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第1節 

5 地域の生活環境に係る問題への対策

(1) 騒音・振動対策
ア 総説
(ア) 騒音・振動の現況
 騒音は、各種公害の中でも日常生活に関係の深い問題であり、また、その発生源も多種多様であることから、例年、その苦情件数は公害に関する苦情件数のうちで最も多くを占めている。
 騒音発生源の種類ごとに苦情件数をみると、工場・事業場騒音が最も多く、建設作業騒音、営業騒音、家庭生活騒音がそれに次いでいる(第1-1-14図)。
 騒音苦情の件数は、ここ10年位は減少傾向にあるが、平成8年度は前年度に比べ増加した。発生源別にみると、工場・事業場騒音、建設作業騒音に対する苦情件数が増加している。
 一方、振動は、各種公害の中で騒音と並んで日常生活に関係の深い問題である。苦情件数は、平成6年度、平成7年度と増加傾向にあったが、平成8年度は前年度に比べ減少し、振動に係る苦情件数は2,662件であった。
 その内訳をみると、建設作業振動に対する苦情件数が最も多く、工場、事業場振動に係るものがそれに次いでおり、苦情原因として依然大きな割合を占めている(第1-1-15図)。
(イ) 騒音に係る環境基準
 環境基本法第16条の規定に基づき、「騒音に係る環境基準」が定められている。同基準では基準値を、一般地域及び道路に面する地域の2つに分け、それぞれにおいて地域の類型・区分及び時間の区分ごとに設定しており、都道府県知事は、類型を当てはめる地域の指定を行うこととなっている。平成8年度末現在で47都道府県において、630市、922町、107村、23特別区について地域指定が行われている。
 また、現行の騒音に係る環境基準では、騒音評価手法として騒音レベルの中央値(L50)を用いているが、その後の騒音測定技術の向上や国際的な動向を踏まえ、平成8年7月に中央環境審議会に対し「騒音の評価手法等の在り方について」が諮問され、騒音に係る環境基準の在り方及びこれに関連して再検討が必要となる基準値等の在り方について審議が行われている。平成8年11月に同審議会騒音振動部会騒音評価手法等専門委員会がとりまとめられた中間報告では、騒音の評価手法としてこれまでの騒音レベルの中央値(L50)から等価騒音レベル(LAeq)に変更することが適当であること等が示されている。
(ウ) 騒音規制法及び振動規制法による規制等
 「騒音規制法」及び「振動規制法」では、騒音や振動を防止することにより生活環境を保全すべき地域を都道府県知事(指定都市・中核市にあってはその長に委任)が指定し、この指定地域内にある工場・事業場における事業活動と建設作業に伴って発生する相当範囲にわたる騒音や振動を規制するとともに、都道府県知事は、都道府県公安委員会等に対して道路交通に起因する自動車騒音や道路交通振動について対策の要請等ができることとされている。また、騒音規制法では、自動車から発生する騒音の許容限度を環境庁長官が定めることとされている。
 都道府県知事等による地域指定は、平成8年度末現在で、振動規制法に基づくものは、47都道府県において、666市、1,242町、176村、23特別区について行われており、全市区町村数の64.7%である。
 また、振動規制法に基づくものは、47都道府県において、656市、871町、99村、23特別区について行われており、全市区町村数の50.7%である。
イ 工場・事業場及び建設作業による騒音・振動対策
(ア) 工場・事業場及び建設作業による騒音・振動の現況
 騒音については、騒音規制法の指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となるが、指定地域内の特定工場等の総数は平成8年度末現在で20万4,822である。
 指定地域内において行われる建設作業であって政令で定めるくい打作業等の特定建設作業が規制対象となるが、平成8年度の特定建設作業実施の届出件数は4万1,223件である。
 振動については、振動規制法の指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となるが、指定地域内の特定工場等の総数は平成8年度末現在で11万8,356である。
