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第1節 

4 多様な有害物質による健康影響の防止

(1) 多様な有害物質による大気汚染の現況
 近年、多様な化学物質が低濃度ではあるが大気中から検出されていることから、その長期暴露による健康影響が懸念されている。
 大気中から検出される多様な有害物質のうち長期的に推移を把握していく必要のある物質については、昭和60年度から未規制大気汚染物質モニタリング調査(平成8年度からは有害大気汚染物質モニタリング調査)を実施している。平成8年度においては、ダイオキシン類、揮発性有機化合物、アルデヒド類について調査を行った。
 調査結果は、ダイオキシン類については、工業地域近傍の住宅地域の平均値は1.00pg-TEQ/m
3
(0.38pg-TEQ/m
3
〜1.67pg-TEQ/m
3
)、大都市地域の平均値は1.02pg-TEQ/m
3
(0.30pg-TEQ/m
3
〜1.65pg-TEQ/m
3
)、中都市地域の平均値は0.82pg-TEQ/m
3
(0.05pg-TEQ/m
3
〜1.56pg-TEQ/m
3
)、バックグラウンド地域の平均値は0.07pg-TEQ/m
3
(0.05pg-TEQ/m
3
〜0.10pg-TEQ/m
3
)であった。ベンゼンについては、一般環境の平均値は5.1μg/m
3
(2.3μg/m
3
〜8.4μg/m
3
)であった。トリクロロエチレンについては、一般環境の平均値は1.8μg/m
3
(0.19μg/m
3
〜4.1μg/m
3
)、テトラクロロエチレンについては、一般環境の平均値は1.1μg/m
3
(0.17μg/m
3
〜3.6μg/m
3
)であった。(第1-1-16表第1-1-17表第1-1-18表)
 この調査結果を、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについて、環境基準(ベンゼンは「一年平均値が0.003mg/m
3
以下であること」、トリクロロエチレンは「一年平均値が0.2mg/m
3
以下であること」、テトラクロロエチレンは「一年平均値が0.2mg/m
3
以下であること」)と比較すると、ベンゼンについては11地点のうち8地点において環境基準値を上回っており、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについてはすべての地点で環境基準値を下回っていた。ダイオキシン類については、平成9年9月に年平均値0.8pg-TEQ/m
3
以下とする大気環境指針が設定されている。これと比較すると、一般環境では工業地域周辺の住宅地域では6地点中3地点で、大都市地域では6地点中5地点で、中小都市地域では6地点中3地点で大気環境指針値を上回っていた。
(2) 有害大気汚染物質対策
 有害大気汚染物質による国民の健康被害を未然に防止するため、平成8年5月に大気汚染防止法が改正され、有害大気汚染物質対策が位置づけられた(平成9年4月1日施行)。
 これを受け、有害大気汚染物質に関する具体的な対策の在り方について中央環境審議会で審議が進められ、平成8年10月及び12月の2度にわたり答申がなされた。これらの答申においては、?微量であってもがんを発生させる可能性が否定できず、閾(いき)値(その暴露量以下では影響が起こらないとされる値)がないと考えることが適切な物質に係る環境基準の設定等に当たってのリスクレベルについて、生涯リスクレベル10
-5
(10万人に1人の割合の生涯リスクレベル)を当面の目標とすること、?有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質(234種類)のリストと、優先取組物質(22種類)のリスト(第1-1-19表)、?ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの環境基準設定に当たっての指針値、?指定物質(有害大気汚染物質のうち人の健康に係る被害を防止するためその排出又は飛散を早急に抑制しなければならない物質)等の排出抑制のあり方、?有害大気汚染物質のモニタリングのあり方等の基本的考え方が示された。
 これを受けて、平成9年1月、大気汚染防止法に基づき、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを指定物質(有害大気汚染物質のうち人の健康に係る被害を防止するためその排出又は飛散を早急に抑制しなければならない物質)に指定し、指定物質排出施設を定めるとともに、同年2月には指定物質抑制基準及び環境基本法第16条に基づく環境基準を設定した。
 さらに、有害大気汚染物質の排出抑制に係る事業者の自主的取組を促進するため、平成8年10月、環境庁と通商産業省において「事業者による有害大気汚染物質の自主管理促進のための指針」を策定し、12物質について事業者団体による自主管理計画の策定を促した。その後、各事業者団体の策定した自主管理計画を中央環境審議会、化学品審議会の場を通じ、把握、評価している。また、ダイオキシン類についても、平成9年9月に指針の対象物質に追加し、事業者団体に自主管理計画の策定を促した。
 自動車排出ガスに係る有害大気汚染物質対策については、平成8年10月の中央環境審議会中間答申において、?二輪車の排出ガス低減目標等、?ガソリン軽貨物車等の排出ガス規制強化、?ガソリン中のベンゼン含有率を1体積%に低減することが示され、同答申に基づき平成10年から平成11年にかけて規制が強化されることとなっている。また、平成9年11月同審議会第二次答申においては、平成12年以降のガソリン自動車等から排出される炭化水素等の大幅な低減対策等が示された。


