5 化学物質による新たな課題への対応
(1) 内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題について
平成8年に刊行され、世界的に反響を呼んだ「Our Stolen Future」(邦訳「奪われし未来」)という本では、有機塩素化合物、ノニルフェノール、DDT、クロルデンなどの化学物質が人の健康影響(女性の乳がん発生率の上昇、男性の精子数減少)や、野生生物への影響(ワニの生殖器の奇形、ニジマス等の魚類の雌性化、鳥類の生殖行動異常等)をもたらしている可能性が指摘されている。また、我が国においては、イボニシという巻き貝のメスが雄性化するという現象がみられ、船底塗料として使用されていた有機スズが原因と考えられている。
このような、生体内にとりこまれて内分泌系(ホルモン)に影響を及ぼす化学物質は、内分泌攪乱化学物質と呼ばれている。
厚生省においては平成8年度よりかかる問題について文献調査を中心とする知見の収集に努め、健康影響の観点から講じるべき必要な措置を提案した。これを踏まえ、更に平成9年度も継続して対処するべき問題の検討を実施した。
環境庁においては内分泌攪乱化学物質問題について文献調査を実施し、今後の調査研究のあり方等について検討を行い、平成9年7月に中間報告書を取りまとめた。同報告書では、これまでの知見からは一般生活における内分泌攪乱化学物質の人への影響の有無を判断することは困難であり、また、
・ 環境モニタリング等の実態調査の検討、
・ 内分泌攪乱化学物質の作用メカニズムの研究や、試験法の検討、
・ 内分泌攪乱化学物質に関する国内外にわたる研究情報交換
の一層の推進の必要性が指摘された。
また通産省においては平成8年度より、事実関係の情報収集に努めており、平成9年3月には日化協委託により本問題の調査研究に関する最初の報告書をまとめたところ。国際的な枠組みのもと、各省庁の取組と産学官の連携を進めながら、引き続き積極的な対策を講ずべく、スクリーニング試験法の開発等を鋭意進め、科学的知見の収集を図っている。
(2) 本態性多種化学物質過敏状態について
近年、微量な化学物質によってアレルギー様の反応が生じ、様々な健康影響がもたらされる病態(MCS;MultipleChemical Sensitivity:いわゆる化学物質過敏症)の存在が指摘されている。国際化学物質安全性計画会議ではこの病態を「本態性環境非寛容症」と呼ぶことが提唱され、欧米では研究が進められているが、我が国では本格的な実態調査などの研究はなされていない。
このため環境庁では、平成9年度に関連分野の研究者からなる研究班を設置し、本問題に関する文献調査の実施、実態調査を実施する際の技術的課題の検討を行った。
厚生省においては、平成8年度に設置した「快適で健康的な住宅に関する検討会議健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会」の報告を受け、平成9年度に、本症に関する研究班を設置し、臨床医学、毒性学、免疫学及び心理学等広範囲な観点から本症の病態等について検討した。