 指定地域内において行われる建設作業であって政令で定めるくい打作業等の特定建設作業が規制対象となるが、平成8年度の特定建設作業実施の届出件数は、2万7,857件である。
(イ) 対策
a 工場・事業場
 騒音については、騒音規制法に基づき、平成8年度中には、改善勧告が5件行われた。また、騒音規制法に基づく報告徴収等の調査後における騒音防止に関する行政指導が1,139件行われた。
 また、近年の苦情等の実態に的確に対応し、生活環境の保全を図るため、未規制施設等について騒音実態調査等を行うとともに、平成8年に騒音規制法の規制対象となる特定施設として切断機(といしを用いるものに限る)を追加した(平成9年10月1日より施行)。
 振動については、平成8年度中においては、振動規制法に基づく改善勧告、改善命令ともに行われなかった。また、報告徴収等の調査後における振動防止に関する行政指導が228件行われた。
 また、振動に係る苦情のうち、法規制対象外の施設や建設作業を発生源とするものの割合が半数以上を占めていることから、振動公害対策に係る調査検討を行った。
 なお、住工混在の土地利用により、現に騒音・振動公害が発生し、問題となっている地域では、遮音壁や振動防止施設の設置等の騒音・振動防止対策、当該地域からの工場・事業場の移転等が公害対策の重要な手段となっているが、騒音・振動が問題となる工場・事業場の多くは中小規模であり、資金的な面等から移転が困難な場合が多い。このため、中小企業金融公庫等による工場移転についての融資、環境事業団による集団設置建物の建設が行われている。
b 建設作業
 特定建設作業に伴い発生する騒音について、平成8年度においては、騒音規制法に基づく改善勧告、改善命令ともに行われなかった。また、報告徴収等の調査後における騒音防止に関する行政指導が720件行われた。
 また、近年の苦情等の実態に的確に対応し、生活環境の保全を図るため、未規制の建設作業についても騒音実態調査等を行うとともに、平成8年に騒音規制法の規制対象となる特定建設作業としてバックホウ、トラクターショベル又はブルドーザー(低騒音型建設機械を除く)を使用する作業を追加した(平成9年10月1日より施行)。
 特定建設作業に伴い発生する振動については、平成8年度中においては、振動規制法に基づく改善勧告等は行われなかった。なお、報告徴収等の調査後における振動防止に関する行政指導が325件行われた。
 建設作業の騒音・振動については、低騒音型建設機械・低振動型建設機械の開発・普及が進められている。
 また、振動については、振動苦情の実態に対応した規制を行うため、引き続き、所要の調査検討を行った。
ウ 自動車交通騒音・振動対策
(ア) 自動車交通騒音の現状
 自動車騒音について、「当該地域の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じ易い地点」において、平成8年中に全国の自治体(都道府県、市町村及び特別区)の測定した結果を見ると、第1-1-16図のとおりである。騒音に係る環境基準については、全国の測定地点(環境基本法に基づく環境基準の類型指定区域内4,645地点)のうち4時間帯(朝、昼間、夕、夜間)で環境基準が達成されたのは599地点であった。また、騒音規制法に基づく要請限度については、全国の測定地点(騒音規制法に基づく指定地域内4,906地点)のうち4時間帯すべて又は4時間帯のいずれかで要請限度を超過したのは1,573地点であった。
 測定期日・時間が年によって必ずしも一致していないため、単純に比較することはできないが、平成4年から5年間継続して同一地点で測定している1,877測定地点で見ると、第1-1-17図のとおりであり、8年度に4時間帯すべてで環境基準が達成された地点は208地点と、引き続き低い水準で推移している。
