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第1節 

1 地球規模の大気環境の保全

(1) 地球温暖化対策
ア 問題の概要
 地球温暖化の問題は、人間活動により、自然界での健全な物質の循環がゆがむことにより生じる環境問題の典型的事例である。
 大気中には、二酸化炭素、メタン、水蒸気などの「温室効果ガス」が含まれており、これらのガスの温室効果により、人間や動植物にとって住み良い大気温度が保たれてきた。ところが近年、人間活動に伴って二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスが大量に大気中に排出されるようになった(第1-1-1図)。その結果、温室効果が強まって地球が温暖化するおそれが生じている。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の平成7年(1995年)の報告によると、19世紀末以降、全球平均地上気温が0.3〜0.6度上昇した。同報告は、様々な観測事実の精査の結果、人間活動による気候の変化が既に起こりつつあることを示唆している。温室効果ガスの大気中濃度の上昇に伴い、気温が上昇していくが、これには時間的な遅れがある。例えば、現在までの温室効果ガスの蓄積に伴う気温上昇は、2050年頃で1度程度に達する見込みである。さらに、温室効果ガスが現在の増加率で増え続けた場合(中位であるIS92aシナリオにほぼ対応)、地表付近の大気の平均気温が21世紀末までに約2度上昇し、その後も上昇を続けることが予測(中位の気候感度のもと)されている。このような気温の上昇は、過去1万年の間に例を見ない極めて急激な変動であると考えられている。また、海面水位は21世紀末までに約50cm上昇することが予測されている。
 このような変化に伴い、人類の生活環境や生物の生息環境に広範で深刻な影響が生じるおそれがある。平成9年6月に環境庁が取りまとめた報告書「地球温暖化の我が国への影響」によれば二酸化炭素換算濃度を現在の2倍とした条件の下で、日本においても、水資源、農業、森林、生態系、沿岸域、エネルギー、都市施設、健康などの分野において温暖化が様々な悪影響を及ぼすことが予測されている。これらの影響の多くは不可逆的なものである。
 これらの悪影響を避けるためにも地球温暖化を防止するための対策が必要であることが世界的に認識されている。IPCCの平成7年の報告は今後の温暖化対策の在り方を検討する上で有用な情報を提供するものであり、大気中の温室効果ガスの濃度を安定させるためには、途上国を含めた世界全体の排出量を将来的には少なくとも1990年を大幅に下回るレベルまで削減する必要があることを示唆している。例えば、大気中の二酸化炭素濃度を産業革命前の約2倍の550ppm以下に安定させるためには、世界全体の排出量を21世紀末以降、現状より大幅に削減することが必要となる。途上国の急激な人口増加及び経済発展に伴う温室効果ガスの排出量の増加を見込むと、先進国においては、世界の排出量の削減に向けて、現状以上の一層の対策が求められる状況にある。
 これらの点に鑑みれば、温暖化の影響が顕在化し、取り返しのつかない事態が生ずる前に、予防的見地からいわゆる「後悔しない対策(温暖化防止効果以外の面でも大きな効用があり、仮に温暖化が起こらなくても後悔しない範囲の対策)」を実施していくとともに、それを越えた対策を実施していくことが必要である。
 しかしながら、最も主要な温室効果ガスである二酸化炭素は、人間活動のあらゆる局面から生じるものであり、その排出の抑制・削減に当たっては、従来の公害対策とは異なった新たな対応を要する。また、その他の温室効果ガスであるメタン、亜酸化窒素、HFC等(いわゆる代替フロン等)についても、それぞれの排出実態を踏まえた対策を実施していく必要がある。このため、工場、事業所、家庭など、経済社会の中の様々の場所で対策を強化していくことはもちろんとして、各方面の対策を有機的に組み合わせて、究極的には、現代の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会経済システムを見直し、変更していく抜本的な取組が必要となっている。地球温暖化のもたらす大きな影響とともに、その対策の困難性から、地球温暖化問題は現在の環境行政の最重要課題の一つとなっている。
