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第2節 

3 産業構造の変化と環境問題

 20世紀を通じて、わが国の産業活動は拡大を続け、同時に産業のウェイトは第一次産業から第二次産業へ、第二次産業から第三次産業へと移行してきた。
 産業活動のあり方と環境問題は、密接な関係を有しているため、昨年の白書では、各産業が循環型社会の形成に向け、グリーン化すなわち環境配慮の組み込みを進めるべきであるとの方向性を明らかにした(囲み:「循環促進型の産業構造への移行」)。
 ここでは、昨年の白書で明らかにされた各産業の果たすべき役割を踏まえ、産業構造全体の変化による環境への影響と必要な方策について概観する。さらに現在の新たな産業の変化の方向として、発展が期待されるエコビジネス(環境関連産業)について現状と今後の方向性を検討する。

(1)産業構造の変化は環境へどのような影響を与えるか

ア 第三次産業の拡大と環境への影響
 わが国の産業構造の変化の方向は、先進各国に見られるように第一次産業、第二次産業の縮小と第三次産業の拡大である。平成9年現在で、それぞれの産業の割合が対GDPでみて、1.7%、32.8%、65.5%であり、従業者数でみて、5.3%、31.5%、62.7%となっている。少子高齢化の影響もあり、第三次産業の拡大傾向は今後も続くと見込まれるが、この産業構造の変化は環境問題にどのような影響を与えるのだろうか。
 第三次産業化、サービス産業化は、環境負荷を低減するという面を持っている。例えば、上記に述べた情報化による環境負荷の低減はその代表的な例である。その他にも、コピー機や家具等のレンタル制度、自動車の共用制度等サービス面で付加価値を高めることで、より少ない台数のコピー機や家具、自動車により、同じだけの利便性を確保することができ、製造、廃棄に伴う環境負荷を低減することが可能となる。製品の長寿命化を支える修理や部品交換等の産業及びガラスびんのリユース、アルミ缶や古紙のリサイクル等を支える静脈産業も第三次産業であり、この点でも第三次産業化が進むことにより環境負荷を低減することが可能となる。
 一方、第三次産業が与える環境負荷については、例えば、二酸化炭素排出量でみると、業務部門の二酸化炭素排出量は平成9年度で全体の11.6%を占めているなど、産業部門に比較すると少ないが一定の割合を占めている。
 今後、第三次産業から排出される環境負荷は、産業の拡大に加え、業務の内容の変更等により、一層増加すると考えられる。例えば、オフィスへの情報機器の導入の進展などにより、ビルの床面積当たりのエネルギー消費が増加し、このため、二酸化炭素排出量が増加する可能性がある。また、紙の使用量の増加による廃棄物量の増大の可能性もある。


イ 第三次産業における環境配慮の組み込み
 第三次産業は業態が多種多様であるため、その実態の把握が非常に困難である。例えば、業務用ビルのうち、複数のテナントが入っている小規模ビルや雑居ビルのエネルギー消費の実態について、大量サンプルを対象に実態調査することは非常に困難である。このため、対策についても、実状に応じた施策を講じることが難しい。
 一方、従来、家庭で行われていた洗濯や調理等の家事をサービス業が代替することにより、効率的に実施することが可能となり、全体としての環境負荷が減る可能性も想定できる。
 したがって、今後、第三次産業の拡大に伴う環境負荷を抑制するためには、オフィスや店舗における省エネルギーや再生製品の利用の拡大、廃棄物の削減等を始めとする対策が必要となってくる。このため、事業内容を熟知している事業者の自主的な対策の推進を含め、きめ細かな対応が重要である。
 例えば、第三次産業における環境対策への取組の現状について、環境に関する目的・目標の設定状況や環境に関する具体的行動計画の作成状況について見ると、第三次産業の取組の状況は、電気・ガス等供給業を除き、第二次産業より低い業種が多い。しかし、小売業・飲食店や不動産業等のように前年度より取組が進んでいる業種もあり、一層の取組の促進が必要である。


