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第1節 

2 地球環境の劣化に歯止めをかけるべき転換期

(1)地球環境の劣化は人類社会の存続を危うくしている

 20世紀においては、世界各地で人口の増加、社会経済活動の拡大や高度化が進み、資源採取や不用物の排出の増大などが環境の持つ復元能力を超え、公害や自然破壊を始めとする環境問題が次々に発生した。
 人類社会は、従来の農耕文明から、産業革命以降の工業文明へと進み、さらには、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムや生活様式が定着し、この結果、人間活動とその影響力が飛躍的に拡大していった。2000年を迎えた現在、人間活動による環境への負荷の集積は、地域の環境にとどまらず、人類の生存基盤として一体不可分である地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすおそれが生じてきており、次の世代への影響も懸念されるまでになっている。
 すでに1で取り上げてきた「地球の温暖化」、「森林の減少・劣化」、「土壌劣化・砂漠化」、「生物多様性の減少」、「水資源の安定的利用の困難化」、「エネルギー資源の枯渇」など、環境と資源に関わるマクロ指標のどれをとってみても、人類社会がこのままでは存続できないこと、現状を放置していては崩壊を回避することのできない時期に近づいていることを物語っているといえよう。



(2)人類は明暗二つの未来社会への岐路に立っている

 1で取り上げた環境と資源に関わるマクロ指標については、将来の予測値が把握できないものも多く、仮に予測値があっても前提の置き方次第では好悪大きな開きがある。このことは人類社会の未来には様々な変数が関わっており、人類の対処如何では最も好ましい結果を手にすることもできれば、逆に悲惨な方向に行くこともあることを物語っている。さらに、好ましくない現状を放置すれば、未来を決定する変数自体が悪化して、やり直しはますます難しくなる。
 ここに人類社会についての分かりやすい未来予想がある。UNICEF(国連児童基金)の「世界子供白書1995」では、21世紀半ばを想定して人類社会に関する明暗二つの未来ビジョンを提示している。

 ビジョン1は、世界の不安定な状況は放置され、世界人口が120億人に迫り、なおも増加の一途を辿るというものであり、次のような悲惨な未来を暗示している。
 途上国世界では、依然として貧困(P)、人口増加(P)、環境悪化(E)の間の悪循環から抜け出せない。この結果、森林の伐採や丘陵地の浸食が一層激しくなり、人為的要因による自然災害も増え、都市のスラムは拡大する。一方、各地で内紛や国際紛争が頻発し、内外の難民問題が深刻化する。
 先進国世界では、物質消費の拡大傾向が収束せず、このまま環境汚染が続く。さらに巨大な人口を擁するアジアや中南米のいくつかの国々で物質消費が先進国並みになり、これらの国々のエネルギー消費量や環境汚染物質の放出量がかつての先進工業国のそれを上回る。

 このシナリオには、「地球環境は加速度的に劣化し、人類社会の破滅は時間の問題となる」という結末を付け加えることができよう。

 ビジョン2は、世界の安定化のための国際協力が実り、世界人口は80億人でピークを打ち徐々に減少に転じるというものであり、次のような持続可能な明るい未来が展望されている。
 途上国世界では、国際協力を背景にして各国政府が未来を担う子供たちのために健康、栄養、教育といった基本的な社会サービスの充実に努める。その相乗効果からついにPPEの悪循環から脱出することに成功し、人々に対し成長の恩恵が平等に配分されることになる。
 先進国社会では、20世紀に肥大化した軍事費を削って、途上国の持続的発展のための支援プログラムや環境の保護に対し積極的に投資するようになる。同時に新旧の工業国は、環境危機を通じて学んだ、人々の満足や国際社会の連帯を深めるような進歩のパターンを模索するようになる。

 このシナリオには、「地球環境の劣化に何とか歯止めがかかり、無事に未来世代に引き継げる見通しが立った」という結末を付け加えることができよう。
 この明暗二つの未来図が示唆するように、人類は今まさに岐路に立っており、現在世代の対応次第では未来世代を今のままの「緑豊かな地球」に住まわせることもできるし、現状を放置していれば未来世代は今の地球とは別物の「衰退する惑星」に住まざるを得なくなる。
 このように、人類社会の明るい未来は、20世紀に私たちが辿ってきた、地球環境を消耗することと引き替えに物質的繁栄を追求する現代文明の単純な延長線上には見つからない。来るべき21世紀において、人類とりわけ先進工業国に住む私たちは、その享受する豊かさの拡大が直ちに枯渇性資源の消耗や環境への負荷量の増大に結びついた現代文明のあり方を超越し、新たな文明の形、すなわち環境効率性の高い経済社会への構造転換を図らなければならない。同時に、現代文明を支配する物質面に偏った人々の考え方、まさに豊かさに関する価値観そのものの変革を目指さなければならないのである。

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