 このような中、平成9年12月には、京都において気候変動枠組条約の第3回締約国会議が開かれ、西暦2000年以降の先進国の取組に対し、法的拘束力のある削減率の目標が定められた。この議定書の履行確保を我が国として図ることが、直面する大きな課題となっている。
イ 対策
 平成6年に閣議決定された環境基本計画では、長期的には「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」の究極的な目標を達成し、中長期的にはそのための国際的枠組み作りに貢献するとともに、一層積極的な対策の実施に努めることとし、当面は、平成2年に策定された「地球温暖化防止行動計画」の着実な推進等を図るとの基本方針が定められている。この地球温暖化防止行動計画(平成2年10月地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)は、地球温暖化対策に関する我が国の基本的姿勢を明らかにしており、現在我が国では、同行動計画に基づき各種の対策が推進されている。同行動計画では、目標として「?一人当たり二酸化炭素排出量について2000年以降概ね1990年レベルでの安定化を図ること。?革新的技術開発等が早期に大幅に進展することにより、二酸化炭素排出総量が2000年以降概ね1990年レベルで安定化するよう努めること。」を掲げており、毎年度その実施状況が地球環境保全に関する関係閣僚会議に報告されている。平成9年6月には、平成7年度の二酸化炭素排出総量等及び関係省庁が平成8年度に実施した地球温暖化防止行動計画関連施策等が同閣僚会議に報告された。この報告によれば、平成7年度の我が国の二酸化炭素排出量は332百万トン、一人当たり排出量は2.65トン(ともに炭素換算)であり、平成2年に比べ一人当たり排出量では約0.17トン、総量については約2500万トン増加している。なお、我が国の二酸化炭素排出量は総量で世界の排出量の5%弱を占め、米国、中国、ロシアに次いで第4位(OECD諸国中第2位)である。また、一人当たりではOECD諸国の平均を大きく下回るものの、EU(ヨーロッパ連合)15ヶ国の平均をやや上回り、全世界平均の2倍以上となっている。
 平成9年度に政府が国内で講じた主な施策は次のとおりである。
? 平成9年、内閣総理大臣により策定の指示及び承認が行われた鹿島地域、東京地域、大阪地域等の公害防止計画において、地球温暖化対策についても各地の計画上の施策に位置づけられた。
? 地球温暖化防止対策を地域において推進していくため、地方公共団体における地球温暖化対策に関するマスタープラン(地球温暖化対策地域推進計画)等の策定に対して引き続き補助等を行うとともに、効果に優れ、他の団体への波及効果が高い事業に対する支援を行った。
? 工場、建築物、機械器具に係る省エネルギー等の取組を促進するため、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づき告示で定められる判断の基準を勘案して、省エネルギーのための事業者等への指導を行うとともに、「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」に基づく承認を受けた特定事業活動(工場又は建築物における省エネルギー設備の導入)に対する低利融資及び税制上の支援等を行った。
? 廃棄物の減量・再資源化、ごみ焼却余熱・下水排熱等の有効利用を図るため、熱利用下水道モデル事業の推進及びごみ固形燃料発電事業の起債措置等を行った。
? 二酸化炭素排出低減・抑制に資する交通体系の形成のため、引き続き、物流拠点間の幹線輸送におけるモーダルシフト(鉄道輸送、内航海運等への誘導)の推進や効率的物流システムの構築、バス・鉄道等の公共交通機関の利用促進等を図るとともにバイパス等の整備を行った。また、低公害車の導入に対する支援策として、地方公共団体や民間事業者に対する導入補助、自動車取得税の軽減等の措置を引き続き行った。
? 温室効果ガス排出の少ないエネルギー供給構造を形成するため、安全性の確保を前提とした原子力の開発利用や水力、地熱の利用、コンバインドサイクル発電、太陽光発電等の新エネルギーの導入等を引き続き推進した。
