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第2節 

1 個人の生活に身近な環境負荷の現状

(1)家庭ごみは現代の生活を反映している

ア 廃棄物の分類と一般廃棄物総排出量
 廃棄物処理に関する基本的な事項を定めた「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)によれば、廃棄物は大きく、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油など19種類の「産業廃棄物」と、その他の廃棄物の「一般廃棄物」に区分され、そのうち一般廃棄物はさらに「ごみ」と「し尿」に分類される。そして、ごみはさらに商店、オフィス、レストランなどの事業活動によって生じた「事業系ごみ」と一般家庭の日常生活に伴って生じた「家庭ごみ」に分類される。
 家庭ごみと事業系ごみを合わせたごみの平成8年度総排出量は約5,115万tであり、平成8年度の産業廃棄物総排出量約4億500万tと合わせた廃棄物全体の排出量の約11.2%に当たる。ごみの総排出量は微増を続けてきたが、平成2年以降は減量対策の進展に加え、景気後退も相まってここ数年横ばい傾向にある(2-2-1図)。



イ 家庭ごみの現状
(ア)1人1日当たりごみ排出量
 家庭ごみと事業系ごみを合わせた平成8年度の1人1日当たりのごみ排出量は1,114gであり、ごみ総排出量と同じく横ばいで推移している(2-2-1図)。
 全国平均のごみ排出量の構成比は家庭ごみが約7割、事業系ごみが約3割となっているが、人口規模が大きくなると、ごみの排出量の増加とともに商業などの集積を反映した事業系ごみの占める割合が大きくなる傾向がある(第1章第2節1-2-7図参照)。
(イ)家庭ごみと容器包装廃棄物
 1人が1日に排出する家庭ごみは約800gであるが、この組成はどのようになっているのだろうか。ごみの重量と大きさ(容積)の観点から考えてみたい。
 まず、水分を含んだ湿重量の組成では、厨芥類(台所ごみ)、紙類がそれぞれ約30%、次いでプラスチック類が約10%で続き、この3種類で家庭ごみの約7割を占めている(2-2-2図)。
 次に大きさ(容積)で見ると、湿重量で最も大きな割合を占めていた厨芥類はわずか約6%ほどの容積となるのに対し、湿重量では全体の約10〜15%であったプラスチック類が、容積では全体の約40%を占めるまでに膨れ上がるという特徴が見られる(2-2-2図)。
 家庭ごみ中のプラスチック類のほとんどはパックやカップなどの食料品関係、販売店の手提げ袋などの容器包装に使用されている。紙やガラス、金属などを含めた容器包装類廃棄物は、湿重量では家庭ごみの約24.5%に当たるが、プラスチック類のほとんどが容器包装類に用いられているため、容積で見た家庭ごみ全体の約60%は容器包装廃棄物で占められることになる(2-2-3図)。つまり、現代の家庭ごみは、「容器包装」というもともと「ごみ」に転化せざるを得ない存在で容積の半分近くが占められ、その結果として家庭ごみ全体が重量の割にかさばり、処理のしにくい存在になっている。
 一方では、容器包装類のリサイクルの動きも進んでいる(第3章参照)。平成7年には、容器包装類の減量を図ることが家庭ごみの減量につながるとの観点から「容器包装に関する分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(容器包装リサイクル法)が制定され、平成9年4月から一部施行、平成12年4月からは対象を拡大して、完全施行された。容器包装廃棄物に対応する社会的な基盤は徐々に整いつつある。