 さらに、環境基準の達成状況について、大都市域(東京都23区及び12政令指定都市)とそれ以外の地域で見ると、4時間帯のすべてにおいて環境基準が達成された測定地点の割合は、大都市域が6.8%(601測定地点中41地点)であり、それ以外の地域の13.8%(4,044地点中558地点)に比べて低くなっており(第1-1-18図)、また、道路の種類別に見ると、4時間帯すべてで環境基準が達成された測定地点の割合は、高速自動車国道が最も高く、逆に都市内高速道路が最も低くなっている(第1-1-19図)。
(イ) 対策
 自動車本体からの騒音は、エンジン、吸排気系、駆動系、タイヤ等から発生するが、沿道においては、自動車本体から発生する騒音に、交通量、通行車種、速度、道路構造、沿道土地利用等の各種の要因が複雑に絡み合って自動車騒音として問題となっている。また、道路周辺における振動についても、自動車重量、走行条件及び路面の平坦性、舗装構造、路床条件等の道路構造等の要因もあいまって道路交通振動問題となっている。これらの騒音・振動問題を抜本的に解決するため、自動車構造の改善による騒音の低減に加え、走行状態の改善等の発生源対策、交通流対策、道路構造の改善、沿道対策等の諸施策を総合的に推進している(第1-1-20図)。
 なお、自動車騒音に関して道路管理者等に対して意見陳述を行った件数は、平成8年度は16件であった(第1-1-20表)。
a 自動車構造の改善
 自動車構造の改善により、自動車単体から発生する騒音の大きさそのものを減らす発生源対策として、自動車騒音規制が実施されている。
 騒音規制としては、市街地を走行する際に発生する最大の騒音である加速走行騒音、一定の速度で走行する際の騒音である定常走行騒音、使用過程車の街頭での取締りなどに適した近接排気騒音の3種類について規制を実施している。
 特に、近接排気騒音規制については、昭和61年6月から使用過程車も含めて実施され、不正改造車等の取締りに対して効果をあげている。また、暴走族の深夜、住宅地等における爆音暴走が多発し、大きな社会問題となってきたことから、消音器不備、近接排気騒音、空ぶかし運転等の取締りを強化している。平成9年中の暴走族の消音器不備等に係る取締り件数は8985件であった。
 しかし、これまでの規制強化にもかかわらず、自動車交通量の増加等により幹線道路の沿道地域を中心に環境基準の達成率は依然として低く、一層の騒音低減が必要であるため、平成3年6月、中央公害対策審議会に対して、「今後の自動車騒音低減対策のあり方について」を諮問し、平成4年11月及び平成7年2月に、加速走行騒音を1〜3デシベル、定常走行騒音を1〜6.1デシベル、近接排気騒音を3〜11デシベル低減する目標値の設定を中心とした答申がなされた。これらの答申に盛り込まれた目標値は、世界的に見ても最も厳しいものであり、環境庁としては、継続的に技術評価を行うことにより技術開発を促進し、目標値の早期達成を図っているところである。
 これまでの評価の結果、平成9年度には、小型車の一部及び乗用定員6人超えの乗用車については、平成11年から規制強化を実施すべく平成9年12月に告示改正を行った。(第1-1-21表)
b 総合的施策
 総合的な道路交通騒音対策の推進として、平成7年3月の中央環境審議会答申等に示された方針に沿い、地域の状況に応じて、道路構造対策、交通流対策、沿道対策等の各種対策の推進を図るため、地方自治体による計画の策定等の取組の指導支援を実施している。
 また、全国的に見て道路交通騒音の環境基準の非達成測定点が多く存在し、特に都市部幹線道路沿道においては多くの測定地点において騒音規制法に基づく要請限度をも超過する等道路交通騒音が深刻な状況が続いており、周辺の土地利用、交通特性から見て、平成7年7月7日の最高裁判所判決において国の責任が認められた国道43号及び阪神高速神戸線の沿線地域の道路騒音と同様に対策の早期実施が求められる地域が存在している。このため、関係省庁においては、道路交通公害対策関係省庁連絡会議(警察庁、環境庁、通商産業省、運輸省及び建設省)において、平成7年12月1日に「道路交通騒音の深刻な地域における対策の実施方針」を取りまとめ、関係省庁連名にて全国の都道府県等に地域レベルにおける関係行政主体一体となった対策の推進を要請した。この通知を受け、平成9年度までにほとんどの都道府県等で関係行政機関参加による道路交通騒音対策のための協議会等が相次いで開催され、道路交通騒音の深刻な地域における問題の早急な解決に向けて総合的な対策の検討が開始された。