 太陽光発電、風力発電等の新エネルギー利用等については、新たに事業者などに対し具体的な指針を示し新エネルギーの利用促進を広く働きかけていくことを内容とする「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」が平成9年4月に制定され、同法に基づき、9月には「新エネルギー利用等の促進に関する基本方針」を閣議決定した。
? 国民が地球温暖化防止対策の重要性について十分な認識を持ち、二酸化炭素の排出削減の手ごたえを具体的に感じることができるような取組として、自らできる地球温暖化防止の取組を誓ってもらう「エコライフ100万人の誓い」運動を提唱するとともに、環境家計簿の記入や自動車の無駄なアイドリングの停止などの「4つのチャレンジ」運動や環境に優しい運転方法である「エコドライブ」の実施を引き続き呼びかけ、パンフレットの配布、シンポジウムの開催等によるこれらの取組への参加を促進した。
? 地球温暖化に係る不確実性を低減させ、科学的知見を踏まえた一層適切な対策を講じるため、引き続き、現象解明、将来予測及び影響評価対策に関する研究、温室効果ガスの観測並びに人工衛星等を用いた観測技術の開発を実施した。また、これら調査研究等の推進を図るため、地球環境研究総合推進費の拡充をはじめとする措置等を講じた。
? 温室効果ガスの排出抑制のためのより高度な新エネルギー技術や省エネルギー技術、二酸化炭素の固定化・有効利用等の革新的技術開発について、ニューサンシャイン計画における研究等を引き続き積極的に推進した。
? 地球温暖化防止行動計画及びこれに基づく対策の周知・普及のため、パンフレット等を配布するとともに、地方公共団体等に対しても各種会議等を通じ周知した。また、平成9年12月に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議に向け、政府広報として集中的な普及啓発を行うとともに、関係省庁だけでなく地方公共団体や民間団体による啓発などが幅広く実施された。
? 地球温暖化防止行動計画にある平成12年(2000年)の目標達成期限まで残すところ4年弱となったところから、平成12年までの施策の一層の充実に向け、環境庁をはじめ関係各省庁で、所要の検討が行われた。
 以上のような施策実施状況に対し、実際の温室効果ガスの排出状況はなお増加基調にあり、施策のなお一層の充実強化が必要な状況にある。このような状況を踏まえ、環境基本計画の実施状況の点検を行う中央環境審議会においては、その点検の一環として地球温暖化対策について次のような意見をまとめ、内閣総理大臣に報告した。
 平成9年6月に中央環境審議会から内閣総理大臣に対して報告された「環境基本計画の進捗状況の第2回点検結果」では、地球温暖化対策の今後の課題として、
・ 地球温暖化防止行動計画の2000年目標の達成に向け、さらには、その後の一層厳しい対策実施に備え、産業部門はもとより、民生、運輸部門においても、地球温暖化対策をこれまで以上に強力かつ効果的に進めること。
・ 地球温暖化対策のあり方については、実効性を高める等の観点から、検討 を進め、地球温暖化防止京都会議以降できるだけ早い時期に、同会議で採択される議定書の内容も踏まえつつ、地球温暖化防止行動計画の改定の必要性も含め、結論を出すこと。
・ 地球温暖化防止京都会議の開催を契機に、地球温暖化の深刻さ、対策の緊急性などを国民共通の認識とするとともに、国民各界各層のそれぞれの立場で可能な最大限の取組が実施されるよう、各方面が相互の連携を強化し、国民規模の普及啓発や国民参加の取組などを進めること。
・ 途上国の対策を技術面、資金面等から促進するための、新たな国際的なメカニズムについて、積極的に検討すること。
 等の指摘がなされた。
 平成9年8月より、内閣総理大臣の指示の下、9つの関係審議会の代表者により構成される「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」を5回にわたり開催し、各分野において取るべき省エネルギー対策を中心とする地球温暖化対策について検討を行った結果、同年11月に、総合的なエネルギー需要抑制対策を中心とした今後の地球温暖化対策の基本的方向を示す報告書が取りまとめられた。
 また、地球温暖化防止対策の国際的な枠組みとして平成6年(1994年)3月21日に発効した気候変動枠組条約について、規定が不十分とされている2000年以降の対策につき、2年半にわたる国際交渉の結果、平成9年(1997年)12月の第3回締約国会議で附属書?締約国の数値目標、政策措置等を定めた京都議定書が採択された(詳細は第5章参照)。
