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第5節 

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1) 環境庁試験研究機関の整備と研究の推進
ア 国立環境研究所
(ア) 研究体制の強化
 我が国の環境研究の中心的役割を果たすため、昭和49年3月に環境庁の試験研究機関として筑波研究学園都市に設立された国立公害研究所は、平成2年7月には、自然環境保全分野を研究領域に加えるとともに、近年の社会的・行政的ニーズに対し、地球環境及び地域環境の両面にわたる研究体制の強化を目的に、「国立環境研究所」として改組された。また、同年10月には、地球環境研究及び地球環境モニタリングの我が国の中核的拠点として、「地球環境研究センター」が同研究所内に設置された。
 平成9年度においても、引き続き研究体制の強化を図り、地球環境研究のより一層の推進を図るため、地球環境研究グループ衛星観測研究チームの増強を行った。
 平成9年度末の機構・定員は、2研究グループ(23研究チーム)・7部(3課、24研究室)・3センター、272名となっている。
(イ) 研究活動の充実
i) 研究業務
 平成9年度においては、環境保全に係る特別研究9課題、重点共同研究1課題及び革新的環境監視計測技術先導研究1課題等のほか、環境研究総合推進費による地球環境研究39課題等を実施した。このうち平成9年度に実施した特別研究の課題は、次のとおりである。
? ディーゼル排気による慢性呼吸器疾患発症機序の解明とリスク評価に関する研究(最終年度)
? 廃棄物埋立処分に起因する有害物質暴露量の評価手法に関する研究(最終年度)
? 化学物質の生態影響評価のためのバイオモニタリング手法の開発に関する研究(最終年度)
? 輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究
? 微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究
? 海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究
? 超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究(初年度)
? 湖沼において増大する難分解性有機物の発生要因と影響評価に関する研究(初年度)
? 環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究(初年度)
ii) 環境情報業務
 環境情報センターにおいて、我が国の大気質及び水質の数値情報ファイルをはじめ自然環境保全総合データベースの開発、環境情報の所在・概要等を検索できる「環境情報ガイドディスク」の更新等、環境データベースの拡充を図るとともに、図書資料をはじめとする文献情報など国内及び国外の環境に関する情報の収集を行った。
 また、国連環境計画(UNEP)の国際環境情報源照会システム(INFOTERRA)における我が国の窓口としての諸業務を行った。
 さらに、国民が環境保全施策に関する情報等を入手するとともに情報交流を行うことを目指した「環境情報提供システム」の拡充、運用を行い、また、国立環境研究所WWW(WoridWideWeb)サーバによる情報提供を行った。
iii) 地球環境研究総合化・支援業務
 地球環境研究センターにおいては、地球環境保全に関する研究の今後の方向を探る目的で、地球環境リスク研究に関して第11回地球環境研究者交流会議を開催した。また、統合評価モデルに関するIPCCアジア太平洋ワークショップの事務局本部を務め、この国際会議の報告書を編集したほか、東アジア太平洋地域長期生態研究会議や成層圏変動とその気候に及ぼす影響に関する国際共同研究等に対する支援を行った。
 また、地球環境データベースの整備を引き続き行うとともに、UNEPの地球資源情報データベース(GRID)の協力センターとして環境データの作成・提供等の活動を行った。
 さらに、システム更改されたスーパーコンピュータシステムを地球温暖化や海洋汚染を始めとする地球規模の環境変化に関する解明、予測、影響評価等のための研究に供するとともに、スーパーコンピュータを用いた地球環境研究の成果発表会の開催や英文研究成果報告書の出版を行った。
iv) 地球環境モニタリング事業
 地球環境研究センターでは、地球環境に係る諸現象を把握するためのモニタリング事業を、前年度に引き続き実施した。
 地球温暖化の関連では、沖縄県竹富町波照間島及び北海道根室市落石岬に設置している観測局で、また航空機を利用しシベリア上空において温室効果ガス等のモニタリングを行うとともに、北太平洋海域においては民間船舶の協力を得て大気・海洋間の二酸化炭素収支状況のモニタリングを行った。オゾン層破壊の関連では、オゾンレーザーレーダー・ミリ波分光器により成層圏オゾン層の高度分布のモニタリングを行うとともに、オゾン層の破壊により増加が懸念されている有害紫外線量についてもモニタリングを進めた。水圏環境の関連では、民間船舶の協力を得て海洋中のクロロフィル量・栄養塩類等のモニタリングを行うとともに、UNEP等が推進する地球環境監視システム/陸水環境監視計画(GEMS/Water)の日本における担当機関として、ナショナルセンター業務(我が国における測定データのとりまとめ)及び精度管理業務を行った。
 また、これまで地球観測プラットフォームの技術衛星ADEOS搭載のオゾン層観測センサー(ILAS・RIS)のデータ処理・運用システムを整備してきたが、平成8年8月の衛星打ち上げ成功(打ち上げ後、「みどり」と命名された)後、システムの本格運用を継続して行った。
 さらに、平成11年度に打ち上げが予定されている環境観測技術衛星ADEOS-?に搭載するオゾン層観測センサー(ILAS-?)のデータ処理・運用システムの開発を進めた。
イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病研究センターは、平成8年7月に「国立水俣病総合研究センター」に改組・拡充し、平成9年度には、国内外の研究者が共同研究を行う「国際研究協力棟」の運用を開始し、国際共同研究体制の強化を図るなど、本章第8節1(1)ウ(ウ)に掲げた施策を実施した。