ウ その他予想される影響
 第一次産業の縮小に伴い、第一次産業が有している自然環境の維持・保全や資源の持続可能な利用を可能とする機能が縮小することも懸念され、この点での環境影響については注意深く監視していくことが必要である。
 一方、第一次産業、第二次産業の縮小により、わが国における環境負荷が減少した場合でも農林水産物の輸入の増大や生産拠点の海外への移転を伴っていることにより、海外における環境負荷の増大を引き起こしている可能性がある。特に開発途上国においては、環境規制が緩やかであったり、対策に必要な環境技術がないために、わが国で作る場合より環境負荷が大きいことも考えられる。この点に関しては、開発途上国への企業の進出に当たっての必要な環境配慮の実施や公害防止、自然資源保全等に関し技術面での協力を行うなどの対策が重要と考えられる。

(2)今後のエコビジネス(環境関連産業)はどこに向かうか

ア エコビジネスの成長とその影響
 現在、公害防止、廃棄物処理、リユース、リサイクル、再生可能エネルギー利用、自然保護等の様々な分野においてエコビジネス(環境関連産業)の成長が見られる。昨年の白書においては、エコビジネスが成長産業の一つとして期待されている状況につき、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月閣議決定)において、環境関連分野が成長分野の一つとして位置づけられている状況等を踏まえ、エコビジネスの原動力を産業活動全体へ波及させる必要性について述べた(囲み「新たな成長分野として期待されるエコビジネス」参照)。
 エコビジネスが、新たな成長産業の一つであり、持続可能な社会へ転換する上で重要な役割を果たすだけでなく、経済成長を支える産業となり、雇用を生み出すという点については、世界各国で注目されており、いくつかの機関により、エコビジネスの市場規模について現状と将来予測が出されている(1-2-6表)。エコビジネスの範囲の定め方によって、数字にばらつきが見られるが、いずれもエコビジネスの市場の急速な拡大を見込んでいる。地域別で見るとアメリカが最も大きく、次いで日本となっている。さらに、エコビジネスの拡大による雇用の拡大も見込まれており、例えば欧州委員会では、2020年までに再生可能エネルギーの分野で1,800億ECUの集中的投資を行うことにより、50万人の雇用が創出されると推計している。
 エコビジネスの発展の可能性と育成政策については、OECDでも、1992年(平成4年)に最初の報告書「環境産業:現在の状況と将来予測及び政府の政策」が出されて以来、検討が進められている。検討の過程で、エコビジネスの雇用規模や成長可能性、環境技術を導入した場合の産業競争力の向上度等について、具体的な数値に基づいた分析の必要が指摘され、1999年(平成11年)には、データの収集と分析のためのマニュアル「環境製品とサービスについての産業(The Environmental Goods & Service Industry)」がOECDと欧州委員会統計局(Eurostat)の共同研究の結果として公表された。
 わが国のエコビジネスの発展の可能性を論じるに当たっても、まず、具体的な数値に基づいた将来予測が必要である。現在、複数の研究機関において、エコビジネスの成長についての将来予測が行われているが、環境庁では、OECDのマニュアルに従い、近年の環境産業の伸びと将来の市場規模、雇用規模の推計を行った。
 まず、エコビジネスの範囲であるが、OECDのマニュアルでは、「環境製品とサービス産業」を「『水、大気、土壌等の環境に与える悪影響』と『廃棄物、騒音、エコ・システムに関連する問題』を計測し、予防し、削減し、最小化し、改善する製品とサービスを提供する活動から構成されている」と定義しており、これに基づいて範囲を決定した。分類については、環境汚染管理(Pollution Management)、環境負荷低減技術及び製品(Cleaner Technologies and Products)、資源管理(Resource Management)の3分野に分けて推計を行った。推計の年度については、予測の妥当性を考慮して2010年とした。
 この結果、1-2-7表のように、エコビジネスの市場規模は、1997年(平成9年)で24兆7,000億円となっており、わが国の国内生産額の2%強を占めると推計されている。2010年時点の将来予測としては、39兆8,000億円となると推計された。また、雇用規模については、1997年(平成9年)では69万5,000人であり、2010年時点では86万1,000人に増加するという推計結果が得られている。なお、推計に当たっては、現在のエコビジネス部門の高い生産性の伸びを前提としているため、市場規模の伸びと比較して雇用規模の伸びが低く見積もられる結果となっている。また、この市場規模の推計値を前述の世界のエコビジネスの市場規模と比較すると、わが国の推計値が数倍大きいが、これは環境産業の定義の違いによる。わが国の推計では廃棄物処理及びリサイクルと新エネルギー分を計上しているが、前述の海外推計ではこれらを計上していないためである。


