我が国の経済は、戦後飛躍的な発展を遂げ、国内総生産(GDP)は世界第2位の大きさになるとともに、一人当たりのGDPは世界の最高水準に達している。自動車や各種の家電製品の普及率は国際的に見ても高く、衣料品や食料品も質・量ともに豊富な状況にある。また、近年の24時間営業のコンビニエンス・ストアや自動販売機の普及により、いつでもすぐに欲しい商品を購入できるようになるなど、生活の利便性は格段に高まっている。
このように生活者の多くは物質的な豊かさを享受しているが、その反面、都市を中心としたゆとりある住空間の整備の立ち遅れ、大量消費・大量廃棄パターンの定着等に伴う現在及び将来の環境悪化等に対し、様々な不安と懸念を抱くようになった。こうしたことを背景に、物質的な豊かさより高次の欲求として精神的な豊かさを求める人が、近年増加している。
このように精神的な豊かさを実現するためには、特に環境面では、良好な生活環境づくりを構築することが不可欠である。他方、生活環境が生活者の営為の結果である以上、生活環境づくりのために必要な「環境保全上望ましい生活行動」とはいかなるものであり、行政、企業等の各主体はそうした生活行動の形成にいかに関わるべきかが理解される必要がある。本章では、まず第1節211/sb1.2.1>で、20世紀の経済成長追求の歴史を振り返るとともに、利便性や快適性を求める現在の生活様式と環境負荷との関係を概観する。さらに、第2節211/sb1.2.2>では、現在の経済発展そして「暖衣飽食」の国民生活を作る大きな原動力となった化学物質の明暗について述べる。最後に、第3節211/sb1.2.3>において、環境に配慮した生活行動を類型化し、それぞれについてそれらを支える行政等各主体の役割を考察することで、社会全体から見た「環境保全上望ましい生活行動」像について俯瞰する。