(2) 公害防止等に関する調査研究の推進
 国立機関の公害防止等に係る試験研究費として平成9年度に環境庁に一括計上されたものは、100テーマ、19億5,291万円(前年度99テーマ、19億1,804万円)で、これらの試験研究は、警察庁、北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省及び建設省の13省庁に属する47試験研究機関等において実施された。
 一括計上による公害防止等の試験研究については、従来から当面する問題のみならず、中長期的視野に立った対策推進の基礎を確保するよう配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してその推進を図っている。
 平成9年度に実施した総合研究プロジェクトの数は9で、その内容は次のとおりである。
ア 大気環境の保全に関する総合研究
 各種発生源からの窒素酸化物、浮遊粒子状物質等大気汚染物質の排出抑制技術の開発について13テーマの研究を実施したほか、分離膜を用いた有機蒸気の再生・回収システムに関する研究等新たに6テーマの研究を実施した。
イ 排水処理の高度化に関する総合研究
 産業排水、生活排水等の物理化学的及び生物的処理法等7テーマの研究を実施したほか、新規化学物質を含む無機系産業廃水の複合処理システムに関する研究等新たに2テーマの研究を実施した。
ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
 海洋における汚染現象の解明、汚染予測技術の開発、汚染防止及び浄化技術の開発等8テーマの研究を実施した。
エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
 河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等8テーマの研究を実施したほか、土壌汚染物質の植生による高度処理に関する研究等新たに3テーマの研究を実施した。
オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
 廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等10テーマの研究を実施したほか、廃棄物の熱処理に伴う未規制有害物質の制御・管理に関する研究等新たに2テーマの研究を実施した。
カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
 自然環境への影響評価、自然環境の保護・管理手法の開発等7テーマの研究を実施したほか、我が国の亜熱帯森林における希少野生生物とその生息環境の維持機構の解明に関する研究等新たに2テーマの研究を実施した。
キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
 都市における総合的な環境整備、生活環境の保全等5テーマの研究を実施したほか、被害感に基づいた交通管理による道路交通騒音低減対策の立案手法に関する研究等新たに2テーマの研究を実施した。
ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
 環境計測技術の評価、開発及び環境汚染物質の監視手法及び識別手法の開発等6テーマの研究を実施したほか、生体試料測定による地域住民の有害大気汚染物質の曝露アセスメントに関する研究等新たに4テーマの研究を実施した。
ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
 環境汚染物質の健康影響評価、影響評価手法の開発等10テーマの研究を実施したほか、遺伝子工学技術を用いた環境汚染物質の健康影響評価手法の開発・確立に関する研究等新たに2テーマの研究を実施した。
 また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、湖沼での有機物の動態解析手法の開発に関する研究等3テーマの研究を実施したほか、有用生物と資源を活用した汚濁水域の水質浄化・リサイクル・修復エコシステムの開発に関する研究を新たに実施した。
(3) 地球環境に関する調査研究等の推進
 地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成9年6月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成9年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」、平成2年8月に内閣総理大臣が決定した「地球科学技術に関する研究開発基本計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施した。
 また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学研究はもとより、人文社会科学の視点からの研究を含め学際的な取組を推進する必要がある。さらに、これらの調査研究を進めるにあたっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)、地球環境変動の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要がある。
 このような観点から、関係省庁の国立試験研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、「先駆的地球環境研究」区分を創設するとともに、海外の研究者を招聘して我が国の国立試験研究機関等において共同研究を行う「国際交流研究」区分等において、調査研究の充実・強化を図った。
 さらに、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、我が国が事務局として活動を支援している。平成9年3月に東京で開催された「第2回政府間会合」で検討された具体的な活動計画に従い、地域内で実施するアジアモンスーンの変化に関する観測、人間・社会的側面からみた地球環境問題に関する研究等に対し支援を行った。また、平成10年3月には中国・北京で「第3回政府間会合」が開催され、平成10年度の活動方針及び活動計画についての検討がなされた。
