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第1節 

2 アジア太平洋地域の環境に関する将来予測

 環境問題に関する国際的な議論は、以上のような流れで現在に至っている。それでは開発途上国の環境問題は今後どのようになると見込まれているのだろうか。ここでは、エコ・アジア長期展望プロジェクトの報告から、国立環境研究所と京都大学が開発したAIMモデル(Asia-PacificIntegrated Model)による予測を紹介したい。
 この報告は、エコ・アジア長期展望プロジェクトの重要な柱として21世紀のアジア太平洋地域の環境に関する予測を行い、1997年(平成9年)に発表されたものである。項目によっては、高位推計と低位推計とに開きがあるが、これはアジア太平洋地域の発展と社会構造の変化に見解の差があり、シナリオがこの差を反映しているためである。なお本予測のもととなったデータは90年代前半のものであるため、経済活動と密接に関わる分野の予測には近年の経済停滞の影響が十分には考慮されていないものがあることに留意が必要である。
 アジア太平洋地域の人口は既に世界の半分以上を占めており、今後も増加基調で推移するものと予測されている。国別に見ると、中国が現在のシェアを維持する一方で、インド、パキスタン、バングラデシュの人口増加が顕著と見込まれている。(第3-1-1図)
 人口増加は経済成長とも相まって、エネルギー消費の増大を導く。AIMモデルでは、1990年には世界総消費量の20%強であったアジア太平洋地域のシェアが、2025年には30%を超え、北米地域の消費量を上回ると予測している。この結果、二酸化硫黄などの大気汚染物質や二酸化炭素などの温室効果ガスが、大気中に大量に放出されることになる。(第3-1-2図第3-1-3図第3-1-2表)
 人口増加と経済活動の拡大は、土地利用にも影響する。AIMモデルの予測は、過去100年間にみられた人口増加と土地利用変化との関係が21世紀末まで変わらないことを前提になされた。農地増加に伴う森林の減少は、ボルネオ島やインドシナ半島の北部で著しいと予想された。森林からの土地利用の変化は各地で予想され、1990年に森林で覆われていた地域の約15%が2025年には農地や草原に変わる可能性がある。こうした土地利用の変化は、生物多様性の減少、温室効果ガスの排出につながり、自然災害の危険が増すおそれもある。(第3-1-3表第3-1-4図)
 これらの影響は、既にみられている酸性雨の問題、予測されている温暖化の問題等のように、地球上の他地域にも及ぶ可能性がある。
 また、途上国の環境問題を論じるに際し、環境衛生問題への配慮も欠かせない。途上国では、公害と衛生環境不備の双方により健康影響が生じているという現状がある。
 環境衛生に関しては、WHO等からいくつかの調査を紹介したい。
 WHOの調査では、現状の途上国の死亡原因は感染症や寄生虫によるものが突出していることが示されている。健康のリスクは、衛生設備等の社会基盤の整備に伴って、流行性の疾病等からいわゆる現代社会に起因するものへ移行していく。しかし、後に述べるように途上国では衛生問題の解決を見ないまま大気汚染や水質汚濁等の公害が発生している。また、自然環境の破壊の進行は貧困を増大させる要因にもなっている。こうした現状が衛生問題への対処をますます後手にまわすこともあり、悪循環から抜け出せずにいる。(第3-1-5図第3-1-6図第3-1-7図)
 このようにアジア太平洋地域の環境問題の予測結果は厳しいものであり、その解決に向けて真摯に取り組む必要がある。

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