(ウ)家庭ごみと食生活
 湿重量で見た家庭ごみの構成のうち、最も大きな部分を占める厨芥類(台所ごみ)と我々個人の食生活との関わりを考えよう。国民1人当たり1日に供給される食料(酒類を除く。)は、熱量(カロリー)ベースで増加傾向にあり、平成9年度は2,619kcalが供給されているが、同年度に国民1人が1日に摂取する食料(酒類を除く。)は、熱量ベースで1,948kcalとなっている。この二つの統計は調査方法の違いがあるため、単純には比較できないものの、両者の差は食べ残し、廃棄を要因とするものが多いと考えられる(2-2-4図)。
 もちろん食べ残し、廃棄のすべてが家庭から生じているわけではなく、農林水産省の推計によれば、平成8年度の食品廃棄物の総排出量約1,940万tのうち、家庭からは半分に当たる約1,000万t(51%)が排出され、食品販売業、外食産業などから約600万t(31%)、食品製造業などから約340万t(18%)が排出されている(2-2-5図)。
 家庭からの排出量とほぼ同じ量が食品製造業や外食産業から排出されているということは、食分野への調理済み食品の浸透や外食機会の増加がそれだけ進行していることを示しており、外食に中食(なかしょく…持ち帰りや宅配される食事)を合わせた食の外部化率が年々上昇を続けていることからも明らかである(2-2-6図)。また、京都市における家庭ごみの組成調査によれば、厨芥類(台所ごみ)において調理くずの重量が減少し、食べ残しの重量が増えているという傾向が見られる。食べ残しの中では未開封のまま捨てられるものが増加しており、現代の食生活の変化が家庭ごみにおける厨芥類の組成を大きく変えていることが示されている(2-2-7図)。
 同時に、廃棄物対策の一つとして食品廃棄物のリサイクルや発生抑制を一層促進していくことも求められている。平成12年3月に第147回国会に提出された「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律案」は食品製造業、食品販売業、外食産業などの食品関連事業者による食品廃棄物等の肥料、飼料へのリサイクルや発生抑制を促進するものである。同法案は家庭の台所ごみを直接の対象とするものではないが、外食化・中食化が進んだ現在、食品関連事業者による食品廃棄物等のリサイクルを通じ、個人の食生活に対しても、食品廃棄物の発生抑制等に対する意識啓発を図るものと期待される。容器包装廃棄物に続いて、食品廃棄物に対応する社会的な基盤も次第に整いつつあるといえよう。






ウ ごみの焼却とダイオキシン類問題
 家庭ごみを含むごみの多くは焼却処分され、平成8年度には全国平均で76.9%が焼却処分されている。しかし、不適切なごみの焼却は、ダイオキシン類の排出を招くおそれがあり、ダイオキシン類の年間排出総量の約90%が産業廃棄物も含めた廃棄物焼却の際に発生している(2-2-8図)。
 平成11年2月に設置されたダイオキシン対策関係閣僚会議は、同年3月にとりまとめたダイオキシン対策推進基本指針において、平成14年度までに全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べて約9割削減するとの目標を掲げた。さらに、平成11年9月には、ダイオキシン類対策としてまず焼却対象となる廃棄物を減らすことが重要であるとの観点から、平成22年度を目標に一般廃棄物、産業廃棄物ともに最終処分量を半減することなどを行う「廃棄物の減量化目標」を策定した(2-2-9図)。また平成12年1月に施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」では、大気、水質、土壌の環境基準を定めること、廃棄物焼却施設等を特定施設に指定して排出規制を行うこと、焼却施設などの集中地域での総量規制を行うこと、国民の責務として日常生活に伴って発生するダイオキシン類による環境の汚染を防止するよう努めることなどが規定された。
 ダイオキシン類は、酸素、塩素、炭素といったありふれた物質で構成されているため、条件がそろえば比較的簡単に生成される可能性がある。適切な規制により未然の発生を防止するとともに、廃棄物の減量について積極的な取組を進めていくことが、今後ますます重要になってくるといえる。




(2)廃家電製品は増加し続けている

ア 家電製品の普及
 家庭における家電製品の保有台数と普及率は年々増加し続けている。多機能型テレビ、ビデオなどに代表される高性能型機器、ワープロ、パソコンなどの情報関連機器、電子レンジや全自動型洗濯機などの省時間型機器、温水洗浄便座などの快適指向関連機器に至るまで、多くの家電製品がその台数を伸ばし続けている。また、テレビ、ルームエアコン、ビデオデッキなどを2台以上所有している世帯の増加が目立っており、1人に1台、1部屋に1台といった形での家電製品の普及が進行していることを示している(2-2-10図2-2-11図)。