 平成9年度に実施した主な調査研究は第4-5-1表のとおりである。


(4) 基礎的・基盤的研究の推進
 環境は様々な事象が複合した系であり、未解明な現象や現状の環境保全技術では対応できない課題が非常に多く、基礎的段階から徹底的な研究が必要である。
 このため、大規模な基礎研究に対する総合的取組に関し、産・学・官の連携の下、新しい発想に立った次世代の環境保全技術の基礎となる「知的資産」を蓄積するための研究制度として「未来環境創造型基礎研究推進制度」を創設した。
 平成9年度は、本制度により「化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発に関する研究」、「亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究」の2課題の研究を実施した。
(5) 地球環境に関する観測・監視
 地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/政府間海洋学委員会(IOC)における全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等の国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行った。
 また、平成8年8月には宇宙開発事業団により地球観測衛星「みどり」が打ち上げられ、平成9年6月の機能停止までの約8ヶ月間にわたって観測を行った。「みどり」には国内外の機関が開発した8種の観測機器が搭載され、地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少等の環境問題に対応した貴重な観測データが取得された。これらのデータは、地球環境の観測・監視やその原因解明等に活用されている。さらに、平成9年11月には、熱帯降雨観測衛星(TRMM)の打ち上げに成功した他、「みどり」の後継機として平成11年度に打ち上げが予定されている環境観測技術衛星(ADEOS-?)の開発等を行った。海洋は、地球規模の変動に大きくかかわっており、その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため、海洋観測船等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進した。
 平成9年度に実施した主な観測・監視は第4-5-2表のとおりである。


(6) 環境基本計画推進調査
 環境庁に一括計上される環境基本計画推進調査費は、各省庁における環境基本計画に位置付けられた課題に関する調査研究を対象としており、「政策分」(政策の立案に関し複数省庁が連携して実施する調査研究)と、「緊急分」(環境保全に重大な影響を及ぼす等に対処して、緊急に行う調査研究)に分類される。
 平成9年度における「政策分」としては、次の6テーマについての調査研究を実施した(調査費小計:171百万円)。
? 環境基本計画の長期的目標に係る総合的指標の開発に関する調査
? 地球温暖化防止のためのエネルギー対策と住宅・社会資本整備の効果的連携のあり方に関する調査研究
? 生息・生育環境の確保による生物多様性の保全及び活用方策検討調査
? 持続可能な農山村地域の実現方策検討調査
? ライフサイクルアセスメント(LCA)の適用方策に関する調査
? 環境教育の総合的推進に関する調査
 また、「緊急分」については、「ツシマヤマネコ緊急疫学調査」、「カンムリウミスズメ繁殖状況等緊急調査」、「ナホトカ号油流出事故に伴う国立・国定公園における自然環境への影響に関する緊急調査」等の5テーマについて調査研究を実施した(調査費小計:39百万円)。
(7) 環境保全に関するその他の試験研究
 通商産業省においては、海洋中における海洋生物等による二酸化炭素吸収能の調査、海洋中の炭素循環メカニズムの解明、地球上の二酸化炭素の分布を調査する広域環境影響モニタリング調査等を実施したほか、温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施した。
 建設省においては、地球環境保全型建設技術の開発、効率的な湖沼底泥処理技術の開発、生態系の保全・生息空間の創造技術の開発を実施した。
 農林水産省においては、農業生態系のもつ物質循環機能を高度に活用し、より生態系に調和した環境に優しい農業システムの開発、家畜排泄物等の高度処理・低減化・高付加価値化技術の開発、雑草の生理特性を標的とした新雑草制御技術及び雑草の発生・生育予測等に対応した除草剤低減化技術の開発、都道府県試験研究機関の研究ネットワークによる、生物的防除技術を基幹とする省農薬病害虫制御技術等の開発、農地生態系における環境保全のための総合モニタリング手法等に関する研究等を実施した。さらに、森林総合利用のための森林における環境保全コストの内部経済化手法に関する調査を実施した。
 郵政省においては、地球環境変動機構解明のための高度電磁波利用技術の国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダによる地球環境計測・予測技術、平成9年11月に打ち上げが成功した熱帯降雨観測衛星(TRMM)や航空機搭載降雨レーダーなどを用いて行う地球規模の降雨観測技術の開発・研究の推進など、情報通信技術を活用した様々な地球環境計測・予測技術等についての開発・調査研究を実施した。
 科学技術庁においては、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの3つの機能が一体となった研究開発を推進している。平成9年4月には、地球規模の複雑な諸現象を高速度計算機で忠実に再現することを目指した「地球シミュレータ」の開発に着手し、平成9年10月には、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」を発足させた。

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