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第6節 

1 陸域〜植生・動物分布の状況

(1)日本列島の植生において森林の存在は特に重要である

 植生は一般に時間とともに変化し、最終的に安定的な生態系である極相となる。日本の気候では、?南西諸島から東北南部に広がるタブ、カシ類、シイ類といった常緑広葉樹(照葉樹)の森林、?九州南部から北海道南部までの、常緑広葉樹林より寒冷な地域に広がるブナ林などの落葉広葉樹の森林、?北海道に広がるエゾマツ、トドマツといった針葉樹とミズナラ等の落葉広葉樹の混成する針広混交林、?エゾマツ、トドマツ林に代表される亜寒帯針葉樹林等が代表的な気候的極相である。自然性の高い地域ではこうした極相の植生が見られるが、その地域は必ずしも多くはない。
 平成2〜4年度に実施した第4回調査の解析は、植生帯及び自然植生と代償植生との別に分類した植生区分と、植生への人為の加わり度合いにより分類した植生自然度区分の二つの区分により行った(3-6-1表3-6-2表3-6-1図3-6-2図)。

 植生区分別では、森林・草原・農耕地等何らかの緑で覆われた地域は、全国土の92.5%に達する。中でも森林は67.1%を占め、アメリカ合衆国(32.6%)、イギリス(10.4%)、フランス(27.4%)、ドイツ(29.9%)、カナダ(45.3%)(海外の数値はOECD環境データによる1995年時点のもの)と比較しても高い水準にある。
 自然度別では、自然林に自然草地を加えた自然植生は国土の19.1%と2割を切っており、このうち2分の1以上に当たる58.8%が北海道に分布している。一方、近畿、中国、四国、九州地方では、小面積の分布域が山地の上部や半島部、離島等に点在しているにすぎない。
 総体としては、自然度の高い植生(自然草原、自然林、自然林に近い二次林)、人為の影響を受けた植生(二次林、二次草原)、人為的に成立した植生(植林地)、土地改良の進んだ植生(農耕地、市街地、造成地等)が調査時点ではほぼ4分の1ずつ占めている。しかし、昭和58〜61年度に実施した第3回調査との比較から、自然林、二次林は減少し、植林地、市街地、造成地等は増加傾向にあり、現時点でもこの傾向は続いていると推測される。






(2)日本列島は多様な動物分布を有している

 動物地理区上日本列島は、鹿児島県の屋久島・種子島と奄美大島との間の渡瀬線という分布境界線により二分されている。渡瀬線より北は旧北区、南は東洋区と呼ばれているが、旧北区である本州以北に生息する大部分の日本の動物は、例えばトガリネズミ類、リス類、イタチ類は中国華中以北のユーラシア大陸に生息する動物との類縁性が高く、東洋区である奄美・琉球諸島の動物、例えばケナガネズミは台湾や東南アジア諸国に近縁種が多く生息する。また、島国という地理的特徴による隔離効果により、ヒミズ、ヤマネ、アマミノクロウサギのような固有種も多数存在する。そのほかに動物の分布境界線としては、北海道と本州の間に位置するブラキストン線等がある(3-6-3図)。
 動物分布調査として、哺乳類、両生類、爬虫類、淡水魚類、昆虫類、陸産・淡水産貝類及び鳥類について調査した。この中で、例えば鳥類については、集団繁殖地や集団ねぐらをつくる習性がある日本産鳥類22種について分布と生息環境の調査を実施した。一般に、集団繁殖地や集団ねぐらを形成する鳥類の生息地の環境変化は個体群全体に大きな影響を持つため、生息環境の調査は大きな意味をもつ。ここでは、コサギ、イワツバメの2種類を紹介する。
 コサギは、一般に「しらさぎ」と称される全身白いサギのうち、一番小型のものである。ダイサギ、ゴイサギ等と複数種で集団繁殖することも多く、本州から九州にかけて分布が認められた。生態系の捕食者側であるサギ類の集団繁殖地は、営巣環境と採食環境がともに残された豊かな自然を示している。
 イワツバメは、尾の切れ込みが浅く腰部の白い小型のツバメである。九州以北の全国に分布し、海岸や山地の岩の窪み等に巣を作るが、近年は平地の市街地にも多くなっている。調査の集団繁殖地は、ほとんどが建築物のコンクリートの壁面につくられており、50巣以下の小規模のものであった。また、過去の情報と比較して分布域の変化は明らかではなかった。

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