3 「循環」と「共生」のライフスタイルの一つのかたち
生活経済圏の構成する要素として、「自然と人間との共生の歴史等を生かす」、「地域内資源循環の適切な組込み」、「人、機能、土地利用等の多様性」、「身の丈にあった地域づくり」を提示してみた。このような要素が、一つの地域に実現した事例を仮に想定してみよう。なお、実際上は地域地域の実情に応じて様々なかたちで実現されうるものであり、ここに示したものに限られるものではない。
(ここに掲げられたイメージは、ここまでに紹介した事例に含まれているものに限らず、幅広く取りあげている。さらに一つ一つが、直接的に、環境への負荷を低減し又は人間と自然との共生を図るものではないものも含まれているが、それぞれが組み合わさることにより全体として「循環」と「共生」が実現されるのではないかと考えるものである。)
地域の中には、水田や、野菜、果樹等の畑、畜産、林業、水産業等の一次産業、これらを加工する食品産業、木材産業や建築業、さらに運輸・流通業、新鮮な地元産品を中心に販売する小売り店舗やレストランが存在している。これらの産業は、極力地域の資源を活用し、地域の独自性を重んじた高付加価値製品の製造・販売を目指している。さらに希少性を重んじ、あるいは芸術性を目指した製品づくりが試みられているものもある。また、生活に必要な物質について、LCAや環境ラベリングや経済的な措置等により、生産段階、利用、廃棄段階で環境負荷が少ないものが生産され、消費されるようになる。さらに、製品の高付加価値化から修理産業やリサイクルショップ、フリーマーケット、再利用産業が盛んになる。また「もの」「ファッション」の流行、「車のモデルチェンジ」についても一過性の物ではなく、人々に長く愛され、親しまれる定着型へと移り変わっている。
一方、映画館、劇場、美術館等に人気があつまっている。さらに環境教育の拠点や地域の文化・歴史を伝える施設が設置され、地元の人と行政とのパートナーシップによる運営がなされている。これらの産業では、人々のワークシェアリングが実現しており、実労働時間の削減と自由時間の増加が実現されている。
人々の住居地域も、これらの産業と比較的近接して存在しており、長距離通勤は解消される。各家庭には、小さな家庭菜園や水辺が確保されている。また住居やオフィス等は、壁面緑化され、断熱効果を維持しつつ風、日光を取り入れる構造で作られ、また風力等の自然エネルギーやそれまで廃棄物として処理されていた地域のバイオマスがエネルギーとして導入されるとともに、長期居住を保証するものとなっている。一方、日本の伝統的な家屋も修理されつつ、保存、利用されている。さらに、新しい家屋、家具等においては、地域における持続的に経営された森林から生産される木材資源が利用されている。また、井戸水利用、雨水利用や中水道利用等の施設が設置され、水の自家内循環も目指されている。また、高齢化への対応、新しい居住環境の指向から、コーポラティブハウジングもいくつか建設され、人々の共同的な生活も試みられている。
このような、産業、住居の配置は、生態圏を意識しつつ、生物の生息空間をなるべく破壊しない形で行われ、また、環境保全型農業が行われている農地や屋敷林、街路樹が、住居や産業の周辺に配置され、ビオトープネットワークの一部を担っている。また、地域住民による里山林の管理、生物の生息空間の復元等が精力的になされている。市街地は、水と緑のネットワークを形成し、ヒートアイランドを防止する構造となっている。また流域圏との関係から、流域の土地利用は、森林を確保し、河川の自然浄化能力を考慮した適正規模の住宅、産業の配置がなされている。
人々の生活、交流のために必要な交通体系も整備されている。市街地においては、路面電車やバスや短距離をめぐるコミュニティバスが、適度な利便性を確保しつつ運行されているとともに、自転車道路のネットワークや自転車置き場が設置されている。また中心市街地は、緑あふれる広場とトランジットモールが形成され、人々は歩行者天国で買い物と人々との交流を楽しんでいる。その結果、中心市街地は、安全で快適な買い物を楽しむ場として、人々の憩いの場になっている。
人々の憩いの場所としては、川、緑地、農地、渓流、森林等の自然が確保されている。さらに様々な人々が交流し、議論をする様々な場が設定されている。
このような場においては、 老若男女を問わず、様々な世代、立場の人々が会し、コミュニケーションが行われ、お互いの知識が共有される。そして、このような憩いの場において循環と共生のライフスタイルを模索するイベント等が実施されている。このような取組をとおして、個人のライフスタイルの変革が自発的に促されるとともに、様々な主体の連携によってはじめて可能となるリサイクル活動や、まちづくりの提案がなされ、実践されるようになる。
このような地域において、生活者のライフスタイルと環境との関係はどのようになるであろうか。
大気環境関連では、移動の必要性が削減され、効率的な公共交通機関の利便性が増し、自家用車の利用が減り、また情報化や人々の交流により、自家用車の相乗り、物流の共同輸送の可能性が高まる。
また、緑、農地、水辺に囲まれた地域、また風の町シュツットガルトのような自然のメカニズムと調和した地域づくりは、市街地のヒートアイランドを抑制するとともに、豊かな自然とのふれあいの場を確保する。
また、このような地域づくりに加え、家庭やオフィスの形態の変化によって、人々の冷暖房等電気、ガス等のエネルギーの使用量が自然に削減されるであろう。
このようなライフスタイルは、自然の恵みを享受した豊かな生活を実現させるとともに、大気汚染の原因である二酸化窒素、地球温暖化の原因である二酸化炭素等大気環境へ負荷を与える物質の削減も期待される。
水環境については、身近な範囲での水循環の実現により人々の水辺への親しみの機会が増すとともに、水利用にともなう環境への影響についての意識が高まり、水質汚濁防止に自発的に努めるようになる。
物の高付加価値化、流行の継続性から、人々は、大事に使うようになり、壊れても修理に出す等によりいい物を長く使う習慣が確立される。また、不要になった物もフリーマーケット等により再使用や、再資源化により廃棄物が極力削減される。
ワークシェアリングにより生じたゆとりを生かして、家庭菜園、市民農園が好まれる、そのことによって人々は自然のメカニズムに直接的に触れるとともに、有機性廃棄物の堆肥化等が効率的に実現される。さらに、環境と人間の暮らしを豊かなものにするため、森林整備、生物の生息空間の創造等が様々な主体と協力しつつ、自発的になされるようになる。
ここに示したモデルは、一つの理想像であり、すべての地域において、これと同様の社会の実現が可能なわけではもちろんなく、人々のライフスタイルもここに提示したものに限られるものではない。
しかし、このような、社会システムの変化及び人々の交流が進められることにより、自発的に、低負荷型で、自然の保全と人間とのふれあいが確保されるライフスタイルの形成が促されるであろう。そしてその結果、様々なレベルでの自然環境の状態の改善がなされ、生態系はさらに豊かさを増し、人々の自然とのふれあいが促進されるとともに、人々の健康や安全も確保された豊かで潤いのある生活が実現される。また、それに伴って、人々の意識、価値観も徐々に変わってくるであろう。
このような人々の意識とそれに基づく行動が社会経済に影響を与え、さらなる環境保全型へと発展させる力となっていくであろう。
こういった社会におけるライフスタイルは、強制、義務感からではなく、個人の自発的な意志により実践され、人々の豊かで健全な生活を保障することになるのではないか。このように、「循環」と「共生」のライフスタイルを、個人が自発的に選択するようになるような社会は、「アメニティ」が実現された社会といえるのであろう。