1 化学物質の安全性に関する施策の推進
(1) 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の実施
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化学物質審査規制法」という。)では、届出がされた新規の化学物質について、難分解性、高蓄積性及び慢性毒性等の有無をその製造又は輸入前に審査を実施することとしている。これらの性状をすべて有する化学物質を第一種特定化学物質として指定し、原則、製造、輸入、使用等を禁止している。また、蓄積性はないものの難分解性であり、かつ慢性毒性等の疑いがある化学物質を指定化学物質として指定し、製造量等の監視を実施している。当該指定化学物質による相当広範な地域の環境汚染により健康被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、有害性の調査を実施し、その結果、慢性毒性等が判明した場合には、第二種特定化学物質として指定し、取扱いに係る技術上の指針の遵守、環境汚染の防止に関する表示を義務づけるとともに、必要に応じ、製造量等に係る規制等を実施している(第1-5-1図)。新規化学物質の届出は、厚生大臣及び通商産業大臣に対して行われ、平成9年中に325件の届出がなされている。なお、平成9年末現在、第一種特定化学物質としてポリ塩化ビフェニル等9物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質及び指定化学物質としてクロロホルム等257物質が、それぞれ指定されている。
また、毒性試験方法及び評価に関する研究等を実施しており、平成9年度には、細菌を用いる復帰突然変異試験及びほ乳類を用いる染色体異常試験の試験法を改定した。
(2) 関係省庁による取組
既存化学物質の安全性の点検として、通商産業省においては、分解性及び蓄積性の試験を実施している。平成9年末までに、1,123物質について安全性の点検を実施している。また、これらの既存化学物質の点検を迅速かつ有効に進めるため、新たな試験方法の開発等の事業を進めている。また、平成8年2月に化学品審議会安全対策部会がまとめた産業界の自主管理の促進、技術基盤の整備、国際的ハーモナイゼーションの確保等の重要性を提言する「化学物質総合管理の在り方(中間報告)」のフォローアップとして、同審議会総合管理分科会において同中間報告書での個別課題について、現状把握及び問題点の抽出を行うとともに、国際的整合性のとれた化学物質総合管理のための具体的な政策の在り方について検討を行った。
環境庁及び通商産業省においては、有害大気汚染物質対策に関して、自主管理指針の提示等事業者の自主管理を推進するための体制整備を行ってきたが、平成9年度までに、自主管理の対象13物質について、73業界が自主管理計画を策定し、実行に移している。
厚生省においては、既存化学物質のスクリーニング毒性試験(?ほ乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験、?細菌を用いる復帰突然変異試験、?ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験)及び慢性毒性試験等を国際協力とともに効率的に実施しており、その結果を順次公表している。
環境庁では、昭和49年度以来、化学物質の環境中のレベルを調査してきたが、昭和54年度からは、数万といわれる既存化学物質を効率的・体系的に調査し、環境における安全性を評価するため、昭和63年度までの10年計画で第1次化学物質環境安全性総点検調査を実施した。
昭和63年5月には、生産活動等の変化や科学技術の進歩などを踏まえて、中央公害対策審議会環境保健部会化学物質専門委員会から、?調査対象物質の拡大、?環境運命予測を活用した調査対象物質の厳選、?調査物質の拡大、調査期間の短縮等による調査の充実、を柱とする環境安全性総点検調査の今後の在り方についての提言がなされ、平成元年度からは、これらを踏まえた、第2次化学物質環境安全性総点検調査を実施している。この調査の体系概要を第1-5-2図に示す。
平成9年度は、この体系に基づき、化学物質の環境調査、水質・底質モニタリング及び生物モニタリング等を実施した。
また、化学物質の利用拡大等を踏まえ、化学物質の環境リスク評価のための生態影響試験等の調査研究を引き続き実施するとともに、平成8年度から、難揮発性化学物質の分析マニュアル作成のための調査を行っている。
昭和47年に生産等が中止されて以降、本格的な処理が進まず事業者等により保管が続けられているPCBの処理については、平成9年12月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という)の施行令が改正され、化学処理法等の新たな分解処理方法が処分基準の中に位置付けられた。環境庁では、これに先立ち、平成9年10月に新たな処理技術の評価及び今後のPCB処理方策等についての検討委員会中間報告を公表した。
(3) 国際動向
経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機関では、化学物質対策に関する種々の活発な活動を主宰しており、我が国も積極的に参加している。
ア OECDの活動