 国内では、地球温暖化防止への大きな第一歩を踏み出した第3回締約国会議を契機として、その後、国内対策の充実強化に向けた取組も進捗を見せた。すなわち、第3回締約国会議直後に、内閣総理大臣を本部長とする「地球温暖化対策推進本部」を内閣に設置し、京都議定書の着実な実施に向け、地球温暖化防止に係る具体的かつ実効ある対策の実現を図ること、関係審議会合同会議報告書を踏まえ、省エネルギー等二酸化炭素排出削減対策、植林等の吸収源対策等を講じるなど、対策を総合的に推進していくこと、関係審議会合同会議との連携を図るものとし、具体的には、省エネルギー法の抜本的改正をはじめとした重点的に取り組むべき対策が決定された。
 これを受け、?トップランナー方式の導入による自動車・家電・OA機器等のエネルギー消費効率の更なる改善の推進、?工場、事業場におけるエネルギー使用合理化の徹底等を内容とした「エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部を改正する法立案」が平成10年3月13日に閣議決定され、第142回通常国会に提出された。
 さらに、平成9年12月、環境庁長官から中央環境審議会に対し、「今後の地球温暖化防止対策の在り方」について諮問を行い、その後の検討の結果、平成10年3月に、?京都議定書に対応するための総合的な制度の在り方の概略を検討するとともに、?総合的な制度のうち現段階で実施可能なものについては、早急に制度化すべきと考え、それぞれの課題に対する取組の考え方及びこれらへの対応手法の在り方についてまとめた中間答申を示した。
 また、関係審議会合同会議報告を踏まえ、産業構造審議会、総合エネルギー調査会、産業技術審議会、化学品審議会の4審議会合同小委員会において、透明性を確保しつつ、25事業者団体ごとに、その行動計画等を厳格にフォローアップすることとした。
 HFC等については、通産省では、これまでの対策の議論を踏まえて平成10年2月10日に化学品審議会地球温暖化防止対策部会において取りまとめられた中間報告に基づき、「産業界によるHFC等の排出抑制対策に係る指針」を策定した。この指針を踏まえ、通産省により関係各業界に対し、産業毎に技術的・経済的に最大限の取組を自主的に行うための行動計画の策定を要請した。環境庁では、HFC等の使用及び排出実態を把握し、今後の対応策を検討するため、HFC等対策に関する調査を実施するとともに、自治体における排出実態の把握状況についてアンケート調査を行った。


(2) オゾン層保護対策
ア 問題の概要と現況
(ア) 問題の概要
 地球を取り巻く大気中のオゾンの大部分は成層圏に存在し、オゾン層と呼ばれている。オゾン層は太陽光に含まれる有害紫外線の大部分を吸収し、地球上の生物を守っている。このオゾン層が人工の化学物質であるCFC(クロロフルオロカーボン:いわゆるフロンの1種)、HCFC(ハイドロフロオロカーボン)等のオゾン層破壊物質により破壊されていることが明らかになっている。オゾン層が破壊されると、地上に到達する有害な紫外線が増加し、人に対して皮膚ガンや白内障等の健康被害を発生させるだけでなく、植物やプランクトンの生育の阻害等を引き起こすことが懸念されている。
 CFCは炭素、フッ素及び塩素からなる物質であり、冷媒、発泡剤、洗浄剤等に、また、ハロンは主に消火剤に、臭化メチルは主に土壌くん蒸や農産物の検疫くん蒸等にそれぞれ使用されている。これらは化学的に安定な物質であるため、大気中に放出されると対流圏ではほとんど分解されずに成層圏に達する。そこで太陽からの強い紫外線を浴びて分解され、塩素原子や臭素原子を放出し、この塩素原子や臭素原子が触媒となってオゾンを分解する反応が連鎖的に起こる。
 オゾン層の破壊は、被害が広く全世界に及ぶ地球規模の環境問題であり、いったん生じるとその回復に長い時間を要する。
(イ) オゾン層等の現況
 オゾン層は、熱帯地域を除き、ほぼ全地球的に減少傾向にあり、特に高緯度地域で減少率が高くなっている。我が国では、札幌、つくば、鹿児島、那覇及び南鳥島でオゾン層の観測が行われており、札幌上空ではオゾンの減少傾向が確認されている。また、南極では、観測史上最大規模であった過去5年と同程度のオゾンホールが平成9年にも観測されている。
