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第1節 

5 地域における生活環境に係る問題

 生活環境を保全する上では、大気汚染のほか、主に人の感覚に関わる問題である騒音・振動・悪臭が重要課題となっている。騒音・振動・悪臭は、苦情件数は減少傾向にあるが、各種公害苦情件数の中では大きな比重を占めており(第4-1-23図)、発生源も多様化している。
(1) 騒音・振動
 騒音に係る苦情件数は地方公共団体に寄せられる各種公害苦情件数の中で最も多い。平成8年度は15,059件で、前年度と比べ約4.9%増加した。苦情件数の内訳は、工場・事業場に関するものが最も多く、建設作業、営業、家庭生活がそれに次いでいる。
 一方、平成8年度の振動に係る苦情件数は2,662件で、前年度と比べ3.0%減少した。建設作業に係る苦情件数が最も多く、工場・事業場ががそれに次いでいる。
 騒音については、一般居住環境、道路交通騒音、航空機騒音、新幹線鉄道騒音に係る環境基準が定められている。また、騒音規制法及び振動規制法に基づき、工場・事業場及び建設作業から発生する騒音及び振動や自動車騒音及び道路交通振動について規制基準等が定められている。
ア 一般居住環境及び自動車交通騒音
 平成8年度の、一般居住環境における環境基準の適合率は、地域の騒音状況をマクロに把握する地点で68.1%、騒音に係る問題を生じやすい地点等で63.8%であった。自動車交通騒音については、都道府県知事等が「騒音規制法」に基づき都道府県公安委員会に対し所要の措置を要請する際の基準となる要請限度が定められている。平成8年度には、全国測定地点4,647地点のうち、環境基準を達成できなかった地点は4,048地点(87.1%)に及んでいる。また、要請限度を超過した地点は、全国測定地点4,908地点のうち、1,575地点(32.1%)にのぼっている(第4-1-24図)。さらに、5年継続測定地点で見ると、環境基準を達成できなかった地点の割合は、88.9%と引き続き高い水準で推移しており、自動車交通騒音は依然として厳しい状況にある(第4-1-25図)。
 最近では、拡声機、カラオケ、ピアノ、ペットの鳴き声、自動車の空ぶかしなどの都市生活等による騒音も大きな問題となっている。
イ 航空機騒音及び新幹線騒音
 航空機騒音については、低騒音型機材の導入・空港周辺の整備等の対策が行われている。東京・大阪・福岡等の代表的な空港周辺では環境基準制定当時に比べると全般的に改善傾向にある。
 新幹線鉄道騒音については、車両の更新、防音壁の設置等の対策が行われている。特に音源対策として騒音を75デシベル以下とする対策については、順次対策区間を拡大してきており、騒音の状況は全般的に改善傾向にある。


(2) 悪臭
 悪臭は、人に不快感を与えるにおいの原因となる物質が大気中に混じるために発生する。騒音・振動と同様、感覚公害であり、生活に密着した問題である。現在、「悪臭防止法」により、規制が行われている。
 悪臭苦情件数は、ピークであった昭和47年から年々減少し、平成8年度はピーク時の半分程度であるが、前年度に比べ5.9%の増加である(第4-1-26図)。悪臭は、典型7公害に係る苦情件数のうち騒音・大気汚染についで多い。発生源別には、「サービス業・その他」が最も多く、次いで「畜産農業」、「個人住宅・アパート・寮」の順となっており、いわゆる都市・生活型に分類される悪臭苦情件数の割合が増加する傾向にある。
 こうした状況に対処するため、平成7年4月に改正された「悪臭防止法」に基づき人の嗅覚を用いた悪臭の測定法(嗅覚測定法)による「臭気指数」を用いた規制を推進した。


(3) ヒートアイランド
 首都圏等の大都市圏では、ヒートアイランド現象と名付けられた典型7公害とは全く異なった現象があらわれている。都市では高密度のエネルギーが消費されており、地面の大部分はコンクリートやアスファルト等で覆われているため水分の蒸発による温度の低下がなく、日中蓄えた日射熱を夜間に放出するため、夜間気温が下がらなくなる。この結果、都市部は郊外より気温が高くなり等温線を描くとあたかも都市を中心とした「島」のように見えるため、この現象はヒートアイランド現象と呼ばれている。特に夏は、エアコンの排熱が室外の気温を上昇させ、上昇した気温がエネルギー需要をさらに増大させるという悪循環を生み出す。
(4) 光害(ひかりがい)
 光害とは、屋外照明の光が周囲に漏れて、眩しさを感じたり動植物に悪影響が及ぶこと等をいう。夜間の照明光が上方に漏れ、大気による散乱で空が明るくなり天文観測が困難になることも光害のひとつである。また、ほうれん草や水稲等の作物は夜間の明るさと生育不良に大きな関係があることや、アカウミガメの産卵地では水銀灯等の照明によって、子ガメが惑って海に向かいにくくなる等の例も報告されている。夜間の屋外照明は安全確保や都市機能維持に不可欠であるが、不適切な照明は環境に悪影響を及ぼす可能性がある。
(5) 日照阻害、風害、電波障害
 典型7公害以外の苦情の種類別苦情件数の推移を日照阻害、電波障害、風害(通風)についてみると、日照阻害は平成8年度は27件と連続して低水準を維持している(平成7年度、53件)。日照阻害についての苦情件数は、地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた苦情件数であるが、実際は別の窓口で受け付けているものも多くあり、必ずしも改善されたとは判断できない。また、地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた電波障害についての苦情件数は平成8年度は351件となっており、最近5年間では減少している(平成7年度、387件)。同様に通風についての苦情件数は平成8年度15件(平成7年度、18件)であり、他の苦情件数と比較して低い水準で推移している。

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