c 道路構造の改善
 道路構造の面からの対策としては、環境施設帯や遮音壁等の整備、道路緑化を推進している。また、高架裏面吸音板、低騒音舗装の敷設を推進しているほか、低騒音舗装の騒音低減効果の持続性の向上を図るための技術開発等を行った。
d 物流の効率化等
 中長距離の幹線輸送においては、鉄道・海運の積極的活用を通じた適切な輸送機関の利用を促進する等の施策を推進する。また、トラック輸送においては、営業用トラックへの転換、積合せ輸送、共同輸配送の推進、情報化による帰り荷の確保等により輸送効率の向上を図っている。
 さらに、主要な物流拠点とのアクセス道路の整備、倉庫、トラックターミナル等の物流拠点の集約化・適正配置等を積極的に進め、効果的な物流システムの構築を図っている。
e 公共交通機関の利用促進
 都市におけるバス交通の活性化や交通結節点の整備等による公共交通機関の利用促進を図っている。
f 交通流対策
 交通流対策としては、バイパス、環状道路を始めとする道路網の体系的整備による道路交通の分散、円滑化、駐車場・駐車場案内システムの整備、交差点の改良を図るとともに、新交通管理システム(UTMS)の一環として、交通管制システムの高度化、光ビーコン・電波ビーコン・FM多重放送の整備を始めとする交通情報収集・提供機能の拡充による交通流集中の抑制、信号制御の高度化等による交差点等における交通渋滞の解消等により交通混雑を緩和し、環境への負荷の軽減を図っている。さらに、道路交通情報を車載機へリアルタイムに提供する「VICS(道路交通情報通信システム)」については、平成9年度末までに9都府県の一般道路と高速道路並びに全国の高速道路においてもサービスが開始され、全国への展開に向けて積極的な取組がなされた。
 また、大型車の中央寄り車線通行指定、高速走行に起因する騒音の防止のための高速走行抑止システムの整備、最高速度規制、大型車の夜間通行止め規制等を実施するとともに、住居系地区等への通過交通の進入を抑制するために、交通規制とコミュニティ道路等の面的整備を組み合わせたコミュニティゾーンの形成等を推進している。
 さらに、都市内における円滑な交通流を阻害している違法駐車を防止し、排除するため、駐車規制の見直し、悪質・危険性、迷惑性の高い駐車違反に重点を置いた取締り、違法駐車抑止システム、駐車誘導システム等の整備、違法駐車防止条例の制定の働きかけ等の総合的な駐車対策を推進している。
 過積載運転に対しては、荷主等の背後責任追及を積極的に実施するなど、取締りを一層強化している。警察による平成9年中の過積載に係る取締り件数は43,669件、道路管理者による平成7年度の車両制限令違反車両に係る指導取締り回数は8,377回であった。
g 沿道環境の整備
 沿道対策としては、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」に基づく沿道整備道路が、平成9年末現在で8路線延べ約116km指定されている。このうち環状7号線20地区を始めとして、29地区、74.3kmについて沿道整備計画が決定され、その実現を支援するため、緩衝建築物の建築費の負担、防音工事の助成、市町村の土地買入れ資金の無利子貸付けを実施している。
 なお、高速自動車国道等の周辺の住宅で騒音による影響が著しいものに対して、緊急的措置として防音工事の助成等を行っており、平成8年度末までに実施した戸数は約53,200戸である。
 また、昭和60年度より発足した道路開発資金制度において、沿道環境の向上に資する建築物の建築等に対する長期の低利融資を実施している。
h その他の対策
 自動車NOx法に基づく総量削減計画に盛られた施策は、NOx削減効果と併せて自動車騒音低減効果をも有するため、関係都府県を指導し、その円滑な実施を図ったほか、環境負荷の少ない自動車の使用法等の普及啓発活動を行った。
 (第1章1節3項 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策参照)
エ 航空機騒音対策