 CFCの大気(対流圏)中濃度については、増加がほとんど止まっているほか、大気中寿命の短い1,1,1-トリクロロエタンについては、減少に転じている。一方、主としてCFCの代替物質として用いられているHCFC-22の大気中濃度は増加しており、特に1988年(昭和63年)以降は増加が著しくなっている。いずれにしても、これらのオゾン層破壊物質の濃度は、南極でオゾンホールが観測される以前の1970年代に比べてかなり高い状況にある。
 有害紫外線については、国内のこれまでの観測結果によると、オゾンの減少傾向が確認されている札幌を含め、明らかな増加傾向はみられていない。
イ 対策
(ア) 国際的取組とオゾン層保護法
 オゾン層の破壊を防止するために、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が1985年(昭和60年)3月に、また「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が1987年(昭和62年)9月にそれぞれ採択された。我が国においてもこれらを的確かつ円滑に実施するため、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(以下「オゾン層保護法」という。)を昭和63年5月に制定するとともに(第1-1-2図)、同年9月に条約及び議定書を締結した。
 しかし、その後の科学的知見の集積により、従来の予測よりも成層圏のオゾンの減少が著しく進み、従来のCFC等の規制ではオゾン層の適正な保護に不十分であるとして、議定書は、1990年(平成2年)、1992年(平成4年)、1995年(平成7年)及び1997年(平成9年)の4度にわたって改正等による規制強化が図られた。1997年(平成9年)の議定書の見直しでは、臭化メチルについて先進国の規制スケジュールが前倒しされるとともに、開発途上国の規制スケジュールに全廃期限が設定されたことにより、すべての締約国に対して規制物質すべてについて全廃期限が設定された。現在の規制スケジュールは(第1-1-1表)のとおりである。
 我が国では、オゾン層保護法等に基づき、次のような施策を実施してきている。
a CFC等の製造等の規制
 オゾン層保護法では、モントリオール議定書に基づく規制対象物質(CFC、ハロン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、HCFC、HBFC及び臭化メチル)を「特定物質」として、製造規制等の実施により、モントリオール議定書の規制スケジュールに即して生産量及び消費量(=生産量+輸入量-輸出量)の段階的削減を行っている。この結果、ハロンについては1993年(平成5年)末をもって、CFC、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン及びHBFCについては1995年(平成7年)末をもって、いずれも既に生産・消費が全廃されている。他のオゾン層破壊物質についても、HCFCについては2019年(平成31年)末をもって消費が、臭化メチルについては2004年(平成16年)末をもって生産・消費が、それぞれ全廃されることとなっている。
b CFC等の排出抑制・使用合理化
 オゾン層保護法では、特定物質を使用する事業者に対し、特定物質の排出の抑制及び使用の合理化に努力することを求めており、環境庁及び通商産業省は、そのための「特定物質の排出抑制・使用合理化指針」を1989年(昭和64年)に共同で告示し、遂次改正するとともに、その周知普及を図っている。
 なお、平成10年3月に本指針を改正し、臭化メチルの排出抑制及び使用合理化対策を追加したところである。
(イ) CFC等の回収・再利用・破壊の促進
 CFC等の主要なオゾン層破壊物質の生産は、平成7年末をもって既に全廃されているが、過去に生産され、冷蔵庫、カーエアコン等の機器の中に充てんされた形で存在しているCFC等が相当量残されており、オゾン層保護を一層推進するためには、こうしたCFC等の回収・再利用・破壊の促進が現在の課題となっている。1992年(平成4年)のモントリオール議定書第4回締約国会議においても、CFC等の回収・再利用・破壊の推進が決議された。
 このため、関係18省庁からなる「オゾン層保護対策推進会議」において、CFC等の回収等の促進方策を平成7年6月に取りまとめた。
