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換
? リスク低減計画の策定
? 化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化
? 有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止
? 国際協力の強化
 これらの効率的なフォローアップを行うため、1994年(平成6年)4月に化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)が設立された。現在は第3回全体会議(IFCS?)に向けて、各国の協力のもと取り組むべき事項についての検討が進められている。IFCS?は2000年(平成12年)10月にブラジルで開催される予定である。
 なお、これらの項目のうち?については、化学物質情報の交換手段として、「地球規模化学物質情報ネットワーク(GINC)」の構築が企図され、日本の積極的な支援により開始されている。

(4)国際的動向を踏まえた我が国の取組

 関係省庁においては、OECDにおける化学品プログラムに関する調整作業、HPVの安全性点検等に積極的に対応するとともに、試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、GLPに関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性について総合的に評価するための手法等についての検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っている。
 1999年(平成11年)度においては、OECDのHPV点検プロジェクトにおいて、我が国として9物質について必要な知見を収集する試験の一環として、生態影響試験、毒性試験等を実施し、OECDの初期評価会合へ初期評価報告書を提出した。

(5)国際協力

 現在多くの化学物質が世界中で生産、使用、廃棄されていることから、その安全対策は国際的協調の下に推進することが不可欠である。「アジェンダ21」においても、化学物質の安全性確保に関する発展途上国への支援が挙げられており、関係省庁においても、安全性評価等に関し、技術協力を実施している。

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