 航空機のジェット化の進展等は交通利便の飛躍的増大をもたらした反面、空港周辺地域において航空機騒音問題を引き起こした。特に空港周辺の市街化とあいまって、これまで、民間空港2港及び防衛施設4飛行場においては、夜間の発着禁止、損害賠償等を求める訴訟が提起されている。このような航空機騒音問題を解決するため、発生源対策、空港周辺対策等の諸対策を推進している。
(ア) 環境基準及びその達成状況
 航空機騒音公害防止のための諸施策の目標となる「航空機騒音に係る環境基準」(昭和48年12月27日)については、地域類型の当てはめに従い、WECPNL(加重等価平均感覚騒音レベル)の値を専ら住居の用に供される地域については70以下、それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域については75以下になるようにすることとされている。
 航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、環境基準制定当時に比べて騒音の状況は全般的に改善の傾向にあり、平成8年度において約70%である(第1-1-21図)。なお、地域の類型の当てはめは、都道府県知事が行うこととなっており、平成8年度末現在で、33都道府県、62飛行場周辺において行われている。
 また、コミューター空港、ヘリポート等については、環境基準が適用されない小規模なものが多く、平成2年9月に制定したこれらの騒音問題の発生の未然防止を図るため必要な環境保全上の指針を踏まえて、諸施策を実施している。
(イ) 発生源対策
 発生源対策は、航空機の騒音をその発生源である航空機の段階で極力低減させるもので、騒音対策上、最も基本的かつ効果的な施策である。これまで、低騒音型機の導入、騒音軽減運航方式の実施等の発生源対策を推進することにより、航空輸送量の増大に対応しつつ、騒音の及ぶ地域を縮小してきた。
a 低騒音型機の導入等
 一定の基準以上の騒音を発生する航空機の運航を禁止する騒音基準適合証明制度については、逐次規制の強化が行われ、昭和53年に強化された騒音基準に適合しない航空機の運航については、平成7年4月1日以降段階的に運航が制限され、平成14年4月1日以降その運航を禁止することとされた。
 また、平成8年5月の航空法の改正により、騒音基準適合証明が耐空証明に一本化されるとともに、型式証明に騒音基準の適合性の証明が盛り込まれ、平成9年10月より従来のジェット機に加え、プロペラ機及びヘリコプターについても規制が実施されることとなった。
b 発着規制
 緊急時等を除き、新東京国際空港及び東京国際空港(新A滑走路及びB滑走路に限る。)については午後11時から午前6時までの間、大阪国際空港については午後10時から午前7時までの間、ジェット機の発着を禁止している。さらに、大阪国際空港においては、午後9時以降定期便のダイヤを設定しないこととしている。
c 騒音軽減運航方式
 各空港の立地条件等に応じて、優先滑走路方式、優先飛行経路方式、急上昇方式、カットバック上昇方式、低フラップ角着陸方式及びディレイドフラップ進入方式が採用されている。
(ウ) 空港周辺対策
 発生源対策を実施してもなお航空機騒音の影響が及ぶ地域については、「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」等に基づき周辺対策を行っている。同法に基づく対策を実施する特定飛行場は、東京国際、大阪国際、福岡等15空港であり、これらの空港周辺において、学校、病院、住宅等の防音工事及び共同利用施設整備の助成、移転補償、緩衝緑地帯の整備、テレビ受信料の助成等を行っている(第1-1-22表)。
 また、大阪国際空港及び福岡空港については、周辺地域が市街化されているため、同法により計画的周辺整備が必要である周辺整備空港に指定され、国及び関係地方公共団体の共同出資で設立された空港周辺整備機構が関係府県知事の策定した空港周辺整備計画に基づき、上記施策に加えて、これまでに再開発整備事業、代替地造成事業等を実施している。