OECDでは、新規化学物質の安全性評価のためのテストガイドライン(化学品安全性試験法)の作成、化学品のリスク評価手法、GLP(優良試験所基準)、情報交換システム、有害性に関する分類と表示の調和、化学品事故への対応等について検討を行っており、これらの成果を受け、化学品管理に関する種々の措置について決定や勧告が採択されている。
既存化学物質については、各国で大量に生産されている化学物質(HPVC)の安全性点検を分担して実施する国際プロジェクトを推進しており、我が国も積極的に参加している。また、既存化学物質のリスク管理方策の検討を進めるとともに、環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)制度の導入を推進している。
また、1994年(平成6年)より特別プロジェクトとして実施されている農薬フォーラムでは、農薬の安全性に係る再評価の国際分担や農薬によるリスク削減対策等についての検討が進められている。
イ WHOの活動
WHO及びUNEP、国際労働機関(ILO)の他、各国の主要な研究機関との間の有機的な協力に基づき国際化学物質安全性計画(IPCS)において、安全性に係る対策の優先度の高い化学物質のリスク評価、健康へのリスク評価手法の開発等の活動が実施されており、この成果として化学物質ごとの環境保健クライテリア(EHC)の刊行等が行われている。
ウ UNEPの活動
UNEPでは、化学物質の人及び環境への影響に関する既存情報の収集・蓄積並びに化学物質の各国の規制に係る諸情報の提供等を目的として、国際有害化学物質登録制度(IRPTC)がなされており、データプロファイルの刊行、質問・回答サービス、IRPTC Bulletinの発行等が行われている。また、禁止又は厳しく規制されている化学物質の貿易時における情報交換の手続を規定したロンドンガイドラインに基づき、輸出先国への事前通報・承認(PIC)手続が導入されている。なお、1995年(平成7年)5月のUNEP管理理事会におけるPICの早期条約化に係る勧告を受けて、条約化交渉会議が開催されている。
更に、残留性又は生物濃縮されやすい有害な化学物質(POPs)が問題とされ、1995年(平成7年)5月の会合において12物質が定義されている。1995年(平成7年)10月及び1996年(平成8年)6月の会合において、POPsの製造、使用等を禁止又は厳しく制限することを目的とした国際的拘束力のある手段を確立すべく合意されており、これをもとに、1998年(平成10年)6月に第1回条約化交渉会議が予定されている。
エ 「アジェンダ21」のフォローアップ
1992年(平成4年)6月の環境と開発に関する国連会議(UNCED)において採択された行動計画「アジェンダ21」の中に「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」として1章が割かれ、国際的に取り組むべき項目が以下のように示された。これらの効率的なフォローアップを行うため、1994年(平成6年)4月に化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)が設立された。
? 化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進
? 化学物質の分類と表示の調和
? 有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換
? リスク低減計画の策定
? 化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化
? 有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止
? 国際協力の強化
これらの項目のうち?については、化学物質情報の交換手段として、「地球規模化学物質情報ネットワーク(GINC)」の構築が企図され、日本の積極的な支援により開始されている。
(4) 国際的動向を踏まえた我が国の取組
関係省庁においては、OECDにおける化学品規制の調整作業、HPVの安全性点検等に積極的に対応するとともに、試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、GLPに関する国内体制の整備、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性について総合的に評価するための手法等についての検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っている。
事業者間における化学物質の安全性に関する情報交換を目的として「化学物質安全性データシート(MSDS)」の作成について「化学物質の安全性に係る情報提供に関する指針」を制定し、MSDSの普及に努めている。さらに、ロンドンガイドラインの国内実施措置として、平成4年7月に輸出貿易管理令を改正し、現在40物質を輸出の際の事前通報制度の対象としている。
(5) 国際協力
現在多くの化学物質が世界中で生産、使用、廃棄されていることから、その安全対策は国際的協調の下に推進することが不可欠である。「アジェンダ21」においても、化学物質の安全性確保に関する発展途上国への支援が挙げられており、関係省庁においても、化学物質の環境モニタリング、安全性評価等に関し、技術協力を実施している。