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第1節 

3 地球規模での変化に対応した環境対策の課題

(1)地球環境問題への認識の深まりを共有した国際的な取組が必要である

 今日の地球環境問題と密接に関わっている二酸化炭素、フロン、硫黄酸化物や窒素酸化物などの排出は、気候変動枠組条約、モントリオール議定書や長距離越境大気汚染条約を始めとした様々な国際的な取決めに基づいて、各国それぞれが対策を進めている。
 しかしながら、資金不足から排煙脱硫、脱硝装置などの公害防止のための装置が導入されなかったり、環境保全のための技術の不足から監視体制が十分に敷けず、汚染物質の排出に気づかなかったり、環境問題への認識の違いから経済成長が優先され、環境保全対策がおざなりにされるなど、各国ごとの取組にはばらつきが生じている。
 先進工業国の多くは過去に公害等の環境問題を経験し、その原因に関する知見や対策、予防のための技術などを持っている。このかけがえのない経験・教訓を人類全体で共有し、特に社会的な基盤整備が不十分なまま急速に経済発展を遂げようとしている途上国において激甚な公害が繰り返されることのないよう、あるいは少しでも環境負荷の少ない経済社会のあり方を提示できるよう、積極的な情報提供や技術支援を行っていく必要があろう。

(2)各国政府や多国籍企業は国際的な責任に応じた対策をとる必要がある

 地球環境問題は、地球の宇宙船地球号的性格が強まったという意味で究極的な環境問題であるが、その対策をめぐって、南北間あるいは世代間の公平をどう図るべきかが最大の問題である。地球全体を見たときに、地球の有する良好な環境が普遍的な価値を有していることに異を唱える者はなかろう。こうした地球的な利益を担う地域に対しては、特に国際社会が、「地球規模の共有財」(グローバルコモンズ)という概念の下、適正に責任を分担し合いながら保全していくことが重要である。
 先進国は大規模な経済活動を営む過程で地球規模で大きな環境負荷を与えている。こうした国は、環境への負荷の少ない持続的発展が可能になる社会を地球全体として構築するという観点から、自らの取組を積極的に進めていく必要がある。さらに、「共通だが差異のある責任」を各国が確実に果たしていけるように、それぞれの国情に対して十分配慮し、環境保全効果が高い実現可能な様々な施策を提示できるよう、各国の事情に通じておくことも必要である。
 一方、途上国においては、そもそも環境保全のための制度がない場合、これを設ける必要があろう。また、国内法で排出基準を設けてあっても、法施行のための監視体制及び監視機材が欠乏している場合、法律の履行が必ずしも厳格には行われていないといった問題が生じるおそれがあり、制度の執行を担保する必要がある。さらに、こうした規制的手法のみではなく、排出賦課金や飲料容器などのデポジット制度、また、インドネシアにおいて実施されているような、伐採量に応じた一定額をデポジット(預託)し、伐採跡地の造林費用として払い戻す制度の導入といった経済的手法など、各国は状況に応じ段階的に様々な施策を検討していく必要があろう。
 2で述べたとおり、企業は貿易を通じ地球環境に影響を及ぼし得る。特に多国籍企業は、各国の国内法を比較し、より規制の緩い地域に生産施設を設置することで、環境配慮を最小にした製品生産を行い、当該地域の環境やさらに地球全体の環境に悪影響を及ぼすおそれがある。各企業はその責任において、地球環境問題への取組や組織づくりを進め、現地企業の環境対策に関する牽引役となることが望まれる。

(3)具体的な行動につなげるきっかけとしての情報伝達が重要である

 地球環境問題の深刻さと自らの行動の必要性について自覚することで、個人が身近で行うことのできる取組はたくさんある。しかし、取組の必要性は認識しているものの実際には自らの生活の利便性や快適性を優先し、具体的な行動をとることができないことが多い。こうした生活行動パターンは、個人が自らの便益のみを追求するあまり、将来的には自らももちろん、地球全体の便益も失わせることになりかねない。諸外国における地球環境問題への取組の事例を見ても、世界各地から発信される情報に基づいた積極的な行動が望まれる。
 情報化の進展に関しては、人や物の移動の代替になり得るなど省エネルギーにつながる面と、情報通信設備の製造・運用に伴うエネルギーなどの消費につながる面の相反する面を持つことを念頭に置き、負の影響を少なくしていく努力が求められよう。
 様々な情報機器の発達により、入手できる情報は飛躍的に増えているが、一人一人が正しく行動するためにも、各国政府やマスコミは正確で分かりやすい科学的知見に基づいた情報を随時提供していったり、環境教育を進めていくことで、個人が具体的な行動を起こす枠組みや機会、きっかけづくりに積極的に取り組む必要がある。この点に関しては、第2章第5節において具体的に記述することとする。

地球規模の共有財

 例えば、大気が汚染され、公害病が発生するまで、きれいな空気を当然のものと考えがちであるように、地球規模の公共財の所在はつかみどころがなく、それが不足するまでその存在を当然とする傾向にある。
 地球規模の公共財はその政策上の課題に基づいて次の3種に分類される。
1) 自然共有財
 オゾン層や気象の安定などがこれに該当し、ここでの政策上の課題は持続性で、過剰使用が問題とされる。
2) 人為的共有財
 科学知識、世界の共通文化遺産や、インターネットのような国境を越えたインフラなどがこれに該当し、課題は、例えばインターネットの場合、言語の障害やコンピュータの購入資金不足などで利用が進まないといった、過少使用である。
3) 地球規模の政策の結果
 平和、健康、金融安定などが含まれる。この分類に関する課題は供給不足で、その供給を保証する不断の努力が必要とされる。

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