2 開発途上地域の環境の保全
開発途上国は、森林等植生の減少、土壌の流出や塩類の集積、水資源の枯渇、砂漠化の進行、野生生物の減少等の自然資源の破壊・質の低下等の問題に直面している。また、人口の増加や集中、自動車の急速な増加等による都市生活型公害に加えて、急速な工業化等により、かつて我が国が経験した以上の深刻な環境汚染や自然破壊も見られる。さらに、こうした従来型の環境問題に直面する一方で、オゾン層破壊や地球温暖化等の地球的規模の環境問題への対処も必要となっている。しかし、これらの諸国においては、資金、技術、人材等の不足により十分な対応が困難な状況にあり、先進国の支援が不可欠となっている。そのほか、環境対策がおろそかにされ、深刻な公害問題に直面している東欧等の体制移行国に対する支援も課題となっている。
環境基本法においては、地球環境保全等に関する国際協力等を推進するため、国は必要な措置を講ずるように努めることが規定されている。さらに環境基本計画において、我が国は開発途上地域の自助努力を支援するとともに、各種の環境保全に関する国際協力を積極的に行うこととしている。
また、環境ODAを中心とした今後の環境分野の国際協力についての基本理念と今後の協力の柱を示すものとして、「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」を取りまとめ、平成9年6月のUNGASSにおける総理演説において表明した。このISDでは、具体的な行動計画として、?「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」の推進や汚染対策技術の移転促進等による大気汚染及び水質汚濁対策、?開発途上国への省エネルギー・新エネルギー技術移転の促進等による地球温暖化対策、?「生物多様性保全構想」、「サンゴ礁保全ネットワーク」及び「持続可能な森林経営の推進・砂漠化防止協力の強化」による自然環境保全のほか、?「水」問題への取組、?環境意識向上の支援、?持続可能な開発に向けての戦略研究の推進、を掲げている。
こうした方針を具体化するべく、途上国との政策対話や優良案件の発掘等の強化を進めてきている。
平成10年度には、開発途上国等に対し、次のような政府開発援助を通じた環境協力を行った。
(1) 調査及び事業の発掘
開発途上国の環境問題の状況やその背景にある社会・経済条件の的確な把握、開発途上国との各種政策対話の強化、優良な援助案件の発掘のため、政府は、平成元年度より東南アジア、南西アジア、中国等に環境ミッションを派遣している。
また、国際協力事業団(JICA)は、関係省庁の協力を得て、個別案件形成のための各種調査等を積極的に推進している。
(2) 開発調査
開発途上国における環境保全に関するマスタープランの策定等のため、JICAが平成10年度に実施した開発調査の主なものを第5-1-3表 に示す。
(3) 専門家派遣
開発途上国の行政機関・研究機関等への技術協力を行うために、JICAは、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に専門家の派遣を行っている。例えば、環境庁関連では、平成10年度に中国、インドネシア、サウディ・アラビア等へ144名の専門家を派遣した(第5-1-1図 )。近年、ニーズが急速に高まっている環境分野の専門家派遣は、その派遣数が増加しており、人材の確保と養成が大きな課題となっている。JICA、関係省庁等においては、人材の育成のための研修の拡充、円滑な派遣のための人材登録等を推進するとともに地方公共団体等との一層の連携に努めている。
(4) 研修員受入れ
開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識・経験を有する行政官・技術者の不足に直面している国が多く、JICAは、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、集団研修等を実施している。平成10年度には、環境行政、環境技術(大気保全)等の集団研修のほか、東欧諸国やエジプト等を対象とした国別の特設研修を実施した。また、開発途上国の要請により個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している(第5-1-4表 及び第5-1-5表 )。
(5) プロジェクト方式技術協力
専門家派遣、研修員受入れ等を組み合わせたプロジェクト方式技術協力が関係各省庁の協力の下にJICAにより実施されている。実施中のプロジェクトの主なものは第5-1-6表 のとおりである。また、協力期間の終了したプロジェクトに対して、必要に応じ追加的な協力を行っている。
(6) 無償資金協力
平成10年度については、?居住環境改善(都市の上水道整備、ごみ処理、地方の井戸掘削など)、?森林保全(造林センター建設など)、?防災(洪水対策等)、?地球温暖化関連(護岸建設、エネルギー効率向上)、?生物多様性保全(サンゴ礁センター)等の各分野において一般プロジェクト無償を実施している。また、草の根無償資金協力についても環境分野の案件を積極的に実施している。
(7) 有償資金協力
かつて我が国の戦後復興にも大いに役立ったとおり、有償資金協力は経済インフラ型案件・社会インフラ型案件への援助等を通じ、開発途上国が持続可能な開発を進める上で大きな効果を発揮する。環境関連分野でも同様であり、我が国は海外経済協力基金(OECF)を通じ、環境分野にも積極的に有償資金を供与してきている。
主な分野としては、規模が大きいため無償資金協力や技術協力では対応が容易でない、上下水道、大気汚染対策等の事業が中心となっている。
なお、平成7年から、環境案件につき、通常の貸付金利よりも低い金利を適用し、開発途上国の環境保全事業の推進を促している。
また、平成9年9月には、温暖化対策に代表される地球環境問題対策案件及び公害対策案件について、国際的に最も優遇された供与条件にまで緩和した。さらに、同年12月には温暖化対策対象分野の拡充を行った。
第5-1-7表 に示すように、平成10年度においてもOECFにより各種の環境関連の融資が行われている。なお、OECFは、後述の地球環境ファシリティ(GEF)との協調融資も行っている。
(8) 基礎調査等
以上のような事業を円滑に推進するため、関係省庁では途上国の環境問題やその背景に関する調査等を実施した。
(9) 国際機関を通じた協力
各種国際機関を通じた協力は、特に二国間協力のみでは十分に対応できない地球環境保全対策、共通の取組のための指針作り、情報量の少ない国・分野等への取組を進める観点から重要である。
平成10年には、UNEPの国連環境基金に対し500万ドル、UNEP国際環境技術センター技術協力信託基金に対し250万ドルの拠出を行うとともに、熱帯林保全と持続的利用のため、国際熱帯木材機関(ITTO)、国連食糧農業機関(FAO)に対しても拠出した。また、我が国が主要拠出国となっている国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アジア開発銀行等の多国間援助機関も環境分野の取組を強化しており、これらの機関を通じた協力も環境分野では重要になってきている。
開発途上国における地球温暖化、生物の多様性の減少、国際水域環境悪化、オゾン層破壊の問題への取組を促進するために資金を供与するための3年間の試験的プログラムとして、世界銀行、UNDP及びUNEPの協力により平成3年に発足した地球環境ファシリティ(GEF)は平成6年成功裡にその試験期間が終了した。平成6年、新たにGEFは資金規模を約20億ドルに増やすとともに意思決定方法等の公平化、透明化のための改組を行い、GEF1が開始された。その後、平成10年3月には、平成10年7月から4年間のGEF2活動のための資金を27.5億ドルとすることが合意された。我が国は、実質的な意思決定機関である評議会の場等を通じて、GEFの活動に積極的に参画している。
(10) 東欧環境協力
東欧の深刻な環境問題に対しては、平成3年1月の海部首相(当時)の東欧訪問時の表明等を受け、JICA等を通じ技術協力等を推進している。平成10年度は東欧諸国からの研修員を受け入れるとともに、ルーマニアにおいてプラホバ川流域水環境管理計画(開発調査)を、ブルガリアにおいてマリッツァ川流域環境保全対策計画(開発調査)を、ハンガリーにおいてヴァルパロタ地域環境改善計画(有償資金協力)等を実施中である。