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第2節 

2 情報化及び環境技術の発展と環境問題

(1) 情報技術の進展は環境にどのような影響を与えるか

 近年の技術革新のうち最も重要なものが情報技術革新であり、今後も新たな情報技術が経済活動に浸透することにより、高度情報化社会が到来すると考えられている。この情報技術革新は環境や資源、エネルギーに直接的、間接的に影響を与えるものと予想される。しかし、具体的にはどのような影響を与えるのか、また、高度情報化社会と環境に配慮した持続可能な社会とは両立しうるのかについては、関心が高まっている分野ではあるが、現在様々な議論が行われており、まとまった方向性は出されていない。これは、情報技術革新が経済社会システムに与える影響が非常に複雑なものとなっているためである。
 ここでは、現在の検討の状況及び今後必要となる対策について概観する。

ア 情報化やITSによる交通量の削減及び抑制とエネルギー消費量の削減
(ア)情報化による移動代替効果
 情報技術の進展により、輸送・移動を行わずに情報をやりとりすることが可能となっている。これを利用して在宅勤務、住居の近くのサテライト・オフィスでの勤務、テレビ会議などが増大することにより交通量の削減が可能になり、その結果として、二酸化炭素や窒素酸化物などの排出量が減ると考えられる。
 具体的には、二酸化炭素量で見ると、2010年時点でテレワーク(情報通信を利用し、家庭やサテライト・オフィス等で勤務すること)により473万t(炭素換算では129万t)、インターネットなどの活用による国際業務移動の代替により183万t(炭素換算では50万t)の削減が可能という郵政省電気通信審議会の試算(平成10年5月)がある。


(イ)高度道路交通システム(ITS)による環境負荷削減の可能性
a 渋滞の緩和による自動車から排出される二酸化炭素量の削減
 大都市における混雑、渋滞が自動車の燃焼効率を低下させており、自動車から排出される二酸化炭素排出量の増加を招いている。日本の自動車燃料消費量のうち、約11%が渋滞により無駄に消費されているとの推計がある。
 これに対し、近年実用化が進められている、情報技術を活用した高度道路交通システムにより、渋滞が緩和され、二酸化炭素排出量が減少する可能性がある。
 例えば、渋滞情報、所要時間情報、規制情報等の道路交通情報をリアルタイムに直接カーナビゲーションへ提供し、ドライバーに交通渋滞を避けた適正なルート選択を促す道路交通情報システム(VICS)の整備が予定されている。現在、16都道府県(北海道は札幌地区)の一般道路や全国の高速道路において情報提供が可能となっている。VICS対応機器についても、平成11年12月末現在で累計163万台が出荷されており、対前年度比で1.8倍となるなど普及が進んでいる。さらに、携帯電話を利用した交通情報提供などのサービスも開始されている。


 このほか、高度道路交通システムとしては、高度化された交通管制センターを中心とし、交通情報収集・提供機能や信号制御の高度化などにより、交通渋滞の解消を図る新交通システム(UTMS)の整備・拡充、さらには、料金所での料金支払を自動化することにより、一旦停車をなくし、料金所渋滞を解消・緩和するノンストップ自動料金収受システム(ETC)の実用化が進められている。
 ただし、渋滞の原因としては自動車の走行台数の増加等があり、これに対する対策も必要となっている。
 渋滞を緩和するためには、交通需要マネジメント(TDM)の推進を図ることも必要である。TDMとは、バスレーン・公共車両優先システムの整備等によるバス利用促進、パーク・アンド・ライドシステム等交通需要そのものを軽減し、又は平準化することにより交通の円滑化等を図ろうとする施策であるが、ITSの普及、進展により、例えば、情報提供、経路誘導等による交通需要の分散が進むなど、これら施策が更に促進されていくこととなる。
 前述の平成10年5月の郵政省電気通信審議会の答申では、VICSの普及、ノンストップ自動料金収受システムの普及及び交通管理の最適化により、2010年で二酸化炭素を403万t(炭素換算では110万t)削減できると推計している。
b 情報化による流通の効率化
 情報化により流通システムを効率化することにより、輸送の効率化等によるエネルギー消費量の削減が可能となると考えられる。
 例えば、需要と生産に関する情報を把握し、需要地に比較的近い生産拠点から出荷することにより、貨物輸送のために消費されるエネルギーを減らすことが可能となる。また、インターネットなどを利用して、情報交換を行うことにより、目的地が近い貨物を1台のトラックでまとめて輸送する共同輸配送システムの実施が容易となり、普及が進むことが見込まれる。また、配達から帰るトラックは荷物を積んでいない空きトラックが多く、行き帰りを併せたトラック積載量はトラック積載能力の47%弱にとどまっている問題について、効率化を図るために空きトラックの情報とトラックを探している荷主の情報をインターネット上に集める「物流電子市場」が有効と考えられており、現在、通商産業省及び運輸省により実証試験が行われている。
 また、通信販売やインターネットを通じた商品の取引量が増大しており、インターネットを通じて最終消費財の取引を行う市場は、平成9年の818億円から10年の1,665億円と約2倍となっているが、これらシステムでは、工場から倉庫、倉庫から店舗といった物流に要するエネルギー消費が不要になることに加え、店舗や倉庫自体が不要になるため、店舗などの暖冷房や照明が不要となる。また、消費者が買い物に自動車を利用している場合には、自動車のエネルギー消費を節約できる。
 ただし、通常、自動車により各家庭に商品が配達されているため、多頻度・小口輸送の増大につながるおそれもあり、情報化が必ずしも輸送量の減少に結びつかない場合もある。また、配達される際の包装材などが廃棄物量の増大につながる可能性もある。
 さらに、インターネットを利用した通信販売等は今後も大きく増加すると見込まれており、潜在需要の顕在化のおそれも考えられる。
 このため、情報化を活用した新たなシステムでは、従来の大量輸送、店舗形式のシステムと比べて輸送量、輸送エネルギーが増大するのか、減少するのかは、現在のところ未知数である。したがって、複数の商品の一括配達、家庭まで配送せず、近くの商店で受け取るなど輸送システムの効率化、包装材の簡略化などの環境負荷抑制のための取組を早期に開始することが必要となっている。