 周辺対策事業を推進してきた結果、「航空機騒音に係る環境基準」の目標に定める屋内環境が保持されている。一方、移転跡地を活用しつつ、空港と周辺地域との調和ある発展を図っていく必要があるため、次の施策を講じている。
? 大阪国際空港周辺については、運輸省及び2府県が緑地の計画的な整備を順次進めている。
? 函館、仙台、新潟、大阪国際、名古屋、松山、高知、福岡及び宮崎空港においては、地方公共団体が住宅の移転跡地等を利用して行う公園、緑道等の周辺環境基盤施設の整備に対して補助が行われている。
 また、「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」に基づき、新東京国際空港では、空港の周辺における適正かつ合理的な土地利用を図るため、千葉県において、航空機騒音対策基本方針の見直しが進められている。
 また、大阪国際空港については、関西国際空港の開港に伴い、ジェット機の発着回数が減少したことにより周辺の騒音の影響が大幅に改善されたことから、空港周辺対策の対象となる騒音対策区域について見直しを行い、平成10年3月に告示し、平成12年4月から適用することとした。
(エ) 防衛施設周辺における航空機騒音対策
 自衛隊等の使用する飛行場周辺の航空機騒音については、自衛隊機等の本来の機能・目的からみて、エンジン音の軽減・低下を図ることは困難であるので、音源対策、運航対策としては、消音装置の使用、飛行方法の規制等についての配慮が中心となっている。この場合の駐留米軍における音源対策、運航対策については、日米合同委員会等の場を通じて協力を要請している。これまでに、厚木、横田、嘉手納及び普天間の各飛行場における航空機の騒音規制措置について、日米合同委員会において合意されている。
 自衛隊等の使用する飛行場に係る周辺対策としては、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」を中心に、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、建物等の移転補償、土地の買入れ、緑地帯等の整備、テレビ受信料に対する助成等の各種施策が実施されている(第1-1-23表)。
 なお、平成9年度末現在28飛行場周辺について同法に基づく第1種区域等が指定されており、住宅防音工事の助成等が実施されている。
オ 新幹線鉄道騒音・振動対策
 新幹線鉄道は、昭和39年の東海道新幹線開業以来、大量高速輸送機関として発展してきたが、一部の沿線地域において騒音・振動が環境保全上大きな問題となった。
 このうち名古屋地区においては、昭和49年3月に東海道新幹線に係る騒音・振動公害の差止め及び損害賠償を求める訴訟が提起されたが、昭和61年4月、発生源対策の一層の推進等を内容とする和解が成立している。
(ア) 環境基準の設定とその達成状況
a 環境基準
 「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」(昭和50年環境庁告示第46号)では、都道府県知事が行う地域の類型あてはめに従い、主として住居の用に供される地域は70デシベル以下、商工業の用に供される地域等は75デシベル以下とし、これが達成され、又は維持されるよう努めるものとしている。地域の類型あてはめは、新幹線鉄道が運行されている22都府県において行われている。
 なお、振動については、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」(昭和51年3月)において、振動対策指針値を70デシベルとして、環境庁長官より運輸大臣に対して勧告している。
b 環境基準等の達成状況
 騒音については、東海道・山陽・東北及び上越新幹線について、それぞれ環境基準の達成目標期間の最終年の経過後において、その達成状況ははかばかしくなかったことから、東海道・山陽新幹線にあっては住宅密集地域が連続する地域、東北・上越新幹線にあっては住宅集合地域を対象として、当面の対策として75デシベル以下となるよう対策を講じてきた(いわゆる「第1次75ホン対策」)。平成6年度の環境庁による調査の結果、この当面の目標については概ね達成されたため、「第2次75ホン対策」では東海道・山陽新幹線沿線の住宅集合地域及び東北・上越新幹線沿線の住宅集合地域に準じる地域に対象を拡大した。平成9年度の環境庁による調査の結果、この目標についても、全ての地点で達成されており、現在は平成14年度末を目途に、東海道・山陽新幹線沿線の住宅集合地域に準ずる地域及び東北・上越新幹線沿線の住宅立地地域(住宅が点在する地域を除く)に対象を拡大した「第3次75デシベル対策」を講じるよう関係機関に要請しているところである。
