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第1節 

4 多様な有害物質による健康影響の防止

(1) 多様な有害物質による大気汚染対策
ア 現況
 近年、多様な化学物質が低濃度ではあるが大気中から検出されていることから、その長期曝露による健康影響が懸念されている。
 環境庁においては、昭和60年度からこれらの有害大気汚染物質のモニタリング調査を実施しているが、平成9年4月に施行された改正大気汚染防止法に基づき、平成9年度から地方公共団体(都道府県・大気汚染防止法の政令市)においても本格的にモニタリングを開始したところである。
 平成9年度における環境庁及び地方公共団体が実施したモニタリング調査のうち、大気汚染防止法に基づき指定物質に指定されている物質(ダイオキシン類、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン)に係る測定結果の概要は第1-1-15表 のとおりであった。
 ダイオキシン類について、夏期及び冬期を含め年2回以上測定した地点における測定結果を平成9年9月に設定された大気環境指針値(0.8pg-TEQ/m
3
)と比較すると、68地点中14地点について指針値を超過していた。
 ベンゼンについて、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した地点における測定結果を平成9年2月に設定された環境基準値(0.003mg/m
3
)と比較すると、53地点中26地点について環境基準値を超過していた。
 トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、全ての地点において環境基準値(ともに0.2mg/m
3
)を下回っていた。
イ 対策
(ア) 固定発生源対策
 有害大気汚染物質による国民の健康被害を未然に防止するため、平成8年5月に大気汚染防止法が改正され、有害大気汚染物質対策が位置づけられた(平成9年4月1日施行)。
 これを受け、有害大気汚染物質に関する具体的な対策の在り方について中央環境審議会で審議が進められ、平成8年10月及び12月の2度にわたり答申がなされた。これらの答申においては、?微量であってもがんを発生させる可能性が否定できず、閾(いき)値(その曝露量以下では影響が起こらないとされる値)がないと考えることが適切な物質に係る環境基準の設定等に当たってのリスクレベルについて、生涯リスクレベル10-5(10万人に1人の割合の生涯リスクレベル)を当面の目標とすること、?有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質(234種類)のリストと、優先取組物質(22種類)のリスト(第1-1-16表 )、?ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの環境基準設定に当たっての指針値、?指定物質(有害大気汚染物質のうち人の健康に係る被害を防止するためその排出又は飛散を早急に抑制しなければならない物質)等の排出抑制のあり方、?有害大気汚染物質のモニタリングのあり方等の基本的考え方が示された。
 これを受けて、平成9年1月、大気汚染防止法に基づき、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを指定物質(有害大気汚染物質のうち人の健康に係る被害を防止するためその排出又は飛散を早急に抑制しなければならない物質)に指定し、指定物質排出施設を定めるとともに、同年2月には指定物質抑制基準及び環境基本法第16条に基づく環境基準を設定した。
 さらに、有害大気汚染物質の排出抑制に係る事業者の自主的取組を促進するため、平成8年10月、環境庁と通商産業省において「事業者による有害大気汚染物質の自主管理促進のための指針」を策定し、12物質について事業者団体による自主管理計画の策定を促した。その後、各事業者団体の策定した自主管理計画を中央環境審議会、化学品審議会の場を通じ、把握、評価している。また、同様に平成9年度の自主管理計画の実施状況についても、中央環境審議会、化学品審議会に報告され、評価されたところである。また、ダイオキシン類についても、平成9年9月に指針の対象物質に追加し、事業者による自主管理計画の策定を促した。その後事業者団体の策定したこれに係る自主管理計画を中央環境審議会及び化学品審議会の場を通じて、把握・評価した。
(イ) 自動車排出ガス対策
 自動車排出ガスに係る有害大気汚染物質対策については、平成8年10月の中央環境審議会中間答申において、?二輪車の排出ガス規制導入、?ガソリン軽貨物車等の排出ガス規制強化、?ガソリン中のベンゼン含有率を1体積%に低減することが示され、同答申に基づき平成10年から平成11年にかけて規制を強化しているところである(第1-1-17表 )。
 また、平成9年11月の第二次答申及び平成10年12月の第三次答申では、有害大気汚染物質を含む多成分混合物質である炭化水素及び粒子状物質の低減対策の強化が示された(第1章第1節2(2)イ(イ)b、第1章第1節3(2)イ(イ)参照)。


