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第5節 

2 化学物質による生物の汚染

(1)化学物質による野生生物の汚染についてもモニタリング調査・研究が行われている

 汚染物質の中には、大気、水質、土壌、底質といった様々な環境の自然的構成要素間にまたがってその存在が確認されているものがあり、生物も汚染の危険にさらされている。
 一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした平成9年度の魚類に関する化学物質環境調査結果によると、調査対象2物質のうち、テトラフェニルスズが検出されたが、これは底質からも検出されており、今後も調査及び監視が必要である。
 継続的に行っている生物モニタリング調査では、12種類(魚類8種、貝類2種、鳥類2種)の生物を21地点で採取した。結果は、調査対象11物質のうち、魚類からは11物質、貝類からは10物質、鳥類からは4物質が検出された(3-5-3表)。PCBなどは使用が中止されてから25年以上経つが、なお延べ14地点から検出されている。PCBなどは分解されにくく、生物の体内に入ると、排泄されにくいため蓄積されやすい。このため、一般に食物連鎖の上位に向かうほど濃縮率が高くなる。DDT類、クロルデン類なども農薬や防虫剤等として用いられたものであり、引き続き残留状況を調査していく必要がある。
 非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査においても生物を検体としてダイオキシン類等の調査を行っている。平成10年度の調査結果は、前年度までの調査結果と比較して大きく変化したとは認められないが、環境中から広く検出されているため、今後も推移を監視していく必要がある。
 また、平成10年度に実施されたダイオキシン類の野生生物中での蓄積状況について見ると、生態系の食物連鎖における高位捕食者では低位捕食者に比べて、高い蓄積量を示す傾向が認められた。また、陸棲生物では、相対的にPCDD+PCDFの蓄積量が高く、一方、海棲生物ではコプラナーPCBの蓄積量が高い傾向が見られた。
 平成10年度環境ホルモン緊急全国一斉調査のうち、野生生物の部分について見てみる。内分泌かく乱作用が疑われている67物質のうち、生物濃縮性、環境残留性、使用実績、環境中の検出例を考慮し、また、検出される可能性が低い物質を除いた25物質について、12種類(魚類、両生類、海棲ほ乳類、鳥類、陸上ほ乳類)計499検体の蓄積状況調査を行うとともに、影響調査として形態、組織学的な異常の有無等についても調査を行った。この調査結果では、25物質のうち19物質が検出されたが、環境庁がこれまでに調査(魚類)したことのある12物質について、過去の調査結果を上回ると判断できた物質は1物質のみであった。また、一部の個体に組織学的な変化が見られたが、これらの変化と化学物質の体内への蓄積との関係については、今回の調査結果からは不明であった。



(2)ダイオキシン類の人体、血液及び食事中の蓄積状況について調査が行われている

 平成10年度に実施された全国一斉調査のうち、人体、血液及び食事中の蓄積状況等についての調査結果は次のとおりであった。
 人体については、ダイオキシン類に関して、わが国における人の臓器の平均的な蓄積状況を調査した結果、脂肪重量当たりの毒性等量で脂肪組織、肝臓、精巣又は卵巣、血液は中央値で41〜51pg-TEQ/gfat、臍帯は12pg-TEQ/gfat、脳は2.0pg-TEQ/gfatであった。
 血液については、全国6地域の一般環境地域(計234人)及び廃棄物焼却施設周辺地域1地域(19人)に居住する合計253人の住民について、血液中におけるダイオキシン類濃度を測定した結果、平均値で18pg-TEQ/gfat、中央値17pg-TEQ/gfat、範囲1.3〜53pg-TEQ/gfatであった。また、廃棄物焼却施設周辺地域で実施した調査では、平均値で17pg-TEQ/gfat、中央値17pg-TEQ/gfat、範囲5.9〜38pg-TEQ/gfatであり、一般環境地域と廃棄物焼却施設周辺地域の間では有意な差は認められなかった。
 食事については、平成9年及び10年度に陰膳方式により採取した食事試料を活用して、計48試料について、試験的に臭素系ダイオキシンを測定するとともに、参考として併せて塩素系のダイオキシン類を測定した。その結果、臭素系ダイオキシンについては、分析した全てにおいて定量下限値未満であった。また、塩素系のダイオキシン類については、1日に摂取されたダイオキシン類の総量では、平成10年度(平成9年度)については、算術平均値で0.94pg-TEQ/kg体重(0.81)、中央値で0.78pg-TEQ/kg体重(0.42)、範囲は0.0070〜3.6pg-TEQ/kg体重(0.015〜4.8)であった。
 わが国における母乳の濃度については、平成10年度に全国21地域における計415名の出産後30日目の母乳について調査した結果、脂肪1g当たり平均22.2pg/gであり、他の国とほぼ同程度の濃度と考えられている。また、平成9年度に実施された母乳中のダイオキシン類に関する研究では、昭和48年以降ダイオキシン類の濃度は減少してきており、母乳中のダイオキシン類濃度は、最近までにおおむね2分の1程度になっている(3-5-3図)。




ダイオキシン類全体の毒性の強さについて

 ダイオキシン類は、毒性の強さがそれぞれ異なっており、PCDDのうち2と3と7と8の位置に塩素のついたもの(2,3,7,8−TCDD)がダイオキシン類の仲間の中で最も毒性が強いことが知られている。
 そのため、ダイオキシン類としての全体の毒性を評価するためには、合計した影響を考えるための手段が必要である。
 そこで、最も毒性が強い2,3,7,8−TCDDの毒性を1として他のダイオキシン類の仲間の毒性の強さを換算した係数が用いられている。多くのダイオキシン類の量や濃度のデータは、この毒性等価係数(TEF)を用いてダイオキシン類の毒性を足し合わせた値(通常、毒性等量(TEQ)という単位で表現)が用いられている。

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