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第2節 

5 アフリカ、中南米地域の環境問題の現状とその対応

 これまで述べてきたアジア地域以外の途上国に関する環境問題とその対応も経済社会の様々な開発レベルに応じて多種多様である。ここでは、アフリカ、中南米地域での途上国の環境問題の現状とその対応状況について概観する。
(1) アフリカ、中南米地域の環境問題の現状
ア アフリカ地域の環境問題
 アフリカ地域(サハラ以南アフリカ地域:スーダンを除く)は、面積2,178万km
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で47か国の途上国により構成される。国連の認定するLLDC(後発開発途上国)48か国(1997年(平成9年)現在)のうち32か国が存在しており、世銀の基準(1998年)による低所得国63か国のうち39か国が同地域に存在する。
 1996年現在で一人当たりGNPが1,000ドルを超える国は8か国(セイシェル、ガボン、モーリシャス、南アフリカ共和国、ナミビア、ボツワナ、スワジランド、カーボ・ヴェルデ)にとどまっている。また、これらアフリカ諸国は、極めて多様な気候風土の中に分布しているが、サハラ砂漠のような乾燥地帯、ステップのような半乾燥地帯や高温多湿な熱帯雨林地帯が比較的多くの部分を占めているのが特徴である。
 また、アフリカ諸国における人口増加率は平均2.6%と極めて高い状況にあり、人口の増加が必然的に財・サービスに対する需要を増加させ、天然資源の過剰な利用や消費後の廃棄物の増大を生じさせ、人間を取り巻く環境に大きな負荷を加えることとなっている。
 さらに、アフリカ大陸は多様な生物の宝庫でる熱帯雨林地帯を有している一方、乾燥地域、半乾燥地域における砂漠化にも直面している。
 アフリカ地域の人口の圧倒的な部分は、牧畜、農業、漁業に従事し、自然環境に頼った生業を営んでいるため、自然環境の破壊はこれらの人々の生活と経済基盤そのものの脆弱化ないし破壊につながる。環境の悪化の原因には、干ばつなどの自然条件、人口の増加等の要因が相互に作用しており、環境の悪化の現状と原因の解明は未だ不十分であるが、急激な人口増加と貧困を背景に、燃料のための森林伐採と砂漠化が加速する一方、土壌の生産力低下が一層貧困に拍車をかけ、人口増につながるといった、いわゆる貧困・人口・環境のトリレンマの問題構造が指摘されるなど、アフリカ地域の経済社会状況は厳しさを増している。
イ 中南米地域の環境問題
 中南米地域は、北米大陸のメキシコ以南、カリブ諸島、南米大陸からなる地域で、面積は2,055万km
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、世界地表面積の15%を占めている。人口は約4億7,400万人で世界人口の8.4%を占め、その多くは、スペイン語、ポルトガル語圏であり、33の独立国といくつかの外国領に分かれている。
 中南米は赤道をはさんで南北に広がっており、気候風土は様々であるが、乾燥地域はアンデス山脈の西側とアルゼンティン西部程度で、その他の多くは耕作可能地域である。このため、農業生産力は豊かで、特にブラジルの中南部のサバナ、温帯地域、アルゼンティンのラ・プラタ川流域の温帯地域は一大農業地帯となっている。また、地下資源も豊かで、鉄鉱石、銅、銀、ボーキサイト、すず等を多く埋蔵するほか、原油も産出する。このような豊かな天然資源を背景に、多くの国においては経済を一次産品の輸出に依存しているが、その基盤は脆弱である。世銀の分類では、中所得国に分類される国が比較的多く、一般に途上地域の中でも中進地域という位置づけがなされている。これらの国にしても、社会資本への投資不足、国内の所得格差から来る貧困問題は深刻である。
 中南米地域は、所得格差と1960年代からの都市への人口集中に起因するスラムの拡大、都市衛生インフラ投資の遅れなどに起因する都市問題が全般的にみられ、メキシコ市、サンチャゴ市、サンパウロ市、ボコタ市などの大都市の多くは、盆地地形に位置するなどの地理的条件から大気汚染物質の拡散が起きにくく深刻な大気汚染下にある。また、自然環境問題として、アマゾン流域における熱帯林の減少とそれに伴う生物多様性の減少、土壌の侵食、農薬使用に伴う土壌・水質汚染など、多様かつ深刻な環境問題を抱えている。
囲み3-2-7 ガラパゴスの自然保護
 ダーウィンの進化論で知られるガラパゴス諸島は南米エクアドルの沖合いに浮かぶ赤道直下の島々である。ペルー海流の冷たい水により、ペンギンも生息している特異な場所である。1973年(昭和48年)に策定された「ガラパゴス国立公園の保護と利用に関するマスタープラン」に基づき各種施策が講じられている。マスタープランは、当該区域の資源、歴史、動植物等の情報をまとめたものと自然保護を進める上での管理等に関する手続と目標を定めたものである。このプランの重要な点として、対象区域を5つに分け、それぞれに応じた利用・保護対策を講じていることが挙げられる。具体的には、集約的利用区、非集約的利用区、単純利用区、単純学術区と特別利用区である。しかし、帰化した動植物による元来の生態系の荒廃や、漁業によるなまこの激減など様々な問題を抱えており、自然と人間との共存に向けた取組の上で、まだまだ課題が多い。
 なお、1994年4月にイサベラ島で大規模な山火事が発生した際に、エクアドル政府は、火災による野生生物への被害状況の把握等に関する協力要請を我が国に対し行った。これを受けて、我が国は、同年に国際協力事業団を通じ専門家チームを派遣した。
