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第1節 

2 個人の取組が社会を持続可能なものに変える力になる

 こうした中、1990年代初頭のいわゆる「バブル崩壊」とその後の不況、さらにはこれまでの欧米先進国を手本とした「追いつけ追い越せ」型の経済構造からの転換に対する将来への不安も相まって、近年、生活の質の向上を求め、個人の役割を見直そうという動きが大きくなりつつある。平成11年7月9日に閣議決定された「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」や平成12年1月18日に公表された内閣総理大臣の私的諮問機関「『21世紀日本の構想』懇談会」の報告書(「日本のフロンティアは日本の中にある」)においても、21世紀の国内外の社会経済活動に対応するためには、人々が自己責任の下、個人の個性や独創性を発揮し、積極的に経済活動に参画することが必要不可欠であると述べられている。このことは、環境問題への対応に関しても、同様に当てはまる。
 企業活動により排出される環境汚染物質の排出量は、相対的に個人の日常生活に伴う排出量に比べ多い。また、消費者が引き起こす環境負荷も含めて環境負荷低減のための対策として新たな技術開発や生産プロセスの変更など抜本的な対応が可能であることを考慮すれば、企業の環境保全への取組は不可欠であるとともに、より効果的かつ効率的である。こうした点から、複雑、多様化する環境問題に少しでも貢献するため、個人が、消費者、投資者、労働者の立場で企業に積極的に働きかけ、企業の環境保全への取組を促すという動きが起こりつつある。
 これに対し、一部の企業ではこうした個人の環境保全意識の高まりに積極的に対応した具体的な活動を行っている。例えば、昨今、企業の環境保全への取組を示した環境報告書や環境会計を導入する企業が増加する傾向にある。こうした取組は、事業の効率化と環境保全の両立を円滑に進める、いわゆる環境効率性を高めることに役立つ一方で、環境保全意識の高い消費者や投資家等の利害関係者とのコミュニケーションの手段として一役買っている。
 さらには、過疎化したり停滞している地域社会を復興するため、行政主導ではなく、地域住民の創意工夫により地域特性を活かした新たな地域コミュニティを作る動きが全国各地で見られるようになってきた。その中には、まさに地域の豊かな環境を活かしたもの、副次的に環境保全に資するものなど形態は様々であるが、地域の経済発展と環境保全の両立につながっている。

 本章では、個人の生活が環境保全に与える影響について、現状及び将来の分析を行うとともに、上で述べたような個人を中心とした環境保全への取組を具体的に考察する。そして、これらを通して、個人の価値観や選好とそれに基づく行動が、企業活動に影響を与え、ひいては社会を持続可能なものに変えていく力になることを示す。

企業による環境経営への取組

 個々の企業においても持続的発展に向けた内部の変革が進められている。それは産業活動に環境保全への取組を内部化していく動きであり、製品やサービスも含めて環境への対応が企業の経営戦略、事業戦略の中で徐々に具体化されていくことが必要である。昨年の環境白書においては、このような企業の対応を「環境経営」と位置づけ、その取組姿勢から四つのタイプに整理した。また、これまでの産業活動の歴史を振り返ってみると、第1のタイプから第4のタイプへ向かう時系列的な進化を経るものが多く、近年はそれが並列的に現れるという傾向がうかがえることを指摘した。

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