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第2節 

2 地球温暖化と個人の生活から排出される二酸化炭素

 個人の生活から排出されるもう一つの大きな環境負荷として、21世紀にはおそらく最大の環境問題となる可能性が高い地球温暖化問題の主要因である二酸化炭素(CO2)があげられる。

(1)家庭から排出される二酸化炭素は増加している

 平成9年度のわが国の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、民生部門は24.2%に相当する。このうちの11.6%がオフィスなどの事業所や小売業、ホテルなどの業務部門から排出され、残り12.6%が家庭部門から排出されている。
 家庭部門からは具体的にはどのような形でCO2が排出されているだろうか。家庭において消費する化石燃料には、直接的に消費するものとして暖房・給湯時や自家用自動車使用時の燃料があり、また発電所を通して間接的に消費するものとして照明・冷房時などの電力使用に伴うものがあげられる。このうち、運輸部門に計上されている自家用自動車使用時に排出されるCO2を除くと、1世帯が1年間に排出するCO2の総量は平成9年度で約3.4t(3,366kg。以下、数値はすべてCO2換算。)と試算される。これを体積に換算すると、1世帯当たり年間約181万r(気温15℃、1気圧の条件下での純粋なCO2の場合。以下同じ。)となり、家庭用浴槽(200r)で約9千杯(9,044杯)分、年間日数で除した1日当たりだと500p入りペットボトルで約1万本(9,910本)分に相当する。白黒テレビの普及率がほぼ100%に達した昭和40年当時の年間当たり浴槽約4千杯(3,861杯)分、1日当たりペットボトル約4千本(4,235本)分と比べると約2.3倍も増加している(2-2-18図)。
 用途別の排出量で最も多いのは照明・家電製品他の約1.5t(1,466kg(43.5%))であり、給湯の約0.9t(935kg(27.8%))、暖房の約0.9t(884kg(26.3%))、冷房の約0.1t(81kg(2.4%))がそれに続いている(2-2-19図)。暖房と冷房の差が大きいのは、これは暖房期間が年間約4か月であるのに対して冷房期間は実質約1か月程度であること、外気との温度差が冷房の方が小さいこと、冷房の動力源はほとんど電力であり、動力への変換効率が高いことなどがその理由と考えられる。また、CO2の排出量はすべての用途で増加傾向にあるが、暖房では床暖房や暖房機器のグレードアップ、給湯ではシャワー利用によるお湯の使い方の変化、照明・家電製品・他や冷房では家電製品やルームエアコンの普及がその要因ではないかと考えられる。
 一方、供給エネルギー源の面で見ると、灯油からは約0.8t(789kg(23.4%))、都市ガスからは約0.6t(622kg(18.5%))、LPGからは約0.4t(384kg(11.4%))のCO2が排出されるのに対し、電力使用からは約1.6t(1,571kg(46.7%))と総排出量の実に半分が排出されている(2-2-20図)。このことは、家電製品などの大型化や多様化、普及拡大が、家庭からのCO2排出量を増加させる特に大きな要因であることを示している。近年の家電製品は、単体で見ると省エネルギーが進展し、待機電力を大幅に削減したものも登場しているが、その使用総量が増えれば効果が相殺されてしまう。地球温暖化問題に対処するために、家電製品を使用する際に常にCO2の発生について考慮すべき時が来ているといえよう。





(2)運輸部門における二酸化炭素排出量は自家用乗用車の利用に大きく影響される

 運輸部門は乗用車、バス、トラック、船舶や航空機などの交通機関から構成される。すべての交通機関は、燃料あるいは動力源として化石燃料を使用する限り二酸化炭素(CO2)の排出源となるが、とりわけ自家用乗用車がCO2の排出量に大きな影響を与えている。
 自家用乗用車は旅客部門全体の約半分(59.9%)の輸送を担っているが、エネルギー消費量は全体の約8割(83.7%)を超えており(2-2-21図)、輸送効率の面から見た場合、エネルギーを多く消費する比較的環境負荷の高い交通機関であるといえる。平成10年度に運輸部門で消費されたエネルギーのうち、熱量換算で実に97.9%がガソリン・軽油などの石油製品によってまかなわれていることを考えると、自家用乗用車の利用が増加するに伴い石油燃料の消費量が増加し、同時に排出されるCO2の量が増加することになる。
 自家用乗用車の運転でどの程度のCO2が排出されるのか、単純な試算をしてみたい。皇居外周を一周(7km)運転する場合を想定しよう。平成7年における2000ccオートマチック乗用車の燃費は平均10.2km/r(10・15モードサイクルの場合。平均速度22.7km/h、最高速度70km/h)である。ガソリンの燃焼により1r当たり約2.36kg(CO2換算。以下、数値はすべてCO2換算)のCO2が排出されるとすると、この乗用車は皇居外周を一周(7km)する間に約1.62kgのCO2を排出することになる。これを体積に換算すると約870r(500p入りペットボトルで1,739本分。気温15度、1気圧の条件下での純粋なCO2の場合)となり、これは(1)で家庭部門において試算した、1世帯が1日に排出するCO2総量の約18%に当たる。この乗用車は皇居外周を一周するのに約18分を要するが、同じ18分間におけるCO2の排出量は、家庭部門の場合の約14倍にも相当する(2-2-22図)。
 運輸部門全体のCO2排出量は年々増加しており、そのうち自家用乗用車の占める割合は最も高い(55.1%)ことに加え(第1章第1節1-1-8図)、自家用乗用車の保有台数も毎年伸び続ける傾向にある。個人の移動手段の選択は、運輸部門全体のCO2排出量を左右する大きな影響力を持っている。