(2) ダイオキシン対策
 有害大気汚染物質の一つであるダイオキシン類については、廃棄物焼却炉等からの排出が社会的に問題となり、早急な排出抑制対策が求められている。このため、環境庁は、平成9年6月20日付中央環境審議会答申「ダイオキシン類の排出抑制対策のあり方について(有害大気汚染物質対策に関する第四次答申)」を踏まえて、8月29日、ダイオキシン類を指定物質に指定し、廃棄物焼却炉等を指定物質排出施設に指定するとともに、これらに係る指定物質抑制基準を定めた(12月1日より施行)。さらに、平成9年9月、ダイオキシン類の大気環境指針として、年平均値として0.8pg-TEQ/m
3
以下とすることを定めた。
 また、平成9年8月に「ダイオキシン対策に関する5ヵ年計画」をとりまとめ、発生源対策、総合モニタリング調査等の総合的な対策を講じ、ダイオキシン類の排出抑制の一層の推進を図っていくこととした。
 さらに、平成10年4月には、ダイオキシン問題をはじめとする近年の廃棄物焼却炉をめぐる大気汚染問題への対応を図るために、大気汚染防止法施行規則等の一部を改正する総理府令を公布し、廃棄物焼却炉に係るばいじん規制の強化改定を平成10年7月1日より施行した。これに加え、平成10年度には、地方公共団体におけるダイオキシン類の分析体制整備のための設備整備に対しても補助を行った。
 厚生省においては、ダイオキシン類の排出抑制を図るため、許可を必要とする廃棄物焼却施設の範囲の見直し、廃棄物焼却施設の構造・維持管理に関する基準の見直し等を内容とする廃棄物処理法施行令及び施行規則の一部を改正する政令を平成9年8月29日に交付した(平成9年12月より施行)。これらの法令に基づき、ダイオキシン類の排出削減対策を指導しているところである。
 さらに厚生省では、平成2年に策定したごみ処理施設のダイオキシン類発生防止ガイドラインを見直し、平成9年1月にとりまとめた緊急及び恒久対策からなる新ガイドラインに基づき、地方公共団体に対して、ダイオキシン類の排出削減対策を指導しているところである。
 また、通商産業省では、産業界からの排出実態及び排出削減を検討するため、平成8年8月から「ダイオキシン対策検討会」を開催しており、平成9年6月には、製鋼用電気炉及び製紙業の排出実態、製紙業に係る自主削減努力による削減状況、製鋼用電気炉について指定物質排出施策に追加すべき等の内容の中間報告書を取りまとめた。さらに、平成10年7月には、17業種の排出実態の調査結果を公表し、そのうち排出濃度の観点及び製鋼用電気炉より年間排出量は少ないものの、製鋼用電気炉と合計すると産業界からの排出量の大半を占める観点から、鉄鋼業焼結工程、亜鉛回収業及びアルミニウム合金製造業の3業種について自主的な排出削減のためのガイドラインの策定を事業者団体に要請した。この結果の自主ガイドラインの策定を受け、平成10年11月には、19業種の産業界に関する排出状況及び3業種に係る自主的な削減対策に関して第2次中間報告書が取りまとめられた。
(3) 石綿対策
 石綿(アスベスト)は耐熱性等にすぐれているため多くの製品に使用されてきたが、発がん性などの健康影響を有するため、種類によっては、製造・使用が禁止されている。大気汚染防止法では、石綿を「特定粉じん」と指定し、石綿製品等の製造施設に対して、工場敷地境界基準を石綿濃度10本/リットルに定める等の規制が行われている。
 一方、建築物の解体等の際に飛散する石綿による大気汚染については、石綿使用建築物の建て替えのための解体作業等の増加が見込まれるため、平成9年4月より、一定規模以上の吹き付け石綿を使用する建築物の解体等作業の作業基準等を定め、所要の規制が行われることとなった。
 また、環境庁では、石綿測定技術者の育成事業や石綿代替品の普及状況等に関する調査を実施している。

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