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第5節 

2 循環型社会を構築する上での個人の取組の重要性

 これまで個人を中心に環境保全への取組について述べてきたが、これらの取組は循環型社会を構築する上で重要な要素といえる。ここでは、循環型社会を構築する上で必要な個人の取組とそれを取り巻く各主体の役割についてこれまで述べてきたものを整理する。
 近年、大量の廃棄物が排出されている一方で、発生抑制やリサイクルが十分に行われていない結果、最終処分場の残余容量の逼迫、廃棄物焼却に伴うダイオキシン類の発生、不法投棄件数の増大等の様々な問題が発生しており、深刻な社会問題となっている。こうした廃棄物を巡る問題の解決のためには、「出された廃棄物を適正に処理する」という対応ではもはや限界があり、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システム自体を変革することが必要である。具体的には、物質やエネルギーの利用効率を上げ無駄を減らすこと、生産・消費を通じモノが廃棄物となるまでの期間を可能な限り長くすること、モノの消費から機能の利用を重視するなど、資源採取から廃棄に至る各段階での質と量の両面から効率的に環境負荷を減らす最適生産・最適消費・最少廃棄型の循環型社会の構築が必要である。そして、循環型社会の構築に当たっては、まず第一に、原材料の効率的利用などによる廃棄物の発生抑制(リデュース)、第二に使用済み製品又はその中から取り出した部品などをそのまま使用する再使用(リユース)、使用済み製品などを再生して原材料として利用する再生利用(マテリアル・リサイクル)、第三に環境への負荷の程度などの観点から以上の取組が適切でない場合、エネルギーとしての利用(サーマル・リサイクル)を推進すべきである。そして、なお発生する廃棄物については適正に処理することが必要である。
 こうした循環型社会を構築する上で、企業は、廃棄物や環境汚染物質の排出量が多いこと、その一方で製品のライフサイクル全体を考慮してその設計段階から環境負荷を低減させることができ、廃棄物処理・リサイクルに必要な高度な技術力、製品の環境情報を直接的に個人に提供できる能力を有していることから、その果たすべき役割は大きいといえる。こうした企業の環境保全への取組を促進させ、循環型社会の効率性や実効性を確保するためには、企業とともに市場を構成する個人の役割が重要である。
 まず第一に、消費者としての個人が重要である。環境への負荷の少ない製品を実際に製造するのは企業であるが、消費者がどのようなニーズを持つかによって、企業の生産、販売活動も変わってくる。消費者が環境負荷の少ない製品・サービス、例えば長寿命製品、繰り返して使用若しくはリサイクルしやすい製品を率先して購入すること(グリーン購入)により、企業における環境配慮型製品の開発に対するインセンティブが働く。つまり、消費者は、企業が提供する製品・サービスをただ黙って消費するだけの受け身の存在ではなく、むしろ環境対応にはコストがかかることを正しく認識するとともに、環境に配慮した製品・サービスや企業を積極的かつ適切に評価し、企業に対する選択の意思を積極的にメッセージとして発信していく能動的な役割を果たすべきである。
 これまで、消費者は、少しでも新しいモデルの製品が出れば購入したり、過剰ともいえる便利な性能を持つ製品を選好する傾向にあったため、企業も製品を設計する段階で、過剰な機能を搭載する一方で、製品の長期使用、製品や部品の再使用、製品中の有害物質の使用抑制への配慮をあまり考えない傾向にあった。しかし、最近では、例えば洗剤などにおける詰替用製品市場が拡大するなど、消費者の環境保全に対する意識の向上や技術革新による企業のリデュース、リユースへの活発な取組が見られる。また、最近の経済情勢も相まって、自動車中古部品や中古パソコンの市場の拡大、家電やパソコンのメンテナンス・修理業や様々なリユース製品を販売するリサイクルショップの伸張も見られる。
 また、消費者は、廃棄物の排出者として廃棄物などの排出の極小化やリサイクルを念頭に置いた分別回収への協力も求められる。
 第二に、投資家としての個人の役割も重要である。近年金融機関が開始したエコファンドがいずれも予想を上回る成功を収めているのは、投資を通じて環境保全に貢献しようとする個人の姿勢の表れとも考えられる。こうした中、環境保全を大きな事業戦略の柱にする企業が現れつつあり、環境保全への関心の高い個人や他の企業へのPRだけでなく、自らの事業経営の効率化、市場競争力の強化にもつながっている。
 循環型社会の構築のために個人がこれらの役割を果たすためには、行政は、ごみ処理の有料化等を通じ普段意識されていなかったコストを顕在化させることにより削減すべきコストを認知させること、一部の地方公共団体で行われている分別回収や環境教育・環境学習等を通じて環境保全上望ましい行動の内容を具体的かつ分かりやすく理解させることにより、個人の循環型社会への参加意識を高めること、あるいはラベリング、環境報告書、環境会計等の環境情報の透明化が進むような基盤整備を行うことが必要である。また、民間非営利団体の活動によって個人が環境保全への取組を継続的に行い、各主体に働きかけを行うことが期待される(2-5-4図)。
 ここでは特に、個人の立場から循環型社会のあり方について考えてきたが、循環型社会の構築は、個人、企業、行政各主体のどれか一つが役割を担えば全体がうまく働くというものではなく、関係する主体がそれぞれに求められる役割を担うことが必要である。そして、関係主体それぞれが循環型社会の構成員であることを自覚し、関係主体間のパートナーシップの下に適切な役割分担と相互連携が図られ、自主的かつ積極的な取組を行うことにより初めてシステム全体が機能し、相乗的な効果があげられるのである。



循環型社会の構築は持続可能な社会を実現する

 循環型社会の構築は、製品の長期使用や製品や部品の再使用を進展させるため、経済の縮小均衡をもたらすのではないかという指摘が一部に存在する。しかし、
1) 循環型社会においては、消費活動が「モノの消費」から「機能の利用」に重点が移る結果、産業構造の大きな転換が行われ、環境配慮型製品製造業、メンテナンス・修理業、環境コンサルティング等の環境関連サービス業などの新規産業の拡大が期待できること、
2) 循環型社会においては、廃棄物処分場の不足、有害物質の排出等環境保全上マイナスに作用する要因が縮小するため、従来これらの要因に振り向けていた資源を新たな財、サービスのための投資に振り向けることが可能となり、潜在的な需要が掘り起こされることにより、社会全体の効用が拡大していくこと、
などを考えれば、循環型社会において環境と経済は両立できることが、昨年の環境白書や「循環型経済システムの構築に向けて」(産業構造審議会:平成11年7月)で指摘されている。
 このことは、国立環境研究所等で開発されたアジア太平洋地域統合評価モデル(AIM)をベースに新たに開発中のモデルを用いて試算することができる。このモデルは、環境機器製造部門や一般廃棄物処理部門等の環境関連産業を個別に扱えるように産業連関表を組み替えた33部門からなる一般均衡モデルであり、環境制約下の生産者、消費者及び行政の環境配慮型行動とその経済影響を定量的に評価できる構造をもつ。
 標準ケースとして、環境制約を「2010年の廃棄物最終処分量を1996年比で50%削減及び2010年の二酸化炭素排出量を1990年比で6%削減」とするシナリオを想定する。これに、消費者や生産者が再生紙及び低公害車を積極的に購入するシナリオ(2010年の古紙利用率を56%、2010年の低公害車の販売台数を40万台(通常の自動車を600万台)と想定)を組み合わせると、以下の図に示すとおり、2010年時点で標準ケースに比べGDPは約4800億円増加すると予測される。


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