(3)産業部門における二酸化炭素の排出は個人の生活がもたらす環境負荷の一部でもある

 わが国最大の二酸化炭素(CO2)排出源(40.1%:平成9年度)が産業部門である。産業部門とは鉄鋼業、化学工業、製紙・パルプ業等の工場・事業場のことを指し、個人の日常生活とは一見無縁であるかのようだが、実際には大きな関わりがある。
 個人は産業部門が生産する製品を購入し、使用している。そして産業部門が生み出す製品の一生(ライフサイクル)からは様々な環境負荷が発生しており、CO2もその一つである。ある製品のライフサイクルとそこから排出される環境負荷、そのうちCO2がどの部門で集計されるかを模式的にまとめたものが2-2-23図である。例えば、原材料生産段階では原材料採掘用機械の燃料、製品の組立・加工段階では工場で使用される電力や燃料、廃棄段階では焼却などに使用される燃料などからCO2が排出されており、消費(使用)段階に当たるものが民生部門での排出量、各工程を結ぶ輸送段階に当たるものが運輸部門での排出量に計上されている。
 つまり、ある製品の製造から廃棄に至るライフサイクル上において排出されるCO2は、個人がその製品を購入し、消費し、廃棄することによって誘発されていると考えることもできる。このことからも、個人のライフスタイルのあり方が経済社会システム全体のCO2排出量の増減に実に大きな影響力を持っていることが分かり、ライフスタイルのあり方を変えることが、CO2排出量削減に大きく寄与するといえよう。




エコポイントを用いた環境負荷削減度の将来予測

 「世帯タイプ」と「世代ごとの価値観」に着目して、環境保全活動による環境負荷削減度の将来予測を行った。具体的には、
? 国立社会保障・人口問題研究所の世帯タイプ別世帯数推計値、環境庁が行った「環境にやさしいライフスタイル実態調査」から、世帯タイプ別の将来の環境保全活動を予測し、
? これらの環境保全活動と環境負荷を結びつけるため、京都大学の高月教授が開発した「エコポイント」の考え方を利用して、世帯タイプ別の将来的な環境負荷削減度を推計した(エコポイントとは、環境改善に効果があると考えられる身近な取組が、どれだけ地球温暖化、廃棄物、水質汚濁、大気汚染、自然破壊等の環境負荷を削減する上で効果的かを、環境関連の専門家や有識者に対する調査を通じて算出するもの)。

 その結果、世帯を非高齢単独世帯(65歳未満)、ファミリー世帯(親子世帯及び65歳未満の夫婦世帯)、高齢世帯(65歳以上の単独世帯及び夫婦世帯)の3種類に分けて、環境保全への取組による負荷の削減度を比較すると、ファミリー世帯全体の負荷削減度は今後徐々に低下するが、高齢世帯全体では徐々に増加するという、世帯数の将来の増減を反映したものとなった。
 また、環境保全活動別に見たところ、余暇・自然活動、リサイクル活動による負荷の削減度は、2010年まで増加しそれ以降は横ばいになる一方で、グリーン購入や参加型活動による負荷の削減度は、2005年までは増加するがそれ以降は減少するという結果となった。これは、世代ごとの価値観が将来にわたって持続するという前提を反映したものであると考えられる。つまり、資源節約意識の強い現在の高齢世代に比べ、大量消費型の生活を経験した団塊世代が高齢化した場合には、必ずしも環境保全活動が進むとはいえないということに起因している。
 今後、個人の消費や各種環境保全活動への参加を通じた環境保全への取組の必要性がますます高まることが予想されるが、影響の大きい団塊世代に、環境保全意識の向上や取組の活発化を求め、後に続く世代をリードさせることが肝要であるといえよう。


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