1 調査研究及び監視・観測等の充実
(1) 環境庁試験研究機関の整備と研究の推進
ア 国立環境研究所
国立環境研究所においては、平成10年度においても、引き続き研究体制の整備を進めるとともに、特別研究については、10年度に9課題を実施することとしており、新規課題として、「廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究」、「環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究」、「都市域におけるVOCの動態解明と大気環境質に及ぼす影響評価に関する研究」を行う。
また、開発途上国における適切な環境保全・対策技術の開発・普及のため、開発途上国との共同研究を行っており、平成10年度には、9年度に引き続き4課題を実施することとしている。さらに重点共同研究として、新規課題の「干潟等湿地生態系の管理に関する国際共同研究」を含む2課題、革新的環境監視計測技術先導研究として引き続き1課題を実施するほか、新たに環境修復技術開発研究として「海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発」を行う。
地球環境研究センターにおいては、地球環境研究の総合化、地球環境データベース整備やスーパーコンピュータシステムの有効利用管理等の地球環境研究支援業務及び地球環境モニタリング業務を引続き充実させるほか、国連環境計画(UNEP)の地球資源情報データベース(GRID)の我が国のセンターとしての活動を拡充・強化する。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する我が国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなど本章第8節1210/sb3.4.8.1>(2)イ(イ)に掲げた施策を進めていくこととしている。
(2) 公害防止等に関する調査研究の推進
環境庁に一括計上する平成10年度の公害の防止等に関する各省庁の試験研究費は、総額19億5,291万円であり、13省庁46試験研究機関等において、公害防止技術の開発、環境汚染の生体に及ぼす影響の把握、環境汚染メカニズムの解明、自然環境の管理手法の開発等環境技術の幅広い領域にわたり、100の試験研究テーマを実施する。
平成10年度公害の防止等に関する試験研究については、環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現、自然と人間との共生の確保等環境基本計画に定める長期的な目標の達成に資するため、当面する問題への対応のみならず、中長期的視野に立った対策を推進するための研究を実施することとしている。
このため、幅広い分野の調査研究課題について、以下の観点から実施することとしている。
? 新たな環境政策への対応や条約を始めとする国際的な要請、地域の発想に根ざした取組への対応等行政ニーズの高い試験研究の実施を推進する。
? 環境負荷低減手法等、その技術の性格からして可能なものについては、開発途上地域における対策への貢献も視野に入れた研究を推進する。
? 先端技術の導入に伴う環境汚染を未然に防止するための研究を推進する。また、先端技術の環境保全分野への応用を図るための研究を積極的に推進する。
? 複数の試験研究機関が連携して研究を進めることにより、効率的な研究の実施が見込まれる研究課題については、共同研究を促進する。また、共同で研究を実施する課題については研究者間の情報交換を密にし、効率的な研究の推進を図る。
なお、試験研究課題間の有機的連携を密にし、その目的指向性を一層強化するため、関連する試験研究を総合的に推進する総合研究プロジェクトを編成し、試験研究の効率化を図っているところである。
平成10年度において編成する総合研究プロジェクトの数は9で、その内容は次のとおりである。
ア 大気環境の保全に関する総合研究
各種発生源からの窒素酸化物、浮遊粒子状物質等大気汚染物質排出抑制技術の開発について13テーマの研究を実施するほか、液体燃料焚きガスタービンからのNOx排出低減に関する研究等新たに6テーマの研究を実施する。
イ 排水処理の高度化に関する総合研究
産業排水、生活排水等の物理化学的及び生物的処理技術等7テーマの研究を実施するほか、磁性吸着剤を利用した環境汚染物質の高度処理技術に関する研究を新たに実施する。
ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
海洋における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術等5テーマの研究を実施するほか、流出油が沿岸・沖合生態系に及ぼす中・長期的影響の解明等新たに4テーマの研究を実施する。
エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等9テーマの研究を実施するほか、水道水源水域及び利水過程における界面活性剤の挙動と適正管理に関する研究を新たに実施する。
オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等11テーマの研究を実施するほか、船舶へのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の適用に関する調査研究等新たに2テーマの研究を実施する。
カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
自然環境への影響評価、自然環境の適正管理及び保全に関する研究等7テーマの研究を実施するほか、湿原生態系及び生物多様性保全のための湿原環境の管理評価システムの開発に関する研究等新たに3テーマの研究を実施する。
キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
都市における総合的な環境保全に関する研究、都市交通の制御、騒音及び悪臭の発生源対策技術に関する6テーマの研究を実施する。
ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等9テーマの研究を実施するほか、排気ガス中の粒子状物質のリアルタイム成分分析に関する研究等新たに2テーマの研究を実施する。
ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
環境汚染物質の健康影響評価、評価手法の開発等9テーマの研究を実施するほか、ダイオキシン等内分泌系攪乱環境汚染物質のヒト及び生態系に対するリスク評価に関する研究を新たに実施する。
また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、有害金属の形態別分析技術の開発と地下水汚染機構解明に関する研究等3テーマの研究を実施するほか、新たに生物間相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究を実施する。
(3) 地球環境研究に関する調査研究等の推進
地球環境保全のための科学的基盤づくりを進め、国際的取組に積極的に貢献するため、平成10年度においても「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、調査研究、観測・監視等の総合的な実施体制を確保する。
「地球環境研究総合推進費」については、予算額26億5千万円を計上し、引き続き学際的、国際的な観点から地球環境研究の総合的な推進を図る。特に平成10年度においては、気候変動枠組条約京都議定書の内容を踏まえた温暖化防止に資する研究等、各分野における施策立案の科学的基盤となるような研究を一層推進する。
また、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、平成10年3月に中国・北京で開催された第3回政府間会合での合意に基づき、地域内研究活動の支援等を引き続き推進する。
(4) 基礎的・基盤的研究の推進
平成9年度に創設した「未来環境創造型基礎研究推進費」により、平成9年度に採択した「化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発に関する研究」、「亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究」の2課題について、継続して研究を実施する。
(5) 地球環境に関する観測・監視
観測・監視については、世界気象機関、(WMO)の全球大気監視(GAW)計画の一環としての温室効果ガス、CFC、オゾン層、有害紫外線等の定常観測を引き続き実施するとともに、日本周辺、西太平洋海域における洋上大気及び海水中の二酸化炭素等の定期観測、オゾンレーザーレーダーを用いたオゾンの高度分布の測定を継続する。
また、平成11年度に宇宙開発事業団により打ち上げ予定の環境観測技術衛星に搭載する成層圏オゾン層等観測機器の開発を進めるとともに、オゾン層等に加えて、温室効果ガスも観測できる機器の研究に着手する等人工衛星による観測・監視手法等の開発利用を一層推進する。さらに、海洋科学技術センターが所有する「みらい」等の海洋観測船等を整備・拡充し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進する。
(6) 環境基本計画推進調査
環境基本計画推進調査は、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会を構築するという環境基本計画の目標を実現するための課題に関し、調査研究を実施するものである。
環境庁に一括計上された平成10年度の環境基本計画推進調査予算は2億2,500万円であり、平成9年度からの継続調査を含め、幅広い調査研究を実施する。
(7) 環境保全に関するその他の試験研究
通商産業省においては、PFC等の地球温暖化ガスの代替ガスシステム研究等のFS調査を行う地球環境産業技術に係る先導研究、地球上の二酸化炭素の分布を調査する広域環境影響モニタリング調査等を実施するほか、温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術の開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発等を引き続き実施する。
海上保安庁においては、油流出の際、精度の高い漂流予測が必要であることから、漂流予測手法の高度化を図るための研究・開発を行う。
建設省においては、効率的な湖沼底泥処理技術の開発及び生態系の保全・生息空間の創造技術の開発及び地球環境保全型建設技術の開発、健康的な居住環境形成技術の開発を引き続き実施するとともに、自然作用を生かした共生型川づくりに関する研究、水域ネットワーク保全手法、海岸域における漂着油の挙動及び回収技術に関する研究を新たに実施する。
農林水産省においては、農業生態系のもつ物質循環機能を高度に活用し、より生態系に調和した環境に優しい農業システムの開発、家畜排泄物等の高度処理・低減化・高付加価値化技術の開発、都道府県試験研究機関の研究ネットワークによる、生物的防御技術を基幹とする省農薬病虫害制御技術等の開発、農林生態系における環境保全のための総合モニタリング手法等に関する研究等を引き続き実施するとともに、農業分野におけるライフサイクルアセスメント手法の開発とそれに基づく持続可能な農業生産システムの確立に関する研究を新たに実施する。さらに、森林総合利用のための森林における環境保全コストの内部経済化手法に関する調査を実施する。
郵政省においては、高度電磁波利用技術の国際共同研究を引き続き実施するほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダによる地球環境計測・予測技術、平成9年11月に打ち上げが成功した熱帯降雨観測衛星(TRMM)や航空機搭載降雨レーダなどを用いて行う地球規模の降雨観測技術の開発・研究の推進等、情報通信技術を活用した様々な地球環境計測・予測技術等についての開発・調査研究を実施する。
科学技術庁においては、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」を拡充するとともに、地球規模の複雑な諸現象を高速度計算機で忠実に再現することを目指した「地球シミュレータ」の開発を引き続き推進する。さらに、郵政省と共同で、高度約20km上空(成層圏)に滞空し、地球観測等に利用する成層圏プラットフォームについての研究開発に産学官協同で着手する。