(2) アフリカ、中南米地域の環境問題に関する対応
ア アフリカ地域の環境問題に対する対応
 アフリカ地域には、非常に厳しい経済状態の国々があり、国々の政策の中心は貧困からの脱出となっている。このため、環境法や規制、環境アセスなど限られた国での取組はあるものの貧困・人口・環境のトリレンマの問題構造の悪循環の輪を切るための取組が環境問題に対する中心的な対応といえよう。ここでは、例としてアフリカサヘル地域の砂漠化の防止の取組を紹介する。
 1968年(昭和43年)から1973年にかけて西部サヘルの大干ばつによる惨劇を契機に、1973年に準地域レベルの協力体制のモデルとされる組織「サヘル地域干ばつ対策政府間常設委員会(CILSS)」が設立された。現在の加盟国は、西部アフリカのブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、ガンビア、ギニアビサオ、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガルの9か国であり、サヘル研究所と、トレーニング、応用農業気象・実用水文地域センターの2つの付置機関を持ち、水資源、農業、インフラなど他部門にわたるプログラムの実施に当たってきた。1984年以降は、砂漠化対策の基本方針を自然資源の総合的管理と持続可能な社会経済開発を目指す、より総合的・長期的な戦略に変更して、広範囲な支援活動を行っている(第3-2-14表)。
 砂漠化問題の原因には、気候的要因としての地球規模で生じる大気循環の変動などや、人為的要因の過放牧、過耕作など当該地域の生態系の許容範囲を超えた人間活動が考えられる。さらに、途上国では、貧困、人口増加といった社会経済的な要因が人為的要因の背景にあり、問題解決を更に複雑にしている。これを解決するためには全般的にはすべてのパートナー(政府、NGO、ドナーなど)の参加、個別的には地域社会の参加が極めて重要であり、計画づくり、意思決定、プログラムの実施や改正における地域社会の役割が必須である。また、砂漠化は国境を越えてのより一層の対策強化が必要である。これらのことから、CILSSが幅広い役割を果たしているほか干ばつ・開発政府間機構(IGADD)などが、UNEP等の支援の下に設置されている。(その他4章参照。)
イ 中南米地域の環境問題に関する対応
 中南米地域では、既に述べたように様々な環境問題を抱えている。その中でもやはりアマゾンの熱帯雨林に関するブラジルの対応の歴史が一般的に注目されている。ここでは、アマゾン地域の今までの対応の状況について概観する。
 アマゾン地域の開発は1970年(昭和45年)のトランス・アマゾニカ国道やクヤバーサンタンレン国道の建設に端を発し、東北部農民の大規模な入植開拓、地下資源開発、水力発電所の建設など国家統合計画の一環として積極的に推進されてきた。ブラジル国立宇宙研究所が1990年6月のリモートセンサリングに関する国際シンポジウムで発表した法定アマゾン地域の森林破壊状況によると、1989年までの森林破壊面積は約394千km
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(アマゾン法定面積の約8%)に及んでいるとしている。しかしながら森林の定義や観測上の困難から、森林破壊の実態については諸説があり、正確に把握することは難しい。
 これに対し1988年10月5日に公布された新憲法では、第225条において環境に対する権利とその保存の義務について言及し、かつ第231条と第232条において原住民の権利について言及しており、国家としてアマゾン地域に配慮する姿勢を明確にしている。
 また、アマゾンの熱帯林の保全については、1990年のヒューストンサミット経済宣言を踏まえ、ブラジル政府、世界銀行、ドナー国により「ブラジル熱帯雨林パイロットプログラム」として、自然資源政策プロジェクト、デモンストレーションプロジェクト(NGOや地域コミュニティーの環境保全努力を支援するプロジェクト)等多数のプロジェクトを実施している。我が国も世銀が管理しているコアファンド(熱帯雨林信託基金)に対し拠出を行っている。
囲み3-2-8 アマゾン河水域の水銀による環境汚染
 ブラジルでは1985年に鉱山動力省鉱物生産局が明らかにしている鉱山公害がいくつかある。その中で、金の精製作業に伴う公害としてブラジル中西部のアマゾナ州、パサ州を中心に水銀による水質、土質の汚染が指摘されている。金の選鉱の際に水銀を投入して金との合金を作り、それを焼くと水銀は蒸発して金だけが残るという原始的な精錬法が行われているが、その労働者は水銀蒸気を吸収して無機水銀中毒になる可能性がある。また、水銀が河川等に流れ、自然界中で有機水銀に変化して生物濃縮し、その魚を多食することにより人体に蓄積され有機水銀中毒になる可能性がある。
 日本の学者によるアマゾン河水域においての研究によると、漁民の毛髪水銀値が総水銀の平均で8.2〜35.9ppmで、最高は安全基準(50ppm)をはるかに超える151.2ppmという結果が得られている。また、臨床的に、有機水銀中毒は確認できなかったが、アマゾン河水域が既に危険な状況に達していることを示しているという研究報告がなされており、今後の調査が必要である。

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