(3) ダイオキシン対策
 有害大気汚染物質の一つであるダイオキシン類については、廃棄物焼却炉等からの排出が社会的に問題となり、早急な排出抑制対策が求められている。このため、環境庁は、平成9年6月20日付中央環境審議会答申「ダイオキシン類の排出抑制対策のあり方について(有害大気汚染物質対策に関する第四次答申)」を踏まえて、平成9年8月、ダイオキシン類を指定物質に指定し、廃棄物焼却炉等を指定物質排出施設に指定するとともに、これらに係る指定物質抑制基準を定めた(平成9年12月より施行)。さらに、平成9年9月、ダイオキシン類の大気環境指針として、年平均値として0.8pg-TEQ/m
3
以下とすることを定めた。
 また、平成9年8月に「ダイオキシン対策に関する5ヵ年計画」をとりまとめ、発生源対策、総合モニタリング調査等の総合的な対策を講じ、ダイオキシン類の排出抑制の一層の推進を図っていくこととした。
 厚生省においては、ダイオキシン類の排出抑制を図るため、許可を必要とする廃棄物焼却施設の範囲の見直し、廃棄物焼却施設の構造・維持管理に関する基準の見直し等を内容とする廃棄物処理法施行令及び施行規則の一部を改正する省令を8月29日に公布した(平成9年12月より施行)これらの法令に基づき、ダイオキシン類の排出削減対策を指導しているところである。
 さらに厚生省では、平成2年に策定したごみ処理施設のダイオキシン類発生防止ガイドラインを見直し、平成9年1月にとりまとめた緊急及び恒久対策からなる新ガイドラインに基づき、地方公共団体に対して、ダイオキシン類の排出削減対策を指導しているところである。
(4) 石綿対策
 石綿(アスベスト)は耐熱性等にすぐれているため多くの製品に使用されているが、発がん性などの健康影響を有する。
 このため、平成元年の大気汚染防止法改正により、石綿を「特定粉じん」と指定し、石綿製品等の製造施設を特定粉じん発生施設として規制基準(敷地境界基準)等の規制が行われている。
 一方、建築物の解体等の際に飛散する石綿による大気汚染については、アスベスト使用建築物が建設され始めて既に30年程度が経過し、今後その建て替えのための解体作業等の増加が見込まれ、対策の一層の徹底を図る必要があることから、平成8年5月の大気汚染防止法改正により、一定規模以上の吹き付け石綿を使用する建築物の解体等を「特定粉じん排出等作業」として作業基準等の規制が行われることとなった。(平成9年4月1日施行)。
 また、環境庁では、石綿測定技術者の育成事業や石綿代替品の普及状況等に関する調査を実施している。

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