 また、平成9年10月に開業した北陸新幹線高崎・長野間については、9年度の環境庁による調査の結果、測定地点の46%で環境基準が達成されており、引き続き環境基準の達成に向けた対策を推進するよう関係機関に要請している。
 振動については、環境庁長官の勧告に基づく振動対策指針値は概ね達成されており、また、指針値を超過した地点については、関係機関に対し振動対策を一層推進するよう要請しているところである。
(イ) 対策の実施
 東海道・山陽・東北及び上越新幹線については、「国鉄改革後における新幹線鉄道騒音対策の推進について」(昭和62年3月閣議了解)及び環境庁長官の勧告等に基づく運輸大臣の通達を受けて、鉄道事業者が音源対策、振動対策及び障害防止対策を実施した。
a 音源・振動対策
 「第1次75ホン対策」に引き続き、平成4年度から「第2次75ホン対策」として、第1次75ホン対策と同様に防音壁のかさあげ、改良型防音壁の設置、レール削正の深度化、バラストマットの敷設、低騒音型車両の開発等各種の音源・振動対策を実施している。
b 障害防止対策
 騒音レベルが75デシベルを超える区域に所在する住宅及び70デシベルを超える区域に所在する学校、病院等に対し従来から防音工事の助成等を実施し、申出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
 また、東海道・山陽新幹線において、振動レベルが70デシベルを超える区域に所在する住宅等の防振工事の助成及び移転補償等を実施しており、申出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
 平成9年10月に開業した北陸新幹線高崎・長野間についても、環境基準等の達成に向け、鉄道事業者等による音源・振動対策の推進を図っている。
(ウ) 騒音・振動防止技術の研究開発
 音源対策及び障害防止対策をより効果的に実施するため、国鉄の試験研究に関する業務を承継した財団法人鉄道総合技術研究所を中心として、引き続き有効な騒音防止対策の開発等を推進している。
カ 在来鉄道騒音・振動対策
 新幹線以外のいわゆる在来鉄道については、新設又は高架化等のように環境が急変する場合の騒音問題を未然に防止する必要があるとの観点から、平成7年12月に策定した「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針」(第1-1-24表)を踏まえ、騒音対策の適切かつ円滑な実施に努めている。
キ 近隣騒音対策(良好な音環境の保全)
 近年、深夜等の営業騒音、拡声機騒音、生活騒音等のいわゆる近隣騒音は、騒音に係る苦情全体の4割近くを占めており、重要な対策課題となっている。
 このため、都市における快適な環境(アメニティ)の向上の一環として住民等の生活騒音防止活動を積極的に支援する観点から、サウンドスケープ的手法をとり入れたモデル事業(音環境モデル都市事業)を実施し、とりまとめを行った。
 また、近隣騒音対策は、国民一人一人のマナーやモラルに期待するところが大きい。このため、各地域における地方公共団体や住民等の良好な音環境を保全しようとする取組を支援するため、平成8年度に実施した「残したい“日本の音風景100選”」事業(第1-1-22図)のフォローアップの一環として、平成9年度は、認定地団体等の参加により、全国音風景保全連絡協議会を発足させるとともに、第1回音風景保全全国大会を仙台市において開催した。
 さらに、飲食店営業等に係る深夜における騒音、拡声機を使用する放送に係る騒音等の規制については、騒音規制法に基づき、都道府県、指定都市及び中核市において、深夜営業騒音や拡声機騒音について、条例による規制がなされている。