 この取りまとめにおいては、
・ 家庭用冷蔵庫の冷媒用CFCについては、技術的に再利用が困難であることから、地域におけるフロン回収等推進協議会を活用しつつ、破壊を前提にCFCの回収を促進する。
・ カーエアコン及び業務用冷凍空調機器については、生産全廃によって、CFCが希少になるに従って取引価格が上昇し、市場原理によって再生利用のための回収が期待される。
 としていたが、平成7年6月以降、市町村ルートで廃棄される家庭用冷蔵庫からの回収は着実な進展がみられているが、カーエアコン及び業務用冷凍空調機器については、新品CFCの価格が再生品CFCの価格を下回る状況にあるため市場原理は働かず、CFC等の回収率は増加傾向にあるものの低率にとどまっている。
 このような状況を受けて、CFC等の回収等をさらに促進するため、オゾン層保護対策推進会議において、平成9年9月に、平成7年6月の取りまとめ以降の状況の変化を踏まえた今後のCFC等回収等の一層の促進方策の在り方を取りまとめた。本取りまとめにおいては、家庭用冷蔵庫だけでなく、カーエアコン、業務用冷凍空調機器に関しても補充用冷媒需要を前提とした回収のみに期待するのではなく破壊のための回収を行うこととするとともに、それぞれの機器ごとに、関係者が協力して回収等を行うための関係者の立場に応じた具体的な役割分担を含めた回収の仕組みについて考え方を示している。これらを踏まえて、これら機器のメーカー、ユーザー事業者、整備業者等の所管省庁においては、所管する業界団体等に対して、CFC回収等の一層の促進に取り組むよう要請を行った。
 環境庁においては、回収促進のためのモデル事業の実施等により地域におけるフロンの回収等の取組を支援するとともに、様々な種類のフロンの破壊処理技術を確立するためのモデル事業を継続して実施する。
 また、通産省においては、平成9年4月に策定された「特定フロン回収促進プログラム」に基づき、産業界に対し行動計画の策定を要請した。これを受けて、9月1日に関係各業界より冷媒CFC回収・破壊のための自主行動計画が提出された。逐次、自主計画に基づく回収、破壊を進めるための取組が開始されている。
 こうした取組の結果、廃冷蔵庫からのフロン回収等に取り組んでいる自治体数は、平成8年度末では1,986市区町村であったものが、平成9年度以降実施予定分も含めると2,515市区町村となっている(第1-1-2表)。また、フロンの回収・破壊促進のための協議会等については、平成9年度末までに設置した都道府県・政令指定都市の数は45である。
 一方、CFC等の破壊処理については、環境庁は、平成8年5月に策定した「CFC破壊処理ガイドライン」に基づき、平成9年度は、北海道、東北、関東といった地域ブロックごとに、全国で11の道県・政令指定都市に委託して破壊モデル事業を実施し、ブロック内で回収されたCFCを集めて破壊処理技術の実証を行った(第1-1-3表)。また、通商産業省においては、プラズマ法による破壊処理技術の開発、既存の産業廃棄物処理炉を活用・改修したロータリーキルン法によるCFCの効率的な分解処理技術の開発を推進している。さらに、触媒等を用いた簡易型破壊処理装置の実用化等も進んでおり、破壊処理促進のための環境が整備されつつあるところである。
(ウ) CFC等の排出抑制、使用合理化への支援対策等
 CFC等の代替品を使用する洗浄設備、冷凍冷蔵関連装置等については、法人税、所得税の特別償却、固定資産税の課税標準の特例といった税制上の措置を講ずるとともに、これらの関係設備について日本開発銀行、環境事業団等による低利融資等の金融上の措置を実施している。
 また、通商産業省においては、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えた、CFC等の新規代替物質の技術開発を行っている。
(エ) オゾン層の破壊に係る観測・監視、調査研究の推進
 オゾン層の適正な保護を図るため、オゾンゾンデ、オゾン分光光度計、オゾンレーザー・レーダー、人工衛星に搭載した観測機器等を用いてオゾン層及びその破壊関連物質の観測・監視を行うとともに、オゾン層破壊機構の解明及びモデル化に関する研究、オゾン層破壊により生ずる影響に関する研究等を実施している。

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