イ 情報化による設計・生産等の効率化
(ア)設計情報の共有化
 情報技術の進展により、製品の設計段階の情報のデータベース化や共有化が可能となる。このデータベースの利用によって、原材料の採取から製品の廃棄までに製品が環境に与える負荷を分析するライフサイクルアセスメント(LCA)に必要な情報を集積することが容易となるため、企業の製品設計や材料調達を環境に配慮したものに変革することが可能となる。特に、リサイクルを進めるに当たっては、まず、設計段階でリサイクルしやすい材料を選択するとともに、分解が容易になる設計とすること、リサイクルの段階で製品に使われている材料や製品構造を把握することができることなどが必要不可欠である。このため、データベース化や共有化により、円滑なリサイクルが可能となると考えられる。
(イ)情報管理による生産工程の効率化
 生産工程に関する情報をコンピュータにより詳細に制御することにより、工程間の調整が容易になり、製品の品質を向上させ、材料の損失を減らし、不良品の発生を減少させることが可能となる。この結果、生産に要するエネルギーと資源の利用効率を高めることができる。
(ウ)消費者の要求に適合した生産
 大量生産方式では、製品が消費者の需要に合わなかった場合に、大量廃棄されるという問題が発生する。例えば、平成6年のデータで見ると書籍の37%、雑誌の21%は返品されており、ほとんどが古紙になっている。消費者の要求に適合した質、量の生産を行うことは、エネルギー・資源利用の効率化と廃棄物量の削減の双方から重要である。
 情報ネットワークの構築により、製品の販売個数の把握が即時に可能となるなど、消費者の意向についてのデータが生産工場に直結されると、生産者は消費者の意向に沿った製品の開発・生産を行うことが可能となる。したがって、必要なだけの量が生産されることになり、効率的な資源利用や廃棄物の発生抑制が図られる。ただし、消費者側の要求によっては、例えば電気製品の大型化、多機能化が進むなどエネルギーや資源の浪費を引き起こすおそれもあると考えられる。
 消費者の要求に適合した生産方式としては、例えば、電子的な受注システムからの情報を生産工場に直結して注文を受けてから生産し、製品を直接購入者に送る個別生産システムが開発されている。衣料品の分野では、すでに顧客の注文を受け、1着ずつ、好みにあったデザインの衣料品を作る「ファクトリー・ブティック」という方式が可能となっている。これにより、製品の売れ残りなどの無駄をなくし、さらに、従来の流通過程で消費されていたエネルギーを削減することができる。電力中央研究所の研究によれば、衣料品のうちセーター、紳士スーツ、婦人スーツに関して1年間で約20%がファクトリー・ブティック方式による製造・流通形態をとった場合、1990年(平成2年)の一次エネルギー総供給の約0.028%に相当する約1兆3,490億kcalの省エネルギーが可能となるという推計が行われている(1-2-3表)。



(エ)廃棄物等の情報交換によるリサイクルの進展
 市場における不要品や廃棄物に関する情報の偏在により売り手と買い手がマッチしないことが、リユース、リサイクルが進展しない理由の一つとされている。これに対し、インターネットなどを通じて不用品や廃棄物に関する情報交換を促進することにより、リユース、リサイクルが促進される。
 既存の中古車や自動車・バイクの中古部品市場では、すでにインターネット取引が実施されており、また、群馬県などでは、地方公共団体により、インターネット上での廃棄物交換情報の提供が行われているなど取組が活発化している。
 また、環境事業団では、平成11年度より、リサイクル需給情報交流促進事業として、廃棄物の需給情報データベースの整備やリサイクル、資源化技術等に関する最新情報を発信・交流するためのシステムの構築を目指した検討を行っている。このようなシステムについては、情報通信技術の特性を活かし、既存の情報ネットワークやデータベースとの連携が重要となってくるだろう。