ク 低周波音対策
 人の耳には聞き取りにくい低い周波数の音がガラス窓や戸、障子等を振動させたり、人体に影響を及ぼしたりするとして、平成8年度は全国で32件の苦情が発生した。
 低周波音の問題については、新たに生活環境保全上の目標、測定方法及び対策手法に関する指針を策定して、同問題の改善を図るため調査検討を開始した。


(2) 悪臭対策
ア 悪臭の現状
 悪臭苦情の件数は昭和47年をピークに概ね減少傾向にあり、平成8年度は11,942件で、前年度に比べ5.9%増加した。発生源別では、畜産農業、各種製造工場に係る苦情が減少しているのに対し、「サービス業・その他」等いわゆる都市・生活型に分類される苦情の割合が増加する傾向にある(第1-1-23図)。
イ 悪臭防止対策
(ア) 「悪臭防止法」による規制の実施
 悪臭防止法では、都道府県知事(政令市においてはその長)が規制地域の指定及び規制基準の設定を行うこととしており、平成8年度末現在、全国の52.0%に当たる1,692市区町村(621市、922町、126村、23特別区)で規制地域が指定されている。
 平成8年度中は、悪臭防止法に基づき、改善勧告が6件行われ、改善命令に至ったものはなかった。このほか、規制地域内の悪臭発生事業場に対して2,968件の行政指導が行われた。
(イ) 悪臭防止対策の充実
 悪臭防止法に基づく、嗅覚測定法(人間の嗅覚を用いた悪臭の測定法)による臭気指数の規制の円滑な施行を図るため、地方公共団体に対する臭気指数規制の導入に係る費用の助成、地方公共団体職員を対象とした嗅覚測定技術の研修を行った。また、地方公共団体から委託を受けて臭気指数の測定を行う者についての国家資格である臭気判定士試験を実施した。
 また、悪臭防止法に基づく臭気指数に係る規制基準のうち、煙突等の気体排出口及び排出水に係る規制基準については未だ設定されていないが、気体排出口に係る規制基準の設定方法については、平成9年11月、中央環境審議会の答申を得た。
(ウ) におい環境保全総合対策
 良好なにおい環境の保全のため、においマップの作成などを通じて街のにおい環境の大切さへの認識を高め、都市生活に伴う悪臭を減らすために、市民をはじめとする各主体の具体的な行動を喚起することを目標としたかおり環境都市モデル事業(クリーンアロマ推進計画)を実施している。また、一般環境大気におけるにおいに関する目標設定のための調査検討を行っている。
(エ) 悪臭防止技術の改善
 各地方公共団体の担当者が、臭気指数規制の導入により新たに悪臭防止対策が必要とされる事業場等に対し、発生源の種類、周辺状況に応じ適切な改善措置を指導できるようにするため、有効な悪臭防止技術に関する知見を収集し、その全国的な普及を図る事業を行っている。


(3) その他大気に係る生活環境対策
? 日々の生活において国民がさわやかで澄んだ空気等より良い大気環境を享受するため、「光害」等の新たな問題も視野に入れつつ、生活環境の保全の観点から良好な大気環境の確保を図ってゆくことが今後重要との観点から、良好な大気生活環境の在り方とその実現方策等に関する調査検討を行うとともに、啓発事業を展開した。
 また、良好な大気生活環境保全に対する国民一人一人の正しい認識とライフスタイルの変更に資するため「光害対策ガイドライン」を策定し、環境影響に配慮した屋外照明等のあり方を示した。
? 大気汚染地域等の公立義務教育諸学校の児童生徒の学習能率向上と積極的な心身の健康促進を図るため、学校環境緑化推進事業を、児童生徒の健康増進特別事業(平成9年度予算額7億9,863万円)のメニューの一つとして実施した。
 また、騒音等の公害により、著しく不適当な教育環境となっている公立学校の公害防止工事に要する経費について補助を行い、平成9年度には9億6,200万円を計上した。さらに、私立学校の公害防止事業に対しては、日本私学振興財団(平成10年1月1日より日本私立学校振興・共済事業団)の行う貸付事業において、平成9年度は貸付計画額5億円を計上した。

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