イ エコビジネスの成長の理由
 従来の経済社会の基本的な考え方においては、エコビジネスは、経済合理的ではないとされ、経済発展を重視した優先順位では低い位置を与えられてきた。しかし、近年、エコビジネスは新たな成長産業として、経済の発展を牽引するものであるという考え方が優勢となっている。これは、以下のような理由に基づき、エコビジネスが経済合理的であると認められてきたためであると考えられる。
 まず、第一に、従来型の経済においては、環境負荷を出した者が環境に対する費用を十分に負担しなくても経済活動を行うことができた。したがって、環境負荷を最小化するためのインセンティブが弱く、その結果が環境問題という形で現れ、その対応に多額の費用が必要となっている。
 これに対し、エコビジネスという形で、環境悪化を未然に防止したり、最小化する経済活動に投資すれば、環境悪化によって発生する社会的費用を節約するとともに新たな付加価値を生み出すことができる。例えば、二酸化炭素などの排出による地球温暖化について、将来異常気象が発生した場合、それに対応するためには、多額の費用が必要となり、場合によっては対応不可能となることも考えられる。これに対し、現在、省エネルギー技術の導入により、二酸化炭素の排出を削減することは、将来予測される被害や対策の費用を節約するとともに、省エネルギー産業に収入をもたらし、経済の発展に貢献することとなる。
 第二に、これまでは多くの工場が公害を防止するため、排出口における対策、いわゆるエンド・オブ・パイプ型の対策を行ってきた。しかし、この方法での解決は、工場にとって単なる費用にしかならない。しかし、環境保全型の製造工程を開発することは、省エネルギーなどによる生産効率を上げる可能性がある。さらに、こういった投資は、初期投資額は、排出口対策型に比べて高いが、投資回収期間が短いという傾向にある。また、企業の技術力が高まることにより、競争力が高まるという利点がある。
 技術力については、自動車に搭載する燃料電池を開発したカナダの企業のように、欧米各国において、需要に応じた環境技術の開発などによって、市場をリードし、創業者利潤を得ている企業が増加している。特に、先進的な環境技術に対するニーズは世界各国で高いため、そういった技術を有している企業は世界市場における競争力を有することになる。
 また、そもそも、持続可能な社会をつくるためには、現在、生産費用などに反映されていない環境に対する費用を正確に把握し、モノの生産費用として、価格等に反映することが原則であり、現在の経済社会をそういった形に変えていくために、エコビジネスが果たす役割は大きい。


