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第3節 

1 新たな世紀における循環型社会の実現

(1)わが国が率先して循環型社会を形成することが求められている

 20世紀の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システムは深刻な環境問題を生みだした。通常の事業活動や日常生活に起因し地球規模の広がりを持つに至った環境問題は、20世紀中に解決することができないばかりか、21世紀を目前にして、一層深刻化し、今後の経済社会の発展を制約するおそれがある。
 また、21世紀を展望すると、20世紀の発展を支えてきた社会経済構造が大きく変化しようとしている。グローバル化、高齢化、情報化等に代表される内外の社会の変化は環境に対し、大きな影響をもたらす可能性がある。これらの構造変化が環境に与える影響としては、すでに述べてきたとおり好影響もあり、悪影響もあると考えられる。そして、現時点での予測結果は、好悪に大きく開いており、どちらの方向に進むかは、私たちの選択に任されている。どのような商品を選択するか、どのようなライフスタイルを送るかといった細かな判断の積み重ねが将来の進路を決める際に大きな役割を果たす可能性がある。
 こうした状況を踏まえると、新たな世紀を支える社会経済活動に求められる考え方や原則は、20世紀に優勢であった原則や考え方とは異なり、環境保全の視点を重要な構成要素にした新しいものにしていくことが不可欠となろう。
 具体的には、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて資源やエネルギー面でより一層の効率的な利用や循環利用を進め、廃棄物などの発生抑制や適正な処理が図られる必要がある。また、国民、企業、行政等全ての主体が、公平な役割分担の下で相互に連携しつつ環境に配慮した行動をとることが必要となるだろう。加えて、社会の変化や国民の需要の変化をあらかじめ予測し、環境への配慮を組み込んだ判断を行うことが必要となる。
 この結果、自然資源の過剰利用という現在の状況が修正され、効率的な資源利用や適正な資源管理が可能となることにより、少ない資源でより多くの満足が得られる環境への負荷の少ない循環型社会の形成が可能となる。
 例えば、このような社会では、モノからサービスへの移行が進み、第三次産業を中心とした新たな産業が発展するとともに、新たな雇用が創出されることとなるだろう。
 このためには、現在の経済社会の趨勢の延長のまま放置するのではなく、未来の社会は我々がこれから作っていくものであるとの認識の下に、望ましい未来はどうあるべきかを考え、その実現を目指して、今日から取り組んでいくことが大切である。
 取組の開始が遅れれば遅れる程、選択肢が狭まることを考慮すると、それぞれが自ら考え、そして積極的に取り組む、さらに、その効果が発揮されるようにそれぞれの主体の参加の促進や情報の普及促進などその基盤の整備について行政が早期に取り組むことが求められている。
 わが国は他国の資源・エネルギーに大部分を依存しながら大規模な経済活動を営んでいる国であり、序章で述べたとおり人類社会の持続可能性を確保するためには、率先して循環型社会を形成し、世界に向けてモデルを示すことが求められている。このため循環型社会の形成を推進するための基本的な法制度などを整備する必要がある。

(2)経済社会の構造変化に的確に対応できる環境対策の枠組みが求められている

 昨年の環境白書で述べたとおり、20世紀を振り返ると、環境対策は経済社会の構造変化に対応しきれず、後手に回ることが多かったといわざるを得ない。このため、公害や自然環境の破壊、地球環境問題の発生を招いた。新たな世紀においては、この苦い経験を活かし、経済社会の構造変化が環境問題にどのような影響を与えるかを予見し、あらかじめ必要な対策を講じるという予防原則にのっとった早期の対応が求められている。
 では、具体的にどのような環境対策の枠組みが求められるのであろうか。

ア 環境と経済社会の動向を政策主体が的確に把握すること
 現在の経済社会の構造は、非常に早いスピードで変化し続けており、これに応じて、環境に与える影響が、様々な分野で次々と顕在化している。また、経済社会システムの複雑化、多様化に伴い、環境に与える影響も一律ではなく、全く想定されていなかった影響が現れる可能性も大きい。例えば、フロンは安定した物質で人体に対しても安全という「夢の化学物質」として開発されたが、廃棄されたあとはるか上空でオゾン層を破壊する物質であった。
 したがって、まず環境の状況について的確な把握を行うことが必要であり、このために監視・観測の強化と、必要な場合には、原因の究明、対策の実施等迅速な対応を可能とするシステムの構築が求められる。
 一方、経済社会における様々な構造変化が環境に与える影響をあらかじめ予測し、把握することも重要である。第2節で触れた少子高齢化や情報化などはその一例であり、今後、社会経済の広い範囲で起こる事象と環境との関わりについて調査研究を進めることが求められる。