ウ 情報化と建築物に関する環境負荷削減の可能性
 わが国の平成9年度の二酸化炭素排出量のうち、業務部門からの排出量は、1億4,250万t(電力配分後)であり、総排出量の11.6%を占めている。1990年と比較して、14.4%増加しており、この部分の対策が重要となっている。対策としては、例えば、オフィスビルなどの建築物の省エネルギーを図るために、ビルの断熱化の強化などに加え、ビル管理情報システムの導入が有効と指摘されている。これは、人のいない部屋や廊下の消灯システム、外気を利用した空調、排気熱回収、動力等におけるセンサー切替方式等により構成されており、エネルギー消費量を抑制することが可能となっている。具体的な効果としては、前述の郵政省電気通信審議会の試算によると、大規模な新築建築物にビル管理システムが導入され、空調用として35%、動力用として20%、その他として5%の省エネルギーが図られると仮定した場合、ビル管理システムが導入されなかった場合と比較して、2010年度には132万t(炭素換算で35.9万t)の二酸化炭素排出量が削減されるという結果が得られている。
 ただし、現在新築される大規模な建築物については、ビル管理システムがほとんど導入されているため、今後の新たな対策としての効果は低いとの指摘もあり、今後中小のビルへの導入や既設ビルへの適用などが課題となっている。特に、自家所有ビルと比較してテナントビルの省エネルギー対策が進んでいないという指摘がある。これは、テナントビルの場合には、省エネルギー投資を行うかどうかの判断をするビルの所有者はエネルギー使用料を負担するわけではないため、省エネルギー投資によるエネルギー使用料の低下という経済的インセンティブが働かず、したがって、省エネルギー投資を行わないという判断がなされやすいためである。このため、今後は、ハード面の技術に加え、技術の導入を促進するシステムの検討も求められている。

エ 日常生活の情報化と環境への負荷削減の可能性
(ア)情報機器の利用によるエネルギー消費量削減の可能性
 平成10年における家庭へのファクシミリの普及率は22.4%、パソコンの普及率は30.0%となっており、対前年比で約5ポイント増加している。また、携帯電話とPHS等の普及台数も平成12年2月末で約5,800万台と対前年比で14%の伸びを示しており、情報機器の普及が進んでいる。この動きは今後も継続すると見込まれるが、この変化により環境負荷がどう変わるのかについて二酸化炭素排出量を例にとって考察する。実際の推計は非常に困難であるため、手紙、ファクシミリ、電子メールについて、二酸化炭素排出量を試算したデータでみてみよう(1-2-4表)。この試算の場合では、携帯端末で電子メールを送る場合が最も二酸化炭素排出量が少ないという結果が得られており、情報化はエネルギー使用量削減に一定の効果を示すと考えられる。しかし、パソコンの場合は、常に電源を入れた状況になりやすく、また、家庭用ファクシミリは待機中の電力使用量が全体のエネルギー消費量の95%以上を占めるため、これらの機器を使って少量の情報をやりとりする場合には、非効率となる。このため、情報機器を導入することにより、二酸化炭素排出量が増大する場合も考えられる。


(イ)情報の提供による省エネルギーの促進
 現在、電気の大口需要家については、電気使用量の自動検針が普及しており、将来小口需要家にも拡大することが想定される。このシステムにより、電力供給側と需要側との双方向通信を用いて、現在使用している電気に関する二酸化炭素排出量についての情報や省エネルギー情報をタイミングよく提供することにより省エネルギーに取り組むきっかけを与えることができると考えられる。
(ウ)環境に関する情報の普及
 平成9年度の環境庁「環境にやさしいライフスタイル実態調査」において、様々な環境情報の接触状況について調査が行われているが、「接していて十分である」との回答が1割を超えた情報は0である。どの項目についても6割以上の人が「欲しい」と回答している(1-2-12図)。
 このように、環境に関する情報の普及はまだ不十分な状況にあり、今後情報関連機器が整備され、家庭への普及が進むことにより、環境情報の普及も進むと考えられる。特に、環境情報の入手経路として、パソコン通信やインターネットによる割合が平成7年から平成9年までの間に2倍近くに伸びており、今後一層の伸びが予想される。また、一般的な環境に関連する情報と併せて、環境配慮型製品に関する情報が普及することによって環境配慮型製品の購入量が増加するなどの効果が見込まれ、日常生活における環境配慮が促進されると考えられる。



オ 情報化による環境負荷増大の可能性
 以上、情報化による環境負荷削減の可能性を中心に見てきたが、情報化の進展により、環境負荷が増大する可能性もある。以下では、具体的な可能性について検討する。
(ア)リバウンド効果によるエネルギー増大の要因
 情報化による環境負荷増大の要因の一つは「リバウンド効果」といわれているもので、情報化によって効率化、代替された時間や所得が別の経済活動に振り向けられることにより、全体として環境負荷が増大する現象である。
 情報化によるリバウンド効果は決して小さくないという指摘もあるが、実際に定量的に測定することは困難である。今後、コンピュータモデル等を利用した定量的な分析のための手法の検討が必要である。
(イ)情報機器等に関する環境負荷
 情報化によるもう一つの環境負荷増大の要因は、通信機器や電子機器などの生産、運用、廃棄に当たって発生する環境負荷である。
 コンピュータ等電子機器が使用するエネルギー量については、個別のコンピュータの消費電力量は低下しているにもかかわらず、台数の増加や高機能化、稼働時間の延長などにより総エネルギー消費量は増大している。平成9年の中央処理装置及びパソコンによるエネルギー消費量は原油換算で706千kl、ディスプレイとプリンタを合わせると943千klとなっており、これは、例えば白熱灯器具によるエネルギー消費量の64%に相当する。オフィスにおけるエネルギー消費量の内訳においても、OA機器類が全体の16%を占めているという調査結果が得られている(1-2-13図1-2-14図)。


