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第2節 

1 健全な水循環の確保

(1) 水質汚濁の現状
ア 公共用水域
 水質汚濁は、下流や内海の汚染など広域的な影響をもち、有害化学物質の蓄積により数十年後に健康被害が生ずるなど長期的な影響をもたらす場合もある。また、一旦被害が生ずると回復は極めて困難な、不可逆な影響をもつ。
 水質汚濁に係る環境基準は、公共用水域の水質について、達成し維持することが望ましい基準を定めたものであり、人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)と生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目)からなる。健康項目はカドミウム、シアンなど23項目からなり、生活環境項目はBOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)など9項目からなる。BODとは、水中の微生物によって有機物を分解するときに消費される酸素量を表した値であり、CODとは、有機物を化学的に酸化するときに必要な酸素量を表した値である。いずれも水質汚濁の程度を示す指標である。
 健康項目は、平成5年度からは、有機リンを削除しジクロロメタン等15項目を新たに追加、鉛と砒素の基準値の強化等新しい環境基準に基づく評価を行っている。平成8年度の調査では、環境基準を超える測定地点は、第4-2-1表のとおりである。達成率はやや向上している。昨年と同様砒素は自然由来で環境基準を超えている地点が17地点と依然として多い。
 生活環境項目としては、有機汚濁等に係るものがある。これらの生活環境項目については、水域ごとに利水状況などを踏まえた類型を指定しており、各水域の特性を考慮した環境基準となっている。
 水域の生活環境は、有機汚濁により大きな影響を受けるため、代表的な有機汚濁の指標であるBOD(河川)及びCOD(湖沼・海域)等の項目について、環境基準の達成率を評価している(第4-2-2表)。
 平成8年度の生活環境項目(BOD又はCOD)の環境基準達成率は、第4-2-1図で示すとおり、全体で73.7%(平成7年度72.1%)、河川で73.6%(同72.3%)、湖沼で42.0%(同39.5%)、海域で81.1%(同78.6%)であった。河川については、渇水の影響で低下した平成6年から、引き続き改善しつつある。しかし、湖沼、内湾等の閉鎖性水域では依然として達成率は低い。また、生活排水が流入する都市内の中小河川は、水質改善がなかなか進んでいない(第4-2-2図)。海域については、河川や湖沼と比べ高い達成率となっており、一定の水質改善効果は現れていると判断される。
イ 地下水
 昭和50年代後半からトリクロロエチレン等の地下水汚染の各地域への広がりが明らかになってきたため、平成元年度より「水質汚濁防止法」に基づき地下水質の汚濁状況を常時監視することとなり、地下水質の測定が行われている。
 地下水は、温度変化が少なく、一般に水質も良好であるため、重要な水資源として広く活用されている。しかし地下水は、流速が極めて緩慢であり、希釈拡散も期待出来ないなどの特性を持つため、一旦汚染されるとその回復は非常に困難である。このため、地下水の水質の保全のためには、平成元年に措置された未然防止策に加えて、地下水を浄化するための事後的な対応を講じる必要がある。
 平成8年6月、水質汚濁防止法の改正がされ、汚染された地下水について、人の健康の保護のために必要があるときは、都道府県知事が汚染原因者に対して地下水の水質浄化のための措置を命ずることができる等の内容が定められた。平成9年3月に地下水の水質汚濁に係る環境基準の設定を行い、現在はさらに環境基準項目の追加、対策技術指針の改訂等を検討している。
 平成8年度の地下水質測定の結果は第4-2-3表の通りである。依然として環境基準を超過している物質があり、地下水汚染が継続している状況がみられた。こうした地下水汚染が発見された場合は、周辺井戸の調査を行うとともに、井戸の使用法の指導や有害物質を使用している事業場に対して指導等を行っている。
 硝酸性窒素による地下水汚染は、大量の窒素肥料の使用により1960年代の欧米で顕在化した問題である。近年は国内でも、硝酸性窒素による地下水汚染が明らかになり始めており、平成8年度に398自治体が行った調査によれば、5.3%の井戸で硝酸性窒素濃度が要監視項目としての指針値(10mg/l)を超えていた。一般的に、硝酸性窒素による地下水汚染の原因としては肥料、家畜排泄物、生活排水等が考えられる。硝酸性窒素は乳幼児への健康影響が報告されているため、看過出来ない問題であり、実態の把握を含め汚染地域における調査対策が必要となっている。


(2) 健全な水循環機能の維持・回復
 水は、浸透・湧出、流下等により地表・地下を通じて一体的に循環している。この循環の過程において、河川の普段の水量確保、水質浄化、水辺環境及び生態系の保全に大きな役割を果たしている。また、水は、化石燃料と違い、循環することにより繰り返し利用が可能になる「循環する資源」という特徴を持っており、健全な水循環の維持・回復は水環境の保全において重要な課題である。
 しかし、現在は健全な水環境を損なう様々な問題が生じている。雨水等の地下浸透により、水は自然の浸透過程による浄化作用を受けるが、急速な都市化により水が地下にしみこまない地域が広がっている。そして、都市域の拡大等により、水需要の増大、水質汚濁物質の排出量増加の問題が発生している。また、森林や水田は、地下水涵養・貯留、水質浄化の機能と共に、その保水能力により自然循環における水の移動速度を調節する機能を持ち、洪水や渇水の緩和にも役立っているにも関わらず減少している。これらの結果、健全な水循環が損なわれ、河川流量の不安定化(都市型水害の発生、普段の流量の減少等)や湧水の枯渇、水質悪化の進行、地盤沈下の発生及びヒートアイランド現象の助長等様々な障害が発生している。
 これらの水循環に関わる問題は、土地利用形態等流域の人間活動と密接な関係を有している。このため、問題解決のためには、水循環を一つのつながりとして、流域全体を視野に入れ、その流域の特性を充分に踏まえ、健全な水循環のあり方を総合的に検討し、施策を実施していくことが必要である。健全な水循環の維持・回復のための具体的な施策としては、従来行われてきた水質に係る規制等に加えて、森林や水田の整備・保全、雨水の貯留・浸透施設の設置、緑地の整備等があり、農村、都市を問わず、総合的に行っていくことが望ましい。なお、これらの施策は都市気候の緩和を通じ地球温暖化防止にも資することとなる。
 環境庁では、平成9年4月、地下水・地盤環境室を設置し、地下水・地盤環境の保全に係る施策の推進を図ることとなった。(第4-2-3図)。

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