ウ エコビジネスの発展に必要な要素
 現時点では、イで述べたようなエコビジネスの効果についての認識はまだ十分でなく、エコビジネスに対するニーズ等の情報不足、資金及び人材の不足といった面が障害となって、エコビジネスの発展を制約している。
 このため、民間事業者の創造力や活力を最大限に引き出し、エコビジネスの自立的な発展を促進するために、行政の側においても、環境保全についての基本的な方針の提示、制度的枠組みの構築に加え、基盤整備や適切な競争の確保、地域発エコビジネスの育成などの面での支援策が必要となっている。
? エコビジネスの進展に向けた基盤整備
 まず、企業において環境保全意識を高めるため、企業の環境保全に関する取組状況についての実態把握に加え、それを積極的に情報開示し、客観的な評価を行うための環境マネジメントシステムや環境報告書、環境会計といった手法の整備が求められている。また、環境にやさしい企業行動の促進に資する人材の育成も必要であり、技術士など環境分野の資格認定制度の活用・充実等が必要である。
 さらに、エコビジネスにおいては、市場が未成熟であることもあり、環境技術を持っているのにもかかわらず需要がないといった、エコビジネスの提供者と利用者の間の情報ギャップがある。このため、行政や国民も参加した情報交換を充実させることが必要であり、そのため情報通信技術等を活用したシステムの整備が重要である。また、環境負荷の少ない物品の利用を進めるためのガイドラインや推奨リストの作成・公表やエコビジネス見本市の開催等も有効と考えられる。
 従来より、低利融資制度等がエコビジネスの代表的な支援策であり、これら制度についても、エコビジネスの重点分野について、発展段階や必要性に応じ、制度の充実により新規事業の創出や技術開発を促進することも効果的と考えられる。
? エコビジネスの質的向上を図るための適正な競争の確保
 まず、真に環境負荷の低減に資するエコビジネスの推奨のため、製品、技術、サービス等についての評価手法の開発が重要である。
 適正な競争の確保を図るためには、さらに、新たな規制的手法、経済的手法、自主的取組の活用等様々な政策手法の活用が必要であると指摘されており、例えば、自発的な環境貢献のインセンティブを創設するため、達成すべき目標を行政が設定し、達成方法の選択は事業者の自主的な判断に任せ、その取組に対し、行政が支援プログラムを用意するといった新たな枠組みの検討が求められている。
? 地域特性を活かした地域発エコビジネスの育成
 現在、日本各地で様々なエコビジネスについての取組が始まっている。各地域において環境や社会経済の状況に応じたエコビジネスの育成を図ることは、その地域の振興に役立つとともに、同様の課題を抱える他の地域への展開も期待され、重要であると考えられる。
 このため、地域発のエコビジネスにつながる自由な発想を生み出す観点から、企業という枠にとらわれない情報交流、人材活用、資金調達を支える地域連携体制の構築を目指した検討や地方公共団体が推進する地域振興プロジェクトに関し、計画の策定段階から、地域において成長が期待されるエコビジネス事業者の組み込みを図るなどの支援策が必要となっている。

循環促進型の産業構造への移行

 持続可能な経済社会の発展を考えるとき、これに大きな影響を及ぼす産業部門においても環境保全を内在化させるための構造的な変革が求められる。昨年の環境白書では、第一次から第三次までの産業が、以下のような役割を今後強化することにより個々に持続可能性を高めていくとともに、相互にバランスをとりつつ連携を強め、全体として「循環促進型の産業構造」を形成していく必要があることを述べた。
? 第一次産業については、農林水産業の環境管理活動が果たす環境保全機能を維持、増進するとともに、林産物・農産物など持続的生産が可能で環境負荷の少ない資源(以下、「エコ資源」という。)を供給するという役割
? 第二次産業については、事業活動における環境負荷の低減や資源効率性の向上への積極的な貢献により高いレベルで環境効率性を追求するとともに、第二次産業内部に資源リサイクルのための循環回路を備えるという役割
? 第三次産業については、既存の財貨の最大限の活用と最適生産による使用価値の創造に重点を置く「ストック活用型の経済社会」の実現のための媒体となるとともに、健全な物質循環を支えるマネーや情報など非物質系の循環を推進するという役割



新たな成長分野として期待されるエコビジネス

 近年、リサイクル装置・技術や低公害車、多様な環境配慮型製品などを提供するエコビジネス(環境関連産業)が注目を浴びている。エコビジネスは、環境保全への取組の積極性や事業内容からみて産業活動の変革の推進力となり、あるいは市場メカニズムを通し人々の消費活動の変化に影響を及ぼすことにより、環境への負荷の少ない持続可能な経済社会を形成するために大きく寄与し得る存在である。また、環境関連分野は今後成長が期待される分野の一つと位置づけられ、日本経済の発展や変革の大きな原動力となり得ると期待されている。昨年の白書では、こうしたエコビジネスの原動力を産業活動全体へ波及させることにより、環境配慮型への産業構造の変革や企業活動における環境配慮の高度化を推進していく必要があり、それが同時に日本産業の国際競争力の強化につながることが期待できると述べている。

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