 こういった状況に対し、OA機器のエネルギー消費量の抑制を目的として、国際エネルギースタープログラムが日米で実施されている。これは、対象製品の製造事業者等の自主判断により参加することができる任意の登録制度であり、現在、情報機器5品目(コンピュータ、ディスプレイ、プリンタ、ファクシミリ、複写機)の待機時のエネルギー消費量の抑制を主眼とした消費電力基準が設けられている。自己宣言により、基準適合製品には国際エネルギースターロゴを添付することが認められている。
 一方、通信に係るエネルギーについても増加している。例えば、平成11年(1999年)のNTTグループのみで見た年間消費電力量は52億kWhとなっており、平成2年(1990年)の34億kWhと比較して約52%の伸びを示している。これに加え、現在の電話、携帯電話、ファクシミリ、パソコンは端末側で電力を必要としている。利用者側での電力需要については、今後の一層の端末の高機能化や、送電システムが現在の同軸ケーブルから光通信ケーブルに転換すること等により、2015年時点で供給側を超える電力消費量が予想されるなど著しい伸びが見込まれる。このため、供給側での省エネルギー努力に加え、端末側においても、待機電力を削減した機器の開発・使用など省エネルギーに向けた取組が重要である。
 また、コンピュータなどの情報機器は、機能的寿命が非常に短いため、更新頻度が高く、廃棄量が年々増大している。社団法人日本電子工業振興協会の推計によると使用済みパーソナルコンピュータの発生量は、平成9年(1997年)には約4万t(家庭約1万t、企業約3万t)であったのが、平成18年(2006年)には約10万t(家庭約3万t、企業約7万t)になると見込まれており、ワークステーション等の大型コンピュータなどについても、今後廃棄量が増大すると考えられる。
 加えて、廃棄の際には、コンピュータ機器などに含まれている有害物質の影響が懸念される。例えば、パソコンには鉛、アンチモン、カドミウム等が含まれており、適切な処理がなされず廃棄された場合には、環境中にこれら物質が放出されることとなる。
 このため、平成11年12月には、上記日本電子工業振興協会が「パーソナルコンピュータのリデュース、リユースおよびリサイクルに関する自主行動計画」をとりまとめており、今後、地方公共団体やユーザーと協力して、アップグレード等による製品の使用可能期間の長期化やリユース、リサイクルのシステムが構築される見込みである。
 情報機器に関する廃棄物については、コンピュータ等の廃棄(一次廃棄物)に加え、情報機器が必要とする紙や電池等の廃棄(二次廃棄物)の問題もある。OA機器の普及により、ペーパーレス社会が実現すると考えられていたが、実際には紙の使用量は増大している。例えば、ワープロで資料を作成する場合、鉛筆手書きに比べて3〜5倍の紙を消費しているという調査例がある(1-2-5表)。このため、今後、紙の使用量抑制方策について検討を進めるほか、電子メールやインターネットの普及により紙の使用量が増加するかどうかに注目する必要がある。
 また、乾電池に含まれる水銀や2次電池に含まれているカドミウムは、新材料への代替が進み、原料として使用されなくなっているが、これまで市場に出されたものの回収などについて、一層の取組の強化が必要である。



カ 情報通信技術の活用による環境対策の進展
 情報通信技術の進展により、環境対策の基本となる環境状況の把握方法の改善や対策の効率化が進められている。その適用範囲は、地球温暖化のような地球環境問題から地域型の問題まで幅広い。
(ア)地球環境問題等に関する監視・観測
 人工衛星やレーダーを活用した地球温暖化やオゾン層の破壊、砂漠化の進行といった地球環境問題の状況の監視・観測が進んでいる。
 例えば、リモートセンシング技術を活用して、人工衛星に搭載されたレーダーにより大気や海洋の状況の観測や熱帯林の減少、砂漠化の状況について把握することが可能となっている。また、船舶からの油の流出などの海洋汚染に対しても人工衛星からの画像解析により汚染状況を即時に把握できるようになり除染対策に役立っている。
 さらに、野生生物に超小型発信器を取り付け、生息状況をモニタリングし、保護対策に役立てるなど、幅広い分野への適用が可能であり、今後、一層、情報通信システムを環境問題へ活用することが必要である。
(イ)地域型公害に関する監視・観測
 すでに、大気汚染や水質汚濁については、テレメーターを活用して、汚染物質の環境濃度や発生源における濃度についての測定結果を中央監視センターに電送するシステムの整備が進められている。今後、対象物質や観測網の範囲の拡大等により、一層のシステム整備が必要である。
(ウ)環境対策の効率化
 環境関連の法令に基づく申請、届出について、フレキシブルディスク(フロッピーディスク等)による申請、届出により申請者の負担を軽減するための取組が進められている。
 廃棄物問題に関しては、全ての産業廃棄物に様々な廃棄物情報を記入した排出事業者の交付する管理票(マニフェスト)をつけることが義務付けられているが、管理票制度については、電子情報を活用した登録や報告が可能となっており、これら情報を情報処理センターに一元化し、廃棄物の移動や処理の状況の把握の効率化が図られている。
 さらに、平成11年7月に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」においても、電子情報を活用した届出や集計、公表等が位置づけられている。
 一方、新たな可能性としては、例えば、各家庭にエネルギー使用量を表すメーターを取り付け、その結果を行政において集計することにより、各家庭ごとの二酸化炭素排出量を把握し、取組に役立てる方法も考えられる。
 また、環境の状況や政府の環境保全施策等に関する情報については、インターネットにより、「誰でも、いつでも、効率的に」情報を得ることが可能となっている。現在、情報提供システムとして「環境情報提供システム」などが運営されており、今後、内容の一層の充実が必要となっている。

