1 自然のメカニズムの把握等
(1) 自然のメカニズムを把握する
まず、様々な人間活動により自然のメカニズムがとらえにくくなっている中で、そのメカニズムを見いだしていくことが必要である。さらに、自然のメカニズムを的確にとらえるためには、それを構成しているそれぞれの要素の相互関係を捉えることも不可欠である。
すなわち、自然のメカニズムを的確に捉えるためには、ある事象の状況、原因、影響を直接的なものだけでなく、間接的なものも含めた全体をとらえることが重要である。しかし実際には、ある事象の原因と結果の因果関係の証明は困難なものも多く、長期に渡る継続的な調査、様々な分野の専門家の調査、研究及びその成果の横断的な考察が必要であろう。
ここでは、生態圏や流域圏等の環境保全の観点から見た圏域を設定することにより地域全体を捉えることが、自然のメカニズムを的確に把握するために非常に重要であることを論じた。例えば、生物多様性の国土区分は、日本の国土を10に区分することによって、その区分をもとに生物多様性にかかる自然のメカニズムを捉えようとするものである。また、森は海の恋人の事例は、海の状況の異変の原因について、流域全体で捉え、遠く河川の上流の森林域まで思いを馳せ、自然のメカニズムを探究したものである。
また、自然のメカニズムの把握のためには、各主体の交流、連携が欠かせないであろう。地域の状況は、そこに住んでいる人々が最も認識しているが、そこの状況が他の地域にどのような影響を及ぼしているかまでは認識されにくい。そこで、様々な主体、様々な地域の人々が交流し、連携することによって自然のメカニズムと人間活動との関わりを的確に把握できるであろう。従って流域圏のところで紹介した流域協議会、流域ネットワークのような様々な主体がともに集う「場」の存在が非常に重要となってこよう。
行政区分は、必ずしも自然のメカニズムを考慮して設定されたものではないが、環境問題は行政区域を越えて広域的に生じる場合が多い。そこで、このような場の設定は、既存の行政区域にとらわれずに環境保全の観点からみた圏域を意識して行われることが望ましい。
(2) 自然のメカニズムを明示する
自然のメカニズムが把握されたら、それを分かりやすい形で明確に示すとともに、その機能を適切に評価することが必要である。
その手法としては、生物多様性配慮地域及び当該地域の保全目標等を明確に示す生物多様性保全モデル計画のように、自然のメカニズムが的確に捉えられるような計画、マップを作成することは非常に重要である。また、沖縄の宜野座村では、流域の地質、地形等の観点から、赤土流出防止のために開発を抑制すべき地域と開発が許容される地域を区分けした危険度マップが作成されたことがある。このように自然のメカニズムを地図上に明確に示すことは、自然のメカニズムに配慮した人間活動を行っていく上での有効な指針となろう。また、最近はGIS(国土地理情報システム)、リモートセンシング等も活用されるようになってきている。
鎌倉市の緑の基本計画は、緑地の評価軸として、自然共生・低負荷型の都市環境の形成、歴史的風土の保全・継承、安全性、都市景観の4つの評価軸を設定し、それぞれの評価軸を重ね合わせ、複数の評価軸から高く評価される緑地を重要な緑地として位置づけている。これは、複数の自然のメカニズムを地図上に示し、「循環」と「共生」を目指す国土空間の利用のあり方を考える手法として参考になろう。