イ 廃家電製品の増加
 家電製品の普及は、同時に廃棄される家電製品の増加をもたらす。主な廃家電製品である冷蔵庫、カラーテレビ、ルームエアコン、洗濯機の平成9年度の廃棄量は約65万tで、一般廃棄物約5,115万tの1.3%に相当しており(2-2-12図)、廃棄台数の推移を見ると昭和62年には4品目で約1,300万台だったものが平成11年には約2,000万台と、12年間で約45%もの増加を示している(2-2-13図)。東京都における粗大ごみのうちでも、家電製品は上位20点中10点を占めており(2-2-14図)、廃家電製品全体の約45%を最終処理している地方公共団体では、進展する機器の大型化や組成、構造の複雑さのために適正な処理が困難になっている状況も見られる。
 このように増加を続ける廃家電製品に対して、家電製品の平均使用年数は近年あまり変化していない状況にある(2-2-15図)。家電製品補修用性能部品の最低保有期間を超えた部品保有は事業者にとって困難な面もあるため、製品の長期使用化への動きは十分ではない。また、パソコンを始めとする情報関連機器は技術革新が著しく進んでおり、第1章第2節でも指摘したように、今後は廃棄が増加するものと考えられる。
 このように増加する廃家電製品に対応するため、平成10年に成立した「特定家庭用機器再商品化法」(家電リサイクル法)が平成13年4月から施行されることとなっている。当初は主要廃家電製品である冷蔵庫、テレビ、エアコン、洗濯機の4品目が対象とされているが、この他にもパソコンなどでは業界の自主的取組を中心としたリサイクルの動きが進行しており、廃家電製品のリサイクルを取り巻く社会的基盤は次第に整えられつつある。






(3)生活排水は水質汚濁の大きな割合を占めている

ア 水質汚濁に占める生活排水の割合
 水質汚濁に対して生活排水の占める割合はかなり高い。総量規制が行われている閉鎖性3海域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)での水質汚濁の度合いを示す化学的酸素要求量(COD)は年々減少しているものの、依然としてCOD全体に占める生活排水の割合は産業排水を上回っている(2-2-16図)。このことは、個人の生活における水使用のあり方が水質汚濁に大きな影響を与えていることを示している。



イ 生活排水の性状
 わが国の水使用量の約2割を占める生活用水の量は年々増加している。平成8年の1人1日当たりの生活用水平均使用量は323rであるが、これには家庭だけでなく、事業所用と公共施設用も含まれているため、実際に家庭で使用される水の量は1人1日当たり約200〜300r程度と考えられる。それでもこれはドラム缶1本分を超える量であり、ヨーロッパの一般的な水使用量といわれている150rに比べても多い。
 使用された水は最終的には排水となる。その量は各家庭の生活形態やリズムによって大きく変動するため幅があるが、おおよそ1人1日当たり150〜300rを排出する。1人1日約200rの生活排水を排出するとした場合、トイレが最も多く約50r、次いで洗濯が約45r、台所が約40r、風呂が約38r、洗面・手洗や雑用が約27r程度になると考えられる。
 1人1日当たりの生活排水中の環境負荷を示す生物化学的酸素要求量(BOD)を調べると、それぞれほぼ排水量に応じた値となっている中で、台所からの負荷が全体の約40%を占めて最も多くなっている点が注目される(2-2-17図)。これは、調理に使用される調味料や油脂などに含まれる水質汚濁物質の度合いが大きいためである。
 台所から排出される水質汚濁物質が多い理由の一つには、「食生活の洋風化」という言葉に表されているように、供給される食料のうち肉類、牛乳・乳製品などの量が増えた結果、排水口に流される油脂分や洗剤の量が増加し、台所から発生する負荷が大きくなっていることがあげられる。食生活と水質汚濁はまさに直結した関係にあるといえる。

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