キ 情報化による環境保全活動の促進
 電子メールやインターネットにより、情報の交換や情報発信が容易かつ低コストとなったことを受け、これらを活用した民間非営利活動やコミュニティ活動が活発化している。環境保全に関する民間非営利活動についても、地域や国境を越えた活動のネットワーク形成や広範囲の参加が可能となるなどの様々な効果がある。
 また、政府や地方公共団体で行政に関する情報をホームページ上で提供している機関が増加し、誰でも容易に環境関連情報を入手することができるようになったことも、個人や民間団体による環境保全活動の活発化を加速している。
 さらに、パブリック・コメント制度など国や地方公共団体が国民の意見を聞く場合においても、郵便やファクシミリに加え、電子メールで意見が寄せられるケースが増加しており、この傾向は今後も拡大すると予想される(1-2-15図)。



(2)環境技術の発展の方向性はどうあるべきか

 これまでの環境対策の進展において、環境技術の発展が果たした役割は、昭和53年の自動車排出ガス規制の大幅な強化を可能とした窒素酸化物低減技術の開発など、極めて大きい。新たな環境技術が開発されることにより、ある環境問題に対する施策の選択肢が増え、より効果的な施策が実施できる。
 また、長期的には、これらの技術の発展が生産コスト削減や生産効率の向上をもたらし、産業や企業の競争力の向上に寄与すると考えられ、ひいては、国際市場をリードし、また国際社会に貢献する大きな要素となる。
 このため、現在の環境問題の状況及び将来の経済社会システムの変革の方向を見据えながら、今後必要な環境技術の発展の方向を概観する。