イ 社会経済活動をあらかじめ環境面から評価し予防的対応に努めること
 経済社会活動が環境に与える影響は、複雑な経路をたどり、また、影響を受ける側の環境の状況にもよるため一様ではない。第2節で見たように、高齢化等についても、全体として環境にどのような影響を与えるのかは不明である。しかし、環境対策が基本とすべき予防原則の観点からは、環境への影響をあらかじめ評価し、必要な場合は変更や緩和措置を講じることが求められる。
 このため、経済社会活動が環境に与える影響のデータの収集、分析や評価手法の確立が重要であるが、この分野に関しては、道路やダムなど環境影響評価法の対象となった施策を除き、まだ評価のための手法や判断基準などが確立していない。これら環境影響評価の問題については3で述べることとするが、一層の検討が必要となってこよう。

ウ 環境対策における利害関係者の円滑な合意形成を図ること
 環境への対応方策の実施に当たっては、様々な利害関係者が存在する。環境への対応を円滑に行うために、利害関係者の合意形成は欠かせない。社会の複雑化により価値観も多様となっているため、合意形成が困難な場合もあるが、合意形成のルールも含め、環境対策の方針、対策間の優先順位や実施方法などについて、利害関係者の合意形成を図ることが不可欠である。
 3で述べるように、現在、情報公開や国民の意見聴取の場の設定などにより、様々な合意形成の方法がとられるようになってきている。今後は、情報通信技術等を活用することにより、一層円滑な合意形成を図ることが期待できる。また、円滑な合意形成のためには、環境対策を講じた結果の評価及び評価の情報公開も不可欠である。

エ 活動主体の参加と連携を促進する環境対策の枠組みを構築すること
 現在の環境問題の原因と影響が社会経済活動と密接に関わっているため、これまでのような、画一的な対策のみでは、十分な対応が不可能となっている。このため、今後の環境対策の実施に当たっては、国、地方公共団体、事業者及び国民がそれぞれ適切に役割を分担して、自主的、積極的に取り組むことが必要である。それら関係者の適正な役割分担の下、特に、廃棄物の発生抑制及びリサイクルや処分の容易性に配慮した製品等に関する設計及び原材料の選択、製品等に関する使用済み物品等の収集などの観点から事業者の果たすべき役割が循環型社会の構築を図る上で重要であると認められるものについては、事業者は、廃棄物の発生抑制及びリサイクルや処分の容易性に配慮した製品等に関する設計及び原材料の選択、製品等に関する使用済み物品等の収集等について取り組んでいくことが必要である。
 一方、政策主体であり、かつ、活動主体の一つである行政の役割については、3で具体的に考察し、国民一人一人の立場からの取組のあり方については、第2章で具体的に考察することとする。
 同時に、これら活動主体の相互の連携を確保することも重要である。このため、環境対策についての行政施策の方向性が他の活動主体の環境保全への取組姿勢と整合するとともに、それぞれの活動主体が適切かつ効率的に環境対策に参加するためのインセンティブの付与を念頭においた枠組みづくりが必要である。
 そうした意味で、今後の有効活用が期待される政策手法として、「経済的手法」が注目される。これについては、3で触れることとするが、環境コストが市場メカニズムへ適切に反映されることを通じて、すべての活動主体の環境保全への取組が促進されることをねらいとしたものである。また、環境対策における相互連携の舞台として、地域社会の存在が一層クローズアップされることになろう。この点については、本節の3及び第2章で触れることとしたい。

オ 環境対策の決め手となる個々人のレベルでの意識変革を促すこと
 これまでに概観したとおり、今後進むことが予想される高齢化や情報化等の経済社会の構造変化が環境に好影響を与えるのか悪影響となるのかについては、個々人の選好の積み重ねによるところが大きい。それゆえに国民一人一人が、環境保全の意義を正確に認識し、これに則した行動原理がしっかりと確立されることが求められよう。これは、より快適さを求めるのか、多少の不便をがまんするのかといった日常生活に密着した観点から大きくは社会システムのあり方にまでわたる幅広い観点と深く関わっている。この点については、第2章で詳しく考察したい。

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