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第1節 

1 戦後の経済成長とその社会的影響

 第2次世界大戦後、わが国は、経済復興を国家目標に掲げ、その中枢を担う産業政策として重化学工業などの素材産業の育成に重点を置き、それを起爆剤として産業全体を復興させることに成功した。また、全国総合開発計画等における生産拠点の地方分散化は、市場経済を地方にも急速に広めることとなった。こうして、明治期以降の欧米諸国からの市場経済化の波は、第2次世界大戦において一旦頓挫するものの、戦後、それまでにも増して急速にそして全国的な広がりを見せた。
 経済の発展と科学技術の進歩に伴い、今や人々は買いたいものがいつでも手に入る便利で快適な生活を享受するようになった。現在、日本のGDPは世界第2位であり、物の豊かさという点では大部分の人々が充足感を持っている。しかし、物は豊かでも、心が豊かであるとは限らない。実際、高度経済成長期以後、物の豊かさよりも心の豊かさを求める人が多くなっている。
 生活を見ても、労働者として画一的な仕事を行うことにより、企業の「大量生産規格主義」の中に組み込まれる一方で、消費者として大量の製品・サービスを「大量消費」することとなった。まさに、個人が企業社会、市場経済の中に飲み込まれ、個性や独創性を発揮することが困難になっていった。さらに、地域においても、市場経済化の流れは大きく、人々の大都市への移動などが進み、伝統的な文化や産業などの地域独自の個性が失われるとともに、地域コミュニティの崩壊が進んだ。
 また、人々は、これまでの豊かな環境の多くを失うこととなった。戦後発達した製鉄や化学工業などの素材産業は、他の産業に比べて大型のプラントを設置し、大量の原料、水、電気を消費しながら製品を生み出し、その過程で様々な排出ガスや廃液を発生させた。さらに、地方に生産拠点が広がる中で、全国各地で深刻な公害問題を引き起こすこととなった。また、1970年代後半頃から、自動車の排出ガスによる大気汚染や生活排水による水質汚濁などの都市・生活型公害や廃棄物問題が、1980年代後半には、地球温暖化、オゾン層の破壊などの地球環境問題が注目され、企業側だけではなく、便利で快適な生活を享受している人々の「資源・エネルギー浪費型のライフスタイル」が大きな要因としてクローズアップされた。

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