ア 環境技術開発の現状と課題
 環境問題の多様化・複雑化に応じ、環境技術も様々な分野において開発・普及が必要となっている。
 ここでは、今日の経済社会システムのあり方と密接な関係を有する資源循環・廃棄物問題、地球温暖化問題、化学物質問題の3分野を例にとって、環境技術開発の現状と課題を概観する。
(ア)資源(物質)循環・廃棄物問題と環境技術
 わが国の廃棄物の年間発生量は、一般廃棄物が約5,000万t、産業廃棄物が約4億tの高水準となっており、処理コストの増大や最終処分場の逼迫等をもたらしている。
 このため、天然資源の利用効率の最大化と廃棄物の最大限の減量化が必要であるとともに、排出された廃棄物の適正処理が課題となっている。
 これらの課題に対応するための環境技術としては、?原材料の効率的利用、?製品又は部品の再使用、?使用済み製品の原材料としての再生利用、?使用済み製品のエネルギーとしての利用、?廃棄物の適正処理に関する技術、に分類することができる。
? 原材料の効率的利用(リデュース)
 製品の省資源化、長寿命化といった取組を通じて、製品の製造、流通、使用等に必要な資源利用効率を高め、廃棄物となるものを極力少なくすることが必要である。
 具体的な省資源化技術としては、製品の小型化や再生資源の利用率の拡大に関する技術があり、長寿命化技術には、材料の耐久性向上技術のほか、アップグレードが可能な製品設計技術や補修・部品交換を容易にするための製品設計技術などがある。
 また、故障個所の自己診断・自己修復技術も製品のメンテナンスを容易にし、長寿命化に役立つと考えられる。さらに、包装材、梱包材の反復利用のための技術も有効と考えられる。
? 製品又は部品の再使用(リユース)
 いったん使用され、不用となった製品を回収し、必要に応じ適切な修理などを行って、製品自体や製品の部品の再利用を図ることが必要である。
 製品や部品のリユースを進めるための技術としては、ドライバー1本で組立て、分解が可能となるような製品設計技術や洗浄、検査の容易化技術等に加え、製品の運搬、回収を容易にするため、大型製品の易分割化、回収容器の統一や運搬適正設計に関する技術がある。加えて、不要となった製品の効率的な回収システムの構築等ソフト面の技術開発も重要である。
? 使用済み製品の原材料としての再生利用(マテリアル・リサイクル)
 ?や?を進めても発生する使用済み製品については、原材料として再生利用することが必要である。
 このため、古紙、缶、ガラス、鉄くず、プラスチックなどの原材料としての利用やプラスチックの高炉還元剤やコークス原料としての利用に関する技術について、今後一層の技術開発が必要である。紙から紙への再生、ガラスからガラスへの再生といった閉ループにおけるリサイクルが不可能となった場合には、他の適切な用途に使うカスケード利用も有効であり、この点からの開発も必要である。
 また、現在、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)等のリサイクルが困難な物質についてのリサイクル技術の開発、材料開発や設計の段階で同一素材に統一する等リサイクルを容易にするための技術開発も求められている。
? 使用済み製品のエネルギーとしての利用(サーマル・リサイクル)
 エネルギーとしての利用は、原材料としての再生利用ができない廃棄物について、最終処分の前に行われるべきものである。従来のサーマル・リサイクルは焼却による熱回収が主流であり、廃棄物焼却による発電を行う場合にも、発電効率が火力発電所の5分の1程度と低く、資源の有効利用性が高くなかった。しかし、現在、廃棄物を石炭とほぼ同等の品質を有する燃料とする技術の開発や利用が進んでいる。今後、燃料としての固形化技術の一層の高度化に加え、燃焼の際の有害物質発生を防止するための技術開発等が必要である。
? 廃棄物の適正処理
 ?〜?を経ても発生する廃棄物については、処理に伴う大気汚染や水質汚濁、自然環境などへの影響の最小化を図ることが必要である。
 このため、まず、製品の製造、加工に際して、有害物質を含まない製品設計を行うなど、廃棄物になった場合にも処理が適正に行えるための配慮が必要となっている。
 また、廃棄物の適正処理に当たっては、環境に負荷をかけない処理技術や処分施設の整備技術の開発が必要であり、さらに、処理技術が開発されていないものに対しては、技術が開発されるまで適正な管理を行うための技術も求められている。
(イ)地球温暖化問題と環境技術
 地球温暖化問題への対応としては、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量の削減が不可欠である。一方、すでに温暖化の影響が現れていることから、温暖化による影響を緩和する適応方策についても今後重要な問題となると考えられる。
 これらの課題に対応するための環境技術としては、問題の性質上非常に幅広い分野にわたるが、大まかに分類すると、?地球温暖化の状況及び温室効果ガスの排出状況に関する監視・測定、?省エネルギーによる二酸化炭素排出の最小化、?再生可能エネルギー等の利用、?二酸化炭素以外の温室効果ガス排出の最小化、?二酸化炭素の回収、固定化、?温暖化への適応に関する技術、に分類することができる。
? 地球温暖化の状況及び温室効果ガスの排出状況に関する監視・測定
 大気中の温室効果ガスの濃度の把握に関しては、観測局や航空機、船舶を利用したモニタリングが行われているが、今後さらに効果的かつ経済的な観測手法やデータの収集システム等に関する技術開発が必要である。また、温暖化の影響についても定期的に情報を収集し、解析するための地球規模でのシステム整備が求められている。
 一方、温室効果ガスの排出状況に関するデータについては、自動測定システムや情報通信技術を使ったデータ収集システムの構築に関する技術など、個別の企業の排出状況を効率的に測定するための技術開発が重要である。さらに、森林等による二酸化炭素の吸収状況についても、効果的な把握の方法の開発が望まれる。
? 省エネルギーによる二酸化炭素排出の最小化
 経済活動においては、化石燃料を燃焼させて、エネルギーを取り出し、照明、暖房、動力等に使っている。この場合、必要とされるのはエネルギーであり、化石燃料の燃焼により得られるエネルギーを最大化することが求められている。例えば、現在、最新の石油火力発電所の効率は40%程度、ガソリンエンジンの自動車では35%程度であり、効率的なエネルギー利用のために高効率発電や自動車の燃費の向上、電気自動車等の低公害車の開発を始めとする各種の省エネルギーのための技術開発が進められている。さらに、工程の連続化等生産過程における合理化・省力化や省エネルギー設備についても技術開発が進められている。
 また、エネルギーとして使用されない残りの部分は、主に熱として放出される。これを利用して、熱と電力を同時に作り出すコ・ジェネレーションや低温の熱源から熱を取り出すヒートポンプについても技術開発が進んでいる。また、発電所の廃熱を他の工場やオフィス、家庭と段階的に利用するなど、熱のカスケード利用も有効である。
 一方、家庭や業務部門におけるエネルギー消費の伸びを抑えるため、建築物の断熱化や省エネルギー機器について開発を進めることが重要である。例えば、高効率の照明や待機電力消費量を抑えた家電製品の一層の開発が望まれる。このほか、ビルにおけるエネルギー管理システム等運用面の技術開発も重要である。
 また、前述のとおり、マテリアル・リサイクルができない廃棄物についても、サーマル・リサイクルをするため、廃棄物の焼却による発電や焼却熱の回収に関する技術開発も求められている。
 さらに、都市構造や交通システムについても、二酸化炭素排出を抑制する構造へ転換を図っていくことが必要である。このため、省エネルギー型のインフラの整備や地域に合ったエネルギー設備の整備を進めるための設備面、運用面両面についての技術開発が求められている。
? 再生可能エネルギー等の利用
 太陽光や風力、バイオマスなどは再生可能エネルギーとして、今後の利用の促進が期待される分野である。わが国への導入実績は、平成9年度で太陽光が9.0万kW、風力が2.1万kWとなっており、普及が進みつつある。技術面については、現在、発電効率15%程度の太陽光発電について40%程度までは効率を高められるとの報告もあり、高効率化に加え、容易な設置を可能とする技術についても一層の開発が必要である。また、次世代のエネルギー源として注目されている燃料電池についても、エネルギー源の確保を含め総合的な利用システムの開発が求められている。さらに、今まで利用されて来なかった浅部地層に蓄えられている低温の熱エネルギーを冷暖房に利用する技術等も今後一層の開発が期待される。


? 二酸化炭素以外の温室効果ガス排出の最小化
 メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)及び六ふっ化硫黄(SF6)については温室効果ガスとして、京都議定書における削減の対象となっているため、これら物質の削減・排出抑制に関する技術開発が必要である。
 メタンについては、主に廃棄物の埋立、農業などから発生しているため、廃棄物減量化に関する技術に加え、埋立地の適正管理に関する技術、畜産や稲作における発生量の抑制に関する技術、エネルギーとしての回収推進技術等の開発が必要となっている。一酸化二窒素についても、農業分野や工業プロセスにおける排出抑制技術についての研究が行われているが、今後さらに推進することが必要である。
 HFC、PFC、SF6については、使用量の削減を図るための使用工程の改良や代替物質への転換に関する技術及び生産、使用、廃棄における大気中への放出を抑制するための漏洩防止や回収、回収物の破壊に関する技術等が必要となっている。
? 二酸化炭素の回収、固定化
 二酸化炭素の固定化、有効利用や貯留については、まだ実験段階にあり、今後、実用化に向けた開発が必要である。また、実用化に当たっては、全体としての環境への負荷を低減する観点が必要である。
? 温暖化への適応
 温暖化が進むにつれ、高潮や洪水、干ばつ等の災害の頻発が想定される。さらに、農業生産における影響も指摘されており、被害の防止や最小化に貢献する技術開発が必要となる。すでに、わが国におけるシカの食害が深刻となっている背景に、近年の少雪傾向があるとの指摘もなされているように、温暖化の影響が非常に広範にわたり、対応方策も多様となることが想定される。このため、適用技術の開発に当たっては、対象範囲を広く設定することが求められる。
 また、温暖化の影響は、開発途上国を中心として深刻なものとなると考えられるため、開発された技術の移転も重要である。
(ウ)化学物質問題と環境技術
 現在、生産、消費、廃棄を通じて、極めて多種類の化学物質が排出されている。こうした物質の中には、有害性が十分に解明されていない中で使用、排出されているものもあり、人の健康や生態系への悪影響が懸念されている。
 これらの課題に対応するための環境技術としては、?化学物質の環境リスク(有害性、暴露)の評価、?環境中の化学物質の測定及び排出状況の観測・監視・測定、?生産過程における有害化学物質の排出抑制、?有害化学物質の浄化に関する技術に分類することができる。
? 化学物質の環境リスク(有害性、暴露)の評価
 現在、工業的に生産される化学物質は、世界では約10万種、わが国でも約5万種とされており、その生産量、種類は年々増加している。これらの物質の環境リスクの評価に必要な情報の整備及び有害性の評価技術、化学物質の暴露の評価技術等の開発が必要である。
 さらに、化学物質の物理化学的性状、健康影響、生態系への影響については、統一したデータベースを構築することが求められている。一方、化学物質が経済活動全般から排出されているため、事業者、消費者等が化学物質に関する情報を共有することが必要である。このため、化学物質に関する情報を提供したり、共有化するための基盤の整備に関し、情報提供機器の整備等のハード面と情報収集や伝達・理解方法のシステム化等ソフト面両面の技術の開発が求められている。
? 環境中の化学物質の測定及び排出状況の観測・監視
 観測・監視により把握される環境中に排出されている化学物質の量は、環境対策を実施する上で基礎となる情報である。このため、より詳細かつ効果的な把握のための観測・監視技術の一層の開発が求められている。
? 生産過程における有害化学物質の排出抑制
 生産過程における有害化学物質の排出を防ぐため、有害化学物質を含まない原材料への転換や外部に有害物質を放出しない生産プロセスへの転換が必要であり、これらに関する技術開発が求められている。
 また、人の健康や生態系への有害性が高いことが判明した物質については、より有害性の低い物質への代替等により使用の削減や廃止を図ることが必要である。特に、新しい化学物質について、より有害性が低く、環境中に残留しにくいものの開発や生産、消費、廃棄すべての過程において、環境中に有害物質の放出を防ぐ製品設計等が重要となっている。このため、製品、素材の安全情報の整備、蓄積、提供及び有害物質を含まない製品設計や素材開発に関する技術が必要である。
? 有害化学物質の浄化
 過去の経済活動から発生し、環境中に排出された化学物質については、回収、浄化、無害化が必要となっている。近年、使用ができなくなったことにより保管されている有害化学物質や汚染土壌などについての浄化技術や分解技術等が開発されているが、一層の技術開発が求められている。

イ 今後の環境技術開発に当たって必要な方向性
 アで概観したとおり、現在の環境問題を解決するために、環境技術が果たす役割は大きく、今後一層の技術開発、さらには、現在の技術体系に環境配慮の観点を組み込むことが求められている。
 今後の環境研究及び環境技術開発の方向性を示す指針としては、平成11年7月に中央環境審議会から「環境研究技術基本計画」の答申が行われ、環境研究及び環境技術開発の基本的方向、重点課題、推進施策等が示されている(1-2-16図)。
 以下では、現状を踏まえ、今後の環境技術の開発に当たってどのような方向が必要であるかについて述べる。


(ア)総合的な観点からの技術開発
 環境問題が相互に複雑に関連しているため、環境技術についても個別分野における技術開発だけでなく、分野横断的な観点から技術開発を進めることが必要である。例えば、リデュース技術が省エネルギー技術としての側面を有している一方、リサイクル技術がエネルギー多消費型技術となってしまう可能性もある。また、サーマル・リサイクル技術については、焼却に伴う有害物質を発生させないための技術の開発を併せて行うことが不可欠である。
 分野横断的な観点に加え、製品の生産から廃棄といった縦の流れ全体を視野に入れた技術開発も不可欠である。例えば、リユースやリサイクルを容易にするためには、素材数の減少や分離しやすい素材の使用などが重要であり、このため、素材技術と組立技術の間の連携が必要となる。また、フロンに代表されるように使用の際に人や生態系に影響を与えない物質が廃棄された後に環境に悪影響を与えるケースも多い。このため、製品のライフサイクル全体を見通し、全体として環境負荷を低減するための設計が必要となっている。
 このような観点から、環境問題の現状を考慮しつつ対策の優先順位を盛り込んだ技術開発に関する総合的な枠組みの提示が求められている。
(イ)評価手法の開発、結果の公表
 (ア)で述べたとおり、環境技術については、有効性や安全性はもとより、その普及や国際標準化も視野に入れた総合的な観点から開発を進めることが必要であり、このために適切な評価手法の開発が重要となってきている。環境技術の評価については、技術間の比較可能性を高めるため、基準の統一化や手法の標準化が図られる必要がある。
 評価結果については、データベース等に整備されるとともに、事業者や消費者が技術や製品を利用する際の資料として使えるよう、広く公表されることが重要である。
 さらに、様々な技術を環境への影響という観点から評価する手法の開発も重要となっている。
 また、製品のライフサイクル全体を見通した環境負荷低減のための設計に関しては、製品製造時の資源・エネルギー使用量や有害物質の使用量、使用に当たってのエネルギー等の消費量、廃棄物となった場合の環境負荷等総合的な環境負荷の程度を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を確立することが不可欠である。
(ウ)技術に関する情報基盤の整備
 開発された環境技術については、普及及び利用促進が図られることが不可欠であり、そのためには、開発された技術を受け入れ、活用できる社会システムづくりが必要である。特に、技術に関する情報の整備、開示や情報の共有化が必要であり、例えば技術の開発側と使用側の情報交換を円滑に行うことにより、環境技術の普及が進むと考えられる。また、製品のリユース、リサイクル等を進めるためには、製品に使われている物質のデータが不可欠であることからも明らかなように、製品に関する情報を開示、共有化することが必要である。具体的には、化学物質の性質のデータベースや素材毎の特性データベース、製品に含まれる物質についてのデータベース、環境技術データベース等の整備、公開が必要である。
 加えて技術の開発側と使用側、事業者と消費者間での情報の共有化を図るためのシステムの整備やより分かりやすい情報の提供のための情報の加工などを進め、情報基盤の整備を図ることが必要である。特にインターネット等の情報通信技術の発展が、データベースの構築、双方向での情報交換及び場所の制約を超えた情報交換を可能としたことにより、各地域において開発された技術の活用、さらには、国際的な協力の下での研究開発や技術の普及が促進されている。今後はこれら技術を活用した情報基盤を整備することが必要である。
(エ)技術開発基盤の整備
 環境技術の開発に関しては、他の分野の技術開発と同じく、人材の養成と確保、研究資金の確保、研究施設の整備等が重要となる。しかし、環境技術は生産に直結するものではないため、現時点では、優先順位の低いものとして扱われている場合が多い。このため、技術開発の推進を目的とした方向付けや支援体制、適切な条件整備などの公共の関与も重要である。また、これまでの環境行政において、対策の必要性など技術に対する需要が技術開発を促してきたという歴史があることを踏まえ、対策との連携の強化が必要である。
さらに、環境問題が地球環境問題へと広がりを見せている状況に鑑み、他国と協力した研究開発基盤の整備や研究開発の実施を進める必要がある。開発途上国の環境問題についても、途上国の自然的社会的条件に適した環境技術の開発推進に対する支援なども強化する必要があり、この点での国の役割は重要である。

新たな製品設計の方向

 国内のあるフィルムメーカーのレンズ付きフィルムは、その手軽さがうけて今や年間約6,000万本出荷されるまでになっている。昭和61年の発売時には、撮影後フィルムを取り出した残りの部品は廃棄されていた。しかしながら、実際に販売が開始されると、半年で100万本超という予想を大幅に上回る量が売れ、大量に発生する「廃棄カメラ」の再利用について社内はもとより顧客からも声があがったため、平成2年にリサイクルセンターが設立された。
 このリサイクルセンターは、単に回収・分解・再資源化を行うだけのものではなく、レンズ付きフィルムへという概念のもとに設計、生産、回収、再使用・再資源化を一貫して行っている。
 ここでは、次のような従来の新製品開発とは異なった発想や技術が再使用・再資源化を支えている。
? 最も費用がかさむと考えられる分解時の人件費を抑えるため、「ネジ止め」から「ツメ止め」に転換するなど、機械での組立てや分解を容易にできる構造にする。
? 部品を極力再使用するため、ストロボやレンズをユニット化し、必要に応じて補修する体制を整える。
? 再資源化を容易にするため、ペレット化してリサイクルする外装などは素材を統一する。

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